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第7話 とある日のサーシャ

活動報告も合わせてお楽しみください!

モンジか開催するPvPイベントに、ゲストとして参加し、優勝をかけて戦うこと。

2ヵ月後に開催されるそのイベントの宣伝に、いくつかの関連イベントに参加すること。

2つの条件をのみ、サーシャはゴリニチの卵を譲り受けた。

モンジによると、ギアロ山の麓にある山小屋に卵を持って訪れるとフラグが成立し、山頂までの長い階段と、その先にある東屋が出現するのだそうだ。

そこでイベントをこなすと、ゴリニチは孵化するらしい。

さっそく翌日、サーシャは卵を手にギアロ山へ向かった。

モンジの言うとおり、山頂に続く長い階段が出現。サーシャはその階段を一段づつ登り、東屋へ到着した。

そこにはNPCの老婆が一人、ゴザに座ってこちらを見ている。老婆の前には壺のような鍋があり、中では怪しげな液体がポコポコと湯気を出している。

老婆はなにやらぶつぶつと口の中でつぶやいている。サーシャは老婆の前に立った。

「この卵を孵化させに来た。何かご存知か?」

老婆は、緩慢な動きで壺の中の液体を茶碗に入れた。

「そなたにその資格があるかのう。儂に見せてみるがよい、その勇気があればだが?」

老婆が差し出す茶碗をサーシャは受け取った。どうやらこれを飲まなければならないようだ。茶碗の中は、抹茶を煮詰めたような色のドロリとした液体がたゆたっている。

おいしくは···ないだろう···だが、仕方ない。観念して、サーシャは一気に飲み干した。

途端、老婆の声がだんだん遠のく。

「瞳の奥···去を映し···す、さ···せてみ······」

サーシャは暗い渦に飲み込まれていくように感じていた。


気づくと、サーシャははじまりの街のすぐ外にいた。

あぁそうだ。昨日はここでパーティが解散されて、そのまま落ちた(ログアウト)んだっけ···。

昨日のパーティはまずまず当たりだったかも。経験値もそこそこ稼げたし。

サーシャはステータス画面を出し、新しく何かスキルを覚えられないか調べていた。

状態異常の回復スキルかぁ、これなんかいいかな···。

サーシャは現在レベル8。

攻撃スキルはほぼ持っていない。どうも剣で切り裂く感覚が好きになれないので、もっぱら、いろんな人とパーティを組み、メンバーを回復する役を受け持っていた。

敵を倒す必要がないと言っても、戦闘中はそれなりに忙しい。パーティメンバーのHPを見つつ減ってきたら回復したり、防御スキルをかけたり。スキルにはどれもクールタイムがあるから、その時間も考慮にいれないといけない。

でも『敵を倒す』ことをしないというだけで、サーシャの存在を軽んじる人が多かった。こっちの都合も聞かずに「今日はここまでにするわ」と言われればサーシャもそこまで。

戦える人は、最悪私のような回復役がいなくても、回復薬を持てば狩りができる。回復しかできない私は、戦ってくれる人がいないと進まない···。

すぐ横をモンスター:ジェリー(Lv2/HP10)がポコポコ飛び跳ねながら通り過ぎていく。

サーシャは持っていた杖を振りかぶり、ジェリーに打撃攻撃をしてみた。

Miss!

あわわ···倒せなかった、どうしよう!確か光の玉をぶつけるスキルがあったはず、どこだっけ···?

