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四話 理由

ライは素直キャラです

「はぁ、はぁ。た、ただいま戻りました」


「お? 意外と早かったじゃないか」


 俺は荒い息を吐き膝をついている小娘の横に置いてある袋を取り中身を見る。


「色々な食材に、料理本。インスタントラーメンに缶詰。あとその他諸々。よし、全部あるな」


「あ、当たり前じゃないですか。『一つでも忘れたらどうなるかわかってんだろうな』って脅されたんですから」


 俺はこの小娘を助けた代わりに、ちょっとした買い物に行ってきてもらった。

 なに悪魔の森をちょちょいと抜けて、タートの街まで行くだけの簡単なお仕事さ。


 ……え? 悪魔の森はくそ危険な森じゃなかったっけ? だと。

 弱い奴だと簡単に命を落とす森だと。


 その通りですがなにか?


「助かったと思ったらまた命を落としそうになるなんて……。最悪な一日ですよ……」


「生きてたから結果オーライじゃないか」


「まあそうですけど……」


 こいつ以外に素直だな。

 もっと文句とか言ってくると思ったんだが。


「はぁ、疲れましたけどまあいいです。では……」


「おう」


 俺と小娘は同時に立ち上がる。


「先程約束した通り話だけでも聞いてもらっ」


「じゃあな」


 俺は袋を抱えて家へ走り出す。


「あれ?! 何でですか?!」


「約束は破るためにあるって知ってたか?」


 今俺は風になってる!

 見える、見えるぞ! このまま逃げ切れる未来が!


「風魔法、アクセル!」


「ああ! 魔法まで使うなんて!」


 この勝負もらった。


 俺は一気に小娘を突き放し、家へと飛び込む。

 そして急いで扉を閉め。


 ガッ!


「あ?」


 あれ? 最後まで扉が閉まらない。

 ………まさか。


 俺は恐る恐る下を見ると、スライディングをしたような格好で足を扉に挟ませてる小娘の姿があった。


「や、やあ。あ、貴方様って足がお速いんですね」


「逃がしませんよ」


 これは負けましたわ。







「ひどいです! 買い物を頼まれた時『流石に命をかけて買い物に行くなんて嫌だ』って言ったら『わかったよ、買い物に言ってくれたら話を聞いてやるよ』って約束してくれたのに!」


「なんで声真似をしたんだ」


 逃げたが追いつかれた俺はしょうがなく小娘を家に入れ、話を聞くことにした。

 小娘は先程のことにぷんぷんと怒っており、座っている椅子をがたがたと鳴らしている。


「まあまあ落ち着けって。ほらお茶」


「あ、ありがとうございます。ズズズズズ」


「うまいだろ? この辺の草の汁だぞ」


「ぶは!」


 うわ! きたねえ!


 小娘はいきなりお茶を吐き出し、ごほごほとせき込む。


「おい、どうしたんだ」


「い、いや、なんですか草って」


「その言葉通りだが」


 そこら辺の草を適当にむしり取り、水分を取り出してた百パーセント草ジュース(お茶)だぞ。

 これが結構手間がかかる。


 適当とか言ってるが一応品定めはしてるんだ。

 草はどれも美味しいが食べる草と飲む草があって、お茶にしてるのは飲む草だ。

 飲む草は食べる草と違って少し苦いようなにおいがするんだ。


 それでな……。


「いいです、もういいです! 草の話はいいです!」


「なんでだよ。お前から聞いてきたんだろうが」


「そういう草知識を知りたくて聞いたわけじゃないんです!」


 なんだよ、せっかく草仲間ができると思ったのに。

 がっかりさせやがって。


「それよりそろそろ私の話を聞いて下さい!」


「はいはい」


 チッ、話上手く逸らせたと思ったのに。


 俺は溜息をつき椅子に座る。


「それでは話させていただきます。まず私の自己紹介から、私の名前はライ、ギルドから派遣されてきたAランク冒険者です」


「なに、お前Aランク冒険者だったの? そんなに弱いのに?」


 森の魔物にぼこぼこにされそうになってたくせに?


「し、失礼な! 私の得意な戦いは一対一なのです! この森の魔物は複数で攻めてくるからせこいのです!」


「戦いにせこいとかないだろ……」


「う、うるさい! 自己紹介を続けさせてもらいます! 性格はすごく優しくて、性別は女。周囲の人にとても愛されており人気者。Sランクになったら入るパーティーも決まってる超エリート。得意な戦い方は背後から首を斬り落とすこと。身長は小さいですが二十歳超えてます。あと」


「わかったからちょっと黙れ」


 頭が痛くなってきたわ。

 確かに自己紹介だがいらない情報が多すぎるだろ。


 なんだよ超エリートって。

 どうでもいいわ。


「自己紹介はもういいから用件だけを話してくれ」


「あ、はい。では用件を、ギルドに戻ってきてくださいとギルドマ」


「断る」


「最後まで聞いて下さいよ!」


 だって最後まで言わなくても用件わかるし。

 むしろ言わなくてもわかったわ。


「ギルに伝えといてくれ。俺はギルドに戻る気はないって」


「わかりました。そう伝えときます」


「物分かりがいい子は嫌いじゃないぞ。ほら、けえった、けえった」


 俺がしっしと手を払うとライはムッとした顔になり俺に聞いてくる。


「なんでギルドに戻らないんですか?」


「俺にも事情があんだよ」


「なんですか事情って」


「お前には関係ないだろ」


「知りたいんです。Sランク冒険者が何故ギルドを抜けたのか」


 うわー、めんどくせえ女だな。

 人の事情に踏み入ってくるとか。

 だからモテないんだよ。だから身長が伸びないんだよ。


 俺はライの表情をちらりと見ると、真剣な表情でこちらを見ていた。


 このままじゃ帰らなそうだな……。

 …………しょうがない、少しだけ言うか。


「わかった少しだけ教えてやるよ。でも他の奴には言うんじゃねーぞ。あと、俺はSランク冒険者じゃない」


「はい! ありがとうございます!」


 では、言うか。

 俺がギルドに戻らない理由。


「怖いんだよ」


「怖いですか? なにがです?」


「そこまでは言わない」


「えー、ケチー」


「少しだけって言ったろ。ほら、今度こそ帰れ」


 俺は話をもう聞く気がないとカーペットに寝転がり表現する。


「ほんとに喋る気ないんですね。わかりました。帰ります」


「おう」


 俺は手を振りライを見送る。


 そして扉が閉まり部屋の中に俺一人になったところでぼそりと呟く。


「言えないよな、今更帰ってシロに殴られるのが怖いだなんて」

しょうもない理由発覚

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