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クロス・レール  作者: 月雨刹那
第一章
24/41

通ずるもの 4

2020/02/29にそこそこな量を追記。

追記箇所は最後の300行くらい。

 ──『静寂の音』というのをご存知だろうか。深夜から早朝にかけて訪れる、世界が眠ったかのようなあの『静かな音』である。空気が重く沈み込み、周囲の音よりも遥か遠くから訪れる音の方が印象に残る、あの不思議な感覚。それを一度でも知ってしまえば、陽の光すら煩く感じてしまう。

 そんな喧しいお日さんが地平線の向こうからコンニチハ。ドーモ、コンニチハ。早急に沈みやがれ下さい。


「ライアン王子、合図を」

「うん」


 荷物を各々の馬に引っ提げ、調査の準備万端の俺達。そんな俺達の纏め役である社長が王子に出発の掛け声を促した。


「──目的はシャロン城の調査! 出発!」


 その一声で王子、ルイスおじさま、社長、ロゼの順で馬を歩かせる。遠くから見たら『俺達の冒険はこれからだ!!』みたいな構図になってそう。


「まだ頭がフラフラしやがる……」

「変な事を言うからだよ」


 馬の上でボヤく俺。それを死んでる横目で流し見る社長。俺を擁護してくれるような奇特な奴はやっぱり居なかった。

 いや、マジであの掌底はクソ効いた。クリティカルヒットっていうのはああいう事を言うんだな、って思ったくらいだ。社長、お前実は身体が弱いとか嘘なんじゃねえの? 割とマジで有り得そうだから怖い。敵を油断させる為だとか言われたら納得するぞ。

 はー……。俺の影で健やかに寝てるリリィが腹立つほど羨ましい……。


「あ、あの……大丈夫、ですか?」

「大丈夫だが……お前どんな報告したんだよ……」


 あの力の込まれようは尋常じゃなかったぞ。舌噛んでたら間違いなく千切れ飛んでたレベルだった。


「アリシアは主任の名前を出していないよ」

「えっ」

「ただ、そんな事を言うのは主任かリリィくらいでしょ」

「あら? では、どうしてリリィさんではなく主任さんだと分かったのですか?」

「まさぐる、なんて言葉を使ってたからね。リリィならもっと女の子らしい言い方をするよ」

「なるほど」


 驚愕の推理方法に唖然とする。なんでそこに着眼するんだよ……。それで答えに辿り着くとか、やっぱお前は頭脳派でおじゃるな……。

 いや、それを間違っていると微塵も思わず制裁実行とかおっそろしい。もし間違ってたらどうするんだよ。


「あと、私が部屋に入ったら主任の顔が引き攣ったからかな。ロゼとリリィは主任を可哀想な目で見てたしね」

「チクショウ……チクショウ……」


 流石にそこまで状況が揃ってるのなら俺でも確信するわ……。しっかり見てやがんなぁ……。


「ははは。仲が良いんだね」

「そうじゃないと顎を打ち抜けないかな」


 仲が良いと除夜るんですか……おっそろしい友情表現もあったもんだな……。


「……………………」


 ほらほら、そんな事を言うからアリシアが顔真っ青にしてんぞ。お前アリシアにも同じ事できんの?

 どうやら怯えているってのが社長にも伝わったらしい。社長はそのままの体勢でアリシアに話し掛けた。


「怖い?」

「……す、少し」

「もしアリシアが同じ事をしたら……そうだね、キツく叱ると思う」

「おい俺と随分違うじゃねえか。どういう事だ」


 納得いかねえでおじゃる。なぜ俺には顎を打ち抜いてコイツは説教で終わりなんだよ。


「主任が説教だけで変わるだなんて初めて知ったよ」

「お前本当に俺がそんなので変わると思ってんの?」

「だから身体で分からせるのも仕方が無いね」

「くそう……くそう……」


 自分に正直な性格が恨めしいッッ!! ……いや別にそんな事ねーわ。自分の言いたい事も言えないとかただの抑圧された人生なだけだわ。


「不思議な人、です……」


 怖がってたアリシアは少し緊張が解けたのか、親の背中を見る子供みたいな目で社長の背中を見た。社長とアリシアは身長がほぼ一緒なんだが、座高が少し違う。そっちの方はアリシアの方が低い。故に座っているこの状況ではアリシアは社長をちょっとだけ見上げる形となる。

 ……なんだろうなぁ。アリシアの視線がなんとなく、頼れる兄とか姉を見る目をしているように感じる。……あー。だから昨日は慕ってるように感じたのか。なんだ? 攻略する気じゃなかったのか? それともなんか別の目的でもあるのか……。


「主任さん、またいかがわしい事を考えていませんか?」

「合ってるけど合ってません」


 不純な事ではあると思うが、いかがわしい事は考えてまてん。

 ……いやしかしロゼよ、段々と俺の扱いが社長に似てきてるような気がするんだが、俺の気のせいか? それは何が何でもお断りしたいんだが……。

 そんな無駄口をダラダラと話しつつ、俺達は東へと進む。途中で朝飯を挟み、小休憩も挟む。馬から降りてそこら辺で寝転がった時に気付いたんだが、中央と比べてここら辺はちょっと空気が違う。なんてーか、ちょっと湿気ってる? もしかしたら近くにでっかい湖だとか何かがあるのかもしれない。生えてる草木もなんか生き生きしてる感じである。


「あの、主任さん」

「んあ?」


 そんな時、意外な事にアリシアが俺に話し掛けてきた。どうしたのやら。


「頭のフラフラは大丈夫ですか?」

「あー」


 自分にも原因があるって思って心配してんのか。健気よねぇ……。


「それに関してはもう完全に治ってる。だから寝させてくれ」

「は、はいっ。おやすみなさいです」


 やっぱり似非外人みたいな口調のアリシア。お前どこでそんな口調を覚えてきたんだよ。……まあ良いや。

 十分だかニ十分だか、それくらいの間をゴロゴロして過ごしてから俺達はまた出発する。時々水分を補給しながら馬を酷使させること数時間、やっとそれらしき物が見えてきた。あんなにも低かった朝日は今では爛々と俺達の直上で輝いていらっしゃる。沈め。


「見えたよ。アレがシャロン城だ」


 王子がそう言って、道行く先に見えてきた古びた城を指差す。……うわぁ。苔とツタで覆われてんぞ……。あんなの調査する理由あんの……? 一目見て無理、終わり、帰ろうって言いたくなったぞ……。

 しかし国からの依頼。しかも金貨50に加え、前払いである。やるしかねえな……。


「あら、珍しく何も言わないのですね」

「仕事なんで……」


 そしてロゼは相変わらず俺の思考を読んできやがる。なんだ? お前がド失礼な事を考えてそうな時に散々突っ込まれたのをそんなに気にしてたの?