ポコポコ殴られながらサーシャが焦ってスキル欄を探していると、横からズパッと剣が振り下ろされた。

「HIT値が足りないな。いくらジェリーでも、HITにステ振ってなきゃ毎度は攻撃当たらんでしょ」

振り向くと剣を肩に担ぎ、少年が立っていた。

「よう、また会ったな。って、覚えているか俺のこと?」

サーシャは少年の顔を見つめ、頷いた。

「え、えぇ、おとといのロッソ洞窟探検のパーティで···」

少年は、名をシギアという。前衛タイプの剣士で、洞窟探検のパーティではサーシャは、すぐにモンスターに攻撃を受けるシギアに、ひたすら回復スキルを連打していた。おかげで、シギアの傍から一切離れられない程忙しい思いをした。

「あぁ、あの時は助かったぜ。おかげで思う存分戦えた。おまえ補助うまいんだな」

そうかな···。一つのパーティに補助役は何人もいらない。サーシャは同じパーティで同じようなタイプのプレイヤーに会った事がないので、比べようがなかった。

「そ·こ·で!相談なんだが···」

シギアはおもむろにサーシャの横に座り込むとそのまま

「たのーーーーーーーむ!!これから俺と一緒にダンジョンに行って、クエストの補助をしてくれ!!!」

と土下座をした。

「え?え?えぇぇぇ?」

シギアは先日めでたくレベル10になった。レベル10になると受けられるクエストのひとつに、ダンジョンの奥にあるアイテムを取ってくるという内容のものがあって、その報酬が片手剣なんだそうだ。彼はそれが欲しいらしい。

が、そのクエストはレベル10になると受けられるようになるというだけで、クリア適正レベルはパーティを組んだ状態で、15。今のシギアでは逆立ちしたってソロ攻略は無理なのだ。

「それなら、パーティ募集掲示板っていうのがあって、そこを見れば、今パーティ組みたがってる人がいっぱい乗ってるよ?シギア君の求める回復役も、きっといると思うけど···」

サーシャがそう言うと、シギアはヤレヤレ···と首を振り

「おまえアホか!?冒険するならかわいい女の子と一緒がいいに決まってんだろ!?」

と言うとパーティシステムを起動し、右手を差し出した。

「どうぞご一緒くださいお姫様。アナタの身は、このシギアが必ずやお守りしましょう」

芝居がかった言い方に、サーシャはクスクス笑いながら握手を受ける。パーティ作成。

「わかったわ。お付き合いするかわりにしっかり守ってね!」


ダンジョンにつくと、2人は恐る恐る中へ進入した。

「ちょ、ちょっとシギア君?あなた先に行きなさいよ···」

シギアはサーシャの背中に隠れている。

「え?あぁ、わかってるよ!こうする方が守りやすかったりなんだり···」

お姫様のナイトが聞いて呆れる···。でもサーシャはシギアを嫌いになれなかった。

シギアはこうやってても、モンスターが現れると真っ先に飛び出す。誰よりも前面に立ち、おかげでモンスターからの攻撃はほとんどシギアが受ける。ただの戦闘馬鹿かもしれないけど、サーシャはそうやって人を守るやり方も、結構好きだった。

