act7-1. ジャック・グリムリーパー
act7-1. ジャック・グリムリーパー
さようなら、ノエル。
愛しいノエル。
君のお姉様はあの日死んだんだ。
君と一緒に。
「お姉様!ジャンヌお姉様!危ないですわ!」
木漏れ日の柔らかな午後、大きな果実の樹の下で心配そうに声を張り上げる少女。幼い少女は、ウェーブかかった白銀の短髪をハーフアップに結い上げ、フリルが数段あしらわれてふわりと広がるワンピースを着ていた。
「大丈夫さ。ほら…… 取れた」
ジャンヌと呼ばれた姉は、軽やかに木から飛び降りる。その手には、二つの果実。
ジャンヌは短髪を纏めもせず、またショートパンツ姿で、フリルは付いているもののブラウスは腕を捲り、活発な印象を受ける。
「美味しいの見分けるのは得意なんだ。どうだい?ノエル」
「もう…… 私が見てないとお姉様はどんどん危ない事に手を出しますわ」
苦笑し、ノエルは果実を受け取った。
ジャンヌとノエルはグリムテイル家に生まれた双子だった。
地図にも載らないような小さな辺境の村。
貧しい家に奇跡的に生まれた双子のハイエルフに、村は歓喜に包まれた。しかし、成長と共にその翼が開くと、二人に向けられる目は疑念の目に変わっていった。
ノエルの両側頭部に生えた翼は天使のそれのようで、奇跡を祝福しているようだった。しかし、ジャンヌのそれは悪魔の翼のような形で、呪いをもたらすのではないかと非難を浴びた。
辺境の村には情報が少なく、ハイエルフの翼には様々な形があるという事は誰も知らなかった。ただ、奇跡の誕生とだけ言い伝えられていた。
ジャンヌは成長に連れ、段々と肌も白磁のように血色が無くなり、また、片目も禍々しい黒と赤のコントラストへと変わっていった。それは不気味ではあるが珍しい突然変異に過ぎなかったのだが、村には一層忌児として迫害された。
両親は双子に怯え、双子を置き去りに村から去ろうとしたところを村人から反逆として殺害された。
ノエルに惨劇を見せないようにしながら、しかしジャンヌにはノエル以外は全てどうでも良かった。ジャンヌは、物心ついた時から既に己と世界を憎んでいた。
唯一彼女を癒したのは、妹のみ。
ノエルは姉がどう言われようと、変わらずに無邪気な笑顔を向け続けた。ジャンヌも、ノエルの前でなら素直に笑えた。
どんなに差別されようと、二人が揃っているならば怖いものは無い、そう信じていた。
しかし、村人は双子の平穏すら許さなかった。
お読み頂き大変有難く存じます。
7話の前半となります。
次回もお付き合い頂ければ幸いです。