 ……まあそれは置いておいて。


「なんか嫌な感じがするな、あの城」

「え……そうかい?」

「なんとなくな」


 幽霊も住んでそうなんだが、なんか別の嫌な予感もする。妙にザワつくっていうか、心臓が一回一回大きくゆっくり脈動するっていうか……。

 ロゼはどうだろうか。暗殺者のコイツならばそういう勘も鋭いだろうよ。


「なんか分かるか、ロゼ」

「……居ますね。恐らく、敵が」

「皆、馬から降りて戦闘準備。馬から離れて」


 じっくり見てロゼは言う。敵が居ると──。即決で社長は言う。戦闘準備と──。

 一斉に俺達は馬から降りる。……いや、王子はワンテンポ遅れてアリシアは更に遅れてから降りた。


「……何か飛び上がった。──敵は飛行する。ルイスさんとナリシャさんは最前列に。次の列に私、主任、ロゼ。一番後方に王子とアリシア。王子とアリシアを除いて各々四人分の隙間は開けておくように」

「なぜ飛ぶ敵を相手に俺とナリシャを前に?」

「迂闊に近付けないようにする為。飛べると言っても攻撃手段は限られる。私達は後方支援する手立てがある」

「その言葉、信じたぞ」


 いつもと比べて明らかに短く説明する社長。並べられた理由にルイスおじさんも納得したようで社長の指示に従ってくれそうだ。

 そして、いつもならば皮肉や軽口を垂れ流すであろう俺だが、今回はそうならない。荷物から引き抜いた細長い『ソレ』を握り締め、妙に心が躍っているからだ。

 口の端が持ち上がっていくのが分かる。目を見開いていくのも分かる。俺は今、ワクワクしているのが分かる。

 ジャケットに入れておいた『コイツ』を喜んで手に取り、愛おしく感じながら『ソコ』に入れた。後は引き金を引けば気持ち良くなれる。動作チェックはやっている。さあ──初めての実戦だ。


「主任、ロゼ、準備は?」

「わたくしはいつでも」

「俺もだ。いつでもぶっ放せるぞ」


 社長も準備が終わっているらしく、俺と同じ『ソレ』を片膝突いた構えで光の無い目を細めていた。

 俺や社長でも使えるように改良し、尚且つ弾の装填をボルトアクション式にした魔術式ライフル。俺達二人で考案し、俺達二人が形にした兵器だ。数を揃えられるのなら誰にも負ける気がしねぇ。

 ルイスおじさん達も剣を抜いて準備完了って感じだ。

 ──そしてやがて、相手の姿がハッキリと見えるようになってきた。


「────っ! まさかとは思いましたが、魔獣使いですか」


 ロゼが嫌そうに声を出す。魔獣か。段々ファンタジーらしくなってきたじゃあねえか。

 そんな風に思っていたが、相手の姿をよく見て息を呑んだ。高揚した気分は一瞬で冷めた。魔獣とは……ヒポグリフだった。


「おいおいおいおいおいおい!! ふざけんなよお前ぇ!?」

「……厄介ですね」


 大鷲の頭と翼、獅子の上半身に馬の後ろ脚。それらはどれもでっかいサイズであり、どれ一つをとっても攻撃されたら致命傷通り越して一発であの世逝きだろう。

 盗賊の次に戦うのがヒポグリフってなんか間違ってねえかぁ!?


「あの魔獣が何か知っているの?」


 俺とロゼが反応したからか、社長が訊ねてきた。……お前、アレ知らねえの?

 そんな社長の質問はロゼが答えてくれた。この世界での名前とか合ってるのか知らんから俺は説明する気は無かったので助かった。


「あれはヒポグリフ。魔獣の中でも脅威とされているグリフォンと馬の間に生まれた生物です。空を駆け、馬や人を好んで食べるグリフォンの特徴を引き継ぎつつ、慣れさせれば人を乗せる事も出来ない事はないと言われています」

「弱点はある?」

「……わたくしの知っている限りでは存在しませんね。グリフォンでしたら心臓を抉り取れば絶命しましたが」

「首を斬り落としても倒せるのは確認しているぞ。ベネット率いる聖堂騎士団と共に討伐した経験がある」

「お前らマジでバケモンだぁ……」


 いくらなんでも素が出てしまった。怪物のグリフォンとかヒポグリフやぞ? 人間が倒してんじゃねえよ。

 ルイスおじさん共も大概だが、ロゼはその口振りと性格からして単騎討伐してそうである。そもそも心臓抉ったり首斬り落としたら死ぬって生き物として最低限の礼儀やぞボケェ。


「安心したよ。だったら殺せるね」

「コイツ……」


 俺の周りに普通の奴が居ねぇぞ、どうなってんだ。いやアリシアは普通かもしれんが。

 それはさておき……なぜか社長はこのまま待機と言った。先制攻撃しねえのかよと思ったが、王子を怪我させたくない都合上、戦闘を回避できるのであればしたいらしい。つまり、相手が逃げるのであればそれで良し。戦うのなら殺す。だそうな。

 色々と突っ込みてー気分だが、コイツの事だ。俺の考えてる事なんざ既に考慮してんだろな。

 その間に魔族を乗せたヒポグリフはゆっくりと俺達に近付き、ある程度まで高度を落とした所で動きを止めた。少し強く声を出せば会話が出来るくらいの距離だ。


「──これはこれは驚いたぁ。まさか、俺の使い魔を見て逃げない人間が居るとはなぁ」


 渋い声ながらもネットリとした癖のある声が聴こえてくる。肌は褐色。頭に曲がった角が二本。炎のように揺らめく髪をしている、明らかに魔族の姿をした奴が長物の槍を構えつつも不用心に近付いて来た。

 ヤベー雰囲気だ。とにかく言える事は、サシで殺り合ったら銃を持っていようが勝てそうにないという事だけ。あのロゼが目を細めて臨戦態勢を取ってんだ。相当な手練れなんだろう。


「それはこちらの台詞でもあるよ。この人数を相手に逃げないなんて、相当な自信か策があるんだろうね」

「……ほう? また驚かせてくれる。ヒポグリフを前にしているというのに肝の座った女だぁ」


 社長を女と言っている事は置いといて、不敵な笑みを浮かべつつも俺達を警戒しているこの魔族を見て思った。



 ──勝てるのか、これ?



 嫌な汗がジワリと流れる。俺の本能が叫び散らしている。逃げろ、と。戦うな、と。死ぬぞ、と。

 だというのにも関わらず、ロゼはおろか社長までも『闘るなら殺る』ってオーラを醸し出しているので逃げられない。……腹を括るしかないようだ。


「先に訊いておくよ。私達は戦闘が避けられるならそうする。けど、戦うのなら殺す。君の意思は?」

「残念だが……人間を見たとなっちゃあ殺るしか選択肢はない。──魔王の命令だぁ」


 魔王──。その言葉を口にした瞬間、空気が変わった。ピリピリとした嫌な空気は消え失せ、敵意と殺意が渦巻く戦場の空気となった。

 そして、俺の心も不思議と落ち着いている。……いや、覚悟を決めたと言った方が正しいのだろう。血を巡らせる心臓は刻むように早く打ち、呼吸は鋭く酸素を取り入れている。そのおかげか、やけに集中も出来る。

