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  ツンデレ!?

 朝の会が終わると教室内がざわざわと騒がしくなり、皆がそれぞれのタイミングで移動を開始する。1時間目の授業は理科。そのため、2階の理科室まで移動する必要があるからだ。


 朝のちょっとした騒動の影響で、青空とつぐみの間には未だに微妙な空気が流れていた。二人は若干出遅れ気味に鞄の中をごそごそと漁っていた。


 そこへ数人の女子を連れ立って小泉志乃がやってきた。


「つぐみちゃん、一緒に理科室に行こうよ!」


「はうッ!?」

「うげッ!?」

  

 つぐみ本人はともかく、青空まで変な声を上げてしまった。

 小泉がジト目で青空を見下ろす。


「えーっ、なんでー? どうしたの急に話しかけてきたりしてー?」

「私はずっとつぐみちゃんと友達になりたいと思っていたの。でも、不良の格好をしていて怖かったから……でも、今日がチャンスだと思って……。皆もそうよね?」

 

 人望のある小泉にそう話を振られた女子集団は、もう頷くしかなかった。


「えー、そうなんだー。皆が私を避けていたのは服装のせいだったんだー! 見た目の印象って大事なんだねー!」


 つぐみは感心しきりといった様子で頷いている。


(こ、この女はどこまでお人好しなんだ? もしかして……いや、もしかしなくても……こいつは……この暴力女は……)


 女子集団と一緒に戸惑いながらも教室を出て行くつぐみの後ろ姿を見送りながら、青空は首を振った。


(これ以上考えるのは止めよう……)


 神崎先生と小泉委員長の会話を思い出し、自重する青空だった。 



 午前中の授業はとくに変わったこともなく、つぐみは小泉の誘導もあって他の女子とも少しずつ打ち解けていった。その様子を少し離れたところから眺めている青空は、相変わらずひとりぼっち。そんな彼を、つぐみは時々ちらりと視線を送ることがあった。それがどんな意味を持つのかは誰にも分からないのだが。


 午後の授業中――

 

 つぐみのスマートフォンが振動する。


「ん!? どうした日笠、まさかまた俺の授業をサボる気じゃないよな?」


 数学担当の若い森田先生がギクリとして声をかける。

 つぐみは先生の声にはお構いなしに、通学用カバンを肩にかけ、ドアに向かって歩き始める。


「不良を引退して真面目になったんだよな? あれっ? 違うのか?」

「あー、せんせー、トイレに行ってきます」

「えっ、あっ、そうか。いやしかし、トイレに行くのにカバンはいらないだろ?」

「チッ」

「あー、おまえ、先生に向かって舌打ちとか……全然変わっていないな! 担任の菅原先生はすごく喜んでいたんだぞ? 日笠が更生したって!」


 長年かかって定着した人間の性格なんて、そう易々と変えられるものではないのだ。


「とーにーかーく、トイレです!」

「あっ、待て日笠!」

「先生、行かせてあげてください。女子生徒がトイレに行くのを先生は許可しないと言うんですか? それはセクハラです!」

「えーっ!? セ、セクハラー?」


 見かねた小泉委員長が援護射撃。

 森田先生を見事撃沈した。


「ありがとー、小泉さん!」

「いってらっしゃい、つぐみちゃん!」


 無邪気に手を振りながらつぐみは教室を出て行く。


「な、なんだ青空? もしかしておまえもか?」

「はい、ちょっとお腹を壊していて……」

「そうだ! おまえ昨日も授業中にトイレに行ったな。しかも最後まで戻ってこなかったし。本当にトイレなのか?」

「えっと……」

「先生!」


 小泉委員長が声をかけると、若い森田先生はギクリとする。


「な、なんだ小泉? こ、これもセクハラか……?」

「そんなことに時間を使うのは無駄だと思いませんか? それよりも早く授業を進めましょう。先生の授業、私楽しみなんですもの!」


 お洒落なメガネっ子、小泉志乃がにこりと笑った。

 先生は穏やかな表情に変わり、


「そ、そうだな。よし、青空。寄り道せずにちゃんと戻って来いよ?」

「はい……」


 小泉は青空にしか見えないタイミングで振り向き、にたりと笑った。

 青空は苦笑いで応じた。



「青空遅いよ! 早くしないとまた被害が広がっちゃうからー! 怒られちゃうんだからー!」


 階段の踊り場で地団駄を踏んでつぐみは待っていた。


「悪い悪い、それで今回の事件はどこ?」

「秋田県の港町ね。山奥とは違って人の目があるから気を付けないと!」


 青空にはスマートファンの地図を見せ、その間にカバンからVRゴーグル取り出すつぐみ。そのゴーグルはレンズ面が強化プラスチック製のため、装着後も視界を保たれている最新式のものである。


「なあ、それ……後で俺にも貸してくれないか? ちょっと試してみたいことがあるんだ」

「はあーっ!? 駄目に決まってるじゃん! これは私専用のやつだから他の人がかけてもただの風よけゴーグルみたいなものだもの。それにあんたに貸すのは気持ち悪いし……」

「うっ……おまえ……そんな言い方されると俺でも傷つくというか……」

「へー、それはそれは、一寸の虫にも五分の魂ね。エンチャント・空間転移モード・オープン!」


 青空のクレームをあっさりと受け流しVRゴーグルを装着したつぐみは、魔法の呪文を唱える。

 青空と彼女の間に身長2メートルの黒マントの男が突然出現し、思わずのけぞる。しかし、青空にとっては『うっすらと見える』だけで触れることも干渉することもできない存在なのだ。


「さっ、事件が私たちを呼んでいるわ! 行きましょう!」

「お、おう!」


 ゴーグルを通してやる気満々のつぐみの顔を見て、若干引き気味の青空。

 赤いリボンを外すと金髪の髪の先端がゆらりと浮き上がる。 


「ちょ、顔が近いんですけど!」

「だって、おまえにくっつかないと身体が切り取られるんだろ?」

「そうだけど……」

「じゃあ俺は後ろを向いているから。これなら良いだろ?」

「うー、これじゃあ私が後ろからあんたを抱きしめてるみたいになっちゃうけど、まあいいわ……」


 青空の肩に腕を回して、つぐみが後ろから抱きつく。


「変な想像したらコロスからね?」

「はっ、はい!」

 

 同級生の女子に後ろから抱きつかれる中学生男子。たとえ耳元でささやかれたその言葉が『コロス』であったとしても、興奮するなというのが無理な話であり、おまけに金色の髪から漂ってくるシャンプーの香りが何とも頭を狂わせる訳で……


 そんな時、スマートフォンに着信。


「あわわわ、はっ、はい! 日笠です。えっ!? 今から一緒に現場へ行こうとして……あっ、はい。分かりました!」


 つぐみは通話を切るなり、青空の背中をドンと押し出した。

 呆気にとられてつぐみの顔を見上げる青空。


「神崎先生が呼んでいるわ! あんたは今すぐ保健室行きだから!」

「えっ、俺が付いていかなくていいのか?」

「はあー? あんた何様のつもりよ! 私はこれまでも魔王さまと二人で戦ってきたんだから大丈夫に決まっているじゃん!」


 なぜかブチギレているつぐみは、両手を上げて呪文を唱える。

 金色の髪の毛の先端から光の粒子が湧き出て、彼女と黒マントの男を包み込む。

 青空を残して、跡形もなく消えていくのであった。

  


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