人の温もり 2
「では、お気を付けて」
大聖堂の広場の前でオースティンさんが笑顔で僕達を見送りに出ている。雲が半分だけ覆っている空。日差しと日陰が丁度良く入れ替わっていき、その真っ白な雲に遮られて作られる影を子供達が追い駆けて遊んでいた。
良い天気だ。暑過ぎず暗くなく、外を出歩くのに一番向いている天気だと言っても良い。
「念の為に護衛を忍ばせておきますが、くれぐれも危険な場所にはいかないように」
「ありがとうございます、オースティン大司教っ! 行ってきますね!」
「行ってきます」
そんな僕達は今、いつもの白い生地に金色の煌びやかな装飾を施した聖女の服ではなく、クラーラさんが着ているような黒と白の修道服を着込んでいる。リアが聖女と知られたくなく密かな外出する時はこの修道服を着るらしく、彼女も慣れた様子なので何度もしている事なのだろう。
オースティンさんに一礼をして僕達は歩き出す。遊んでいる子供達も、その面倒を見ている大人の人や修道士の人も、誰もが僕達を気に掛けていない。そのまま大聖堂の敷地から外に出て街へと進んでいく。街は活気に満ちており、賑やかな喧騒が響いていた。庶民、貴族、冒険者……その誰もが僕達の脇を素通りしていく。
「……本当にバレないものなんだね」
「はいっ。こうやって被りを深くしていれば髪も目元も見えませんので、堂々としていれば修道士にしか見えませんよ」
修道士の皆が着ている修道服。それに加えて被りを深くするだけで誰もリアだと気付かずに通り過ぎて行っている。たまに目を向けられるもすぐに視線を戻されている事から、本当にただの修道士にしか見えていないようだ。
不思議なものだなぁ、と感心する。大聖堂ではあれだけ信徒の人から崇められて敬われているのに、こうやって修道服を着ていれば誰も気付かれないなんて。
……いや、確かに服装って大事か。有名人がちょっと地味目の服を着てサングラスをするだけでほとんどの人が気付かないなんて事もあるみたいだし、きっとそれと一緒なのだろう。そう考えると妙に納得できた。
「今日も賑やかですね」
「そうだね。こうやって見ると、やっぱり中央って栄えてるんだなって思うよ」
リアがこっちを見ながら声を掛けたので僕も彼女へ首を向けて答える。その時、ふと彼女の首に掛けられているガラスの十字架が目に入った。
アーテル教に仕えている聖職者は基本、首から銀の十字架を下げる。それが聖職者たる証にもなるらしく、ある意味で身分証明みたいな物だ。僕も今はそれを付けている。大司教になるとそれが金になり、リアのように聖女となると逆に掛けなくなる。なんでも、十字架はアーテル教の聖職者である事を示しており、アーテル教の象徴である聖女は付けてはいけないらしい。
ここら辺はちょっとよく分からないんだけど、古くは罪を犯した者に掛ける物が十字架だったらしい。罪を背負ってでも生きる事を赦され、これ以上の罪を重ねない意思の表れ──という意味があったという文献が残っているとかなんとか。けど、それがいつの間にかアーテル教の信徒が掛ける物となった。その文献も相当古いもので、残っているのも奇跡だと言われているくらいだ。アーテル教も全ての歴史が残されている訳ではないようで、空白となっている歴史の間に新たな決まりが作られたのかもしれないし、単純にアーテル教の聖職者であると証明するようになっただけなのかもしれない。詳しい事はもう誰にも分からないそうだ。
ならば、なぜ聖女だけ十字架を掛けなくても良いのか。これもまた謎らしく、過去に教皇を交えた大司教達の議会で『聖女も十字架を掛けるべきか否か』と議論された事もあると何かの本で書いていたっけ。
とまあ……そんなふわふわとした存在である十字架をリアが付けている事。そしてガラスの十字架なんて初めて見たから気になったのだ。
「ねえリア。その十字架って初めて見たけど、何か特別な物なの?」
「これですか?」
十字架を手の平に乗せて見えやすいようにするリア。その十字架はガラスにしては妙に白っぽく霞んだ光り方をしており、一部の面ではなんだか沢山の筋が走っているように見える。……あれ? もしかしてガラスじゃない?
「これは……そうですね。御守りに近いと思います」
御守り? 近い?
