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世界平和と世界征服

 雨霧は青柳君とその仲間たちと剣でやり合っている。

 サラは魔王を護りながら鎧の兵士たちと戦っている。


 私は一人オロオロと不審者みたいな感じになっていると、サラが険しい顔を私に向けてきた。


「魔王さま、どうぞ私の剣をお使いください!」

「えっ!? オレ様がおまえの剣を使うのか?」

「魔王さまは剣術も一流ですよね!? 私はあの小娘に用がありますので!」

「そ、それはそうだが……よし分かった!」


 いつもは魔王に従順なサラが珍しく魔王に指示をした。


 魔王は戸惑いながらもサラから炎の剣を受け取り、三人の剣士と一人の魔法使いの攻撃を押し返していく。サラが言うとおり、魔王は剣の腕も一流のようだ。


 一方、丸腰になったサラは振り返ることなくまっすぐに私の方へ向かって歩いてくる。目つきが鋭くて怖い!


「小娘、あんたの目には魔王さまがどう映っているのさ。敵なのか味方なのか、どっちなんだい!」

「私の目に? ……も、もちろん味方よ」

「そうかい、では魔王さまに襲いかかっている鎧の兵士はどうだい。中身はあんたと同じ人類種だけど、敵なのか味方なのか、どっちなんだい!」

「そ、それは……」


 サラは腰に手を当てて、鼻から息を吐いた。


「いいか小娘。誰が味方で誰が敵なんて区別はどこにもないのさ。それを決めるのはあんた自身。外見や種族の違いで決めつけるのはあんたの自由さ。しかし、そればかり見ていると本当の味方なんて永遠に見つからないよ!」


「本当の……味方……」


 サラの言葉は私の胸を深くえぐった。

 私、もしかしたら外見にとらわれすぎていたのかもしれない。でも、怖いものはやっぱり怖いし……サラは私に意地悪なことばかり言ってくるし……


「サラ! シルバーソード召喚!」


 雨霧の声で振り向くと、青柳君が長剣を振りかぶりながら私たちに迫っていた。

 丸腰のサラの手元に銀色の剣が現れ、剣と剣が激しくぶつかり合った。

 サラが青柳君の一撃を受け止めてくれたのだ。


「サラは……サラは私の味方なの?」

「だーかーらー、それを決めるのはあんた自身だって言ってんのよォォォ――!」


 サラは力強く押し出し、青柳君の体を弾いた。青柳君の体は砂の上に背中から落ち、そこへすかさずサラが斬りかかるが、寸前のタイミングで青柳君は身を翻して避けていく。


「サラは私の味方だと思うの!」

「……そうかい」

「雨霧も味方だし、魔王も味方よ。そして……魔王を倒しに来る人は……私の敵だ! 相手が鎧の兵士でも人間でも、私の敵だ!」


 青柳君だって――


 この考えが正しいかどうかなんて今の私には分からない。

 でも、このときにそう感じた気持ちは、うそ偽りのない真実なんだ!


「そーかい。なら、一緒に敵を倒そうではないか相棒……いや、小娘!」

「サラ……今、私を相棒って?」

「ふんっ、そんなこと言ったかしら? 仮に言ったとしてもあんたのために言ったんじゃないんだからねっ! さあ、タッ君! あんたの恋人を守ってやりなさい! 私は魔王さまの援護に戻るからねっ!」


 ――はい?


「うおォォォ――ッ!」


 雨霧は顔を真っ赤にして、何かを誤魔化すように剣を振るい始めた。

 青柳君とその仲間たちは雨霧の勢いに押されて距離を取り始める。

 私はその一瞬の隙を利用してスリープモードに入っていたオペレーションボードを開く。


「エンチャント・魔法のステッキ・ピンクバージョン召喚!」


 これは雨霧との特訓の末、開発した最高傑作のステッキ。

 ピンクの棒の根元がハートマークになっていて、その中心に赤い魔導石が仕込んである可愛さと実用性を両立したデザインになっている。

 魔王はこの素敵なデザインが気に入らないとか言っていたけれど、もう文句は言わせない! この世界では私と魔王は一心同体なのだから!


 魔王は炎の剣をサラに投げ、魔法のステッキを握る。

 サラはシルバーソードを左手に持ち替え、炎の剣を右手に構えた。

 この二人が本気になったらどんな敵でも瞬殺だ!