 ヒポグリフに乗っている魔族は警戒しつつも俺達を観察している。誰を狙うべきなのか、誰を注意すべきなのか見定めているんだろう。


「ならば宣言通り……殺す」


 社長のその言葉を皮切りに魔族は急速に上空へ飛び上がった。全くもって怪物だ。銃口を向けた時には既に当てる自信の無い距離まで離れやがった。


「っ……! やはり少し遠い!」


 ロゼはいつの間にか短剣を投げていたらしい。しかし、どうやらそれは躱されたらしく、ロゼが悔しそうな声を出していた。

 かなり高い場所まで上がった魔族が槍を手にした腕を上げる。何をする気だ──そう思った瞬間、嫌な気配で周囲が覆われた。


「魔獣を召喚したぞアイツ!!」

「────ッ!! ルイス、ナリシャはライアンの援護!! アリシアはこっちに走りなさい!!」

「すぐ向かう!!」

「はっ、はいっ!!」


 魔族は俺達の周りに魔獣を召喚した。目が血走った狼を大きくしたかのような奴や、異様に牙と爪の長い熊、形容しがたい冒涜的で黒い液体を垂らした二足歩行の生物──。そんなのが軽く二十はいやがる。

 今にも飛び掛かってきそうなバケモノ共。そのどれもが身体の芯を震えさせるような低い唸り声を出していた。


「囲まれてしまった……どうするんだい」


 焦る王子の声が聴こえる。その気持ちは凄く分かった。俺だって嫌な汗がダラダラ流れていて鬱陶しく感じている。


「空中の敵は私達が墜とす。地上の敵は任せるよ」


 が、社長はこの場をどうにかする何かを考え付いているようだ。今はそれに賭けよう。

 しかし、ルイスおじさんは懸念があったようだ。


「無理を言ってくれる。お前達の方まで手が回らんぞ」


 確かにそうだ。王子の実力は知らんから戦闘の数には入れないでおくが、ロゼとおじさんとナリシャってーので俺たち四人を守るのは流石に無理があるだろうよ。


「大丈夫」


 社長は言う。大丈夫、と。なら大丈夫だ。こいつが確信も無くそんな事を言うはずがねえ。


「主任、アリシア、走る準備をしておいて。──ロゼ、開けるだけ道を開いて!」

「お任せを」


 社長が大きな声を出す。それに反応をしたのか、魔獣共は一斉に俺達へ襲い掛かる。俺は足の指へ力を込めた。

 指示に従ったロゼの両手には、袖に仕込んでいた短剣を全ての指の間で挟まれており、それを俺では不可視の速度で魔獣へ投げ付ける。ロゼの放った計八本の短剣は『ガスッ』といった音を立てながら何匹かの魔獣の眉間へと深く深く突き刺さった。


「走れ!! 抜けろ!!」


 それと同時に社長が走り出す。俺達も一瞬だけ遅れてこの場を駆けた。


「うおっ!?」


 走り抜けざま、熊のような魔獣の一匹が大振りで俺の顔面へと爪で攻撃してきた。ほとんど反射的に首を下げて事無きを得たが、ほんの僅かでも反応が遅れたら一足先にあの世へ旅立っていただろう。

 五メートルか十メートルは離れた所で社長が走るのを急に止め、振り向きながら魔獣と魔族へ銃口を交互に向ける。そんな器用な事は俺には出来ないので、危険かどうか確認する為に魔獣へ銃口を向けた。

 しかし妙な事が起きていた。魔獣共は一番目立っていたであろう俺達へ見向きもせず、闇雲に王子達を襲っていたのだ。

 ルイスおじさんは剣で攻撃を受け流し、ナリシャは真正面から叩き斬りながら王子へ襲い掛かろうとする魔獣へ牽制の一撃を放つ。両者共に熟練した動きをしていて、あのバケモノ共に対して一歩も引けを取っていなかった。


「なるほどこっちの方がやりやすい!! ナリシャ!! 王子には指一本触れさせるんじゃないぞ!! 命令だ!!」


 王子も王子で頑張っているらしく、長剣のリーチを生かして突きをメインとした防衛をしている。……見た感じでは二人に見劣りする。剣は得意じゃないみたいだな。

 魔族は真剣な顔持ちでゆっくりと高度を下げてくる。初めに会話を交わしたあの時と同じくらいの高さ──ロゼの投げナイフを避けた時と同じくらい離れて俺達を渋くみていた。


「……へぇ。私達には魔獣を向けないんだ」


 状況が膠着する。撃てば良いのかもしれんが、タイミングは今じゃねえ。撃つべきタイミングならば社長がさっさと撃っているはずだ。という事は、今はまだ撃つ時じゃない。その時までなんとか我慢してやるさ。


「お前らを確実に殺す為だぁ……。そこの短剣の女に一瞬で三匹も殺られたとなっちゃ、向かわせるべきはそっちではない。それに……お前達の方が厄介そうだからなぁ。特にお前は場違いな程にひ弱にしか見えんが、それも今納得したぁ。──お前が指揮官かぁ。ならば……それを叩くまでよぉ!!」


 魔族は槍を振るいながら上昇する。すると、空に奇妙な物体が出現した。キラキラと輝く何か。その正体を知った瞬間、俺はロゼに蹴り飛ばされていた。

 瞬間、土に重量兵器でも落ちてきたかのような音がいくつも反復するように鳴り響く。ゴロゴロと転がった俺が体勢を立て直した時には、地面に何個か穴が空いている光景があっただけだった。


「氷柱! ──くっ!」

「社長さん!?」


 社長が叫んだので何が起きたのか理解する。あの野郎、氷柱を作って落としてきやがった。しかも、俺とロゼを社長とアリシアから引き剥がしてから追撃をしてきた。よっぽど社長を重要視しているようだ。


「どうしたぁ!? まともに回避も出来てないぞぉ! そんなのでこれを避け切れるかぁ!?」


 続けて魔族は俺達へ氷柱を落としてくる。氷柱の大きさは手の平より少し大きい程度だが、氷ってのはそんくらいの大きさでも馬鹿にできない。軒下に出来た氷柱が落ちてきたのが原因で近所の爺さんが死んだのを知っているからこそ、落ちてくる氷柱がどれだけ恐ろしい物なのか俺は知っている。

 そんな氷柱を社長は必死になって避ける。やはり運動神経が鈍いのか無様に転がり回り、危なげながらもそれをなんとか回避していた。意外にもアリシアは身体が動くらしく、社長よりは余裕をもって避けているようだ。

 幸いなのが自由落下だという事。これでもし射出なんぞされていたら、社長はたちまち串刺しになっていただろう。


「…………っ。やはり、距離があり過ぎます」


 対して、俺とロゼは避ける事すらしていなかった。いや、ロゼが短剣を投げて破壊してくれているから安全だと言った方が正しい。

 破壊しつつもロゼは攻撃をするが、距離が離れるとどうしても速さが落ちる。きっと、魔術の操作範囲外なのだろう。簡単に避けられているようで、苛立った様子だ。


「なるほどなぁ。大体読めてきたぞぉ? ここでどうだぁ!?」


 やかましい声が空から響く。かと思えば、今までの二倍の量のきらめきが魔族の周囲に現れていた。だが様子がおかしい。その大半は社長達の方へと落ちていっていた。


「ひゃっ!?」

「なっ──! アリシア!?」

「あのバカ!!」


 社長は身体が強くない。故に体力もあまり無い。当然、全身運動なんざ長く続く訳がなかった。避ける事に必死で周りが見えなくなっていたのか、アリシアの居る方へ避けてぶつかっていた。