いまいち要領を得られなかったので首を傾げてしまう。
そんな僕を見てリアはガラス(?)の十字架を優しく微笑みながら眺めた。
「これはルーファスさんが作って下さった物です。なんでも、魔族の残滓に反応して光り輝くそうですよ」
「ああ……なるほど……」
そこまで言われて理解できた。たぶん、あの過保護のオースティンさんが作らせて持たせたんだろうな。それが光ったら逃げなさいって意味で。
「……お察しの通りです」
どうやら何を考えたのか伝わった模様。少し困った感じの声が聴こえてきた。やっぱり、リアも過保護に扱われているって思ってたんだ。
「ですが、見方によっては便利でもあります。今までは魔族の残滓を見付ける方法は困難でした。神聖魔術を使った周辺にしか現れない魔族の残滓を歩いているだけで見付けられるのですから」
「あ、確かに」
これも本で読んだ記憶がある。魔族は人間や妖精には無い魔力を持っているらしく、彼らが通った場所には短い間だけその魔力が残る。それを『魔族の残滓』と呼んでおり、言わば魔族がついさっきそこに居たという証拠でもある。普段は目に見えないそれは、神聖魔術と言われている普通とは違う希少な魔術で黒い粒子として可視化するらしい。
ここは勉強不足でまだちょっと分かっていないけど、治癒魔術とかそういうのが神聖魔術と思って良いっぽい。ちなみに神聖魔術はアーテル教でも使える人があまり居ないのに、リアはそのほぼ全て扱えるとかなんとか。……今の僕の知識じゃこれ以上分かっていない。帰ったら調べておかなくちゃ。
……なんだか引き籠り宣言のような気がしないでもない。
「それにしても、久し振りに外に出た気がする」
最後にアミリオ大聖堂を出たのはいつだったか。確か……ハーメラ王に謁見した時だったっけ。うーん……僕ってそんなに大聖堂で引き籠っていたんだ……。
っと、たぶんリアの事だから言っておかないと。
「ごめ──」
「謝らないでよ?」
「ふぇぁ!?」
ああ、やっぱり。リアの事だから『そうしてしまった原因は私』とか思って謝ってきそうだった。その予想は見事に的中したようで、リアは僕の言葉に酷く驚いた様子。
流石に声が大きかったからか、周りの人達が僕達を見ている。もしかしたらリアの声だったと感づかれてしまうかもしれない。……バレてしまう前にさっさと逃げてしまわないと。
「行こ?」
リアへ手を伸ばす。彼女は一瞬だけ混乱していたようだけど、周囲の様子を見て気付いてくれたらしい。リアが僕の手を握ったのを確認して僕は走り出した。転げてしまわないよう初めに走る姿勢をゆっくりと取ったからか、リアもスムーズに走り出してくれる。軽い足取りで、さっきの賑わっている場所から離れていく。石畳を蹴る硬い音がタンタンと小気味良く耳に入るのが気持ちが良くて、久々に走る事が楽しくてつい速度を上げてしまいそうになる。けど、運動が苦手らしいリアの手を引いているのでリアの速度に合わせて抑えておかなくちゃ。
それでも僕は何かから解放された気分になった。こうやっていると思う。たまには走るのも悪くないんだなって。
どれくらい走っただろうか。気付けば周囲の人影は少なくなっていて、冒険者や行商人らしき人達が歩いているのを見掛けるくらいになっていた。この大通りの奥には中央都市ハーメラと外を繋ぐ門が見えている。
ええっと、アミリオ大聖堂の位置があっちだから……たぶん西の方に走ってきたんだ。結構走ったなぁ。……なんて思った所でハッとする。
「はー……はー……はー……」
リアは頭を垂らして息を切らし、繋いでいない方の手を膝についてしまっていた。
「ご、ごめん! 体力が無いって聞いてたのに……!」
「い、いえ……! だいじょ、ぶです……!!」
そうは言いながらもリアは今にも崩れ落ちてしまいそうなくらいぷるぷると震えている。……どう見ても大丈夫じゃない。生まれたての仔鹿よりも立っていられるのか怪しい不安定さだ。
リアは息を整える為に深く息を吸って吐く。それを四回くらい繰り返した頃、少しはマシになったのか顔を上げてくれた。
火照った頬としっとりと汗の滲んだ肌。弱々しくすがりつくこの右手。……精神衛生上、非常によろしくない。
「それにしても……ヒューゴさんは、息すら切れていません、ね……? いつの間に、鍛えたのですか……?」
「え? いや……全くそんな事していないけど……?」
むしろ引き籠って本を読んでいただけなので貧弱になっていないとおかしいような……。
「うぅ……同じ身体のはずですのに……とても申し訳ない気持ちです……」
