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第21話 クルージング

翌朝、宣言通りに朝早くログインしたのだろう。サーシャがログインするとすでにクロトはサーシャの家の前に立っていた。

「待たせたか」

サーシャが言うと、クロトは「いんや」と言う。

「今日は海に行く。釣りだ!!」

良かった···。サーシャはほっとする。またしても遊園地に行くと言ったらどうしようかと心配していたのだ。

「昨日のEPいくつ貯まった?」

とクロトが聞くので、サーシャはステータス画面を開いた。

「20ほどあるな」

クロトは、よし、と言うと

「ポイントの横にボタンがあるだろ。ホラ、これ」

クロトはサーシャのステータス画面を横から覗き込み、指を差す。

「そこの一覧に釣りスキルがある。覚えてくれ。レベルは、まだ上げなくていいや」

サーシャは言われた通りにした。クロトは頷き

「まぁこれで、釣り竿をたらすくらいはできるだろ。あとは、準備してこいよ」

と、顎で家の中を示す。

「···?」

サーシャは自分を見下ろす。

「···このままではイカンのか?」

クロトは、ッガーン!という衝撃を受けたような顔をして言った。

「お·ま·え·は···アホかぁー!海だぞ、海と言ったら水着だろーぉがっ!!」

サーシャはため息をつく。

「水着なんて持っていない、あったとしても着たくはないぞ」

クロトは「えぇぇぇー!」とショックを受けている。

「なんでだ、なんでだよ。水着なんてショップ行けばすぐ買えるんだぞ。なんなら俺が選んできてやるのに···」

サーシャは頑なだ。

「いいや、このままでいい」

すると、クロトは

「お前···まさか···」

と言いつつサーシャに近づいてくる。

「?」

するとサーシャの右胸をムニッと掴み、言った。

「自信がないのか?ステータス画面でサイズ変更できるぞ?もっとも俺はこのくらいがちょうどいいと思うがな···」

「!!!!!!!!!!!」

ガキッ!

サーシャの鉄拳炸裂。

もしサーシャが体術攻撃力にステータスを振っていたら、恐らくクロトは即死だっただろう···。

クロトは鼻を抑えながら

「ジョーダンらろ···わかってないヤツら···」

とつぶやいている。

サーシャは自分の指をポキポキ慣らして凄んだ。

「自分の身は自分で守らねばな···。今度、体術にステを振る余地があるか検証しよう」


仕方なく(クロトは泣く泣く)サーシャは鎧装備、クロトはラフなパーカー姿という、ちぐはぐな二人組でアランシア平原から少し行った砂浜に向かった。

そこは船着き場のような物が実装され、いくつかボートが結わってある。

へぇ、こんなのできたんだな···。

サーシャがこの辺りにいた頃はこんなものはなかった。

「これで行くのか」

とクロトに聞いた。クロトは指を立て「チッチッチ」と首を振る。

「俺の釣りレベルを甘く見てはイカンぞ」

そう言い、アイテムインベントリを出すと、そこから小型クルーザーを取り出した。

「!」

サーシャは驚いた顔をしてクルーザーを見上げる。クロトは満足そうな顔をして

「釣りレベルを上げると小型船舶免許が取れるんだ。クルーザーは自分で作るんだけどな。これ作るの、すげー苦労すんだぜ」

そう言うと、クロトは船に乗り込み、サーシャに手を出す。

「ほれ、揺れるからな。気をつけろよ」

現実ではありえないのではないか、と思われるほど澄んだ綺麗な海。

そこを、真っ白なクルーザーが軽快に走っていく。

サーシャは髪を海風になびかせながら、気持ちよく波に身を任せる。

ほどなくクロトは船を止め

「ここらでやるっか」

と釣りを始めた。

サーシャは、釣りレベルが低いせいだろう。全く釣れない。が、クロトが次々に大物を仕留めていく。

「ほら!サーシャ見ろ!でっかいサメ釣れた!」

「サーシャ!ウミガメ!」

「ハリセンボンだぁー!」

サーシャは、全く釣れなかったが、それでも楽しかった。規則的に揺れる船。綺麗な水面。時折聞こえるクロトの叫び声···。

午後になるとクロトは再び船を操作し沖に出た。

「この辺でホエールウォッチングできるんだ」

見ると、少し離れた場所でくじらが潮を吹いている。

もっと近づけばきっと巨大なのだろう。ここから見ると動きが緩慢に見える。盛大に波立たせながら、クジラは何度も潮を吹いた。

その後は、イルカと並走したり、トビウオの群れを追いかけたりして過ごした。

「うっし、んじゃそろそろ行くか」

と、クロトは言うと陸地に向かっていく。

帰るのかと思ったら、乗り込んだ船着き場とは少しずれた場所へ向かう。

クロトは

「こないだできた新マップだ」

と説明した。

そこは切りだった崖で、船はそのままつけることはできない。

が、崖の海面部分に小さな祠のようなものがあり、直接そこから崖内部へ進入できるようだった。

クロトは器用にその祠に船をつけると、先に降り立ってサーシャを見上げた。

「EP、まだあるだろ?ここはEPを消費して中に入る場所なんだ。船でしか来れない」

なるほど。サーシャが祠に降り立つと、システムログが表示される。


 EPを3消費して入場します。

  よろしいですか?

     はい/いいえ


サーシャはシステムを操作して中に入る。

そこは鍾乳洞のような洞窟で、上に向かうらせん状の階段があった。

「少し濡れてるな、滑るぞ」

と、クロトはサーシャの手を取って先に立ち階段を登っていく。

登りきると外へ通じる出口がある。崖を、内部から登っていった事になるのだろう。

ふう、とサーシャは息をつき、何気なく振り向いた。そこには海が広がっている。

綺麗な、アクアマリンのような色合いの海が、崖の下に広がる場所だった。

「······」

サーシャは海から目を離すことができない。

ここ、は···。いつの間にかイベントマップにされていたのか···。

その昔、彼が立っていたまさにその場所で、クロトは怪訝な顔をサーシャに向ける。

「どうした?こっちだぜ」

クロトが向かった先に、不思議な場所があった。

直径10m円状に、溝が掘られてそこからウォータースクリーンのように水が吹き出している。それは、現実では不可能だろうがドーム状に中央に集まり、ストンと中央に落ちて、中にある小さな泉にそそがれていた。

「ここだ」

クロトは顔を動かし円の中を示す。

サーシャは、躊躇った。

この先が何かは知らない。だが、このまま流されてついていく場でない事はわかる。

クロトは何も知らない。そう、なんにも、知らないのだ。

私が、どんな、人間であるか。

だが、そんなことにはお構いなしに、クロトは中から「サーシャ、早く来いよ」と声をかけてきた。

思い切ってウォータースクリーンの中へ、サーシャは進入する。

泉の麓にクロトは立ち、サーシャを待っていた。

「ここは通称『恋人岬』。ここで申請受諾を、願い出るのが今の流行りだ」

そう言うと、クロトは右手を太ももで拭くような仕草を見せてサーシャに差し出した。

サーシャのシステムログが表示される。


 クロトさんがペア申請をしています。


サーシャの頬を、静かに静かに涙が伝っていった。もうずっとなかった。こみ上げる思いが溢れてしまう事など···。

「今日みたいに、別に狩りじゃなくても、時間のある限り楽しもう。俺が、お前にいろいろ教えてやるよ」

サーシャは息をすることができない。

サーシャのシステムログには続きがあった。


 シギアさんとのペア登録を

 抹消する必要があります。

 よろしいですか?

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