九話 昔の友達
気持ち悪い、気持ち悪いたら、気持ち悪い。
五七五になってそうでなってないこの俳句。
みんな五七五になってると思ったろ? 残念五七五にはなってないんだな。
いや、五七五の話はどうでもいいや。
それよりも気持ち悪い方に注目してほしい。
……注目したか? 注目したなら俺の後ろにいるライに視線を向けろ。
「ねぇ、ねぇロクさんなんで無視するんですか。こっちで話しましょうよ」
俺は急いでライから顔を逸らす。
見たか? あの気持ち悪い声と顔。
声はなぜか猫撫で声で顔はニヤニヤとにやけている。
酒でも飲んできたのかあいつ。
「ロクさーん聞いてますかー」
げっ! 近寄ってきた。
俺は慌ててライから離れて威嚇する。
「ふしゃー! こっちに来るな気持ち悪い!」
「気持ち悪いってなんですか。酷いですよー」
「酷くねーよ! お前今日自分の顔を鏡で見たことあんのか!」
「朝ちゃんと見ましたよー。これまでにない素晴らしい顔でした」
「それが気持ち悪いって言ってんだよ!」
じりじりと寄ってくるライを華麗に避け、俺は天井に張り付く。
「え?! ロクさん、忍者かなんかですか?!」
「ふははははは! これは秘儀壁掴み! 追ってこれるもんなら追ってみろ!」
「あ! 壁に手をのめりこませてるだけじゃないですか!」
そうさ! この技は単なる力技!
しかし誰にもできるわけではない!
百年の修行を積んだものだけができる究極の技なのだ!
「ふ、もう諦めたらどうだ? 何故そんなに機嫌がいいのか知らんが気持ち悪いぞ」
「気持ち悪いってなんですか! こうなったら捕まえるまで諦めませんよ!」
そう言ったライはその場でぴょんぴょんとジャンプし始める。
何やってんだあいつ。
身長が足りないのに頑張ってん……
「なぁ?!」
「惜しい!」
ぴょんぴょんと飛んでいたライが急に天井に手が届く大ジャンプをして軽く俺の背中に触れる。
「どうなってんだ! お前のジャンプ力!」
「ふふふ、舐めないでください。私は戦闘力が低いかわりにこういうところを鍛えているんです……よっと!」
「あぶ!」
やばい、やばい!
このままじゃじり貧だ! 俺の体力も持たない!
「ロクさん、諦めて私に捕まってください!」
ライがまた飛び始め大ジャンプをする体制に入る。
くそ! これだけはしたくなかったがしょうがない。
「らあ!」
俺は天井に拳で穴をあける。
「へ?!」
「残念だったな! 体力はなくても力はあるんだよ!」
俺は屋根に上り、悪魔の森の方へと駆けていく。
「そっちは危ないですよ!」
玄関から顔を出したライが止めてくるが俺を舐めすぎだ。
「心配いらん! 俺は強いからな! それよりも屋根直しとけよ!」
「せこいです!」
俺はライの悲痛な叫びを聞き、森の中へと入っていく。
ライが危ないとか言ってるが、俺が森に入らないといけないのはお前のせいだからな。
「はぁはぁ。げほっ、げほっ! 体力がないの忘れてたわ……」
俺は近くにあった大きな木にもたれかかり、ゆっくりと息を整える。
「ふぅ……」
「「「ふぅ……」」」
あー、喉が渇いたな。
水が飲みたい。
俺は横に手を突き出す。
「おい、水誰か持ってないか?」
「ルークお前が水持ってなかったか?」
「いや、イークじゃなかったっけ?」
「違う、ワークが持っている」
「え? ……ほんとだ、俺の鞄の中に入ってたわ。ほらよ……ってちょっと待て」
水を受け取ろうとすると手を引っ込められる。
どうしたんだ?
「なんだ? 嫌がらせか?」
「違うわ! 誰だよお前! ……って、おお! ロクじゃねーか!」
「は? 誰?」
見覚えがないんですけど。
「お前知らない奴に水貰おうとしてたのかよ! じゃなくて俺だよ、俺!」
「詐欺?」
「ちゃうわ! おい! ルーク、イーク! お前ら覚えてるよな! ロクだよ、ロク!」
「当たり前じゃないですか! 昔からの仲ですよ!」
「うむ」
なんか二人知らない奴が増えたんだけど。
「は?」
「一年会ってないだけでなんで友達のことを忘れるんだ! ほら! 色々助けてやったろ!」
助けてくれた? 俺を?
「んー……」
「えーと、助けるたびに金をくれたろ!」
……ん?
「他には、俺達の得意技は話を逸らすことだ!」
お、おお、きた! きたぞ!
「もう一押し!」
「そうだな、シロさんからほぼ毎日救ってやってたろ!」
シロ案件ってことは。
「ああ! ワーク、ルーク、イーク!」
「「「待たせたな」」」
待たせたな