ガックシ、と肩を落とすリア。そんな姿を見たら、逆にこっちが申し訳ない気持ちになってしまう……。
でも、リアの言っていた事は確かに気になった。僕とリアは同じ身体のはずだ。それはリア自身が一番分かっていると思う。……ある意味で僕もよく分かっている。お風呂やトイレの時、嫌でも『ソレら』を気にしなければならないから……。
意識しそうになったので頭を振って邪念を追い払う。……うーん。僕とリアの違い……? 何があるんだろう。
食べている物は同じだから除外して……。やっぱり一番の原因は疲れが溜まっているかどうか、かな? リアは朝から晩まで働き詰めだし、聖女と言う立場も精神的に気を遣ってしまうだろう。逆に僕は基本的に座って本を読んでいるだけだし、勉強はしているけどちょっと前まではなんとなくでやってきたから気負いもほとんどしていない。あと考えられるのは走り方だろう。言っても僕は元々が男だから、走り方も男っぽいと思う。……正直、女の子やリアの走り方は見ていて疲れないのかなって思うくらいだし。
その事を言ってみるも、素直に納得はしてくれず少々自己嫌悪に至るリア。ああ……なんて言ったら良いんだろう……。
「と、とりあえず! 今日はリアの休みでしょ? リアの行きたい所に行こうよ」
そして僕は前のように話を逸らす手段に出た。……社長さんだったら僕なんかと違って上手く元気付けられるんだろうなぁ。もし会った時はどうやるのか聞いてみようかな。……やっぱ怖いからやめよ。
「──あっ! そうです! 今日はそれが目的でした!」
曇った表情にパァっと笑顔が浮かび上がった。それを見て僕はホッとする。やっぱり、リアは笑っている顔が一番似合っているや。
息もある程度は整ってきたのだろう。彼女は落ち着いた様子で僕の目へ視線を合わせてきた。今の空模様よりももっと晴れた、澄んだ青い空の瞳がそこにある。
「ナリシャさんのご自宅へ行きたいのです。よろしいでしょうか?」
「え? ……うん。良いよ?」
ナリシャ──。それは、人間達にとって希望の星でもある勇者の少女の名。いつぞやにリアから聞いた話によると彼女は快活で無邪気な性格をしており、型式を重んじているけど少々頑固な所があるらしい。特に自分の信じた道は硬く突き進むようで、周囲からも『まさしく剣のような子』であると評価されていたようだ。その評価の通り剣の腕前も凄まじいらしく、腕前だけならばカーラさんと同じかそれ以上と言われているとか。
それだけ強いのならば普通に勇者ってバレそうな気もするんだけど、どうやらベネットさんの存在が強烈過ぎて良い感じに隠せているみたい。ナリシャさんは父親が聖堂騎士団員だったようで、彼女もよくその訓練に顔を出していた。その時に一回だけベネットさんと手合わせをしたけど、ベネットさんが一振りするだけでナリシャさんの剣を砕き飛ばして終わった……という話らしい。初めて聞いた時はもう規格外過ぎて『ベネットさんの方が勇者に近いんじゃないの?』ってすら思ったくらいだ。剣を砕くってもう意味が分からない。本当に人間なの?
とまあ……そんなナリシャさんはリアの秘密の友人。そして今は心が壊れて人形のようになってしまっている。そんなナリシャさんをリアは放っておけないのだろう。
実は、ナリシャさんの家に行きたいって言った時に少し驚いた。自分の休みの日を使ってでも会いに行きたいほど彼女達の間には絆があるのだろう。
「こちらです。行きましょう」
リアに案内されながらナリシャさんの家に向かう。その道中、僕は二人の事が羨ましいなって思っていた。
僕には二人みたいな間柄の友人は居なかった。正直、そういうのって僕にとっては縁の無い物って思っていたし、僕自身もどこかで怖がって深く接してこなかったのかもしれない。持っていないからこそ羨ましく思うし、持っていないからこそ綺麗に見える。
少なくとも、僕から見てリアとナリシャさんの絆は輝いているように思えた。
「──ヒューゴさん。ナリシャさんの家は目の前ですが、このまま通り過ぎましょう」
「え?」
唐突にリアがそう言った。どういう意味なのかよく分からずリアの方へ顔を向ける。一体どうしたというのだろう。
「……………………」
と、そこで黒い外套を羽織った誰かが家から出てきた。……いや、おかしい。あの家って確かナリシャさんの家だよね? そこから出てきたというのに、リアは通り過ぎると言った。という事は、リアの知らない誰かがここを出入りしているって事?