「さあ王手だぁ!!」


 体勢を崩す二人。それを見計らっていたのか、魔族は既にそこへ大き目の氷柱を落としていた。


「ハッ──!!」


 すかさずロゼがソレに短剣を数本投げる。氷柱は砕けて氷の残骸へと成り果てた。──が、俺は一つ忘れていた事がある。

 社長は、運が悪いんだった。


「ぁぐッ──!!」


 確かに氷柱はロゼの援護で砕けた。しかし、砕け方が悪かった。残骸の中に一つだけ二回りは大きい塊があったのだ。よりによって、ソレがアリシアへと落ちていっていた。

 社長はアリシアを庇った。ほとんど反射的に動いていて、もはや本能に近いものだった。そのせいで、社長は頭に怪我を負っていた。

 俺にはその行動が理解できない。他人を庇ってまで自分が死ぬかもしれない事をするなど愚かな行為でしかないからだ。

 俺にはその行動に羨望を覚える。他人を咄嗟に庇える事の勇敢さと判断の速さなど、俺が持ち得ていない能力だからだ。


「……大丈夫? ……アリシア」

「しゃ、社長さん……血が……!」


 社長は頭に当たった氷で切ったのか、そんなに多くはないが頭から血を流していた。

 それを見て、頭がスッとクリアになった。


「チィッ……邪魔が入ったかぁ」


 無感情に銃口を向ける。学生の頃に授業中、何気なく窓の外を見ていた時のような感じで空の奴へ照準を合わせた。右目でリアサイトから覗くフロントサイトの延長線上に、奴の胴体を捉える。

 そして、何の感情も込めずにトリガーに掛けた右の人差し指を引いた。



 バァン──ッッ!!



 炸裂音がした。耳がキンと痛くなった。肩に当てていたストックから反動で強い衝撃が叩いて来た。──興奮が、込み上がってきた。

 ヒポグリフはその音に驚いたのか、一瞬だけ高度を落とした。魔族も俺の方へ強張らせた顔を向けている。


「き……」

「……き?」

「気持ち良い……っ!!」


 タイミング? 今じゃない? 我慢してやる? ──何を考えていたんだ俺は。

 口の端が最大限に歪んでいるのが自分でも分かった。俺は今、最高に楽しいって思っている。


「ああ……『コレ』だよ。ずっと『コレ』が欲しかったんだ」


 初めてあの村でぶっ放されたのを見てから、ずっと待ち焦がれてたんだ。ああチクショウあの野郎ども。こんな良いモン撃ってたってのにあんな間抜けな顔してやがったのか。

 ──ようやく、俺の手で撃てるぜ。


「な……なんだ今のはぁ!?」


 上空から何か言っているが知った事ではない。ボルトハンドルを上げて引き、ポケットから銃弾を取り出す。構造上薬莢が無くて硝煙の匂いもしないのは少々不満だが、今はそんな事どうでも良い。チャンバーの中に弾を入れてハンドルを戻し、再び構える。



 バァン──ッッ!!



 トリガーを引いて訪れるこの感触が愛おしい。炸裂音は麻薬を脳に直接ブチ撒けたかのような快感を生んでくれる。何より、自分で作った銃をぶっ放せるという幸福が素晴らしい。

 魔族は動揺しているのか氷柱を落としてこない。馬鹿だなぁ。そんなんじゃあただの的だぞぉ? だがクレー射撃も悪くねえなぁ?

 四発、五発と撃っていくが当たらない。精度が悪いのか俺の腕が悪いのか。しかし、下手な鉄砲も数撃ちゃ当たる。多くの銃弾の内、一発がヒポグリフの翼に命中した。

 甲高い悲鳴を撒き散らしながらガクッと落ちる空の怪物。が、そこはやはり怪物。変なタイミングで体勢を立て直した。恐らく魔族が喝か何かでも入れたんだろう。


「──援護ありがとう、主任」


 と、そこで社長の声がやけにハッキリと耳に響いた。視線を移してみると、社長は片膝を落として上空へと銃を向けていた。俺とは逆で左の人差し指でトリガーに掛けて光の無い左目で奴を捉えている。

 一瞬の間を置いて、あの心が躍る破裂音が鳴り響いた。


「っ!」


 が、それと同時に社長は後ろにスッ転んだ。体格の問題なのか、それとも反動を甘く見ていたのかは知らない。恐らく両方だろうが。そんな社長をアリシアは慌てて起こして心配している様子だ。健気よねぇ。そんなアリシアの頭を社長は撫でていた。何か言っているようだがイマイチ上手く聞き取れない。

 そして残念なお知らせもある。身体が吹っ飛んだんだから当たり前だが、社長も弾を外したようだ。しかし魔族は恐怖感を煽られた事だろう。翼とはいえヒポグリフをこの距離で傷付ける事の出来る相手が二人も居るって脅威に。

 だから背を向けて逃げようとするのも分かる。だからこそ、俺はその背中を狙った。


「逃がすかああああああああ!!!」


 狙いを定めてトリガーを引く。……くそっ外した。──ぁあ!? 弾がもうねえ!?

 どうやら御機嫌にバカスカ撃った時に最後の一発を残して全部撃ってしまったらしい。ちくしょう……。弾の製造は難しいかったから数を揃えられなかったのが恨めしい……。

 残る弾薬は社長が持っているのみ。その社長は……既に照準を合わせているようだ。


「墜ちろ」


 実際に言った訳ではないが、社長からそんな言葉が聴こえた気がした。なんでだって思った一瞬後、あの甲高い怪物の悲鳴が辺りに響き渡った。さっきと違うのは、それが断末魔のようにゆっくりと弱々しくなっていっていたという事だ。

 確信を持ちつつ空を見上げる。そこには、力無く墜ちていくヒポグリフと魔族の姿があった。


「……撃墜、1」


 社長は戦果を確認するかのようにそう言う。……さっきの『墜ちろ』は俺の勘違いか? いや、俺が単純に『アレは当たる』って思ったからなのもあるだろう。特に俺は今、アドレナリンがガンガンに効いてるだろうしな。

 召喚された魔獣の群れも片付いたらしい。俺と社長の初陣は、輝かしく白星を付けられたようだ。


「──見事だったぞ! 魔獣使いのヒポグリフを倒すとはな! 流石ルーファスが一目を置く魔術師だ!」


 戦闘が終わって合流した時、ルイスおじさんが絶賛するように褒め称えてきた。あ、これすげぇむず痒い。褒められてちょっと嬉しい気持ちとヤメロそれ以上言うなって気持ちが鬩ぎ合ってる。


「……まだ終わっていないよ。トドメを刺すまでが殺し合いでしょ」


 そこで社長がそんな事を言い出した。……いや、あんな高さから落ちたら流石に死ぬだろ。アリシアなんて終わったものだと思っていて薬草を取り出してんぞ。お前はよ治療受けろや。

 ──なんて思った時には、もう遅かった。

 鳥のデカイ鳴き声が聴こえたと思ったら、身体が真っ青のデカイ鳥があの魔族を掴んで飛び立っていたのだ。掴まれている魔族は所々から血を流しながらも強烈な殺意を持った目を向けているのが見えた。

