十八話 あと一歩
今俺は死刑を執行される一分前くらいです。
一言言いたい。
誰か助けて。
「そこに背筋を伸ばして立って」
「はい」
「よく飛ぶように体の力を抜いて」
「はい」
「殴りやすいように右ほほをこちらに向けて」
「はい」
「じゃあいくわ」
「待って、待って!」
「なに」
早い、早すぎるって!
ここまでくるのに二百文字もかかってないって!
「だからなに?」
「展開が早すぎるんだって! ほ、ほら世間話でもしません?」
大切だと思うよ世間話。
ご近所さんと仲良くしておかないと。
「……少しならいいわよ」
おし! これで時間を稼げる。
逃げる手段を考えておこう。
「ではこちらから話題を。なんで俺の居る場所知らなかったの? ギルとかに聞けば一発でしょ?」
「……マスが教えてくれなかったのよ。『流石に人の嫌がってることはできない』って」
あいつ変なところで恰好つけてんじゃねーよ。
人の嫌がることができないならギルドにいたときにシロを呼ぶなや。
……って、逃げる手段考えないと。
「じゃあご趣味は?」
「……ビールを飲むこと」
またテレポートでいくか?
いや駄目だ。危険すぎる。
もっと別のいい方法……。
「最近あった嬉しいことは?」
「……秘密よ」
全力で走って逃げるか?
これも駄目だな。
一瞬で追いつかれるし、もしいい具合に逃げれたとしても体力がもたない。
「最近あった嫌なこと、やってしまったことは?」
「……最近じゃないけど魔王の幹部を一人倒してしまったこと」
「え?!」
今こいつなんて言った?
魔王の幹部を倒したって言った?
聞き間違いじゃないよな。
俺は逃げることを考えるのを一旦やめてシロに質問する。
「お前幹部を倒したって、魔王に喧嘩を売ったのと同じようなもんだぞ」
「知ってる」
「いつ倒したんだ?」
「一年前」
「なんで倒した?」
「……むしゃくしゃしてたから」
むしゃくしゃしてたってこいつ……。
馬鹿だろ。
魔王の幹部って相当強いって聞いたぞ。
Sランク冒険者三人でやっと倒せるみたいな話も聞いた。
「はぁ。怪我はなかったのか?」
「……え?」
「え? ってお前。怪我はなかったのかって聞いてんだよ」
「う、うん」
「そりゃあよかった」
化け物みたいな力を持ってるシロだって怪我するときはするんだもんな。
もしシロが怪我してたらシロの親に合わせる顔がなかったぜ。
いやー、本当によかった、よかった……ん?
俺はあることに気づきシロをよく観察する。
(なんか怒気が下がってる気が……)
おまけに顔も赤い。
これは……。
「シロ、風邪ひいたな?」
「そ、そんなことないわ。後こっち見ないで」
シロは俺に顔を見られまいと顔を横に逸らす。
こいつ風邪ひいてやがった! やっほい!
なんでそんなに喜んでいるんだだって?
そりゃシロが風邪をひいていたら至急病院に連れて行かないといけないわけだろ?
そしたらこの殴られる話はなくなるわけだろ?
よし、これで勝つる(無理矢理)
「ほら病院に連れて行ってやるから俺の背中に乗れよ。数秒で着くぜ」
「い、いやよ! なんで私がロクの背中に乗らなきゃいけないのよ! 私は風邪なんかひいてない! それよりも世間話するんじゃないの! 早く質問してよ!」
「でもお前そのままじゃつらいだろ? おんぶが嫌なのか? 抱っこでもいいぞ」
「そういうことじゃないわよ!」
「ならどういうことなんだよ」
「もう鬱陶しいわね! 後一回世間話したら殴るのチャラにしてあげるから早く質問しなさい!」
「マジで!」
おお! 思ってなかった形だが結果オーライだ!
殴られなきゃいいのだよ。ははははは。
「じゃあ話題を、なんでむしゃくしゃなんかしてたんだ? そんなに嫌なことがあったのか?」
「は?」
わーい! これでシロが答えれば俺はこの地獄から解放される!
やっぱ俺は最強やったんやなって。
俺が忠犬のようにシロの答えを待っているとシロは俺に近づいてきて……拳を握る。
へ?
「ど、どうしたんですかシロさん? その危ないおててをしまってください。まるで俺が殴られるようじゃないですか」
「ロク……だろうが」
「はい?」
「ロクのせいだろうが」
「え?」
「ロクのせいだろうが!」
「待っ……がは!」
なぜか殴られた俺が最後に見たのは半泣きしたシロの顔だった。
言ってませんでしたが魔王います。




