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  年上のおねえさん

「センセーはあまりにも情報管理が緩すぎますよ!」


 通学用カバンを肩にかけ、制服姿の小泉志乃は口を尖らせて不機嫌そうに言った。

  

「あー、ごめんごめん小泉クン。つい口が滑ってしまってねー」

「嘘つかないでくださいセンセー、絶対わざとでしょう!?」


 小ぶりな胸の前で腕を組み、ため息を吐く彼女は、おしゃれな丸縁メガネを通してジト目を向ける。


「えっと……どうして小泉……さんがここに……?」


 青空は目を疑った。本当に自分の知る小泉なのか確信が持てないからだ。それほどまでに、教室で見る彼女とは別人のような雰囲気を醸し出しているのだ。


「ああ、紹介するよ! この小泉クンは学級委員長というのは仮の姿、その実態は――」

「自分で説明するのでセンセーは下がってください。アオ君……じつは私、アオ君よりも3歳年上のオネエさんなの!」


「……えっ?」


「青空くんが驚くのも無理はない。しかし少年よ、人の身体の成長速度は植物のようには簡単には――」

「どうせ私は幼児体型ですわよぉぉぉーっ!」

「ちょっと待て! 俺はそっちに驚いてるんじゃないからぁぁぁーっ!」


 叫ぶ二人を見て、ほくそ笑む神崎先生。


「こ、小泉さんは先輩だったんですか? 中学でも落第とかあるんだ……」

「ち・が・う・よ、アオ君! 私はちゃんと中学校は卒業したし、今は立派なJKなんだからっ!」


 きゅっと握った左右の拳をぶるんぶるん振りながら訴える小柄で可愛い女の子が、自分よりも3歳も年上の先輩。青空には未だに信じられない。


「じゃあ、小泉さんは何で中学校に通っているんですか? 女子高生が中学に通える訳がないですよ!」

「青空くん、大人の力を舐めちゃいけないよー。小泉クンは仮にも日本国政府のエージェントだからねー」

「政府のエージェント……仮の!?」

「『仮』は関係ないからね? アオ君、変なところにこだわらないでっ!」


仮に(・・)俺がそれを信じたとして――」

「『仮』にこだわらないでよ~」

「――いったい何のために中学生の振りをしているんですか?」

 

 真顔で尋ねる青空。

 それに応えるように、丸縁メガネをくいっと押し上げる小泉。


「監視よ。私は日本国政府から依頼されて監視をしているの」

「……俺の?」

「ぶっ!」


 神崎先生が思わず吹き出し、ジト目でそれを牽制する小泉。

 先生は自ら口に手を当てて押し黙る。


「アオ君はまったくの対象外よ、安心して!」

「そっ、そうか……そうだよな……」


 急に恥ずかしくなり、赤面する青空。

 うつむいて後頭部をかきかき。

 しかしすぐに動きを止め、顔をあげた。


「もしかして、日笠さん?」

「ご名答よ! 私は彼女の監視役。世間にはまだ彼女のことを秘密にしておかなければならないの。特に敵方には絶対に知られてはならない!」

「敵方!?」

「そう。異世界の強大な力を利用して世界を支配しようとしている悪の組織よ!」

「えっと……」


 顔を引き攣らせて言葉に詰まる青空。

 見かねた神崎先生が割り込んでいく。


「小泉クンが言うと冗談に聞こえてしまうかもだけどー、それは本当のお話よ。だからこそ、私たちがこうして秘密基地ごっこみたいなことをやっているわけ」

「じゃあ、日本各地で起きている事件は、その……あ、あ、悪の組織の仕業ということか?」


「青空くん」

「アオ君」


 二人はずいっと青空に近寄っていく。

 

「恥ずかしがっては駄目だ!」

「恥ずかしがっては駄目よ!」

「そこは気にするところじゃないだろぉぉぉー!」


 青空の声が地下施設の中に響き渡った――かもしれない。 

 



 ▽ ▽ ▽ ▽




「さて! 皆が落ち着いたところで、いよいよ本題に入るからねー」


 神崎先生はタブレットパソコンを操作し、大型モニターの表示を切り替えた。画面には人物の顔写真と様々なデータがカード形式で表示され、1から順にナンバーリングされている。ナンバー1は日笠つぐみ。ナンバー2はどう見ても小学生に見える幼い少年の顔。ただし、その写真には赤いバツ印が付けられていた。


「これは、国内で最初に発見された異世界人と遭遇した者たち。彼らは3年前の9月を皮切りに、非常に短期間のうちにつぎつぎに接触していたの。このゲーム機を通してね」


 画面にはプレイストライク6と、その付属品であるVRゴーグルが映し出された。


「パソコンはなくてもプレストがあれば良いって感じで一気に普及しましたよね! 家にもありましたよー」

「あっ、その当時俺は小学生だったので手が出ませんでした。セットで買うと15万円ぐらいでしたっけ?」

「ひどいよアオ君……私だって中学生のお小遣いで買えるわけないじゃない。親に買ってもらったんだよ?」

「ゴホン……とにかく、そのゲーム機を通してバーチャルリアリティーの世界に没入することで、特殊な脳波が生成される人間がいることが、その後の研究で分かったんだよ」

「特殊な脳波……」

「うん。魅力的な言葉でしょう? そしてそれは本来は見えるはずではないモノが見えるようになる特殊な能力に置き換わる。異世界人とかね」


 青空の脳裏に黒マントの男の姿が浮かんでいた。つぐみはVRゴーグルをかけることで『魔王さま』に会えると言っていた。その言葉の意味がようやく彼の頭の中で繋がったのだ。


「ただ、それが見えたり接触したり出来るようになるためには、その人間のもつ生体エネルギーを彼らに与えなければならない。彼らは本来、この世界に存在しないものなのだからね」


「つまりはギブ・アンド・テイクの関係なのよ。私が嫌われ者のアオ君にも優しくすることで優等生の座を勝ち得たようにね!」

「は、腹黒い!」


 軽やかにウインクする小泉を見て、呆れるしかない青空である。   


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