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第14話 開発室

背景の描写がド下手で申し訳ありません。

15話開幕は、前回飛び起きた所ではなく、サーバーシャットダウン後数ヵ月の頃の話です。


活動報告も合わせてお楽しみください!

サーシャは真っ白な部屋にいた。

乳白色のそこは、壁なのか床なのか天井なのか。そもそも、端が存在するのか。暑くもなく寒くもなく、うるさくもなく静かでもない、変な場所。

椅子が一つ、そこにサーシャは座る。居心地が、悪い。

「やぁ、お待たせしましたね」

研究員風の、男が1人現れる。丸い眼鏡に長い白衣。手にクリップボード。

「さっそく、今日もお願いしますね。田中さん」

サーシャは眉をひそめ、

「ここで本名で呼ばないでください···」

と言った。男はにこやかな表情を変えず

「失礼しました、サーシャさん。では始めますね」

と言って、クリップボードに何やら記入し始めた。


ネットゲーマーにとって本名は、例えるなら下着の中に隠す素肌のようなもの。親しくない者には見せたくないし、ましてや触れられれば嫌悪感が起こる。逆に大切な人には率先して見て欲しいと、願うもの。


サーシャはこの部屋が嫌いだった。初めて訪れたのはあの長期メンテから半月程経った頃だったか。ログインしたらいきなりこの部屋で、ひどく混乱したのを覚えている。

史上稀に見る長期間のメンテナンスに、ユーザー達は怒りながらも、某有名アニメ映画からパクって『火の6日間』と呼び、何が起こったのかおもしろおかしく推察した。

そのメンテの原因のバグに関係しているサーシャは、それから半年間、定期的にこの、運営が用意した部屋に呼ばれ、どこの何が問題なのか調査するため、過去ログを強制抽出されていた。

この日はちょうど、サーシャとシギアが出会った頃のデータだった。

シギアに会いたい···。こんなにも心焦がれているのに、目の前に現れるのはただの過去のデータ。シギアはサーシャの名を呼び、愛おしそうに微笑んでいるけど、サーシャは彼に触れることすらできない。

サーシャにとって、これは拷問でしかなかった。

「さて、今日はこの辺にしときましょうか。自宅へ、キャラを転送しますね。お疲れさまでした、田中さん」

サーシャは虚ろな表情で答えた。

「いいえ、はじまりの街へ飛ばしてください」


真理子の、サーシャの抱える闇は、暗く、深い。

崖の下で麻痺状態になったサーシャは、サーバーがシャットダウンされてもゲームからログアウトすることはなかった。サーシャのログアウトキーは、シギアと共に消滅してしまっていた。シャットダウンされた世界は暗く、静かだった。通常1時間程度で切れる麻痺も、切れない。モンスターが出れば、今のサーシャなら死んで帰還コマンドが出ただろう。家の中なら傷も癒えるだろう。だが、すべてが止まった世界でモンスターは沸かず、麻痺は切れず、サーシャは残りHPが3のまま、そこに横たわるしかなかった。LFOの世界では、プレイヤーに傷の存在を知らせるために、流血のエフェクトが出る。幼いユーザーには、設定で見えなくすることもできるが、サーシャの顕になった左胸からは、絶えず赤い血がドクドクと流れ出ていた。サーシャはそのままメンテナンスが終わるまでなんと6日間、そこで過ごすはめになった。

ラーミャのすべてを止めたバグは、サーシャとシギアのキー交換が原因だった。

別にそのまま持っていれば特に問題はなかったが、当時、闘技場以外でのプレイヤーによるプレイヤーへの攻撃の、処理の仕方がシステムとして抜け落ちていた。バグ扱いとなり、死んだ相手はデータごと消去されてしまっていた。そんな攻撃を受けて一方のキャラクターが消滅し、更に、消滅して存在しないはずのIDのキーが壊されたことで、システムを維持できないほどの大きなバグとなってしまったのだ。

そんなことは運営も、サーシャも、知る由もない。原因が掴めず、おかげで史上稀に見る長期のメンテナンスとなってしまった。それでもキーが何かしら現状の起因だと掴んだ運営は、メンテ明けと共にユーザー全員のキーを再配布。その時破壊禁止コマンドをつけた。サーシャの元にも新しいキーが届く。サーシャは再び動き出した世界で、ログアウト出来ずにいたことを通報。PK(プレイヤーキル)の事も言ったが、なんという不運。サーシャの左胸から流れ出したデータが、まさにそのログだった。口で説明しただけで証拠がない。6日間ログインしっぱなしだったことで、運営はまずは即刻ログアウトすることを推した。

真理子の体に戻ってからも大変だった。寝たきりより、遭難より、もっと悪い。ひどい状態だった。運営が呼んだのだろう、救急車がほどなく到着し、サーシャは5日間入院することとなる。何度も検査を受け、心配する母をなだめ···。

仕事は、クビになっていた。勤めて半年程のさほど使えない女。が突然無断欠勤。その後6日間音信不通。その理由がゲームだったとか?そんな人間に優しくしてくれる程、世間は甘くない。

運営の人間が何度も現れて、慰謝料だとか、口止め料だとか、色々難しい話をしていった。

が、真理子はそんなことどうでも良かった。シギアは···。シギアはきっとメンテ明けすぐにログインしているだろう。そして私を探しているはずだ。早く帰って無事であることを伝えたい···。

結局、真理子に数千万の慰謝料が振り込まれた。MMOはとても儲かる事業である。フルダイブタイプになってからも、それは変わらない。なのにログアウトできない状況が存在しているなんて話が出たら···。会社も必死なのだろう。

真理子はなんとか母を振り切って、家に帰るととにかくログインした。シギアは、いない。ラーミャにあるシギアの家は、留守状態だった。フレンドリストを開く。シギアの名前そのものが、ない。

だが、サーシャの名前の横にはPの文字がある。シギアとペアを組んだ、たったひとつの証拠。

試しに、シギアにキャラ名宛でメールを送ってみる。


 存在しないキャラクター名です。

 もう一度確認してください。


やはり···。シギアは消えてしまったのだろう。が、現実の彼が消えたわけではない。

サーシャはそれから毎日、朝も昼もなく、はじまりの街の、チュートリアルが終わり人々がワープしてくるその場所に座って、シギアを待った。

いろんな人たちが来た。たまに待ち合わせている人たちもいた。が、シギアは来ない。

1週間が経ち、1ヵ月が経ち、半年が経って開発室に呼ばれる事もなくなった。が、シギアは現れない。そして遂に、1年が経った。

サーシャは立ち上がるとその場を離れ、それからずっと1人で戦っている。

運営なんかアテにならない。私が倒す、全員。必ず。


シップの中で、震えながらも真理子はあの時のあの誓いを思い出していた。噛み締める唇から血が流れ出す。それは、あの左胸から出ていた血より浅黒く、まるで偽物かのように見えた。



次回2/7更新


ー用語解説

シギアが新たにキャラを作ってサーシャの前に戻ってこない理由。いくつも考えられますが、『不明』です。

人が他者との関わりで起こった何かを乗り越えていくには、必ず、「理解」と「納得」があると私は考えていて、あえて不明のままにしております。

だからこそ、サーシャは過去に囚われ暴走してしまっています。

以前載せた時にお叱りをいただいたので、一応説明しておきます。

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