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打ち上げ成功!?

 つぐみは魔法の呪文を詠唱し、魔法のステッキを出現させる。

 水平に浮かぶステッキを握り、くるくる回すパフォーマンスを披露した。


「す、スゴいっス! やっぱりあの子、本物の魔法少女っスね!」

 

 尻餅をついていた若いエンジニア大柴は立ち上がり、青空の肩をゆさゆさ揺らして興奮している。

 相変わらず青空の腕にぶら下がっているモモは無反応。

 

「えっと……次はどうするんだっけ?」

「そのステッキを『ブルムワン』に搭載するっスよ!」

「あっ、そうだった。えっと……どうするんでしたっけ?」


 青空の嫌な予感が的中した。つぐみはアプリの説明をほとんど理解してしなかったのである。

 そのとき救世主が現れた。

 青空の目にはぼんやりと見えている黒マントの男が何やらつぐみに話しかけている。

 ふんふんと頷くつぐみ。

 異世界から来た魔王はつぐみが魔法少女になっていない平常時にも、彼女の背後から全てを見てくれている有り難い存在なのだ。


「分かったわ! ありがとう魔王さま!」


 つぐみがスマホアプリを操作すると、ブルマワンの長い胴体の側面がパカッと開いた。


「えっと、ここに入れるんだよね? ――ひっ!?」


 魔法のステッキをブルムワンの細長く開いた口に押し込むと、パコッと自動的にフタが閉まった。驚いて手を引っ込めるつぐみ。


 再びブルムワンのエンジン音。

 土埃が舞う。

 白いボディーにペイントされた青いラインがオレンジ色に変わり、ふわりと上昇した。


「こっ、この後はどうすればいいのぉぉぉ――!?」

「もうブルムワンは魔法で制御できるっス! 魔法のステッキを操作する要領で自由に動かせるっスよ!」


 エンジンと風切り音で声がかき消される中、なんとか大柴の声を聞き取ることができたつぐみは、両手に力を込めてブルムワンの角度を水平に保つ。

 本来、魔法のステッキを動かすのにそのような力は必要なかったのだが、初めてなので仕方がないのである。


「よし、ナンバーワン! 女は勇気と度胸で勝負だよー! ブルムワンに跨がってみよー!」

「は、はいっ!」


 拳を突き上げて雰囲気を盛り上げる神崎先生にうまく乗せられて、新メカに搭乗するつぐみ。搭乗とは言っても、魔法のステッキのように跨ぐだけなのだが、ブルムワンにはバイクのようなハンドルが付いていた。

 手に持っていたスマートフォンを制服のポケットにしまい、ハンドルに手を触れると、カシャッという音と共にメーター類が飛び出してきた。


「あわわわっ!? なな、な、何か飛び出してきたんですけどー?」

「高度計とスピードメーター、そして位置情報、その他諸々のデーターっスよ! アプリの取説にも書いてあるっス!」

「わかんない、わかんない、わかんないからぁぁぁ――っ!」

「気にしないで大丈夫っス! 分からない物は単なる飾りだと思うっスよ!」


(飾りでいいのかよ!)

 青空と神崎先生は心の中でツッコミを入れた。

 しかし、半ばパニック状態の相手にはそれが効果的なこともある。


「右のハンドルを回せば出力上昇、ブレーキレバーを引くと逆噴射、あとの操作は魔法を使って制御するっス! 自分を信じるっス!」

「自分を……信じる……」


 大柴の言葉がつぐみの心のどこかにある琴線に触れたらしい。


「私は自分を信じてみるよ。見ていてね、みんな! ブルムワン初号機・つぐみ、行きま――」


 つぐみの声はエンジン音にかき消され、ジェット噴射による熱風が後方の地面に吹き付けられ、土埃が舞い上がる。


 つぐみを乗せた白い機体は、遙か西の空へ光の粒となって消えていく。 

 その一瞬の出来事に、残された者たちは呆然と空を見上げるしかなかった。




「えっとー……?」

「打ち上げ成功っスね……?」

「ロケットの打ち上げじゃないですよね、これは!」


 青空は的確にツッコミを入れた。

 

「あー、そうだった! 大柴クン、ブルムワンの現在位置は?」

「上空50キロメートルを突破、ぐんぐん上昇しているっス!」

「マズいねー、このままでは成層圏を突き抜けてしまうねー」

「完全に操作方法をミスっていまスね……ジェット噴射、魔力ともに暴走状態っスよ!」

「う~、ど、どうすれば~……」


 頭を抱えて悩み始める大人二人。

 しかし、青空はそれほど焦っていなかった。


「日笠さんは大丈夫だと思います。彼女の側には異世界の魔王が付いていますから。直接は話したことはないけれど、あの人はメカのことにも詳しそうだし、彼女の保護者みたいな感じなんですよ」

「そ、そうかー! 異世界の魔王が何とかしてくれそうかー!」

「安心したっスよ!」  


 神崎先生と大柴はホッとした表情を浮かべ、空を見上げた。

 今すぐにでも白い機影が西の空にぽつりと見えるのではないかと期待した。


「マスター、ここで残念なお知らせがあるのですっ!」


 青空の腕にぶら下がっていたモモがちょこんと地面に降り立つ。

 小さな手が土埃の消えた焦げ跡を差している。

 そこには、ぼんやりと見える黒マントの男、異世界の魔王が立っていた。


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