僕達は歩みを緩めず足を進める。そして、黒い外套を羽織った人はこっちの方へと歩き進んできた。幸いな事に横を通り過ぎるように歩いているので襲われたりなんかはしないだろう。
……けど、なんだろう。この外套の人、なんだか不思議な感じがする。具体的には言えないけど、どこか気になる雰囲気を纏っている。
「……………………」
「……………………」
「……………………」
すれ違う際、盗み見るように相手の被りの方へ視線を動かした。
お互いの被りが邪魔で目元までは見えない。けど、顔の輪郭から少年と青年の間くらいの人だというのが分かった。肌が褐色だったので、ちょっと珍しいなって思っていた。
結局、僕達は何も干渉する事無くただすれ違っただけ。それでも、どうしてか緊張していたようで身体から余分な力が抜けていったのが自分でも分かった。……これ、相手から見て変な風に見られていないかな。
それから少し歩いた後、リアが後ろへと振り向く。釣られて僕も後ろへと振り向いてみた。……遠くにさっきの黒い外套の人の背中が見えるだけで、他に誰も居ない。
「もう大丈夫そうです。今の内にナリシャさんのご自宅へお邪魔しましょう」
(あ、そういう事か)
どうやら、誰かに見られると何があるか分からないから人目を避けたかったらしい。リアは用心しているのか周りを一回だけ確認している。僕も周囲に目を配ってみたけど誰も居ない。入るのならば今だろう。
コンコンコン──。
玄関のドアをノックする。しかし、やはりと言うべきか中から返事が返ってくる事は無かった。
分かってはいた事だけど、リアにとってはやっぱり寂しいものがあるらしい。哀愁を漂わせた雰囲気を出しているリアと、それを見ている僕。そんな僕たち二人はナリシャさんの家へと上がっていった。
「う……」
「ヒューゴさん?」
入った瞬間、嫌な臭いがほんの少しだけした。鉄錆に肉を擦り込ませて腐らせたような酸っぱい悪臭。それが僕の鼻腔を刺激してきた。
けど、それは一瞬だけ。その臭いは今、意識をしなければほとんど感じられない。
「……リアは今の臭いに気付かなかった?」
「臭い、ですか?」
首を傾げて困った顔を浮かべるリア。どうやら彼女は分からないらしい。……僕の気のせいかな。
気にしないで、とだけ言って奥へと進む。以前と同じように歩いていき、あの部屋へ入る。そこには、前の滅茶苦茶になった部屋から整理された部屋が目に入った。家具は元の位置であろう場所へ戻され、散らばっていた物も仕舞われたのか見当たらない。二つほど言うならば、ナリシャさんの武器であろう黒い鞘の武骨な剣が放り出すように置かれている事と……床の大部分を占めているドス黒く乾いた血の跡はそのままだった。
「ぅ……」
今度はリアが顔を顰めた。さっき感じた嫌な臭い──それは、この乾いた血の臭いだったようだ。
ナリシャさんはあの時と変わらず血の跡の前でへたり込んでいる。……もしかして、ずっとこの状態で過ごしているのかな。
「……あら?」
そうだったらちょっと怖いな、と思っていたら、リアが何かに気付いたらしい。どうしたんだろう?
「……どなたかがナリシャさんのお世話をしているみたいです」
「え?」
リアがそんな事を言ったので僕も注意しながらナリシャさんを見てみる。……………………特に変な所は見当たらない。それとも、僕が気付いていないだけで何かおかしい点でもあるのだろうか。
「ほら、ナリシャさんの身嗜みが整っています。それも、丁寧にです」
「……あ、なるほど」
言われて初めて『違和感が無い』事に気付く。これだけ心が空っぽになっているのならば、服や髪が多少なりとも乱れているのが普通だろう。けど、今のナリシャさんにはそれが一切無い。むしろ髪は今さっき櫛で梳いたかのようにサラリとしているし、服も着替えたばっかりって感じだ。
「……もしかして、さっきの人が?」
なんとなく思った事を口にする。この家にあの人がさっきまで居たのは間違いないだろう。ならば、あの人がナリシャさんの世話をしていたのかもしれない。
リアは僕の言葉に一回だけ首を縦に振った。
「そうかもしれません。でなければ、今のナリシャさんがご自分で身嗜みを整えたという事になります。……でも、それは考えにくいです。食事もまともに摂っているのかすら怪しいですのに……」
確かにそうだ。たぶん誰かが何かをしない限り、ナリシャさんはここで衰弱するまで座り込んでしまっているだろう。そう確信させる程、今の彼女から生気が感じられない
そんな彼女にリアは近付き、隣で正座をする。背筋は真っ直ぐに伸びており、とても姿勢が良い。
「ナリシャさん、こんにちは」
「こ、こんにちは」
リアが少々遅れ気味の挨拶をしたので、僕も一緒に正座をして挨拶する。……ただ、予想はしていたというか、ナリシャさんは一切の反応を返さない。目の前の惨状の跡を虚空の目で見ているだけだった。
「……やっぱり、何も反応しませんね」
「うん……」
分かっていた結果ではある。ただ、期待していなかったかと言われたら少し期待していたと答えるだろう。
