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  それは戦隊ヒーローのように

「生きるのを諦めるな、バカヤロウ――――!!」


 声の主はコンクリートの地面に降り立つ。

 つぐみはゴーグルを引っ張り上げ、溜まった涙を払う。

 そこには男の(たくま)しい背中があった。

 背中には翼長3メートルの濡羽色の翼が生えている。


(鳥人!?)

 

 それがつぐみの第一印象だ。

 しかし、彼女は自らそれを否定する。

 鳥人などいるわけがない。

 では、翼の生えた人間がいないとしたら……

 目の前にいるそいつはモンスターだ!

 

(でも、モンスターがなぜ私に――)


 翼の生えた彼は足を広げ戦闘の構えをとる。

 左右に広げた手の平から深紅の炎。

 それらが球状に変化し――


「食らえ、ファイヤーボール!」


 まるで戦隊ヒーローのように技名を叫んだ。


(言葉を話すモンスター!?)


 二つのファイヤーボールは獣型モンスターに命中。

 断末魔と共に焼失するモンスター。


「おりゃぁぁぁ――!!」


 次々に投げ込まれていくファイヤーボール。

 そして次々に焼失するモンスターの群れ。


「…………ッ??」


 つぐみは立ち上がり――


「青空!?」


 大きな瞳をぱちくりさせ、つぐみは呟いた。

 そう、目の前に立つ男の背中は、同級生の青空照臣だ。


 頭からは4本の角のような突起があり、肩幅は広がり筋肉質になってはいるが、確かに青空の面影は色濃く残っている。

 背中に折りたたまれた濡羽色の翼が、ファイヤーボールを投げる度にゆらゆらと動く。その付け根からは黒革のリュックがチラチラと見えていた。


「青空、あんたその姿は……どうしたの?」


 つぐみは彼の背中に疑問をぶつける。

 VRゴーグルを装着した青空が振り向いた。


「俺はモモと一つになったんだ」

「モモ? あんたドラゴンと合体ちゃったの!?」

「そうさ!」


 なおも数の減らないモンスターの群れ。

 青空はファイヤーボールを投げつける。


「人間とドラゴンが合体……そんなことができるなんて……」


 魔王と二人がかりでも対処でなかった程の獣型モンスターの群れを、彼は易々と倒していく。

 その圧倒的な力を見せ付けられたつぐみに戦慄が走る。


 やがて獣型モンスターの数が減り――

 最後の一体を倒したときには黒い立方体は姿を消していた。


「うはぁーっ、エネルギーが切れたぁーっ!」


 青空は両手を上げて派手に後ろに仰け反った。

 そのまま後ろへ倒れこもうとする彼を、つぐみは受け止めようとする。

 しかし、自身も体力の消耗が激しく、しかも身体中に傷を負っているため、二人はそのまま後ろへ倒れこんでしまった。


「グヘ――ッ」

「グハ――ッ」


 つぐみの背中の通学用カバンが程よいクッションとなり、後頭部への直撃は何とか避けられた。しかし一般的な中学生男子の体重よりも更に重いものが一気に胸と腹部に圧し掛かってきた訳で、相当のダメージを受けてしまった。



 そのとき、青空はゴーグル越しに青い空を見ていた。


 雲ひとつない快晴。

 遠くの方からヘリコプターの音が聞こえていた。


(俺は平和な空と、この女を守ったんだ)


 何とも言えない充足感。

 しかしその後に押し寄せてくる焦燥感……

 

(俺は今、何かやわらかい物の上に乗っている)


 急いで起き上がり、


「おい日笠、大丈夫か? しっかりしろ!」

「何とか……生きている……けど」

「そ、そうか。相当のダメージを負っているな」

「うん……主にあんたのせいなんだけとね」

「はあーっ!? 俺のせいだって!? 何で?」


 青空の慌てる様子を見て、つぐみは自嘲気味に笑った。

 ため息を吐き、あぐらをかく。

 ペッと唾を吐くと、血が混じっていた。

 口の中を怪我しているようだった。


「おいおい、そんなことをすると可愛いレディーが台無しだぜ?」

「はっ? れれ、れ、レディー??」

「そうさ、俺はキミを助けにきたのさ、キミの美しさを守るためにね!」

「ふぇーッ」


 つぐみは万歳をするように両手を上げ、そのままの姿勢で後ろに倒れた。

 今回も通学用カバンが良いクッションになって、後頭部は守られたがあぐらをかいていた下半身は無防備だった。


 慌ててスカートを手で押さえる彼女の頬は紅潮していた。

 それは果たして恥ずかしさなのか、それとも他の感情から来るものなのか。


「大丈夫かい? マイ・レディー?」

「う、うん……大丈夫……なのですわ!?」


 地べたに座り込んでいたつぐみに、青空は右手を差し出す。

 つぐみはその手のひらに右手を重ねる。

 青空にぐいっと引っ張られ、二人の顔が接近する。

 思わず吸い込まれそうな深碧の瞳が彼のゴーグルの奥に輝いていた。


「あ、青空……」


(なぜだろう……変人のはずの青空が……ものすごくイケメンに感じる……)


 つぐみの頭の中では天使たちが輪になって踊り始めていた。


 しかし――


 立ち上がろうと体重を彼に預けたちょうどその時、無慈悲にもその手が離された。

 そして、その離れた彼の右手は、沸騰しそうなぐらいに赤くなっていたつぐみ頬を平手打ちした。つまり、つぐみは青空にビンタを食らったのである。


「ふわぁーっ、なっ、なんでぇぇぇー??」

「ち、ちがっ、今のは俺じゃない!」

「はあぁぁぁ――!? あんたでしょーがぁぁぁ――!」

「ち、ちがう、くそっ! 俺の右腕がぁぁぁ――ッ!!」


 まるで中二病患者のようなセリフを吐く青空を、目を丸くして見ているつぐみであった。



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