鳥の唐揚げは共食いにはなりません
「マスターも一緒に観て欲しいのです。とても面白いのです!」
青空が机に向かっていると、ベッドに寝そべったモモが声をかけてきた。彼女はノートパソコンでホラー映画を鑑賞中。音はヘッドホンを付けさせることで何とかなったが、こう何度も話しかけられてはたまったものではない。
「あのなモモ、明日から大切なテスト期間なんだから、今日ぐらいは勉強に集中させてくれ!」
連日のようにモンスター退治に駆り出されていた彼は、テスト勉強をまったくしていなかった。
日本国政府のエージェントして給料をもらう立場にはなったものの、それが永続的なものてはないことは彼自身にも分かっている。
だからこそ、中学生としての本分である勉強をおろそかにしてはならないのだ。
「人間は不可解な生き物なのです。なぜそのような無駄なことに励むのでしょうか……」
「それではまるで俺は勉強しても無駄と言っているように聞こえるが……」
「それもありますが――」
「あるのかよ!?」
「使わない知識を記憶する作業はエネルギーの無駄にしかなりませんよ?」
「……将来役に立つかもしれないだろう」
「私の計算によると教科書に書かれている知識の中で、マスターにとって役に立つ知識の割合は1パーセント未満なのですよ?」
「マジか!?」
「マジなのです!」
「……おまえ、それ、どうやって計算した?」
「……」
返事がないので振り向くと、モモはノートパソコンの画面に映るホラーシーンを食い入るように見ていた。
天井に向いた太い尻尾がゆらりゆらりと振れている。
彼女は集中するときにはいつもこうなる。
(よし、今のうちに英語のワークを進めるぞ!)
青空はシャーペンを走らせる。
小学生の時から使っている学習机には本棚が備え付けてある。そこに所狭しと飾られた魔法少女のフィギア達が無言で応援していた。
夕食の準備を終えた母親から声がかかる。
青空の父はIT関係のエンジニアでいつも帰りが遅い。だが今日からは母子2人に加えてモモとの3人となる賑やかな食卓。
母は終始にこにこ顔である。
こぢんまりとした小さめのテーブルに、青空と母親が向かい合い、その間にモモがちょこんと座る。尻尾が邪魔になるかと思いきや、背もたれの付いていないイスがちゃんと用意されているのである。
「今日は鳥の唐揚げなのだけれど、モモちゃんのお口に合うかしら?」
「えっと……それは共食いになるかも」
「マスター、私は鳥ではありませんよ?」
「そ、そうか。なら問題はないよな!」
「そもそも猛禽類は鳥を食べることもあるのです。そしてそれを共食いとはいいませんよ?」
「そうか。言われてみればそうかも知れない。モモは地球の生態系のことまで詳しんだな」
「ネットで読んだことがあるのです。ドラゴンは一度記憶したことは永遠に忘れません。そもそも人類族とは頭の構造が異なるのです!」
屈託のない笑顔を向けられ、顔を引きつらせる青空。
「ここで重要なお知らせがあるのです! 私はマスターから生体エネルギーを頂戴しているので食物の摂取の必要はないのです!」
「ええ―っ!? そうなのモモちゃん!」
驚愕の真実を知り、酷く残念がる母親。
「でも、マスターが食べている様子を見学するので私のことは気にしないで良いのです!」
「そ、そうか。じゃ、遠慮なく……」
箸で唐揚げをつまみ、口へ放り込み、もぐもぐもぐもぐ……
青空は鳥のから揚げが大好物。
モモの大きな瞳が彼の様子をじっと捉えている。
「ちょっと食べてみないか?」
「いえ、私は必要ないのです!」
「そうか」
再び唐揚げをつまみ、もぐもぐもぐもぐ……
「……本当に食べなくていいのか?」
「はい、私は食べる必要はないのですっ……じゅるり」
「ウソつけ! もの凄く食べたそうにしているじゃんか!」
「う、ウソではないのです……こ、これは口から涙が出ているのです!」
「はあ!?」
モモは口からこぼれるヨダレを拭きながら頑なに首を振る。
「私はこちらの世界の生態系には存在しない立場なので、マスターから頂戴する生体エネルギーだけが頼りなのです! だから――」
「まあ、一つ食べてみろよ」
青空が唐揚げを箸でつまみ、モモの口に運んでやると、モモは反射的に『あーん』と口を開けてもぐもぐもぐもぐ……
「ひいぃぃぃ――!」
「どうした!?」
「大丈夫モモちゃん!?」
イスの上に乗って両手を頬に当てながらモモが身を震わせた。
心配して駆け寄る青空と母親。
「マスター……もう一つ……ください」
とろんとした表情で、小さなお口を開けて唐揚げをねだるモモであった。
どうやら幼女化した彼女は、身体の中の構造さえも人間そっくりに造り直されており、今の彼女は人間同様の食事も難なくこなすことができるらしい。
その新事実は嬉しいことのはずなのに、なぜか複雑な表情を浮かべるモモであった。
今回は青空家の日常を描いてみました。
モモの食事については小さな伏線になっています。