もしかしたら良くなっているかもしれない。もしかしたら少しずついつもの日常を取り戻そうとしているかもしれない。――そうなっていたらな、って思ってはいた。
けど、それはやっぱり打ち砕かれた。ナリシャさんはあの時と変わらず、友人であるリアの声にすら反応する事すらなく心が壊れたままだ。
リアはそんなナリシャさんの髪を撫でる。壊れそうな物を扱うようにしながらも慣れたその手付きからして、もしかしたらリアは度々こうやって彼女の髪を撫でていたのかもしれない。
「……とても丁寧に梳かれています。今さっき梳いて貰ったばかりのようです。指に引っ掛かりませんもの」
ナリシャさんの髪を指に乗せ、そのまま滑らせるように毛先へ流すリア。その髪は一本一本がサラサラと重力に引っ張られて指から零れ落ちていき、とても美しい様を僕に見せた。
……良いな、これ。髪質もあるんだろうけど、丁寧に梳いた髪ってこんなサラサラとしているんだ。……ちょっとやり方とか教わりたいかも。
「……じゃあ、やっぱりさっきの人が?」
恐らくは、とリアはある種の確信を感じているかのような口調でそう言った。
けど、そうなると一つ疑問が生まれる。あの人は誰なのか、である。
「ですが、あのお方は一体どなたなのでしょうか……。少なくとも私は見かけた事もありませんし、ナリシャさんからそのような話も聞いた事がありません」
リアも僕と同じ事を考えたのだろう。あの人が誰なのか悩んでいる様子だ。
ちなみに、当たり前かもしれないけど僕も見た事が無い。たまに広場を眺める事があるけれど、あんな感じの人を見た事は一度も無い。
「……お礼を言っておくべきでした。深い関係があるのかは分かりませんが、ここまで丁寧にお世話をして下さっているのです。素晴らしいお方です」
その発想に少し驚く。僕だったら不信感を抱いてしまうからだ。もしここが僕の住んでいた世界だったら僕の考えが普通なのだろう。けど、ここは僕の住んでいる世界とは大きく違う。あの世界とは違って優しさに溢れているし、一人一人を大事にしている感じが凄くする。
……僕も、そういう風に思えるようになりたいな。素直に僕はそう思った。
「それにしても……どうしましょう」
急にリアが困りだした。本当に唐突だ。どうしたんだろう。
「どうかしたの?」
「ここまでお世話が終わっているとなると、ほかに出来る事が無くて……」
「あー……」
言われてから気付く。確かにそうだ。部屋は床の血以外は片付けられているし、髪も梳かれたばかりで服も着替えたばかり。肌も不健康そうには見えない事から食事もしっかり摂らせているのだろう。なら、他に出来る事は? ……正直に言って何も思い付かない。むしろ、何があるんだろう?
「……ん?」
そこで、ふと違和感が生まれた。
「どうされましたか?」
今度はリアが訊ねてくる。僕はリアの方へ顔を向け、その違和感を口にした。
「……着替えも、さっきの人が?」
さっきの人は『男の人』だった。そして、ナリシャさんは『女の子』である。
……これは事案ではないだろうか。
「──はっ!」
リアもその重大さが分かったらしく、ビクンと身体を跳ねさせていた。その動きがあまりにも大きかった為、被りが脱げてしまった程だ。
彼女はそれに気付いているのか気付いていないのか、混乱したようにオロオロとしだした。
「あ、あああああのヒューゴさん……! それって、本当はダメな事なのでは……!? たったしか、以前の授業で女性は男性へ無闇に肌を触らせるのは良くない事だと!!」
「……勿論、ダメだよ」
「で、ででですが! ナリシャさんは現にさっきの方にお着替えをされています!! えっ!? もしかしてお着替えは別なのですか!?」
「……普通はダメだよ」
「ですよねっ!? だ、男性も無闇に女性の身体を触るのは良くないと仰っていましたよね!?」
「……うん。ダメだよ」
「ど、どどどっどどうしましょう……!? ナリシャさんは良くない事をしてしまったのですか!? そして、先程のお方も良くない事を!?」
「う、うぅーん……」
なんて言えば良いんだろう……。1か0かの判断になってしまっていて、仕方が無い事もあるって言っても良いのだろうか……。いや、言った方が良いんだろうけど、それをリアが理解してくれるのか。そして何よりも僕が上手く説明できるのかが問題だ。
「……と、とりあえず落ち着こう? ね?」
「は、はいっ!!」
リアに深呼吸をさせて少し落ち着いて貰う。さて……どう説明したものか……。
頭の中でザックリと説明する内容を思い浮かべる。まず、ナリシャさんは自分で自分の事が出来ない事実がある。次に、なので誰かがお世話をしないといけないという事も伝えないといけないだろう。そして、お世話というものは誰でも出来る訳ではない事も言わなくちゃいけない。そのお世話の出来る人がさっきの男の人だった事も言うべきだろう。
…………………………………………よし。なんとか纏まった、かな。
「……リア。上手く説明は出来ないかもしれないから、そこは許してね?」
初めに予防線を張っておく。だって、しっかり伝えられる自信なんて全然無いもん。
