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  潜入! 地下施設

 放課後の校庭では、野球部とサッカー部が準備運動を始めている。4階建ての校舎の4階から3階へ降りる階段の窓から、ぼさぼさ頭がチラリと見えた。それは重い足取りで階段を下りている青空の頭である。


「腹減った……」


 午前の授業をサボってつぐみのモンスター退治に付き合わされていた彼は、午後の授業開始直前で保健室で目を覚ましていた。つまりは、給食を抜いて1日を過ごした訳である。


 おまけに未だに続く全身の疲労感。ふらつきながら保健室へ向かう彼の頭上にはピンク色のドラゴンが浮かんでいるが、その様子は他の人間には見えてはいない。


 桜宮南中学校の保健室は1階にある。階段を降りて東側に折れ、職員室、校長室、印刷室、生徒指導室の前を通り過ぎた一番奥に保健室がある。引き戸をゆっくりと開けた。すると、その正面奥の事務机に手を組み顎を乗せた姿勢で美人養護教諭、神崎礼子28歳がじっと視線を送っていた。


「待っていたわよ青空くん。早速だけど付いてきてくれるかしら?」

「えっと……どこへ?」

「付いてくれば分かるわ」


 そう言って、神崎先生はエアコンのリモコンを取り出した。

 するとエアコン本体がピッと鳴って作動するが、更に先生はピッ、ピッ、ピピピピーッと目にもとまらぬ早業で複雑なボタンの組み合わせで押していく。


「ええっ?」


 呆気にとられる青空の目の前で、信じられないことが起きた。エアコンとは全く違う方向、保健関係の書類などが入っている書棚がガラガラと音を立てて動き始めたのである。

 やがて2台の書棚の間に人が通れる程の隙間ができ、その奥に地下室への階段が現れた。


「さ、行きましょ!」


 先生は淡々とかつ事務的に、たった一言そう言うだけだった。しかし、青空にはそれを拒む選択肢は与えられてはいないのだ。それほど先生の視線と声には重みがあった。


 ひんやりとした地下へ繋がる階段は急で、危険な感じがする。腹が減っていることや全身の疲労感のことなどすでに気にならなくなっている。


 地下通路の壁面はコンクリート打ちっぱなしのジメジメした空間は息苦しさを感じさせる。天井の蛍光ランプによる照明が、一種独特な冷たさに拍車をかけているのだ。肌を刺すような冷たさだ。


 20メートルぐらい歩くと突き当たりになっていて、前方にクリーム色のエレベーターの扉があった。先生がボタンを押すと、チンと合図が鳴り扉が開く。


「ん、どうしたの? ま・さ・か、ここまで来て怖じ気づいちゃったとかー?」

「そ、そんなことは……!」


 充分に怖がっているのだが、からかわれていると感じた青空は強がってエレベータに乗り込んだ。その様子を見て先生はほくそ笑む。


 二人を乗せたエレベーターは下へ下がる、下がる、ぐんぐん下がる。

 体感的には地下10階ぐらいまで下がったころ、ゆっくりとブレーキが掛かり、チンと合図が鳴って扉が開く。


「さ、着いたわよ」


 神崎先生は振り向くことなく先に降りていく。

 薄暗い地下通路とは対照的に、その先はとても明るくなっている。

 青空はそのまぶしさに一瞬たじろぐが、深呼吸をしてからエレベーターを降りていくが――


「はあぁぁぁぁぁ――――っ!?」


 あごが外れる程に口をあんぐりと開けて驚嘆してしまった。

 そこには学校の体育館2個分の大きさの空間が広がっていたからだ。


 がらんとした空間の壁沿いに、立体駐車場のような金属むき出しの巨大な棚があり、その中には建設用機械のような物からどう見てもミサイルのような物まで所狭しと積み上げられている。


「なな、な、何ですかここは?」

「地下倉庫兼、研究施設よ! この奥には司令本部もあるんだけど……それは秘密なの!」

「は、はあ……」


 青空は首をひねった。


「さあ、こっちよ」


 神崎先生の黒いハイヒールが、コンクリートの床をカツカツと鳴らしている。

 その後をとことこと上履きで付いていく青空。

 1から12まで数字が書かれた鉄扉のうち、6と書かれた扉の前で止まる。脇にあるセンサーのような機械にピンク色のマニキュアが塗られた白くて細い手を押し当てると、扉の上の緑のランプが点灯してカチャリとロックが解除された。


「うふっ、ここから先は誰でも入れるって場所じゃないのよ。青空くんだから特別なの。覚悟はいいわよね?」

「えっ……」


「ここで引き返してもいいけどー、ナンバ……ゴホン、日笠さんに笑われちゃうかもぉー。『あんたそれでもキン[ピィー]マ付いてんの』とか言われちゃうかもね! うふっ」


「えっと……彼女ってそんなこと言う子なんですか?」

「あらら? 青空くんの前ではまだ猫被っているのかな? まあそんなことはどうでも良いことなんだけど……で、入るの?」

「入ります!」

「そっ、じゃあ……あら?」


 扉のロック解除の設定時間を超えてしまい、再びセンサーに手を置く先生の顔は少し不機嫌そうだった。


 通路の右側には大きなガラスがはめ込まれており、様々な研究施設の中が透けて見えるようになっている。各ブースごとに何やら不思議な装置を使い、白衣を着た研究員たちが忙しく動いている。

 青空はその中の一つに足を止めた。


「あれはVRゴーグルですよね? もしかしてここで作っているんですか?」

「うーん、機密事項だから詳しくは言えないんだけど……製造元はスカイカンパニーという横浜にある小さな会社なのよ。それをうちが買い取って対象者一人ひとりに適合するように調整しているの」

「対象者って?」

「適合者または人工的に適合するように改造した人物のことよ」

「んっと……適合者って言うのは……?」

「異世界の人や生物と繋がることの出来る人物のこと。つまり、あなたや日笠さんの様な人のことね!」


「……えっ?」


 青空は息を飲み込んだ。

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