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  魔法少女つぐみ、行きま~す!

「どうしたつぐみよ。まるで男と別れた直後の女のような顔をしているではないか!」

「はあーっ!? なな、なにを言っているんですか、魔王さま!」

「フハハハハ、人類種的な(ヒューマンライク)ジョークだ!」


 空間転移魔法で現場から少し離れたところに移動したつぐみ達は、上空千メートルから一気に降下中。つぐみのジャンパースカートと魔王のマントが開く直前のパラシュートのようにばためいている。


「魔王さまは少し無口な方が威厳があっていいと思いますけどね! その方がいくらかでもイケメンに見えますよ! まあ、所詮はオジサンなんで私にとっては対象外ですけどネ! エンチャント・魔法のステッキ召喚!!」


 つぐみの手に魔法のステッキが召還され、それと同時に魔王にも同じものが召喚される。つぐみの生体エネルギーは魔力へと変換され、魔王はそれを享受することで魔法を使えるのである。


 大気の空気抵抗により落下速度は時速200キロメートルでやがてピークを迎える。そのタイミングを見計らって、つぐみは魔法のステッキに跨がる。


「いっけぇぇぇ――!」


 弧を描いて水平飛行に移るつぐみ。それに合せて魔王も黒マントを翻して自らの飛行能力で付いていく。

 なぜ彼女はこのような飛行ルートをとるのか。それはひとえに生体エネルギーの消費を抑えるためである。魔力に変換する生体エネルギーには限界があり、それがゼロになることは死を意味する。 


「それにしてもつぐみ、今日の学校は久しぶりに楽しそうだったな」

「えーっ? 魔王さまも見ていたの? ねえ、私がゴーグルを付けていないときって、魔王さまはどんな状態になっているんですか?」

「3年目でようやくその疑問に辿り着いたか」

「う~、それってどういう意味ですか~?」

「フハハハ、まあいい教えてやろう。オレ様はずっとおまえの(そば)から離れることなく漂っているのだよ」

「それって、背後霊みたいな状態ということかな?」

「背後霊? ああ、おまえが風呂で髪を洗っているとき、背中がぞわっとして後ろを振り返る時に、おまえの後ろにぼうっと立っている老婆のことか?」

「ひえぇぇぇ~、ななな、なんですと~!?」

「それから、おまえが夜、トイレの電気を消した後、ふと後ろを振り向く時にも立っておるぞ、その老婆が!」

「ぎゃぁぁぁ――! もういいです、言わなくていいですぅ――フギャ!」


 つぐみは耳を押さえて叫び、手放し運転の状態になった魔法のステッキが大きくふらつき、身体はくるっと180度回転した。


 もちろんこれも魔王の人類種的な(ヒューマンライク)ジョーク。それよりも重大な、魔王に入浴シーンやトイレの中を(のぞ)かれているという衝撃の事実にまで気持ちが及ぶのは、ずっと先の話である。





「も、もうすぐ現場に到着ですよ――」

「そのようだな――」


 まだ震えが収まらないつぐみは、バシンと頬を叩き気合いを入れた。


 前方には灰色の海。

 大きな防波堤に囲まれた漁港には漁を終えた漁船が所狭しと停泊している。

 魚の加工所や倉庫が立ち並ぶ港内には大小さまざまなトラックが止まっている。


 船を陸に引き上げるスロープには小型漁船がキャリーに載せられていて、その周りには地引網や漁に使うさまざまな道具が散らばっている。

 黒くて不気味な立方体は、その地引網の真上に出現していた。

 一辺が25メートルぐらい。

 これまでにつぐみ達が見てきたものよりかなり小ぶりなサイズではある。


 倉庫の影からは、多数の漁港関係者がその様子を見ている。


「まだモンスターは出てきていないみたいね。今日はバッチリ間に合ったわ!」

「オレ様は中へ入って先制攻撃をするゆえに、おまえは野次馬の対策をするがいい」

了解(ラジャ)っ!」

「中で落ち合おう!」


 魔王は黒い壁に向かって突撃する。

 つぐみは倉庫の屋根に着地し、ステッキを構える。


「水の精霊よ・舞い上がれ、ウォータースネーク!!」


 つぐみの魔法によって、海の水がまるで大蛇のように港内の地面を這い、黒い立方体の周りを大きく囲んでいく。それが一気に倉庫の屋根の高さまで吹き上がり、水の壁が野次馬からの視線を防いでいく。


 その直後に魔王が壁に突入していくが――


 魔法のステッキの先端が壁面を突く瞬間にその部分が青く光り、跳ね返された。そして魔王の身体は壁に激突する。


「魔王さま、無事ですかぁぁぁ――!?」

「オレ様は大丈夫だ。しかし何が起きたのだ?」


 黒い立方体の上空で魔王の無事を確認したつぐみは、そのままの勢いで壁に突っ込んでいく。


「きゃあ!」


 魔王のときと同様に、壁が青く光り、跳ね返されてしまった。


「なんでー? なんで中に突入できないのー? 今までは魔法のステッキの勢いでちゃんと中に入れたのにー?」

「フム、どうやらこれは結界のようなもので守られているようだな」

「結界って、バリアーみたいなもの?」


 黒い立方体と水の壁の間を旋回しながら、二人は作戦会議を始めた。

 しかし、有用なアイディアは浮かばずに事態は深刻化する。


「ギャオォォォォォス!」


 けたたましい鳴き声と共に、モンスターが壁を突き破って出現した。

 前回の原生林で見たものと比べるとやや小ぶりな4本足のモンスターは、トラのようであり、オオカミのようにも見えるが、長くて頑丈そうな角を生やしている。小ぶりとは言ってもその大きさはアフリカ象二頭分に相当するでかさである。


「まずい、民間人がすぐ側にいると言うのに……」

「一体ずつ倒して行くしかないな! いくぞつぐみ!」

了解(ラジャ)っ!」


 魔王は魔法のステッキから出る青白いビームのような光の棒でモンスターを斬っていく。

 飛行中には魔法が使えないつぐみは、一旦地面に着地してステッキを構える。

 その間にも次々に壁を突き破って出現する猛獣型モンスター。


「土の精霊よ・切り裂け、大地!」


 つぐみが呪文を唱えると、黒い壁のすぐ近くの地面に亀裂が走り、地割れのように隙間が空く。

 そこへ壁を抜け出たばかりのモンスターが次々に落ち、海水が勢いよく流れ込んでいく。


 激しい水しぶきがたち、視界が遮られる中、魔王は地上にいるモンスターを倒して行く。

 すでに10数体のモンスターを倒しただろうか。

 しかし、安心するのにはまだ早かった。

 水しぶきの向こうから、続々と新手のモンスターが二人をめがけて突っ込んで来たのだから。




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