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秘蔵のエネルギー源

 ラブ・(チュー)入とは、ドラゴン幼女モモが青空にエネルギーを注入する行為のことである。二人の唇を重ねることで、ドラゴンの魔力が彼の体の中で生体エネルギーに変換され、あっという間に元気を回復するという凄ワザだ。それをエネルギー不足に陥ったつぐみにしようと言うのだろうか?


「ちょっと待て、そもそも俺とモモは合体中だから生体エネルギーも共有している訳だろ? ならお前には日笠に与えるエネルギーなんて残っていないはずだよな?」

『ところがどっこい、マスター。ここで重要なお知らせがあるのです! 私には秘蔵のエネルギー源があるのです!」

「秘蔵の……エネルギー源……?」

『それは経口摂取により蓄えることができるスバラシイものなのです!』

「鳥の唐揚げだなっ!」

『なのです!』


 ブルムワンは大気との摩擦により真っ赤に燃え始める。

 つぐみはブルムワンのボディーにしがみつき、衝撃と高熱に耐えている。

 金髪の髪はますますぼさぼさになり、髪から湧き出る金色のきらきら成分も明らかに減少していた。

 汗が全身からあふれ出し、口を開けて苦しそうに息をしている。

 

「よし、俺は目を瞑っているから、その唐揚げ君パワーとやらで日笠に注入してやってくれ!」


 青空はVRゴーグルをはずそうと手をかける。


『なにをおっしゃいますマスター! 今この状況で私との合体を解いたりしたら、マスターは死んでしまいますよ?』

「……えっ」

「ねえどうしたの? 青空はさっきから誰と話しているの?」


 後ろを振り向くつぐみの首筋から大粒の汗が胸元に流れていった。

 半開きになったピンク色の唇から熱い吐息が漏れている。

 一刻の猶予もないこの状況で、青空は激しく動揺した。


 モモとの合体を解くことなく、ラブ・(チュー)入を実行しなければない。それは――つまり――


「な、なあ日笠――」

 声が裏返った。


「ん?」

 つぐみはきょとんとした顔で振り向いた。

 ゴーグルの中の大きな瞳が自分に向けられた瞬間、青空の顔がぶわーっと赤くなっていく。


「なっ、何なの、どうしたの?」

 暑さのせいで紅潮していた頬をさらに赤く染めていくつぐみ。

 ブルムワンのハンドルを握ってみたり離してみたり挙動不審に陥ってしまう。


「あーっ……海で溺れそうになった女の子が男に救助されたとする」

「ん?」

「陸に揚げられて心肺蘇生法でマウストゥーマウスをされたとする」

「んん!?」

「それで意識が戻った女の子は……助けてくれた男に何というだろうか?」

「えっと……??」

「『ありがとう』だよな? フツー、そう言うよな!?」

「……何の話?」

「頼む! そうだと言ってくれぇぇぇ――!!」


 つぐみの肩を持って迫っていく青空。

 その迫力に押されてつぐみはコクコクと頷いた。


「よし! では行くぞ、ラブ・チューニュゥゥゥ――――!!」

「ん――っ!?」

 

 ゴーグル同士がぶつからないように90度首を傾けて、強引に唇を重ねた。

 突然に唇を奪われたつぐみは当然のように暴れようしたが、気付いたときには体中がしびれたように動けなくなっていた。

 金色の髪がふわりと持ち上がり、きらきら粒子が濃くはっきりと湧き上がってくる。

 やがて体のしびれは収まり、体中に力がみなぎってくる感覚を覚えた。


「ぷはぁ~~っ!」


 二人は勢いよく唇を離し、互いの真っ赤に染め上がった顔を凝視した。

 片や殺意を、片や焦燥感をそれぞれの胸に抱いて。


「制裁は甘んじて受けるつもりだが、まずは生き残ってからだ! ブルムワンにエネルギーを注ぎ込め!」

「――っく!」


 つぐみはブルムワンのハンドルに手をかける。

 彼女が振り向く際、赤いリボンで結ばれたツインテールが青空の頬をペシッと叩いた。

 彼は天罰が下されたと思った。




『エネルギーが補充されました。引き続きフェーズ3を継続中。耐衝撃体勢をとってください』


 ブルムワンは復活した。

 ほっと胸をなで下ろす青空は唇に手を当てた。

 初めてのラブ・(チュー)入は砂糖とクリームの味がした。


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