表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/24

第11話 The victor of a battle

活動報告も合わせてお楽しみください!

「いよいよだってのに、ペット育成場にいるんだもんな。笑ったよ」

通話ウィンドウから覗く顔。日焼けした精悍な顔つきの青年が白い歯を見せて笑っている。

「まさか神に祈るわけにもいくまい。私にとっては今日のPvPより、いまだに特技の一つも覚えないセラルの育成のほうが気がかりだってだけだ」


サーシャが話す、通話の先にいる青年。彼はライト。クラン『青い稲妻』のマスターだ。ボス部屋で何度か顔を合わせ、顔見知りになった。彼は何かというと自分のクランに入るよう、サーシャを誘う。

先日はライトが自身のクランで毎週行っているクラン戦の練習に誘ってきた。

「PvPに出るなら、対プレイヤーのバトルに慣れといたほうがいいぜ。サーシャはクラン戦に出ないからな。わからない所もあるだろ?」

面倒見がいい男だ、だからこそマスターをやってられるのだろう。

サーシャは青い稲妻メンバーが練習を行っている場所へ赴いた。

そしてそこにいるライトに、出会い頭に斬りつけた。

「!!」

ダメージは300程度。普通ならその10〜50倍のダメージが出る。当然、ライトは怪訝な顔をした。

「サーシャ、一体何の真似だ?」

サーシャはニヤリと笑い

「自分で振り分けられるステータスを、ありったけ防御に振ってきた。今の私は体術ですらダメージが与えられない。いいサンドバッグになるだろう?」

防御には3種類、『剣によるダメージへの防御』『魔法によるダメージへの防御』『体術によるダメージへの防御』がある。体術に関しては、LFOにおいて死亡コンテンツ。実装したはいいが、誰も見向きもしないモノ。それもそうだろう。武器は、装備しただけで攻撃力や命中率が上がる。その性能を捨ててまで腕一本で勝負しようとするものはいない。

が、今のサーシャは殴っても効かない鋼鉄のカラダというわけだ。青い稲妻メンバーはおもしろがってサーシャに様々な攻撃を仕掛けた。

「おい、今の見たか?魔法がミスったぞ!」

サーシャは、皆が萎えないよう、攻撃をくらいつつも動き回る。

ライトは顔に手を当て、天を仰ぐ。

「サーシャ···。お前の練習のためと思って皆を集めたんだぞ。お前が練習台になってどーすんだよっ」

サーシャは笑った。

「奇特な奴だな。だからこそお前らには強くあってほしいと願っているよ」


サーシャはクランに属さない。基本なんでも一人でやってのけてしまう。MMOは多人数参加型のオンラインゲーム。誰かと協力しあう事が、最大の目的だ。一人でいるサーシャに、誘いの声は多い。が、サーシャはそのどれも丁寧にお断り申し上げてきた。誰かと共に、は、もう無理だ。

ライトはそんな彼女を、なんとか孤独からすくい上げたかったが、いつも空振りに終わっていた。サーシャはいつも、とある場所に線を引いていて、その先には誰も入れてくれない。だがきっと、いつかその線を踏み越える人物は現れるだろう。そしてそれは俺ではないのだろう。俺は彼女が引いた線の傍で、彼女を見守ればいいのだ。

ライトは通話ウィンドウ越しにサーシャを見て、言った。

「ゴリニチか。俺は詳しくないが、誰か黒のゴリニチを知ってる奴がいないか聞いてみるよ。それだけ育てていて特技が一つも発生しないのも不思議なモンだ」

あぁ、頼むよ。じゃ、後で。と、サーシャは通話を切った。


今日は、遂にモンジ主催のPvPのイベント当日。あと数時間後にはイベント会場に赴かなければならなかった。が、気が重い。この数ヶ月で、サーシャはすっかり、イベントのマスコットキャラクターに祭り上げられてしまった。道を歩くと声をかけられる事も多い。それというのも、最初のイベント告知、と集合させられたその日、スタッフの親交を深めるという理由でモンジその他とパーティを組み、ボス:アリエスの討伐に行ったのだが、そこでモンジにしてやられたのだ。