 ロゼが短剣を投げようとしたが、どうやら射程外らしく投げるのを止めた。……いや待て。社長、お前はまだ弾残ってんだろ。なんで撃たねーんだ。


「おい社長! 追撃はどうし……ああ……」


 そこまで言って気付く。社長の銃はチャンバー辺りから亀裂が入っていた。撃ったらどうなるか分かんねー状態だ。


「御覧の通り、さっきので壊れた。……やっぱり、まだまだ要調整だね」


 残念そうに銃を撫でる社長。それはまるで、銃にお疲れ様とでも言っているかのようだった。……なんつーか、初めての実戦だったがやっぱり自分で造ったから愛着あったんだな。俺も大切にするか。


「だけど、勝ちは勝ちだよ。僕達は魔獣使いに勝った。それは紛れもない事実だ」

「……それもそうだね。今は勝利の余韻に浸ろうか」

「その前に、手当てです! 社長さん、無理しないで下さい……」

「……ん。お願い、アリシア」


 心配しきってるアリシアに流石の社長も素直に従っていた。……コイツもこういう真っ直ぐな感情には弱いのかね。ちょっと意外だわ。

 社長はアリシアから手当てを受け、俺達は身体を休める為に腰を下ろした。

 溜め込んだ戦闘の空気を肺から全て吐き出す。……あー。気持ち良い。やっぱり、勝つのは良いもんだ。

 その後は王子とロゼが銃に興味を持ったらしく色々と訊かれまくった。まあ、詳しい事は言うなって言われてるし俺は魔術的な方なんて完全にノータッチなので『社長が詳しい事知ってるからそっちで訊いて』って誤魔化しておいた。

 そんな社長はアリシアと良い雰囲気である。助けて下さってありがとうです、だのなんだのと言われていて声を掛けづらい感じ。社長はちょっと困った感じだった。マジで攻略する気じゃなかったのか? またちょっと意外だわ。

 そうこうしている内に陽も傾き始めてきた。戦闘もあった事だし今日はここで休んで、調査は明日にするらしい。


「あー疲れたァ……」


 用意したテント……というより天幕に一番乗り。あー……布団が薄くて硬いんじゃぁ……。

 それでも馬の上よりかは数百万倍マシである。もうこのままゴロゴロすりゅ。不味い保存食も食ったし、そのまま眠りたい。


「全力でだらけてますわね……」

「主任、子供みたいねー」

「全身全霊込めてゴロゴロするぅ……」


 入ってきたロゼとリリィを九割無視してゴロゴロする。入ってくるそよ風が鬱陶しい限りだが、まあ仕方がねーです……。つーかやっぱりこのメンバーなんだよなぁ……。


「ほら主任さん、場所を取り過ぎです。少し寄って下さい」

「おー」

「しゅーにーんー。狭いってばー。もうちょっとあっち行って」

「おー。……おぉー?」


 ほとんど何も考えず二人の言う通りにあっちにゴロロこっちにゴゴロとしていたら、何かおかしい事になった。微妙に既視感があるぞこれ……。

 まず左を見る。ロゼが居た。次に右を見る。リリィが居た。俺の場所を確認する。三つ並べられたおふとぅんの真ん中だった。


「ゲェ!? ここ真ん中じゃねーか!!」

「いまさら何を言ってるのですか」

「どうせ狙ってやったんでしょー? スケベスケベー」

「外に放り投げるぞこの腐れ淫魔ァ……」


 はー、っと溜め息を吐いて目を瞑る。正直に言うと今はマジでリリィと『お相手』したくない。慣れねー戦闘の後ってのもあるんだが、それ以上に馬の上でずーっと居た事も響いているし、天幕を作るのだって疲れた。割とマジで身体が怠いのである。

 まあだがやらねばなるまいて。精気っていう餌を食わさにゃリリィは死ぬってんだ。そうならないようにするのは飼い主の義務であろうよ。断食させるのもちょっと考えたが、流石にいくらなんでも可哀想なのでやらない事にした。チクショウ。

 極めて嫌ではあるが、リリィの方へ顔を向ける。と、そこには……


「おやすみなさーいっ」

「てめぇ二度とおはようって言えないようにしてやろか」


 ……寝まくってる癖に更なる惰眠を貪らんとする残念サキュバスの姿があった。マジでぶっ飛ばすぞ。


「えー。だって他にやる事無いし……」

「夜のご飯は要らないですか、そうですか」


 もしそうならば願ったり叶ったりである。明日もどうせ歩き回ったりして疲れるんだろうし、体力は回復させておきたい。

 とか思ったんだが、なんかリリィの様子がおかしい。いや一番おかしいのは頭なんだが、それに加えてなんか様子も変である。無意識に胸元を強調するように腕を組み、なんか悩んでる。なんだよどうした。


「今日は止めておこっかなーってねー」

「おやすみ」


 マジかよやったぜ。

 俺は速攻で布団に潜った。気分良く目も閉じた。長く深く安堵の息も吐いた。寝る準備は完璧に整った。おやすみおやすみ。


「む。理由くらい聞いてくれても良いんじゃないの?」

「それはわたくしも気になりますわ。もしかして、契約内容の事でも気にしていたり?」


 ……だっていうのにコイツときたら。リリィの気が変わったらどうすんだ。しかしまあ……契約……契約かぁ……。

 その言葉を心の中で反芻する。俺とリリィが交わした契約……それは、力を貸したら餌を貰うとかそういうの。つまり逆に言えば力を貸さなかったら餌は貰えないという意味である。

 まあ確かに今日はコイツ何もしていない。ただただ俺の影に入って寝ていただけである。けど、こいつがそんな事を気にするタマかねぇ……?

 ……いや待て。昨日は普通に買い物を手伝ってたから、やっぱり餌を与えるべきでは? というか、連日働こうとも必ず一日は空けてくる辺り、もしかして俺の身体を気遣ってたりしてんのか?


「いやー、今日はずっと寝てたからそこまでお腹が減ってないのよねー」

「羨ましい生き方してんなぁお前ぇ……」


 ねーわ。気遣ってるとかねーわ。やっぱりコイツ何も考えてねーだけだわ。


「ま、それに今日は主任、疲れてるみたいだしね」

「……………………」


 お前にも気遣いできる精神があったのか……。そっちの方が驚きである。


「あらあら主任さん? ちゃんと身体の事を気にして下さってるようですよ?」

「どうせ腹を空かせてたら毎日貪ってくるでしょ……」

「そんな事したら死んじゃうでしょ。やらないわよ」

「おい待て今なんつった? 毎日だと死ぬの?」


 コイツおっかない事を言い出したぞ……。なんなの一体……。

 しかし、考えてみれば当然かもしれん。今でこそ多少の手加減はしてくれているようだが、最初の方なんて身体の芯から力が抜けてしまっていた。確かにあんなのが毎日続いたら死ぬ自信がある。例えどんなに体力を付けても、サキュバス相手にその手の耐久レースに勝てるはずもない。

 ……あれ? 俺ってもしかしてスゲーやべぇ奴を使い魔にした?


