第15話 一人と独り
活動報告も合わせてお楽しみください!
「おい、サーシャ。今暇か?」
ギミクから通話が入ったのは、自宅でアイテム整理をしている最中だった。
「あぁ、特に何もしていない。どうかしたのか?」
ギミクは今からサーシャの家に来るという。珍しいこともあるものだ···。
ギミクとは、はじまりの街で会った。そしてそれ以降、はじまりの街でしか会ったことがない。彼は昔から精錬が得意で、性能のいい武器や鎧を作成しては、はじまりの街の露店で売りに出していたのだ。サーシャが『武器屋』と呼ぶ所以である。ある日サーシャが素材を持参して精錬を頼み込み、その素材のあまりの価値の高さにギミクが惚れ込み、それから2人は友人となった。
「ちょうどアイテム整理で、おまえが喜ぶだろう素材が出てきた所だ。来るついでに渡そう」
サーシャがそう言うと、ほどなくギミクは現れた。
「おーおー、予想通り、無骨な部屋だな」
なぜかギミクは満足げ。サーシャは素材を投げ渡し
「おまえに『突撃お部屋訪問』の趣味があるとは知らなかった」
と言った。ギミクは素材のお返しに、鎧の耐久修理キットを投げてよこした。
「おまえいつも耐久がなくなる前に鎧を修理してしまうからな。修理キットはいくらあっても困るものじゃないだろ?」
サーシャは喜んだ。
「あぁ、助かるよ。ありがとう」
その姿に、ギミクは満足そうに頷く。
「サーシャ、おまえ、今装備している鎧はこないだのPvPの時のものか?」
サーシャは自分を見下ろし、頷く。
「あぁ、そうだ」
ギミクは、ふむ、と顎に手を当てると
「ちょっと脱いで見せてみろ」
と言った。サーシャは目を剥く。
「おまえな···。突然家に押しかけて来て服を脱げとは、どんなセクハラ親父だよ」
ギミクは、がははは、と笑った。
「なんだそりゃ、サーシャ。女じゃあるまいし。おまえのリアルがもしも女ならな、俺のリアルはアイドル歌手かなんかになるぞ!」
大きなお世話だ···。サーシャは適当なストライプシャツを着込むと、ギミクに鎧を投げてやった。
「やはり···これはこの間俺が精錬したものだな?」
鎧をよく見てギミクが言う。サーシャは頷く。
「そうだ。いい出来だ。おかげで助かった」
ギミクはサーシャを見つめる。
「この鎧では、M.DEFはそこそこまでしか稼げない。『着るだけで魔防MAX』だと?」
サーシャは笑った。
「あれか、あれはだな···」
ギミクは、不正は許さん!という顔をしてサーシャを睨んでいる。
サーシャは指を立てた。
「あれはハッタリだ。あの日私が捨てたステータスは、M.DEFではない」
ギミクは片方の眉を上げた。
「どういうことた?」
クス、とサーシャは笑い、説明する。
「あの日、モンジ氏に挑発されてな。負けるわけにいかなくなった。···いや、勝ち負けの基準が変わったと言うべきかな···。私は黒狼に、ただ勝つのではなく、完膚なきまでに打ちのめさなければならなくなった」
ひと呼吸置き、サーシャは続ける。
「私が削ったステータスは、M.ATKと、魔法詠唱スピードだ。つまりあの日の私は剣以外に攻撃方法を持たない、ひどく偏ったステータスだった」
ギミクは目を見開く。
「ってことは···」
サーシャは頷く。
「黒狼にもし気づかれていたら、クローキングで武器に攻撃を当てて武器を外され、私に攻撃の方法がなくなり戦いは泥沼化していただろう。武器への攻撃では、不意打ちカウンターは発動しないからな」
ギミクは開いた口が塞がらない。
「もっと注意深く見ていれば、私の補助スキルの詠唱が長いことに気がついたハズだ。そうすれば、M.ATKのあるなしに関わらず、私の攻撃魔法が使い物にならないことに気づけただろう。彼には勝つチャンスがあった」
サーシャは立てた指を口に当てて、ニヤリ、とする。
「戦いの最中に相手の言うことを鵜呑みにするとは、あいつもまだまだだ」
