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宇宙(そら)へ…

「~~~~!!」


 異世界の魔王は青空の元に詰め寄り、何かを訴えている。しかし、その姿をぼんやりと確認できるだけで、彼が何を言っているかは分からない。


「モモ、合体するぞ!」

「はいっ、なのです!」


 背負っていたカバンから取り出したVRゴーグルを装着する。

 次の瞬間、モモと青空の体が輝き、変身が完了した。


「あ~、やっと変身したか~、この下僕民がっ! 早く早く、早くつぐみの所へ連れて行くのだぁぁぁー!!」


 魔王は青空の予想以上に残念な感じだった。

 もはや上から目線なのか(へりくだ)っているのかすら分からない。


「えっと、なんで日笠一人で行かせちゃったんです? 付いていってやれば良かったのに……」

「付いていけなかったのだ~! あの不思議な機械の出力はつぐみからオレ様に送られてくる魔力量を遙かに超えていたのだ~!」

「えっ、そんなに? じゃあ、俺たちでも無理――」

『ドラゴンの力を舐めちゃいけませんよ、マスター?』


 自信たっぷりのモモの声は青空にしか聞こえない。


「いけるそうです。じゃ、助けに行ってきますから!」

「オレ様も連れていけ~!」

「振り落とされても知りませんよ?」


 青空はバサリと羽ばたく。

 尻尾と背中は水平になり、足が宙に浮かんだ。

 魔王は青空の足にしがみつく。 


「サーティーン、一体どうしたんだい? もしかして異世界の魔王はそこにいるのか?」


 ずいぶん遠くの方から神崎先生が声をかけてきた。

 彼女には魔王の姿も声も見えないのだ。

 ちなみに変身した青空に近づいたら最後、彼女には自分から離れる自信はない。


「魔王は残念ながら俺の足にしがみついていますよ?」

「そうか、それは本当に残念だよ。じゃあ急いでナンバーワンを救出に行ってちょうだい。このまま成層圏を突き抜けるとその先は宇宙だからねー」

「大気圏を脱出!? そこまで行っちゃうの? 日本の技術スゲー!!」

「ブルムワンのジェットエンジンは小型ロケット並の性能があるっス! 宇宙へ行っても今はまだ魔法の力で何とか保っているはずっスが、やがて魔力が尽きたときは……最悪の事態を覚悟するっス……」

「なんてこったい!」


 背中の羽をバタつかせて上昇していく青空。そしてその足にしがみつく異世界の魔王。

 白い鳥の群れが目前に迫り、次の瞬間には眼下に小さくなって消えていく。

 

 雲を突き抜け、一気に加速する。


 背中の羽を折りたたみ、頭から尻尾の先までを一本の棒のように伸ばし、空気抵抗を極限まで少なくする。それでも乱れる気流を魔法で生成した特殊なバリアで逃がしながら、ドラゴンの強大な魔力で加速していく。


 昼間の明るさから一転、そこは真っ暗な世界。

 無数の星が輝く宇宙(そら)のなかに暖かなオレンジ色が見えてきた。


「日笠ぁぁぁー! 無事か日笠ぁぁぁー!?」

『ぎょえぇぇぇぇぇぇ、もうだめぇぇぇぇぇぇ』


 ブルートゥースによる1 to 1回線が繋がった。

 VRゴーグルの内蔵マイクにより通話が可能となるなり、青空の耳にはもの凄く残念な感じの悲鳴が聞こえていた。


「落ち着いて! さあ、ゆっくり右手をハンドルから離すんだ!」

『ぎあぁぁぁぁぁぁ……えっ、誰!?』

「ボクだよボク、キミのすぐ後ろにいるヨ!」


 変身後の青空は女子に近づくと少しだけイケメン風の言葉遣いになる。

 その声を聞いたつぐみの肩の力が抜け、ゆっくりと振り向く。

 ブルムワンの推進力が減衰し、二人は並走状態になった。

 金髪から湧き出るキラキラの粒子がバリアの働きをして、宇宙空間にいる彼女の身を守っていた。 


『遅い! 遅いよ青空は! いつもぎりぎりなんだから……』

「うふふ、ごめんよマイレディー。ピンチのお姫様を救うのが王子の役目だからネっ!」


 ウインクする青空を『何言ってんだこいつ』とでも言いたげな感じで一瞥(いちべつ)する異世界の魔王。彼はするりとブルムワンの後ろにバイクの二人乗りのように跨がった。


『魔王さまも来てくれたんだー』

「~~~~」

『えっ!? 何言っているのか聞こえませんよ魔王さま』

「~~~~」

『えー? 何ですかー?』

「ここは空気がほとんどないからネ、声は聞こえないんだヨ」

『うそ~、じゃあ息もでき……く、苦しい』

「落ち着くんだ、マイレディー。ボクらは魔法の力でちゃんと呼吸ができるから大丈夫だヨ!」

『そ、そうなんだー、よかったー』

「うふふ、キミはおっちょこちょいだネ。そもそもここは大気圏の外側、宇宙空間だからネ。魔法の力がなければとても生身の体でいられるような場所じゃないんだヨ」

『へえー、魔法ってすごいね』

「うふふ、魔法使いのキミがそれを言うかい?」

『うふふふふ……』

「ほら、地球がきれいだヨ、下を見てごらんよ」


 先ほどまでのパニック状態のときには気付かなかったが、眼下には青く輝く地球の明かりが見えていた。その地球の表面からわずかに離れたところは真っ暗な宇宙空間。地球の生命は、宇宙からみるとほんのわずかな地球の表面の中で暮らしているに過ぎないことを思い知らされる。


『わあーっ、ほんと綺麗ね! あっ見て、どっかの外国の島が見えるよ』

「本当だ、どっかの外国の島だネ」

『うわっ、でっかい雲がぐるぐる巻きだよー』

「あれは台風だヨ、目がくっきり見えるネ」

『あっ、なんか光った!』

「雷かもしれないネ」


 どう見てもバカップルの会話にしか聞こえない。 

 この二人は東日本支部の誇るエースソルジャー。


『マスター……』

 青空にしか聞こえないモモの声。


「あっ、ごめん。モモを独りぼっちにしてしまったネ」

『それもありますが、もっと残念なお知らせがあるのです!』

「えっ、何?」


『ここに来るまでに相当の魔力を使用したので、帰りに使う予定の魔力が足りないのです。マスターの生体エネルギーは間もなく底をついてしまうのです!』


 青空は我が耳を疑った。 

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