「サーシャさん、ちょっとここらで余興を」

アリエス討伐真っ最中、モンジはのんびりとそう切り出した。

「もうすぐアリエスも討伐できます。最後の一発、サーシャさんの現段階の最大ダメージを、華麗な技を、見せていただけませんか?」

補助スキルはワタクシが···。とモンジは様々なスキルをサーシャにかけ始めた。

いいだろう、見せて差し上げよう。と、乗ってしまったのがいけなかった。

サーシャの持てる、最大攻撃、そのダメージは、アリエス相手に56000を叩き出した。そのダメージ表示とド派手なスキルのエフェクトを、一緒に来ていたメンバーの一人が綺麗に写真に撮っていたのだ。

それをモンジは事もあろうに大きく引き伸ばし、イベント告知のポスターとして様々な場所に貼り出した。


 ≪The victor of a battle ◇月◇日AM10:00

    白い閃光の英雄サーシャの攻撃を

  アナタは耐える事ができるかっ!?≫


まさにそのポスターの前で

「あ、あれサーシャじゃねぇか!?」

という声を聞きつつ、サーシャはため息をついた。セラルが心配そうに見つめている。

「お前のせいではない。大丈夫、イベントが終われば皆すぐに次の楽しみに食いつくさ」

イベントはインダコという街の裏手にある闘技場で行われる。サーシャはインダコの街道を歩いていた。

「サーシャさぁぁぁん!」

呼びかける声が聞こえる。サーシャは立ち止まり、振り返った。

「リリ!?」

見ると、そう、間違いなくリリが、こちらに向かって走ってくる。

「ハァッ、ハァッ、良かった、間に合った〜」

サーシャの前まで来ると、可愛らしくピョコンと跳ねた。

「驚いた。どうしたんだ、もう落ち着いたのか?」

リリは両手を胸の前で握り

「ラピスに聞いたんです、サーシャさんがモンジさんのイベントに出るって!どうしても応援したくて、今日はネカフェからインしちゃいました。今日だけ特別!」

ふふ、とリリは笑う。

「そうか、元気そうで良かった。顔が見れて嬉しいよ」

リリは顔を輝かせて「私もです!」と嬉しそうに言った。

「よくここまで来れたな?通話くれれば迎えに行ったのに」

「モンジさんのイベントスタッフが、各街にいて送迎してくれてるみたいですよ?私もそれで来ました」

へぇ、そんな事もしてるのか。さすがモンジ氏だな。

そこからイベント会場まで、リリと話しながら歩いた。サーシャはもっぱら聞き役。リリは、新しい環境でうまくやっているようだ。

「それで、部活動をどうするかって。結局、テニスにしたんです」

「へぇ···」

「母が昔やってたとかで。もう毎日アザだらけですよ!」

リリは腕を見せると、「あ、ここじゃわかんないか」と照れ笑い。クス、とサーシャも笑う。

「私、サーシャさんのおかげで、頑張れば願いが叶うって知ったっていうか、助けがあるってわかったっていうか···。頑張ってない人を応援しようなんて誰も思わないですものね」

リリはテニスのスイングをして

「昔の私がいじめに合ってた理由、なんとなくわかりました。きっともう大丈夫。サーシャさんのおかげです!」

スマッシュ!リリは笑った。

「私が出会った時には、リリはすでにそういう女の子だったよ。元々君は自分で切り開いてきたのさ」

イベント会場入り口。関係者のサーシャに、リリはこれ以上くっついていくわけにいかない。と、リリは

「あのね、サーシャさん···」

と、いたずらっ子みたいに笑い、サーシャの耳に顔を近づけた。サーシャは怪訝ながらも耳を傾ける。

「うん?」

「サーシャさん、私···本当は、男の子なんですよ?」

サーシャは目が丸くなる。「えぇぇ?」

ふわり、とその場で回転したリリは

「じゃ、サーシャさん。会場で見てます。頑張って、ネ♡」

と、ウインクしつつ投げキッス。

嘘だろ···。あれが男じゃ、私が女であるはずかない···。

ネットの世界において性別など、在って無いようなモノだ···。


闘技場。人々が自分の力の限界を見極めるために訪れる場所。

その一番高い席にサーシャはモンジと共に座っている。端から端まで、ここからだとよく見える。あちこちに、イベントスタッフが忙しそうに動いている。が、全員バニーガールだった。