ギミクはまいった、とばかりに両手を上げた。
「まったくたいした奴だよ、おまえは。会場全員煙にまきやがった」
ふ···とサーシャは笑う。ギミクは鎧を投げてよこす。
「今度のクラン戦でその鎧貸してくれ。たまには俺も英雄気取りたい」
サーシャは頷く。
「構わん。というか、素材を採取してくれる技術者を紹介しよう。彼なら喜んで協力してくれるだろう」
おぉーとギミクは喜び
「おまえと知り合いになっておいて良かった!」
と言った。サーシャは笑い
「それは私のセリフだよ、ギミク」
と言った。
女らしさをわざと消したサーシャを女扱いしなかったり(ギミクの場合本当に男だと思っている可能性もあるが)、サーシャに鎧の修理キットがたくさん必要だということを、説明しなくても気づいてくれていたり。ギミクは大雑把だが素朴な優しさがサーシャにはありがたかった。
今度アリフィスに引き合わせる約束をして家の外までギミクを見送る。すると、後ろから声をかけられた。
「間に合った、サーシャ、狩りに行くのはちょっと待ってくれ」
振り返ると、クラン『青い稲妻』マスターのライトだった。
「狩りに行く所ではない。どうかしたのか?」
サーシャは聞く。ライトはサーシャの肩にいるセラルに指を向けた。
「この間、ゴリニチの事を聞いていただろう?結局わからなかったんだ」
サーシャは肩に乗ったセラルに手をやった。相変わらず沈黙を守るセラル。
「俺の友人にブリーディングスキルにはまっている奴がいるんだが、そいつがペットに特技が発生しないのはありえないというんだ。何日か預かり、ぜひとも特技を発生させてみたいと言うんだが、どうだ?」
サーシャはセラルを見た。いつものように静かに、翡翠のような瞳を潤ませている。
「そうか···。特技はなくてもいいと思い始めた所だったんだが···」
ライトはサーシャの肩に乗るセラルを撫でる。
「もちろん無理にとは言わない。もしかしたらいつか条件を満たし、特技を覚えるかもしれないしな」
サーシャは、コク、と頷き、だが観念してセラルを外し、ライトに渡した。今後入手する者のためにも、ここは、
「せっかくだ。調べていただこう」
肩がやけに涼しい。
ライトはセラルを受け取ると、優しく抱いた。
「さぁ、セラル。少しおでかけだ。お父さんにいってきますを言うんだ」
「···」
全くどいつもこいつも···。
ライトは、じゃあな邪魔して悪かった。と言ってリバーシで転移していった。
ライトは面倒見がいい。いつもサーシャを気にかけてくれている。
サーシャはライトに、何か有益な事をした覚えがない。それなのにここまで気にかけるのはライトの人柄なのだろう。そのせいか、ライトの周りにはいつも人が集まる。
サーシャは、ふっと笑う。
何が一人だ。私にはこんなにも多くの友人がいる。そして、その誰もが、このラーミャでの生活を、そのゲームシステムを、心底楽しんでいる。
そのゲームバランスを壊し、自らの欲望を満たすためにユーザーを食いものにしているクラン、ダークランス。サーシャは、運営が支払った慰謝料で生き、このクランをいつか必ず壊すと誓った。私のような思いはもう、二度と誰にもさせたくはない。
どんな手を使っても壊す。ヒーローなどにはならない。その時は私も一緒に壊れるだろうから。
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ー用語解説
装備品には耐久が設定されています。回数により表され、一定条件化で減っていきます。(例、攻撃○回で武器の耐久が1減少)
耐久がゼロになると、その装備は強制的に装備欄から外されます。
男キャラのズボンが外されたときの情けなさは百年の恋も覚めるほど。下にタイツとか履いてると完全に○ガちゃんです。
ちなみに、なぜかゲームに精通すればする程、中身は男だと断定されるのはなぜでしょう···?そんな事ないのに···。