そんな臆病な僕の言葉をリアはコクコクと頷いてくれた。ああ……やっぱり良い子だなぁ、リアは……。
「まず最初に、ナリシャさんって今は自分の身の回りの事どころか自分自身の事も出来ないよね?」
「はい……」
「という事は、誰かがお世話しないとナリシャさんは衰弱していく。だからリアも今日ここに来たいって思ったと思うんだ」
コクリ、と頷くリア。……なんだかいつぞやの勉強の時みたいな感じになっているからか、リアはあの時と同じく教師の授業を真剣に聞く生徒みたいに耳を傾けてくれている。
なんとなくだけど悪くない流れかな、と僕は思った。
「そして、お世話って言ってもやる事はそれなりにあるよね。食事に着替え、掃除にお風呂。そのどれもをしっかりこなせる人って、そんなに多くないと思うんだ。出来るとしたら、介護とかそういう事を経験してきた人だと思う。そのお世話の全部を出来る人がさっきの人だったと僕は思うんだ」
「……えっと、仕方が無い事だから許される……という事でしょうか?」
「うん。僕はそう言いたかったんだ。ほら、女の人が足を怪我して動けなくなった時に男の人が背負って、怪我を治せる人の所まで送るっていうのはおかしくないでしょ? だって、それが原因で命を落とすかもしれないんだし」
「なるほど……。たしかに止むを得ない事情があるのでしたら仕方が無いですものね」
ふむふむ、という感じで僕の言葉を咀嚼するようにリアはゆっくりと納得していってくれる。良かった。ちゃんと伝えられたようだ。
上手くいったのでホッとする。なんだ。僕もやれば出来るじゃないか。
ホッとして力が抜けたので、ついでに足も崩す。別に足が痺れた訳ではないけれど、正座をしていたらいつもまでも気を張ってしまっている感じがして息が詰まりそうになったからだ。
その時、放り出されていた剣に足が当たる。変に当たったのかちょっとした痛みが足の指から走ってきた。こう、細い棒をゴリッと一瞬だけ突かれたような、あんな感じの痛みだ。
「……これ、危ないから部屋の隅に置いておこっか」
「はい。そうしま……?」
座ったまま腕を伸ばし、ちょっとお行儀悪く剣を手に取った時にリアが首を傾げる。どうしたんだろう?
……とりあえず、剣が重いので脚の上に乗せてしまおう。
「……この剣、よく見るとナリシャさんのものではありません」
「え? そうなの?」
「いえ……そもそもハーメラで作られた剣ではなさそうです」
言われて、脚の上に置いた剣を観察してみる。黒い鞘はよく見ると装飾が施されており、なんだか雰囲気がアーテル教っぽい。だけど、どこか違和感があるというか、何かが違う気がする。
「……ヒューゴさん。その剣を抜いて頂けますか?」
「う、うん……」
真剣な顔付きでリアがそう言ったので、言われるがまま柄を握って剣を抜いてみる。スラン、と金属が小さく振動する音が響き、剣は姿を現す。そして、それを見て少し驚いた。その刀身は刃の部分も含めて真っ黒だったのだ。形も少し不思議で、刃の根っこの部分は柄と同じくらいの細さにくびれており、そこから少し尖ったように膨らんでいる。その膨らんだ所の先からは僅かに細くなりながら切っ先へと伸びている物であった。
「……黒い金属の剣。間違いなく魔族の使う物です。それに、その鞘の模様は……大昔のエレヴォ教の剣に使われていた装飾です」
「──え?」
ゲームにありそうだな、なんて思っていた。だから、リアの口から『魔族』『エレヴォ』という言葉が聴こえてきたので驚く。
「エレヴォの……? いや、待ってよ。どうしてそんな剣がナリシャさんの家に?」
人間の勇者であるナリシャさん。その敵であるエレヴォ教の魔族の剣。どう考えてもおかしい代物だ。ここに在ってはいけないと言っても良いくらいだ。
訳が分からずリアへ視線を向ける。しかし、リアは首を横に振った。
「分かりません。ですが、見過ごせない事態であるのも確かです。ナリシャさんには申し訳ありませんが、この件は一度アミリオ大聖堂へ持ち帰って──」
「それは困るなぁ」
突然、部屋の外から誰かの声が聴こえてきた。あんまりにビックリして身体ごと声のした方へ向けたくらいだ。
その声の主はドアを開けて悠々と入ってくる。その人物とは──
「あの時の……!」
──ナリシャさんの家から出てきた、黒い外套を羽織った男の人だった。被りはしたままだったけど、その褐色の肌と爛々と輝く紅い瞳が、僕の目には酷く危ない人物のように映った。
革の靴を履いているのか、コツコツと硬い音を鳴らしながら近づいてくる。そして、片膝を突いて僕達と目線を合わせると、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「それにしても、よくエレヴォ教の剣だって分かったね。こいつは相当昔の剣で、残っているのはこれ一本だって聞いたんだけど」
じゃあ、どうしてそんな剣を持っているのか──。そう言おうとしたけど、上手く口が開いてくれない。僕よりちょっと年上くらいの男の人にしか見えないのに、妙に重い威圧感が僕に言葉を発するのを赦してくれない。
「あ、あの!」