そうこうしてる間にサーシャのレベルがひとつ上がり、2人は最深部へ来ていた。

周りが随分暗い。シギアはもうサーシャをからかっている場合ではなかった。サーシャの前に立ち、剣をかまえつつ先へ進む。

と、そこにモンスター:ベアが登場。

「!」

シギアは必死に戦ったが、相手が硬すぎる。ダメージはほぼ通らない。

「くそぉぉぉ、無理か無理なのかぁぁぁ」

死亡(デッド)。ベアは身をよじりサーシャの方へ向き直った。

「えぇぇぇ、ちょっとシギア君。これどうしたらいいの!?」

サーシャは杖を握りしめた。

「お、起こしてくれ!生き返らせてくれ!」

「馬鹿、蘇生スキルなんてまだまだ覚えられないよっ」

シギアはあっさりと

「あぁ、そうか。よし、じゃ倒すんだ。ファイト♪」

とニッコリ笑って言い放った。

「この嘘つきーーーーーー!」

サーシャの叫びがダンジョンに木霊した。


2人は並んでデッドし、そのままパーティリーダーであるシギアの家に帰還した。

「いやー、あれだね。大冒険だったよね」

満足そうなシギアの顔。

「結局クエスト失敗で、剣も入手できなかったのによく言うわね···」

ため息をつくサーシャ。

「でもサーシャ、おまえのレベル上がったろ?」

「え···?あ、うん···」

シギアはステータス画面を出し

「俺も経験値いっぱいたまったぜ。すげー楽しかったし。なぁ、また一緒に狩りしよう。2人がもう少し強くなれば、あんなダンジョンへっちゃらだよ、な?」

サーシャはニコニコ笑っているシギアの顔を見つめていた。

「うん···うん、一緒にやろう」

微笑むサーシャに、シギアは

「やった、姫様ゲットだぜ♪」

といたずらそうに笑った。


この日から、2人は常に共にいた。狩りだけでなく、色々な場所に行き、たくさん話をした。

シギアはリアルでは車好きであること。外装を紫に染め、シフトギアも同じ紫にしてあり、友達からは大変趣味が悪いと評判であること。シギアの名は、紫のギア、からつけたということ。犬好きの妹がいて、室内犬を2匹飼っていること。いつ犬にダイブシップの電源を切られるかヒヤヒヤしていること。

サーシャも語った。今は派遣社員をしていること。父親との折り合いが悪く、大学へ進学せすに就職、今は一人暮らしをしていること。周りは皆年上で、毎日怒られてばかり。犬は自分も好きで、いつか庭のある家に犬と住みたいと思っていること···。

シギアはいつでも攻撃スキルを習得し、どんどん強くなっていった。サーシャはそれの補佐に徹した。今はもう、たとえシギアがデッドしてもうろたえない。適正狩場であれば、必ず立て直せる自信もあった。

補助スキルのひとつに、MP·SP自動回復魔法がある。スキルポイントを大幅に使うので、習得している人は少ないが、サーシャはそれを持っている。おかげで2人は回復薬を持つ必要がない。アイテムインベントリに余裕ができるので、狩場に長く滞在でき、色々なドロップ品を多く持ち帰ることができるのだ。


ある日、シギアはサーシャに言った。

「今日は狩りじゃなく散歩でもしようぜ」

戦闘はしない、というので、サーシャは先日入手したかわいらしいワンピースを装備してみた。

べ、別に、変な意味はないんだから。普段狩りだと着る機会がないだけで···。

シギアはそんなサーシャに気づいているのかいないのか、服装には特に触れることなく先に立ち歩いていく。

まぁね、そりゃね、ゲームの中ですし···。

サーシャは少し寂しい思いを感じたが、

「なぁ、ここすごくね?」

とシギアに言われて顔をあげた。

「うわぁ〜」

そこは小高い崖になっており、目の前に綺麗な海が広がっていた。

周りに街もなく、道から外れていて、イベントポイントでもないので他の人がいる気配はない。

「綺麗···」

さわやかな風に、サーシャのワンピの裾が揺れる。

幸せだ···。これで充分···。サーシャはそう思っていた。

「あーーー、えーーー、と、サーシャ、さん」

見るとシギアが珍しく真面目な顔をしている。

「?」

サーシャがシギアに向き直ると、シギアは太ももの横でこすった右手をおもむろに差し出した。

サーシャのシステムログが起動する。


 シギアさんがペア申請をしています。

 受けますか?

      はい/いいえ


「お···、ボクと、結婚してください」

次回1/14更新


ー用語解説

クールタイム:スキルを一度発動させ、次にスキルを詠唱し始めるまでにはある程度の準備時間が必要で、その時間の長さの事。発動したスキルにより設定されていて、たいてい回復タイプのスキルのクールタイムが長くなる傾向にある。


スキル:各スキルごとに覚えられるレベルが設定されている。そこに達したら、スキルポイントを消費して習得する。スキルポイントは、レベルをあげるごとに貯まっていくが、現状すべてのスキルを習得することは、サーシャですらできない。


ステータス:スキルと別にステータスポイントがあり、これもレベルが上がるにつれたまっていく。どのステータスに、どのくらい振り分けるかは自由にできる。これに職業補正や、装備補正の数値が加わり、その人のステータスとなる。


スキルもステータスも、ゲーム内通貨を支払う事で初期化でき、いくらでもやりなおせます。

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