「···」

すぐ横にも一人黒のバニーガールが。隠すべき場所を隠しきれない布っきれをひらつかせながら佇んでいる。

「モンジ氏、ひどい趣味だな。このスタッフ達はどこから集めてきたんだ?」

「ワタクシの趣味ではございません。皆が話し合って···。統一の外見のほうが、わかりやすいだろうという結論に至ったのです。皆、以前からサーシャさんと共に準備してきた仲間ですよ?この日のためだけに···」

モンジはすぐ横にいたバニーガールの、はちきれんばかりの乳を揺らす。

「このような見た目で新しくキャラクターを作ったのです」

バニーガールはウインクすると

「よ、サーシャ。俺だよ俺。イケてんだろ?」

と、爆乳を強調するかのように腰を折る。

「······」

サーシャは呆れて物が言えない。


「レディースアンドジェントルマン!!本日はお集まりいただき、まこと光栄!ワタクシが!桜!一文字でございます!!」

マイクで拡大されたモンジの声が、会場いっぱいに響き渡る。

モンジィー!との掛け声があちこちから上がる。

「どうぞ、みなさん、さくらいちもんじ、とお呼びくださいませっ!ーさぁ、みなさん、お待ちかね、第一回The victor of a battle···」

パン!パン!と花火の音。

最上段のサーシャのいる席から光り輝く煙幕が四方に吹き出し

「ここに!開催いたします!!」

ドーン、と会場が湧いた。


始まったはいいが、サーシャはやることがない。最後に一戦だけ、上り詰めた相手と戦うだけなので、ほぼモンジと一緒で、見てるだけ。

ギミクもいた、ガンとジープもいた。アリフィスは、きっと会場のどこかで見ているのだろう。ライトも、青い稲妻のメンバーも。皆、中々な戦いぶりだ。

だが、最後、参加者の頂点に上り詰めたのは、『黒狼』という名前の男だった。

どのイベントにも、ルールが存在する。バトルイベントといえば、1番に思い浮かぶのが運営主催の毎週土曜開催のクラン戦だが、それにはいくつか、使用禁止スキルが存在する。その一つに、スキル:クローキングがある。これは、攻撃·スキルのHIT判定は変わらずあるものの、ターゲッティングされた相手に視認されなくなるというスキルである。アクティブモンスターに見つからずに移動できるスキルなのだが、クラン戦で使えないため習得している人も少ない。

今回、黒狼はこれを使って勝利を収めた。相手が見えないのでは戦いようがない。

確かに、モンジは今回のルールに、クローキングの使用禁止を入れていない。が、暗黙の了解だろう···というのが会場の空気だった。


「さてサーシャさん。お待たせいたしました、少しの休憩を入れてからいよいよ出番ですよ」

モンジはのんびりと切り出した。

「貴方ならば、この空気を払拭してくださるでしょう?」

サーシャは短く息を吐いた。

「ヒーローになるつもりなど、ないぞ」

モンジはサーシャに向き直った。

「ですがこのまま引き下がることもなさるハズもない。英雄とは、自分で呼び始めるものではありません。周りが、目の当たりにした事実とともに囁き始めるものです」

はぁ···。セラル、お前の対価はどうしてこう高くつくのか。

「少し席を外そう。構わないか?」

モンジは満足そうに頷く。

「えぇ、30分後にバトル開始です。楽しみにしております」


両端に設けられた出入り口があき、双方がフィールドに入場した。

ワァッ!!と会場が沸き、頭上でモンジの声が響く。


「それではみなさん、大変お待たせいたしました。本日のメインイベント、頂上決戦の開始となります!!!」


目の前にシステムウィンドウを引き伸ばした画像が出現。数字が刻まれる。


 〈buff time〉バトル開始まで後00:30···


サーシャは各種補助スキルを唱える。手にする剣は大剣。鎧はアリフィスからもらった鱗がきらめくかのよう。

一方黒狼も様々なスキルをかけているようだ。


 ピィーン バトル開始!!


