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  全てのメスを虜にする力

「痴話げんかはそこまでにしておきなよ、お二人さん!」

「えっ!?」

「ふえっ!?」


 上空から声が聞こえ、呆けた声を上げる青空とつぐみ。

 見ると底部に『01』と書かれたヘリコプターがホバーリング中だった。

 ビンタの問題に気を取られていた二人は、ここでようやく上から吹き付ける強烈な風とローターが空気を切り裂く爆音に気が付いた。


「きゃあ!」


 気付いてしまったとなれば、つぐみはめくれ上がるスカートを手で押さえるのに必死にならざるを得ない。

 一方の青空は声の主をじっと見上げていた。

 開けっ放しのヘリのドアから身を乗り出したその人物は――

 

「サーティーン、キミの飛行速度は半端なかったねー。高速ヘリでも追いつかなかったよー!」


 そう、神崎礼子28歳がメガホンを片手に手を振っていた。

 続いてヘリからロープが下ろされ、手際よく地上に降りてくる。

 ロープには落下速度を調整するためらしき機器が取り付けられていた。 


「よいしょっと。あー、もしかしてー、音速を超えていた?」

「さあ、俺にはその実感はありませんでしたけど……」

「うふふ、学校に戻ったら精密検査させてねー?」


 先生はヘリに向けて手を振る。

 ヘリは海の彼方へ飛んでいった。


「あ、あの……先生、さっき痴話げんかがどうかとか言っていたみたいですけどね……」


 つぐみが真っ赤な顔をして割り込んできた。


「私、変人の青空のことなんて気持ち悪さしか感じていませんからね!」

「そんな悲しいこと言わないでくれよ、マイ・レディー」

「ふわぁーっ!」


 青空に髪の毛を触られ、耳元でささやかれたつぐみは変な声を上げる。

 顔が沸騰しそうだ。


 ピシャン――


 しかし次の瞬間、またまた青空の右手がつぐみの頬を平手打ちした。  

 

「ささ、さ、さっきから何なのよあんたはぁぁぁ――!」

「今のも俺じゃない! 信じてくれ日笠、俺の右手がぁぁぁ――!」

「右手がって……結局それってあんたでしょうがっ! ねえ、先生も見たよね? 青空が私に暴力を振るってきますぅぅぅ! 校内暴力ですよぉぉぉー!」

「うふっ、それを言うなら港内暴力だよねー!」

「もう、訳がわかんないよー、うわーん!」


 つぐみは半ばパニックに陥り始めている。

 まるで小さな子のように泣きわめく。


「いつものナンバーワンならやられたらやり返す、しかし今はそれが出来ずに泣くことしか出来ない。そうだろ? キミは今、恋に落ちたんだよー。もうサーティーンにぞっこんなんだよねー?」

「はあ!? サーティーン? 青空!? 私が?」


 もはや言葉が繋がらない。

 真っ赤な顔を両手で隠して指の間から青空の顔を見る。

 顔が沸騰して湯気が出た。


「いやぁぁぁ――! 青空のくせに――!」

 

 これはドラゴンマスターの力の一つ。

 同属のメスを(とりこ)にする魅了の力。

 モモと合体した青空には、種族を超えてその力は発揮されるのだ。 


「まっ、私ほどの大人の女にもなれば、中学生男子ごときにはなーんにもかんじないんだけどねー!」


 とは言いつつも、若干そわそわしたぎこちない動きで、神崎礼子28歳は彼から目を背けて周囲の様子を確認する。


 つぐみのプレスト本体のバッテリー切れと同時に全ての魔法は霧散し、獣型モンスターの騒ぎは多くの人の目にさらされてしまった。多くの警察隊が周囲を取り囲み、事態の収拾に乗り出してはいるが、今度ばかりは日本国政府による隠蔽工作もままならない状況である。




「あ、俺のプレストもバッテリー切れっぽい……」




 視界の右下にバッテリー切れのマークが点滅している。

 

 本来、プレイストライクは家庭用ゲーム機。そのため、バッテリーは部屋間の移動や停電時のバックアップ用電源として内蔵されているに過ぎない。

 それを戦闘用に改造することも検討されたが、適合者の身体への負担を考慮し見送られた経緯があるのだ。従って、彼らの行動は30分に制限されている訳である。


 青空の背中から翼が消え、肩幅も元通りに、そして頭の4本の角も霧のように消えていく。

 

 そこには貧相な体つきの中学生男子、青空照臣の姿だけが残っていた。先生から借りた黒革のリュックを背負い、ゴーグルをおでこの位置まで引っ張り上げ、制服は汗と汚れでよれよれになってる。


 青空の顔から血の気が引いて、真っ青に変わっていく。

 そして――膝から崩れ落ちた。


「あ、青空、大丈夫? ねえ、しっかりして!」

「サーティーン、気をしっかり持て!」


 つぐみと先生が駆け寄って声をかける。

 しかし青空の顔はどんどん青ざめていく。


「先生どうしよう、青空が死んじゃう!」

「落ち着けナンバーワン。急いで救急車の手配を――」


 しかし、慌てた先生の手からスマートフォンが落下した。

 耐衝撃ケースのゴムの部分がコンクリートの護岸に弾み、転がっていく。

  

「せ、先生も落ち着いてぇー!」

「わ、分かっている――」


 慌ててスマホを拾いに向かう二人。

 そんな彼女らの背後から突然少女の声が――



「マスター、しっかりするのです! ラブ・(チュー)入なのです!」


 振り返ると、横たわる青空に覆い被さるドレス姿の幼女の姿があった。


挿絵(By みてみん)

作者ラクガキ『やっと会えたね♡』

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