「たぶん死ぬでしょ。精力ってのは生きる為の力でもあるんだから、それを根こそぎ奪ったら死ぬと思うわよ」

「お前が小食で助かったわ……」

「いや別に小食って訳じゃないけど? ちょっと我慢してるだけだもん」

「……………………」


 コイツまじでそういう所に気を遣ってたのか……。ちょっと認識を改めなければならんかもしれん。


「……とても性事情の話とは思えませんわね。もう少し生々しいお話とか出来ないのですか?」

「いきなり何言い出してんのロゼさん??」


 何やら不満そうな顔で俺達を見るロゼ。お前そんなキャラだったっけ……?


「あら。私とて興味はありますわよ。むしろ、興味の無い人なんて居るのでしょうか?」

「食べる、寝る、ヤる! この欲求は絶対よね!」

「俺お外で寝ゆ」


 立ち上がるのも億劫だったのでゴロゴロと転がりながら外へ向かう。が……


「あらあら。この天幕で唯一の男性である主任さんを逃がすとでも?」

「観念して猥談に付き合いなさーい?」


 ……ロゼには乱暴に襟を掴まれ、リリィには艶めかしく腕に胸を押し付けられ、逃げられなかった。

 しゅにん は にげだした! しかし かりうど から にげられなかった!


「……嫌じゃあああああアアア!!!! おうちかえるううううう!!!」

「あんっ。そんなに腕を暴れさせたら、服がはだけちゃう」

「あらあらあら。やっぱり乗り気ではありませんか」

「ひぃ……」


 ロゼが強引に俺を引き戻す。あの細腕からじゃ想像も出来んくらいえげつねえパワーの持ち主だった。どれくらいかって言うと、俺が本気で抵抗してるってのに軽々と力で捻じ伏せてきたくらい。割とマジで敵わない。何者だよ本当に。人間じゃねえだろこれ。

 脳内ピンクとなった二人は俺を挟んで猥談に勤しむ。行為中の女の気持ちやして欲しい事にして欲しくない事を始め、リリィによる『サキュバスがやる男の悦ばせ方』講座なんてもんも開かれた。

 俺が終始ゲンナリとしていたからか、それとも程々に夜も深くなってきたからかは知らんが、リリィが『今日はここまで! 次は実戦で使えるさりげない仕草講座よ!』なんて言った所で猥談は終わりを告げた。

 無論、寝る事になっても俺の左にはロゼが居て右にはリリィが居る。やっぱり女に囲まれるなんて俺の性に合わねえ……。男もゴメンだけど。

 はー……。今日一日の最後は最悪であった……。




…………………………………………




 天幕が整い、僕は大きく息を吐く。今日の戦闘もなかなかのものだったけど、この天幕を張るという作業も意外と体力を使うものだった。

 左右に距離を空けて作られた二つの天幕。一つは社長さんとアリシアさんが、もう一つは主任さんとローゼリアさんと使い魔のリリィさんが使う物だ。この天幕はその二つと比べると些か装飾が施されていて、いかにもお偉いさんが使いますと宣言しているように見える。

 ……僕はあまりこういうのが好きではない。そもそも僕はそんなに大層な人間ではないからだ。ただ王家に生まれ、ハーメラ王唯一の跡継ぎであるだけで他に取り柄と言える取り柄なんて無い。

 その点、聖女であり妹でもあるグローリアはしっかりとしている。身体が弱いという欠点を持ちながら上手くなんとかしているという話だ。アーテル教の信徒達からも大いに崇められ、尊敬の眼差しも向けられている。本当に僕の妹なのだろうか、と疑ってしまいたくなるくらいに。……いや、逆か。僕は本当にハーメラ王の子なのか。絶対に口には出来ないが、そう思ってしまいたくもある。

 賢王と呼ばれている父、ハーメラ王。歴代最高の聖女と呼ばれる妹、グローリア。そして無能の跡継ぎ、ライアン。この評価だけを見れば、間違いなく血が繋がっているとは思えない。……本当、僕には何があるのだろうか。


「ライアン王子? どうかされましたか?」


 僕が立ち竦んでいたからかルイスが声を掛けてくる。それに対し『ごめん。ボーッとしてた』と言って僕は中へと入った。……僕が返答した時、ルイスが少し残念そうなというか何か言いたそうな顔をしていたのが見えてしまった。……僕は、また何かしてしまったのかな。

 中に入ってまず目についたのは寝床。明らかに一つだけ装飾が施されており、他の二つはそれと比べると質素極まりない。この装飾された寝床は明らかに僕用だろう。

 わざと質素な方へ座ろうかと考えもしたが、そんな事をしたらルイスに怒られてしまいそうだ。ルイスは僕を無能として扱ったりせず、一人の王家王族の男として扱ってくれる。しかし、それは時に僕の心を卑屈にさせてしまう。今この状況がそうだ。ルイス達と同じく同等に扱われた方が僕にとっては万倍も嬉しい。僕の事を『仲間』として見てくれている証でもあるからだ。

 だけどそんな事は絶対に訪れない。ルイスは規則に厳しい。王国騎士団は王家に属する騎士の集まり。王家の人間に対して忠誠心を見せる人達でもある。その忠誠心は役職等級が上がる程に強くなり、その頂点たる団長のルイスは僕に対して絶対的な忠誠を誓っている程だ。そんな彼が僕を自身と同等に扱ってくれるだなんて、夢のまた夢な話だろう。

 僕はルイスに目を配らせ、次は中央に位置する装飾された寝床へ視線を移動させる。


「……ルイス」

「ええ」


 彼の名を呼んだだけで、呼ばれたルイスは意図を察した。今までにも何回かこういうやりとりをしたのだから、分かってしまって当然だろう。

 諦めた僕は躊躇しながらも僕の寝床へ腰を下ろす。それを見たルイスはナリシャに命令をして座らせてから自分も腰を休ませた。


「……ふぅ」


 溜め息を吐くように一息を吐く。気が抜けたというのか、張っていた緊張の糸が切れたというのか、身体が休息を求めている。

 僕は腰にぶら下げていた、水の入っている竹筒を手に取る。ユーロスでよく使われている品だそうで、なんでもこれに入れていると水が腐りにくいとか言われているそうな。しかし竹という物はユーロスの一部にしか生えていない上、水が腐りにくくなるという話もあまり広まっていないようなのでユーロス以外で持ち歩いている人は余り居ないらしい。

 中に入っている水を口へ流し込む。冷たくはないが温くもない水が渇いた喉を潤わせてくれて、心も少し落ち着けられた。


「……見た事も聞いた事も無い魔術だったね」

「ええ。しかも、あの距離でヒポグリフを一撃で倒すような威力だというのに、一人で何発も魔術を放っていたようで。おまけに実体も見えないときた。更には魔術師ではない主任にまで扱えるようにしている始末。流石はルーファスと一戦を交えたのにも関わらず無傷で終わらせたと言われている魔術師です」


 ルイスの言葉に僕は頷く。あの自尊心の高いルーファスが認める魔術師。それが一体どれだけ凄い事なのかは僕も分かっているつもりだ。……女神は二物を与えないという諺を聞いた事はあるが、彼女は二物も三物も与えられているように感じるのは、僕が自分に自信を持てないからだろうか。それとも、彼女を羨ましく思ってしまうからか。


「ルイス、社長さんと主任さんは何者だと思う?」


 当然、そこから生まれる疑問もある。魔術師ではない主任さんにもアレだけの魔術を扱わせられるようにする魔道具を作る上、戦闘でも素早く皆に指示を出した社長さん。そして、そんな社長さんが一番信頼している相手に見える主任さん。彼女達は一体、何者だろうか?