ただ、リアは違った。この人はこんなにも異質な雰囲気を持っているっていうのに、なぜか期待をしているような顔をしている。
「もしかして、貴方がナリシャさんをお世話して下さっていたのですかっ?」
「……は、はぁ?」
あまりにも場違いの問い掛けだったのか、黒い外套の人から気の抜けた声が漏れ出ていた。
あー……うん……。たぶんそうだと思うけど……リア、今はそんな空気じゃなかったと思うんだ……。
しかしリアにとってはそんな事など些細な事だったのか、ズイッと黒い外套の人へと身を乗り出しながら答えを待っている。大物だ。流石は王家の血を引いているだけある……。
「あー……まあ、そうだけど?」
「やっぱりでしたか! ありがとうございます! ナリシャさんの事、丁寧にお世話をして下さっていると分かりました!」
「……………………」
ペコリと頭を下げたリアの姿を見て言葉を失ったのか、黒い外套の人は困ったように呆然としていた。
……えっと、危なくない人……なのかな。
(──あ、そういえば)
魔族の剣、という言葉で思い出した事がある。魔族の剣という事は魔族の人が使っている物だろう。なら、この人は魔族なのか? という疑問が生まれる。けど、それは即座に否定できる。だって、リアの付けている十字架は魔族の残滓に反応して光り輝くはずだからだ。その十字架がうんともすんとも言っていないという事は、この人が魔族ではないという事の証明でもある。
「えーっと……じゃあ、どうして魔族じゃないのに魔族の剣を持ってるんですか?」
僕がそう言うと、今度は呆れた顔をしてきた。……なんで? 僕、何か変な事でも言った?
「あ、ですよね。この十字架が光っていないという事は、魔族ではありませんし」
「……なんか、凄い物を持ってるんだな君達」
「いや……大昔の魔族の剣を持ってる人に言われても……」
たぶん、どっちもどっちだと思います。大昔だっていうのにすっごく綺麗な状態だったし、たぶん相当丁寧に扱ってきたのだろう。……それでナリシャさんのお世話も丁寧に出来ているとか? いや、それは飛躍し過ぎか。
「まあ、貰い物……って言えば良いのか? まあそんな感じ。偉い人から貰った。……自分勝手で気分屋で俺の事を振り回す人から、な」
……なんだか最後の方は顔が引き攣っていたんだけど。これはその偉い人からかなり気疲れさせられているんだろうな……。
なんとなく前の世界での僕の暮らしを思い出して、この人に同情してしまった。
「あの、参考にさせて頂きたい事があるのです!」
「……さ、参考? アンタが? 俺に?」
冗談だろ、とでも言いそうな感じで聞き返す黒い外套の人。斯くいう僕も参考にしたい事はあった。どうやってあんなにサラサラの髪に仕上げたのかが気になる。気になってしょうがない。もし僕も出来るようになったら、リアの髪とか梳いてみたいって思うくらいだ。
「ナリシャさんはこの状態ですのに、どのようにして食事をして貰っているのですか?」
「うっ……」
言われてみれば確かに。一切の反応をしない人に、どうやって食事をさせているんだろう? 考えてみても何一つ思い浮かばない。
……ん? なんでこの人、聞かれたくない事を聞かれた、みたいな声を出したんだろ? なんだか凄く言い辛そうに目を逸らしているし……。
「あー……」
今度はガリガリと頭を掻いている。どうしたら良いのかって言いたそうにしているのがとてもよく伝わってくる。
もはや最初の威圧感など完全に吹き飛んでおり、なんだか近所のお兄さんって感じすらしてきた。不思議なものである。
「……命令だよ、命令!」
半ばぶっきらぼうに答えるお兄さん。……ちょっと顔が赤くなっているように見えるのは気のせいだろうか? まるで告白の言葉はなんだったのか、って聞かれて答えたみたいに恥ずかしがっている。
けど……命令? どういう事だろう?
「飯だ、食え。命令だ、って言わねーと食わないんだよコイ──ツゥ!?」
「はぁっ!?」
「わっ、わわわっ!?」
気付けばナリシャさんがお兄さんの前に居た。それだけじゃない。なぜかナリシャさんはお兄さんにキスをしていたのだ。自分の頭が下になるようにして、舌を入れながら。しかも、堪能でもしているのか粘ついた水音がくちゅりくりゅりと鳴っている。
動きはほとんど見せないけれど分かる。これはディープキスだ。息が続かなくて苦しくなった時に一瞬だけお互いの唇が離れるのだけど、その時に半開きとなった口から艶めかしく光る舌先を覗かせている。ナリシャさんなんてお兄さんが逃げられないよう背中へ腕を回しているし、そのせいで思いっきり胸を押し付けてしまっている。口の端からは唾液で作られた銀の糸が陽の光でキラキラと輝き落ちていて、口の中では一体どんな激しい運動をしているのだろうか。
その光景を見せ付けられた僕達は、ただただその情事の釘付けになっていた。
「こ、このバカがぁ!?」
たっぷりと長い時間を掛けて行われた濃厚なキス。お兄さんは顔を真っ赤にさせて無理矢理ナリシャさんを引き剥がしていたけど、恥ずかしいのはこっちである。何を見せ付けているんだこの二人は!
