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レヴィアタンの魔天使  作者: 姫野いつき
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act16. 伝えたいこと

 act16. 伝えたいこと




 アンジェリカの火炎圧縮弾が、敵先頭のゴーレムに炸裂する。敵は爆風の中で片膝をつく。

「あらぁ、もう終わりなの?つまらない男ね!」

 枷の無くなったアンジェリカは、滞空しながら杖を振り、様々な魔法円を矢継ぎ早に描く。

 ——やはり、アンジェリカは強い。

 キルケにはそれが見えていた。



 ——強制転移魔法を発動した直後、アンジェリカとキルケに敵の魔力弾が直撃。

 アンジェリカは魔力を纏わせた翼で咄嗟に繭を作る様に二人を護った。

 拓けた草原に転がり込む二人。森の中の様だった。周りに学院生徒達の姿は勿論無い。今頃モルガナや医療班が治療にあたっているだろう。


 そこにアンジェリカの所有する魔術通信端末へ着信が入る。ノワールの声だった。

「——リカ様!ご無事ですか!?」

「無事よ!そっちは?」

 目標を見据えたまま、服の上から端末を掴んで応答する。

「屋敷にも魔族の軍団が強襲してきましたわ。今、ヴァルキリー部隊が応戦中です」

 ヴァルキリー部隊とは、マキナを中心とした同型ヒューマノイド達の戦闘部隊だった。

「ヴァルキリーにデウスの解除を」

 アンジェリカは短く指示する。

「私の独断で、解除済みです」

「良いわ」

 マキナ達はデウス・エクス・マキナという特殊モードを持っている。それは一時的に全ての機能を戦闘特化に切り替える機能だった。

 戦闘力が飛躍的に向上するが、敵味方を判断する以外のコミュニケーションが不可能になるというデメリットがあるので、人との連携などは戦略出来ない。

 また、人工知能の独断で自爆を起こす事もある為、発動しても無敵ではなかった。


 アンジェリカはゴーレムに炎弾を放ちながらノワールの報告を聴く。

「こちらに強襲してきたのは小型のゴブリンや悪魔のみ。目的は別にあると思われます」

「「……マザー・マーリンの御影…!」」

 弾幕の様な法撃を放ちながら、二人の声が重なる。


 事は一刻を争うようだった。アンジェリカは通信を切断し、敵に向かう。

 その時、敵のガーゴイルが粉塵を切り裂くように飛翔、アンジェリカの眼前で口を開き、魔法円を組成した。

「——ッ!!」

 避けられない——!

 アンジェリカが翼を伸ばす事も叶わない一瞬の間に、何かの力によってアンジェリカは突き飛ばされた。



「——ティファレト!?」

 白金の髪が数本切られ、風に舞う。

 アンジェリカを庇ったのは、翡翠の瞳の少年だった。

「危なかったね、アンジェリカ」

「何でここに!?」

 防壁を解除し、一瞬こちらへ振り向く。

「僕はキルケ先生と影で繋がっているんです。影から離れる事は出来ない、そうでしょう、先生」

「ああ…… 気付いてたのかい」

 ティファレトの転移魔法に、影に細工を施した本人も呆気に取られているようだった。

「アンジェリカ、僕が全魔力で防壁を演算する。その間に重力作用魔法を紡いでくれないか」

「だ、誰に向かって命令してるのかしら!……このアンジェリカ様に不可能があるとお思い?」

 アンジェリカが不敵に笑む。


 アンジェリカが詠唱を始め、杖の先端に装飾された宝石が輝きを増す。

 魔力を増幅させる為、上級魔導士は杖に宝石を装飾する。その宝石は天然のクリスタルに近い程魔力補助が強くなるとされていた。アンジェリカの杖に埋め込まれた宝石は、天然の水晶。


 重力干渉魔法は上級魔法に制定され、使いこなす魔導士は熟練とされる。また、殺傷度が高い為、魔導資格保持者でなければ発動を禁じられている法撃であった。


 敵の足場に巨大な魔法円が浮かぶ。

 敵は各々逃れようと翼を広げたり足を伸ばすが、キルケの捕縛魔法がそれを許さない。敵の影から無数の漆黒の手が生え、彼等を縛り付けていた。

「逃すと思ってんのかい!」

 敵の軍勢も無知ではない。逃げられないと悟るや否や、一丸となって巨大な魔法円を虚空に描いた。アンジェリカの中規模法撃発動を阻止せんと渾身の力で魔力弾を放ち、押し進める。

「戦いなんて何百年振りかね……この熱量、アンタ達も本気だね」

 キルケは苦笑する。

 アンジェリカの眼前、両手で防壁を張るティファレトの足が土の上でじりじりと後退する。

「ティファレト!アンタの魔力はそんなにもたない!」

「……良いんです」

 ティファレトが意味深に微笑む。アンジェリカの詠唱が進み、重力結界がドーム型に敵を包む。



 その時だった。

 ティファレトの手足の関節が、徐々に変化していく。

 ——それは、球体関節。

「ティファレト!?」

 アンジェリカが組成式を演算しながら、その変貌に目を見開く。

 ティファレトの肢体に亀裂が入り、それは顔まで及んだ。

「キルケ先生に分けられた魔力が尽きれば、僕は元の姿に戻る。その前に奴等を殲滅してくれ!」

「ティファレト、貴方は——」

 ふと、アンジェリカの脳裏に浮かぶ既視感があった。


 ——いつか図書室で見つけた、翡翠の瞳の人形。


 ティファレトの正体は——



 演算を終え、結界が作用する。結界内のみ重力が急速に強くなる。耐えきれなくなった敵が膝をつき、やがて倒れ、巨躯が巨大な手に押し潰されるように、その頭蓋が砕かれる。

 敵が温かい脳漿や眼球をぶち撒けて潰れる中、ティファレトも膝をついた。


 ぐらりと後方に揺れた体を、アンジェリカが抱き留める。

「……アンジェリカ」

 アンジェリカの頬を撫でるその手は—— 冷たい陶器だった。陶器のヒビから、ぱらぱらと欠片が伝い落ちていく。

「君に、ずっと言いたい事があった……」

 ティファレトは幸せそうに微笑む。

 生の目的を達成せんとするその姿に、アンジェリカは声が出せなかった。


「あの日、僕を見つけてくれて、ありがとう」


 言い終えた瞬間、ティファレトの肢体が砕け散った。



 目を見開くアンジェリカの腕の中で、破片がばらばらと地に落ちる。

 最後に残った頭部は、掌に収まる程の大きさに戻っていた。

 アンジェリカは優しくそれを抱き締める。


 キルケが見守る中、最後に、その名を呟いた。

「……ティファレト……」

お読み頂き大変有難く存じます。

実はティファレトというキャラクターが生まれた時から、この様な頁を思案していました。

ティファレトとアンジェリカは結局どんな関係になったのか、それはティファレト自身と読者の方々の感じたままにお任せします。

次回もお付き合い頂ければ幸いです。

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