ザシュッ!とサーシャは動いた。ギィィィン!と剣と剣を合わす。なるほど、ここまで上り詰めただけある。強い。

ギィン、ギギギギィィィン!

双方一歩も引かない攻防。ガツ!と黒狼の剣を薙ぎ、サーシャは距離を取った。

補助スキルをかけなおそう。すると、会場がどよめいた。

見ると黒狼は不敵な笑みを浮かべつつ、その姿を消した。クローキング!

サーシャには、黒狼がどこにいるか、もうわからなくなった。周辺に目を向けつつ、剣を構える。

フッ···と、真後ろからの攻撃。サーシャは対応できない···っ!

と、バァーン!と後ろに吹っ飛んだのは、黒狼のほうだった。

どよどよ、とざわめく会場。

モンジは、ほう、と声を上げた。

「これは、おもしろい」

サーシャは、スキル:不意打ちカウンターという、あまり馴染みのないスキルを習得していた。これは、スキル習得者が気づかぬ位置からの攻撃に対し反撃を行うというスキル。一見優秀スキルだが、反撃の際の攻撃力が体術防御力と攻撃スピードの値で計算される為、習得が敬遠される。死亡コンテンツの体術に対し無駄にステータスを使うし、もし体術防御を上げずに反撃しても攻撃力がカスになるので、誰も使おうとしないスキルだった。

反撃を想定していなかった黒狼は、派手に後ろに吹っ飛んでしまった。不意打ちカウンターだと?くそが。俺に対し、ステを無駄に体術防御に振るとは、ナメてんのか。剣は、さっき斬り合った。俺の剣を受けたということは剣防御は普通にあるのだろう。削ったのは、魔法防御だな。

フン、と黒狼は無属性攻撃スキルを唱えた。燃えカスになれや···!

ドォォォーン!

キャァ!と会場から悲鳴が上がる。スキルはサーシャの体に命中した。

スキルのせいで噴煙が上がり、フィールドは一時見えなくなった。サーシャは!?

煙をかき分け、サーシャが黒狼に突進する。ザシュ!と黒狼にHIT!

えぇぇぇ!?

黒狼は混乱した。なぜ···。俺のスキル攻撃力は甘くない。魔法防御がなければ、到底耐えられるものではないハズ。一体どうやって!?

「攻撃に集中できてないぞ。理解できないと不安か?」

サーシャは言った。

「チート相手に負けても何とも思わねぇよ」

フン、と黒狼は強がる。

クックック、とサーシャは立ち止まった。

「攻撃スキルを打って見るといい。さっきのは勘弁だぞ、前が見えなくなるからな」

黒狼は距離をとってスキルを発動。罠かもしれない。警戒は怠らない。

···が、サーシャのダメージは2桁いくかどうか。

「···な?」

サーシャはドヤ顔。

「な?じゃねぇよ、ありえないだろ。お前のどこに魔防に振るステポイントがあるってんだ?」

サーシャは補助スキルを再びかけ直した。

「ステータスではないからな。私の鎧は、装備するだけで魔防がMAXだ」

「なっ···、そ、そんなの卑怯だろっ!」

サーシャは腰に手を当て深く頷く。

「全くだ。私もこの鎧を装備するつもりはなかった」

そして小首をかしげて微笑んだ。

「しかし、今回のイベントのルールに、鎧の性能制限はないのでな」

そして、サーシャは動いた。


ガギィィィン!


 勝者 サーシャ バトル終了


システムウィンドウが開く。

ふぅ、終わったか···。割れんばかりの歓声の中、サーシャはため息をついた。

次回1/28更新


ー用語解説

ステータスについて

物理攻撃、防御。魔法攻撃、防御。体術攻撃、防御。攻撃スピード、魔法詠唱スピード。物理命中率。耐久(HP)があり、各項目上限100。レベル90を超えると、レベルアップ時のステータスポイント付与が激減し、あまり増えていかなくなる。サーシャのレベルでも、すべてのステータスを上限まで振ることは出来ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