主任の深層
(やべえよやべえよ……)
俺は狼狽えていた。いや、嵐と雷の音で怯え切ったクソガキと同じくらいガタガタ震えているとすら錯覚する。何があったかというとクソやべえ事が起きたとしか言いようがない。
まずは場所。ここは問題無い。ただの腐れ商人の個人宅だ。
お次に目の前のクソ女。これも普通なら問題ねー。たまに仕事で見掛ける程度のハーメラ一番の商人だとかそんなのらしい。今回だって仕事の話でコイツに会いに来ただけだ。
大問題なのが、コイツが社長を試すとか言い出したって事だ。そのせいで今までの要素が全部ノコギリ状の刃物になるくらいやべえ事になる。
今、社長はアリシアを連れてどっかのリア充を護衛する仕事中だ。細かい行先は俺達も知らねえ。そして、ハーメラ一番の商人が『試す』とか、ぜってぇ尋常じゃねえ事を起こすつもりだろ。
「それで、こんな事をして何がしたいのですか?」
出された紅茶を嗜むロゼにイラッとくる。お前、状況分かってんのかよ。
「単純よ。面白い話を耳にしたからね」
「あら、面白い話ですか? 流石は『情報』を主商材にしているジェイドですわ。それはそれはとても愉快で楽しいのでしょうね」
「ええそうね。なんでも、あのソフィアを言い負かしただとか、ある問題を起こしていた商人を護衛ごと無傷で皆殺しにしただとか、ね」
それを聞いて絶句する。あのちんちくりん女やアリシアを連れて帰った時のゴミクズ商人の話なんざ、どこにも出回っていない話のはずだからだ。
噂にすらなっていないってのに、この女はなんでそんな事を知っているんだ……。
「随分と世間の噂話に耳を傾けているようで。そんな与太話を信じるだなんて、ジェイドも腕が鈍りましたか?」
「その内の一つは私が直接調べた情報なのよね。あの商人と護衛の死体を見るに、社長の不可視の魔術で殺されたかのような『壊れ具合』だったね」
……コイツは今ここで殺すべきではなかろうか。何を考えているのかは知らねえが、なんか危ない予感がする。
「主任さん、殺気を抑えてくれませんか? ジェイドを殺した所で良い方向には転がりません。それに、ジェイド如きの『お試し』に負けるとは思いませんわ」
「……お前、アイツの事を過信し過ぎだろ。社長はお前が思っているような奴じゃねーぞ」
「主任さんはもう少し他人を信じてみては如何でしょうか?」
それを言われ、俺の中で何かがプツリと切れた。
……何も知らねえ癖に知ったような口を利きやがって。お前に俺の何が分かってるってんだよ。お前にアイツの何が分かってるってんだよ。お前は石橋を飛び越えて渡れるんだろうが、俺達は叩いて渡るしかねーんだよ。特に社長は俺の思っていた以上に身体が弱かった。そんなアイツに『お試し』だとかふざけんな。
まあ良い。社長に何かがあったらお前ら全員殺してやるからな。覚悟しておけよ。
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