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第4話 タナカ マリコ

活動報告も合わせてお楽しみください!

ここは都心から少し離れたベッドタウンの一角。駅から離れ、細い、入り組んだ道を入った所にあるワンルームマンションの一室。

玄関の郵便受けには、はちきれんばかりに押し込められたチラシがつまっている。ドアを開け、中に入ると右手に小さなキッチンがある。流し台にはコップがひとつ。隣にかろうじてコンロが置けるスペースがあるが肝心のコンロはなく、食器も鍋も見当たらない。反対側には壁が広がり、本来あって然るべきの冷蔵庫も、炊飯器も、ない。奥にはトイレのドアが、開けたままになっており、隣には風呂場。ハンガーにくすんだ色のバスタオルが一枚かかっている。

目を戻し部屋に入ると、うっすら埃のつもった床にベッドがひとつ。が布団はなく、長いこと使われた形跡はない。そのベッドには、大きなダンボールがひとつと小さいダンボールがふたつ置いてある。大きな方には「ディスポインナー/やわらかな肌触り」と書かれていて、小さな方には「超乾燥ディナー」との文字が読める。ハンバーグの絵が一緒に描かれている。

ベッドヘッドに黒いパーカーが投げかけられていて、その下にビニール袋がひとつ、すでに限界を超えるほどに白い肌着らしきものがつめこまれている。

この家唯一動き、音を発しているものは、ベッドの更に奥。卵を横に置いたような形の物体。横に大きく「DIVE SHIP」と書かれ、下部に光がみっつ。どれもグリーンに光り、ひとつは点滅していた。

ダイブシップから空気がもれるような音がして、蓋が空いた。中から現れたのは少年のように見える。前髪と後ろ髪が同じ長さで均一に顔にかかっていて、体全体ひどくやせているためどちらが前かわからないほど。ふっと息を吐き、口と鼻が少し見えやっと前後の判別がついた。シップから出てきた体は白いスポーツブラのようなものとボクサーパンツのようなものを着た、かろうじての女性、ラーミャの世界で人々にサーシャと呼ばれるその人だった。

シップの中には画面があり、そこに

『ラームフルオンライン/定期メンテナンス中』

と書かれている。


彼女は田中真理子。24歳になるが、ひどくやせた体はまだ子供のようだ。おっくうそうに使い捨て下着を破り脱ぐと、すでに限界のゴミ袋の上に投げ捨てる。そしてそのまま風呂場に向かいドアを閉めた。

真理子はその昔、派遣社員として働いていた。が、LFOの『火の6日間』と呼ばれる超長期メンテナンス後に退社。現在は職についていない。風呂は定期メンテ時の週1回。食事は1日に1回か2回。極度に乾燥させた食材を口に放り込む。本来はお湯を加え、元に戻してから食すものだが···。

風呂のドアが開き、真理子が出てきた。骨ばった肩にタオルをかけたまま、真理子はシップとは反対側にある机に向かった。そこにあるパソコンの電源を入れると、奥にある電話を引っ張り出す。セットされた留守電のランプが点滅している。真理子はパソコンのディスプレイを見つめながら再生ボタンを押した。

「真理子?母さんだけど、元気?今度の正月は帰って来れるのかしらと思って···。あなたいつも忙しいなんて言ってないで、たまには顔見せてね。それじゃ···ピー」

ふぅ、とため息をつく。パソコンに表示されたデータが、今日が12月半ばであることを示している。真理子は電話を操作して、受話器を取った。

「母さん、真理子です。いつも時間作れなくてごめんね。元気にしてるんだけど、やっぱ今年も忙しくて帰れそうにないな。母さんはどう?風邪なんかひいてない?時間できたら帰るから。じゃ、よいお年を。またね」

ピ、ピ、ピ、と電話を操作する。ディスプレイには「翌朝8時送信予約します。よろしいですか?」との文字。真理子はOKボタンを押した。

現実世界で、進行形の会話をするのは、相手が母親といえど躊躇われた。うまく話せるかわからない。

久しぶりに聞く自分の声。前回声を発したのはいつだったか?そういえば随分と舌足らずな言い回しになったように感じる。昔はそんなこともなかったような気がするが···。

真理子はパソコンの電源を落とし、乾燥ディナーをそのまま口に放り込むとシップの中へ消えていく。

次に真理子が真理子として現れるのは1週間後。だがそれを知る人など居はしない。

世界で唯一、自分の身を案じてくれる人間。真理子にとって、母はそういう存在であった。が、その母にも、現在の真理子の状況を理解できるとは、真理子本人にも到底考えられなかった。

次回1/3更新 ♢皆様良いお年を♢


ゲームから離れたリアル側のお話です。短く、中身もなく、面白みもなくて申し訳ありません。彼女の現状を、どうしてもこのタイミングでご理解いただきたかったのです。

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