 ルイスは腕を組み喉を鳴らす。その顔は、なんとも言い難そうなものであった。


「……正直に言えば、あの社長という女はどこかの高名な魔術師では、と思っています。広まっている噂にしろ、見慣れぬ服装にしろ、あの魔術にしろ、我々の知らない事が多過ぎます」


 そして……と言ってルイスは口を閉ざした。その口が開かれたのは、数秒後である。


「主任という男に関しては……ただの乱雑な人間にしか思えんです。ただし、それに違和感があるというのも事実。社長と微笑みのロゼの二人だけでも充分にやっていけようなものだというのに、なぜそこにあの男が立っているのかが不可解です」


 ルイスと僕はほとんど同じ考えを抱いていたようだった。社長と主任さんの関係性が分からないのだ。仕事仲間にしては主任さんは社長さんに対してどんな役に立っているのかが分からないし、逆に社長さんもなぜ主任さんが必要なのかも分からない。ここまでくると、主任さんは僕と同じでどこかの王族であり、社長さんはそんな主任さんの教育係だとかの方がまだ納得できる。微笑みのロゼはそんな二人に雇われた冒険者かもしれない。本来ならば社長さんが使役しているんじゃないかって淫魔を主任さんと契約させている時点で何かの意味がありそうだ。

 今になってそんな事が気になってきたが、今日はあの細長い魔道具の事が気になってしまって三人がどういう集まりなのかを訊きそびれてしまった。……いや、訊かない方が良いのかもしれない。藪を突いて蛇でも出てきたら大変だ。


「……本当、不思議な人達だね」

「全くです。──さて、ライアン王子はここでお休みして下さい。ナリシャ、訓練をするからついて来い。命令だ」


 そう言ってルイスは立ち上がり、ナリシャへと声を掛けた。ナリシャはその言葉に反応し、社長さんのように光が消えてしまった目でルイスさんの後をついて行った。

 天幕に一人残される僕。……なんだか少し寂しい気持ちだ。誰かと話でもしに行こうか。

 そう思った僕はルイス達と同じように天幕を後にする。陽は傾いて空を茜色に染め始めており、一時間か二時間もすれば夜が訪れるだろう。近くではルイスとナリシャが剣を交えており、豪快に振るうナリシャの剣をルイスが洗練された動きで受け流して反撃をしている。その反撃を猫のように身体を捻らせ、不充分極まりなさそうな体勢なのにも関わらずナリシャは剣を振り上げる。そんな異常な攻撃すらルイスは剣の根元から切っ先へ斬撃を流していて、もうなんだか滅茶苦茶だ。

 大道芸か何かと勘違いしてしまいそうな訓練を尻目に、僕は主任さんの天幕へと足を延ばす。社長さんと少し悩んだけど、女性しか居ない天幕に真っ先に向かうのは少しばかり抵抗があった。


「はーい! ではまずこのようにしっかりと男の人の身体にくっつきまーす!」

「助けて……助けて……」

「そして甘えた感じで耳や首筋、胸板なんかも舐めてあげましょー! 男の人はこうされる事が少ないから、主導権を握ったら未知の感覚にされるがままになるわよー?」

「助けてぇ……誰か助けろぉ……」

「あら、女性に抱き着かれるのが嫌なのですか?」

「変な気分になりそうだから助けてクレメンス……」


 ……どうやらお愉しみ中らしい。聴かなかった事にしよう。

 踵を返し、今度は社長さんの天幕へと向かう。ルイスとナリシャの二人は、火花を派手に散らしながら滅茶苦茶な速さの剣戟をしていた。……こっちも見ないようにしよう。

 社長さんの天幕に着いた。が、何やら雰囲気が暗い。というよりも明かりすら点けていない。もう寝てしまったのだろうか?


「あの、社長さん……。本当に大丈夫ですか?」

「私は大丈夫だよ。アリシアこそ平気?」

「社長さんが庇ってくれたですから、私はなんともないです。……傷、見させて下さい」

「ん……」

「……まだ少し血が滲んでいるです。もう一回、薬草を使いますね」

「……ありがとう、アリシア」


 と思っていたら、どうやらただ明かりを点けていないだけらしい。……それにしても、主任さん達とはまた違った意味で良い雰囲気の様子だ。邪魔をしない方が良いだろう。

 僕は気付かれないよう、またもや歩いて来た方へゆっくりと引き返す。ルイスとナリシャはもはや常人では到達できないであろう動きと反応速度で攻撃を攻撃で防ぎ合うなんて滅茶苦茶な事をしていた。……僕の周りは異常な人が多過ぎる。


「ふむ。今日は戦闘もあった事だし、ここまでとしよう。命令だ。これにて訓練を終わりとする。──おや、ライアン王子」

「……凄い訓練だったね」


 どうやら丁度訓練が終わった所らしい。ルイスは剣を収めながら僕へ声を掛けてきた。


「もうすぐ夜ですが、どうしたのですか?}」

「少し暇を持て余していたから社長さんや主任さんの所へ向かったんだけど、どうやら邪魔をしない方が良さそうだったからね。戻ってきたんだ」

「おや……」


 なんて声を掛けたら良いのか、って顔をするルイス。ナリシャはやっぱり無表情のままだ。


「僕は走り込みをしてくるよ。その辺りを走ったらすぐ戻ってくる」

「私も同行しましょう」

「いや、今日は一人で走りたい」

「ふむ……では、お気を付けて」


 淡白にそう言ったルイスだったが、彼は周囲を一回だけ見ていた。きっと、安全かどうか確認してくれたのだろう。僕が走っている間もルイスはずっと警戒をしてくれいて、なんだか申し訳ない気持ちになってくる。

 ……寂しい気持ちを紛らわす為に走り込みをしたつもりだったのだけど、今度は申し訳ない気持ちになってしまった。


(……本当、僕は何事も上手くいかないな)


 自分の要領の悪さに嫌気が差してくる。……どうして僕は、王子として生まれてしまったのだろうか。それとも、これは女神様が僕に与えた試練なのだろうか。

 そんな余計な事を考えながら、僕は必至に走る。ルイスやナリシャと比べて基礎すらしっかり出来ていない僕は、こういう所から頑張らなければならない。

 けど、僕が彼らと肩を並べられる日が来るのは、想像できないな……。




…………………………………………




「──はいっ。終わりました!」

「ん、ありがとう」


 下手ながらも、血を拭き取り磨り潰した薬草を塗り終えた私。たったそれだけの事しかしていないのに、社長さんは優しくお礼を言ってくれました。

 濡らした布を傷口に当てたり薬草を塗った時にくぐもった声を漏らしたので、きっと私のやり方が悪かったのだと思います。けど、社長さんは一言も文句を言わないどころか、何事も無かったかのように振舞ってくれました。社長さん、強いです。

 ですが、そんな社長さんはちょっぴり考え込んでいるご様子。……やっぱり、痛かったのでしょうか。


「……痛かったですか?」

「うん? 大して痛くはなかったよ。……ああ、ちょっと別の事を考えてただけだから安心して?」


 私が不安そうにしていたからか、それとも社長さんの察しが良いのでしょうか。社長さんは私の知りたかった理由を教えてくれました。

 ですが……別の事、ですか。いったい何を考えていたのでしょう?