「違う!! これは違うからな!!」
「あ、あの……僕達、お邪魔でした……?」
「だぁから違うっつってんだろおおおおおおおおお!!?!」
「ナ、ナリシャさん……いつの間にそこまで進んで……」
「なんなんだよコイツ等ァァ!?! 違うんだっつうのおおおおおお!!!」
腹の底から魂の叫び声をあげるお兄さん。彼が落ち着いたのは、彼が叫び疲れた頃だった。
「……つまり、口移しをしていたと?」
「ああ……そうだよ……。なんでか噛まねーんだよコイツ……」
未だに抱き着いて微動だにしないナリシャさんをそのままに、お兄さんはグッタリしながら説明してくれた。
どうやら、今のナリシャさんは『食べろ』と言われてもそのまま飲み込んでしまおうとするらしい。それで一度喉が詰まり掛けた事から、苦肉の策でお兄さんは自分が噛んだものを口移ししていたらしい。
……どうしてその発想に至ったのかも気になる所だけど、これは真似できないな。
なお、ナリシャさんがいきなりキスをしたのは『飯だ、食え。命令だ』という言葉に反応したとの事。いつもそうやっていたから、もうそれで覚えているんじゃないか、らしい。
「……大変そうですね」
「滅茶苦茶になぁ……」
……ふと気になった事がある。食べる事を飲み込むまで省略してしまっているのならば、お風呂はどうしているんだろう……? 一人じゃ無理だし濡れた身体を拭く事すら……いや、深く考えるのは止そう。変な妄想をしてしまいそうだし、何よりもお兄さんは善意でやっている……はず、だし。
「ですが……ナリシャさんはどうして『命令』という言葉には反応するのでしょうか……?」
「知らねえよ……。騎士団だかなんだかで命令は絶対だったとかじゃねーのか……? ってコイツ本当に力つええな……」
さっきからナリシャさんを引き剥がそうと頑張るお兄さん。しかし、どうやらお兄さんはナリシャさんに力で勝てない様子。手がプルプル震えるまで力を込めているのは分かるのだが、ナリシャさんをちょっぴりとでも動かす事が叶っていない。……ナリシャさん凄過ぎない?
「あー……そうだ。これがあった。離れろ。命令だ」
そう言うと、ナリシャさんはお兄さんから離れて何事も無かったかのように定位置に戻った。ナリシャさんの口元が汚くなっていたのか、お兄さんはハンカチを取り出すと彼女の口元を優しく拭い、皺が出来た服を丁寧に直していた。
それは行動の一端なのだろうが、その手慣れた具合や丁寧さから、ちゃんとお世話してきているんだなって思えた。
「……俺帰る。クソほど疲れた……。また夜になったら世話しに来る……」
お兄さんはそれだけ言うと肩を落としながらさっさと部屋を出て行った。
残された僕達は目を合わす。そして、同時にナリシャさんへと視線を向けた。ナリシャさんはさっきまで彼女を中心とした騒動があったとは思えないくらい静かにしている。
「……また夜になったらって……本当にちゃんとお世話してるんだね」
「そうみたい、ですね……。安心は……出来たのですが……」
そのやり方が問題だなぁ……。恐らく僕だけでなくリアもそう思っただろう。
「口移し……」
リアがボソリと呟く。小さいながらも聴こえた言葉。無意識にリアへ目を向けると、彼女は僕を見ながらそう言っていたようだ。……いや、これって僕の口を見てる?
「えっと……リア?」
「──はっ! な、なんでもないですよ!? はいっ!!」
リアは慌てて取り繕うけど、考えていた事がなんとなく分かる。……気付いていない振りをしておこう。流石にあんなのは恥ずかし過ぎる……。
「と、とりあえず! 他にもヒューゴさんと行きたい場所があるのです! そこへ行きましょう! そうしましょう!」
「そ、そうだね。そうしよう。……それが良いよ、うん」
僕達はナリシャさんへの挨拶を簡単に済ませ、逃げるようにその場から離れていった。リアも再び被りを深くした事でお互いに顔が見え辛くなった事もあるのだろう、しばらく僕達は無言となり、たまに視線が合ってもあからさまに逸らし合うのを繰り返す。
(どうしてこんな感じになったんだろう……)
おかしいな……。ナリシャさんのお世話をしに行っただけのはずなのに、こんなに羞恥心で一杯になるとは思いもしなかった……。
結局、僕達はしばらくこの微妙な空気のまま歩いていく事になった。これが解消されたのは、なんと次の目的地へ着いてやっとである……。ああ……思春期の僕には刺激が強過ぎた……。
ところで、結局あのお兄さんはどこの誰だったんだろう?
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