「タッ君、お待たせ!」

「おう、つぐみ!」


 私は雨霧と背中合わせになっている。

 これは小型モンスターに囲まれたときに二人で考えた最高の布陣。


「援護魔法は私に任せて!」

「おう、頼りにしてるぜ! ところでさ……さっきサラが変なことを言っていたけど……聞こえた?」

「聞こえたけど、私は気にしない!」

「気にしないのかよっ!?」


 雨霧はあんぐりと口を開けて私を見た。


「エンチャント・サンドブラスター!」


 魔法のステッキを天にかざすと、地面の砂が一斉に舞い上がる。


「発射――!」


 縦じまシャツの男へ向かって砂の塊が四方八方から襲いかかる。

 男は丸い杖を振り回して防御魔法で応じようとしているけれど、それは無駄なこと。魔力で私に敵うはずがないのだ。


 私は魔王の手下1号。世界を征服する女なのだから――


「タッ君! 残りの2人は任せたよ! 私は青柳君と話があるから……」

「えっ!? 大丈夫かつぐみ? おまえまた騙されるぞ!」

「もう……騙されないから」

「うっ――」


 雨霧は私の顔を見るなり息を飲み込んだ。

 失礼なヤツだ。雨霧のくせに!

 ……そんなに私、変な顔をしているのかしら?


「やあぁぁぁ――ッ!」


 青柳君が電撃の剣で私に襲いかかってきた。

 そんな軽い攻撃で私を倒せるとでも思っているの?

 私は砂で形成した盾で応じる。

 しかし電撃の剣は砂の盾を突き抜けて私の体に電気を送ってきた。


「ううっ……!」

「ねえつぐみちゃん、今なら許してあげるから僕の味方につきなよ! 2人で魔王を倒して世界の平和を守ろうよ!」

「青柳君のいう世界の平和って……何なの?」

「えっ!? そんなの世界の皆が幸せに暮らすことに決まっているよ!」

「そう……なんだ……」


 砂の盾を崩して力を抜くと、青柳君も電撃を止めてくれた。でも剣を構えたままだ。


「ねえ、その魔法のステッキを捨ててよ。そうすれば魔王を倒すことができるかも知れない。なぜなら僕が仕える異世界の戦士は勇者に匹敵する程の力を持っているんだ。だから――」


「魔王を倒しても世界は平和になんかならない……と思う」

「えっ……?」


「だって、魔王だって世界の一部だもん。サラだってそうだよ。見た目や立場が違うだけで、みんな一生懸命生きているんだよ?」

「そ、それは……」


「私ね……青柳君に特別な人って言われて嬉しかったんだ。でも、それは青柳君のことが大好きっていう女子から見れば私は敵になったということ――」

「つぐみちゃんはそんなことは気にしなくていいんだよ! 僕のことだけを見ていればいいんだ!」


「そうね、そうかも知れない。それが人を好きになるということなのかも知れない。確かにそれができれば幸せなのかも……」

「そうだよ。だからさ――」


 王子様スマイルで私を見つめる青柳君。

 彼は両手で電撃の剣を握り直す。


「もう面倒くさいから、魔王と一緒に消えちゃってよつぐみちゃん――きゃは!」


 それは狂気に満ちた顔――血走った眼球に引きつった口元。電撃の剣が私に襲いかかってくる。 




「エンチャント・割れる地面!」




 電撃の剣の一撃と同時に、私は魔法を唱えていた。砂の地面が割れ、彼の足元の砂をすくい取った。

 バランスを崩したその隙に、魔法のステッキをくるっと回転させて電撃の剣を弾き飛ばす。


「うわっ!」


 表情の固まった青柳君。

 間髪いれずに魔法のステッキをバトントワリングのように両手でくるくると回転させ、その勢いで青柳君の顔面を弾く。


「ぐはぁっ――!」


 彼の体は空中に飛ばされ、そして落下。砂の中に埋没した。


「痛い痛い痛い――ッ、なな、な、何て暴力女なんだぁ――? 僕の顔を叩くなんて信じられないよぉぉぉ――ッ」


 砂から顔を出して頬を抑えて泣き叫ぶ青柳君。

 そんな彼には王子様成分は何一つ残っていなかった。


 ちょうどその頃、鎧の兵士の最後の1人をサラが斬り、魔王がとどめをを刺した。命が尽きた瞬間、兵士の体はまるでゲームの中のことのように消えていった。



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