 そんな事を思いつつ私は持ち運び出来る魔術式の灯火とうかに火を点けます。頭と底が金属で造られており、その中間には硝子で出来た空洞があります。それを開けて中に入っている魔茸またけの核に火を灯してやれば、何時間か明かりとして使える代物です。普通に考えて魔茸に火を点けてもそのまますぐ燃え尽きそうなものなのですが、どういう理屈かしばらく火が保たれるのですから不思議です。

 魔術灯火はゆらりゆらりとした弱い光を発し、この小さな天幕であれば一つだけでも充分に明かりとして機能しそうです。その揺らめきもとても不思議で、眺めていても飽きる事なくずっと見られます。


「ん……ちょっとだけ肌寒くなってきたね」


 真っ暗とまでは言いませんが、外もだいぶ暗くなってきたようです。私はへっちゃらですが、社長さんはそうでもないご様子。寝る時に被る布を羽織りました。

 ほぅ、と目を閉じて一息を吐く社長さん。まるで、今やっと安心できたかのような、張っていた緊張の糸を緩めたかのような雰囲気です。ゆっくりと開かれた瞳にはやっぱり光が灯っていなく、どこか遠い場所でも見ているかのように魔術灯火を眺めています。


「アリシア、一つ質問して良いかな」

「? なんでしょう?」


 揺らめく灯を見詰めながら、社長さんは話し掛けてきました。


「今日の戦闘だけど、どう思った?」

「戦闘、ですか……。ええっと……」


 今日、一番怖かったあの時の事を社長さんは訊ねます。恐ろしい魔獣達が私達を取り囲み、そこから抜け出したと思えば空から大きな氷柱を落とされた、あの怖い戦い。

 ただただ敵が怖くて、そして社長さんが無茶をして庇ってくれて、社長さんと主任さんの攻撃で倒せました。私にとってはそういう感じなのですが……これで良いのですかね?


「……敵は怖くて、社長さんが庇ってくれて、なんとか倒せた……でしょうか」


 なんとなく違う気もしますが、どう思ったかと訊かれたらそう返すしかないです。なにせ私は逃げていただけですから……。

 そして、私の答えはやっぱり社長さんの問い掛けと違ったものだったようです。社長さんは左目を閉じて少し考えた後、改めて質問をし直しました。


「聞き方を変えるね。私の指示はどう思った? 正直に答えて欲しいの」


 どうやら社長さんはその事が気になっていたようです。……ちょっと難しい質問ですね。社長さんの指示がどうだったか、という答えを出そうとしても、私にとって戦闘は今日が初めてです。……一方的な暴虐はされた事があるですけど、戦いの場に立つ事なんて今まで考えもしなかったですから。

 私はちょっとだけ俯き、あの時の事を思い出します。


「……少し危なかったかと思いますけど、適切な指示だったと思うです。魔獣の群れを駆け抜ける時は無我夢中でしたが、ちょっと無謀だったかもしれません。ただ、そこは他の手段が無かったと思うです。あのまま魔獣に囲まれていたら間違いなく誰かが怪我をしていたでしょうし、身動きの取れない状況で氷柱なんて落とされたら……まず間違いなく避けられなかったです。あの状況だったのにも関わらずあれだけ少ない被害で空飛ぶ敵を倒せたのは、凄い事だったと思います」


 と、そこで私は気付きました。社長さんが少し驚いた顔で私を見ている事に。しかも、いつもと明らかに違う箇所がありました。

 目です。社長さんの目に光が灯っています。今まで人形のようなちょっと怖い雰囲気が無くなっています。


「……そっか。そう思ってくれるのなら、私の気も楽になるよ」


 そのまま社長さんは微笑みました。なんとなくですけど思います。きっと、この笑い方が社長さん本来の笑い方なんだろう、と。

 社長さんの笑顔はほとんど見ませんでしたが、その数少ない笑顔もこの笑い方を見た後では作り笑いだったのだろうって思えます。だって、ちゃんと笑ってるです、って言葉が頭に浮かんだのですから。


「本当は、あまり良くない指示だったと思ってたの。相手の戦力を見定めもせず、アリシアの言ったように無謀な賭けに出た。相手が慎重だったから事無きを得たけど、もしあそこで魔獣の何匹かをこっちに向けられでもしたら結果がどうなっていたか分からなかったよ。実際に回避に専念する事になったし、主任が援護してくれなかったら……たぶん、私は死んでいたと思うし、アリシアだって怪我をしたかもしれない。そうなっていたら有効手段が無くなって、あの敵は倒せなかっただろうね」


 語っている内に社長さんの目はいつもの光の無い目へと戻っていました。表情も笑顔が消えてしまい、いつものように何を考えているのか読み取れない顔となっています。

 社長さんはゆっくりと視線を移し、揺らめく灯を眺めます。気のせいかもしれませんが、なんだか少し寂しい顔付きになっているような……。

 私は、そんな社長さんに言いました。


「ですが、結果はしっかりと大金星です! あの方法でなければ私達はこうして元気にしていなかったと思うですし、練った案を考える時間もありませんでした。だから、社長さんの指示は的確だったです!」


 そこまで言って、私は言い忘れていた事がある事に気付きました。


「社長さん」

「なに?」

「あの時、助けて下さってありがとうございました」

「────────」


 お礼を言うと、なぜか絶句する社長さん。その目はまたもや光を宿していて、やっぱりいつもの怖い印象はサッパリと消えていました。


「……ありがとう、アリシア」

「え……ぇ、え?」


 なぜか社長さんにお礼を言われて戸惑ってしまいます。……私、お礼を言われるような事なんて言いましたか?

 少し考えてみましたが思い当たりません。……本当、どうして社長さんはお礼を言ったのでしょうか。


「さて、そろそろ私は寝るね。早めに寝ておかないと明日の調査に響いちゃう」

「あ……はい。おやすみなさい、です」

「良い夢を見てね、アリシア」


 そう言うと社長さんは仰向けになって目を閉じました。ユーロスの宿屋の時もそうだったのですが、社長さんは『おやすみ』の代わりに『良い夢を』と言うようです。

 良い夢……ですか。私も、夢くらいならば望んでも良いのでしょうか……。

 呼吸を穏やかにして、すっかり寝る事に集中しだした社長さん。私は社長さんの眠りを邪魔させないよう、魔術灯火を消して自分も簡易布団に潜りこみました。


(本当に不思議な人、です……)


 変、と言った方が正しいのかもしれません。ですけど、私の中では『不思議』と言った方がしっくりときます。

 そんな不思議な人である社長さんへ一回だけ視線を向けて、私も目を閉じました。


(良い夢……社長さんも見て下さいね)


 そう思いながら、私はゆっくりと意識を落としていきました──。




……………………

…………

……

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