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  秘められた素質

 コンクリート打ちっぱなしの小部屋。壁一面に6台の大型モニターがパネル状に取り付けられている部屋に案内された。

 長テーブルが3つ、コの字型に配置しているところから、どうやらこの部屋は会議用の部屋らしい。


「じゃあ、青空くんはここに座ってね」

「あっ、はい……」


 青空は背もたれと座面が青いパイプ椅子に座らせられ、キョロキョロと部屋の中を見回す。六つのモニターには『桜の大門』の紋章がスクリーンセーバーとして浮かび上がっている。

 神崎先生は、壁にもたれかかりスマートフォンで誰かに連絡する。すると、そのわずか15秒後にドアをノックする音が聞こえた。


「ん、ありがとね!」

 

 ドアを閉め振り返った先生の手にはタブレットパソコンがあった。

 モニターを背にして座った先生はタブレットを机に置く。

 そして肘をついて腕を組み――

 

「さて、青空くんは何から聞きたい? 禁則事項以外ならー、何でも教えてあ・げ・る!」

「それって、『何でも』じゃないですよね?」

「さっすが青空くん。頭がきれてるー、うふふっ」

「日笠さんに訊いたときも、すぐ『禁則事項』だと言われてほとんど何にも教えてもらえなかったし……」

「ああ、それぇー!? うふっ、うふふふふふふふ」


 先生はころころと笑った。何がツボだったのだろうか?


「だってー、ナンバ……もとい日笠さんったら異世界人のことも、VRゴーグルの仕組みのことも、自分が使っている魔法のことも、何一つちゃんと理解していないんだもの。答えられないのは当然よー! うふふふふふ」


「はあー? マジですか!?」

「そう、マジよマジ! マジであの子は理解していないんだから! ぶっ! 何度も何度も教えようとしたのに、興味のないことはからきし駄目みたいなのー。ぷぷっ!」

 

 吹き出し笑いをする先生。

 対する青空は顔をしかめていた。


「馬鹿な子ほど可愛いっていうけど、あそこまでバカだと笑っちゃうわよねー、うふふふふふふふ」

「仮にも学校の先生がそんなこと言ってもいいんですか?」

「あらやだ青空くん。私、仮じゃなくて本物の先生よ? 保健室のっ」

「だっ、だったら尚更――」


 思わず興奮し机をドンと叩いて立ち上がる青空。

 しかし、手に顎を乗せて微笑む先生の表情を見て思い留まる。


「――先生は俺を試しているんですか?」

「さて、どうでしょうね」

「あの……俺、回りくどい話とか嫌いなんで、単刀直入に願います!」


「そう、じゃあ単刀直入に言うけど、私、思春期の子供たちの気を動転させて、あたふたさせるのが趣味なの。それを見るのが快感なのよっ!」


「そっちの話かよ!」

「うふっ」

「『うふっ』じゃねェェェ――――ッ!!」


 完全にからかわれていることを悟った青空は、立ち上がって怒りを爆発させた。

 そのとき、部屋の照明が一瞬暗くなり、モニター画面の色が群青色から紫色に変化した。

 続いて先生のスマホに着信あり。


「……あ、そう。……うん。……分かった。ありがとっ!」


 通話が終わると、先生は青空を見上げてニヤリと笑う。


「珍しくあの子の見立ては正しかったようだわ。青空くん、あなたにはとんでもない素質が眠っていることが判明したわ!」

「素質? 何の?」

「それは分からないわ」

「分からないのかよ!」

「だってー、これまでに調べたどの子とも違う波形が計測されたんだもの。これ、見て分かるかしら?」


 神崎先生がタブレットを操作すると、大型モニターに心電図のような波形や数字や文字がずらりと並んだ表がそれぞれに表示された。しかし、青空には何が何だか分からない。


「あなたの身体から出ている生体エネルギーの計測結果よ。この部屋の壁面には1万8千個のセンサーが埋め込まれているの。この部屋に入った時からずっとあなたは計測されているのよ?」

「ええっ……何のために?」

「ナンバ……もとい日笠さんの言うことが本当かどうか、調べてみたかったのよ。確かにあなたは異世界の生物と生体エネルギーの交換をすることができる適合者であることが分かった。しかも、前例がない程の……ね!」

「あっ、それってドラゴンのことですよ。ここに浮かんでいます。名前はモモって言います」


 そう言いながら青空は頭上に浮かぶモモを指差した。

 神崎先生は口を半開きのまましばらく固まっていた。


「ねえ青空くん……気の毒だけど、それはあなたの妄想だと思うわ……」

「えっ……」

「だって……VRゴーグルを装着していないのに見える訳ないじゃないの!」

「あっ、それは日笠さんも言っていましたけど……俺にはちゃんと見えていますから! モモは3年前からいつも俺のそばにいるんですから!」


「――3年前!? ねえ青空くん。今、3年前って言った?」

「……ええ、言いましたよ! 3年前の7月15日の朝、ベッドの上で目が覚めたらモモが浮かんでいたんですよ!」

「3年前の7月というと……ナンバーワンの異世界人との遭遇の2ヶ月前ね……」


 神崎先生は顎に手を当て考え込む。


「あの……先生は日笠さんのことをナンバーワンと呼んでいるみたいだけど、どういう意味ですか?」

「あれー? 私、そんなこと言った?」

「はい、何度も言い直していたけれど、今ははっきりと言いましたよ?」

「あー、もう! つい口が滑っちゃったわよー。そこまで知られちゃったらもう全てを白状するしかないわねー!? ねー、そう思わなーい?」


 額に手を当てて、大げさなアクションでわざとらしく残念がる先生。それは何者かに向けたメッセージのように壁の一点に視線を向けていた。

 

 ガチャリ―― 


 ノックもなく突然ドアが開いた。

 青空が視線を向けたその先には、学級委員長の小泉志乃が立っていた。

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