第10話 限りある時間の消費方法
活動報告も合わせてお楽しみください!
2人はパーティ募集広場に移動し、人が集まるまでボスについて説明をしていた。
「要は化け物の親分ということだろう。だいたいわかった」
「そうだ。だが今まで戦ってきたモンスターとは桁違いだ。真っ先に近づくと危険だぞ」
って言っておいても行くんだろうな···。
そうこうしているうちにパーティは埋まった。タイトはいない。
サーシャは普通に集まってくれた人に丁寧に言った。
今回はボス戦攻略方法の指南役として自分がついていく。パーティ内にレベル差が発生する為、取得経験値はないと思ってもらっていい。それでもいい人にだけ残って欲しい。
「あの人···サーシャさんだ···」
「すげぇ、初めて見たよ俺···」
なんだか注目を浴びている気がするが、サーシャは聞こえないフリをした。
ボスも見たいけどサーシャも見たい。的な空気で、集まったメンバーは全員残った。
ボス戦中、サーシャは当然補佐に徹する。やはり真っ先に死んだカトウに蘇生を施したり、全員にATKやDEFを上昇するスキルをかけたり。なぜならサーシャが習得スキルを最大限発揮すると、どちらのボスも一発で倒してしまうからだ···。
その日は、何度もボス戦を行ったがタイトの姿は見れなかった。
カトウは「もう寝る」とログアウトした。
サーシャは念のため日付が変わるくらいまでパーティ募集を続けた。もしタイトが現れたら、うまく言って明日もパーティを組もうと思ってのことだった。だがタイトがパーティ募集をしてくることはなかった。もう寝てしまったのかもしれない。
明日は現実世界で言う日曜日。きっとタイトは現れるだろう。
翌早朝、サーシャはペット育成をしていた。手元にフレンド一覧を開いたまま。これでいつカトウがログインしてもわかる。「インしたら通話して教えて」なんて無理な話だ。カトウがログインしてきたのはなんと、現実世界でまだ4時半だった。
サーシャが、カトウのいるパーティ募集広場に移動すると、カトウはステータス画面を開いていた。
「魔法はどうやって使うんだ」
スキルか···。難しいと思ってスキルは教えていなかった。まぁいいか、こんな早朝にログインしてくるユーザーなんて廃人くらいだ。時間はある。
「大きくいくつかの種類に分けることができる。そのまま攻撃のかわりとなるもの。自分や仲間の強さを高めるもの。自分や仲間を癒すもの」
サーシャは指を立てて説明する。
「どれでも今のレベルなら1つ2つ習得できる。が、習得スキルには制限があって、現時点で全部は覚えられない。どういったものが使いたい?」
カトウは少し考えるように黙ると
「強さを高めるものがいい」
と言った。へぇ、意外だな。攻撃スキルにすると思ったのに。
スキル習得方法を教え、スキルの使い方を教える。剣で斬りかかるより、スキルシステム操作のほうがコツが必要だ。
人々が接続してくる時間まで、カトウはサーシャにMPSP自動回復をもらいつつスキルを連打していた。
再びボス攻略パーティを募集し、タイトを探し始めた。
昼過ぎになる頃、タイトはやっと現れた。
「あの···ボクもうレベル50なんだけど、いいかな?なんかサーシャさんが、ボスの倒し方教えてくれるって、フレに聞いたんだ」
たまたま、それまでパーティにいたメンバーは「昼を食う」といって全員落ちた所で、カトウとタイト以外いなかった。
「あぁ、もちろん構わない。私のレベルもひどいものだ」
サーシャはそう言うと、カトウにパーティ募集を消させる。やっと、ガキ共の遊びに付き合うのともオサラバできた···。
あとはこのおっさんか。
「レベル50ならサギタリウスでもいけるが、どうする?」
カトウはタイトの事をじーっと見つめるだけで何も言わないので、仕方なくサーシャが話を進める。
「ボクはなんでも···。いっぱい強くなって、できれば全部のボスを倒したいんだ!」
「アクエリアスとカプリコーンは討伐できたのか?」
カトウは今や、タイトにくっつきそうな程近くで見つめている。近い近い···。
不思議そうな顔をカトウに向けつつも
「あぁ!フレとね。何度も死んだよ」
と、タイトは嬉しそうに言った。
「死んだ?死んだのか?だ、大丈夫なのか!?」
カトウが叫んだ。タイトは「この人大丈夫ですか?」って顔をサーシャに向けながら(サーシャは「諦めろ」という顔を返した)カトウに答えた。
「あ、あぁもちろん。蘇生スキルは皆持ってる。ボクはアイテムで起こすけど。スキルポイント足りないんだ···」
へへ、と笑っている。
「じゃ決まりだな。サギタリウスに行こう。マップへの転送アイテムは今回私が用意する。2人共、回復と蘇生アイテムをしっかり持つこと。ボス戦の基本だ」
はい!と敬礼で返事するタイト。そのタイトを見つめたまま返事をしないカトウ。
若者の礼儀がなってないとよく言われるが、実際は怪しいものだ。
サギタリウスがいる『ケイロンの大穴』へ、アイテムを消費して3人はワープした。
「サギタリウスで危険なのは、HPバー1/4ずつに発動される『ヒドラの毒矢』だ。これが発動する時にサギタリウスの真ん前にいると命がない。立ち位置に注意して」
タイトは緊張した顔で頷く。
「儂が、儂が魔法を使うぞ。お前を強くしてやるからな」
カトウはぎこちなくスキルを唱える。タイトは
「うん、ありがとう!」
と走っていく。
走っている、聡司が、走って···!
3人はそれから午後いっぱい使って、サギタリウスだけでなくスコーピスも討伐した。
さすがにどちらもソロで倒すことは無理なので、サーシャも攻撃に加わって。たまに本気を出して1発でボスのHPバーを半分以上削ったりして、タイトを喜ばせたりした。
そうこうするうちに、現実世界の時間は夜になっていた。
「あ、いけない!もう落ちないと母さんにしかられちゃうや」
タイトはペロっと舌を出した。
サーシャはカトウの右手を持ち
「そうなのか。今日は楽しかった。また···と言いたい所だが、私も今は少し忙しい。悪いがこいつとフレを結び、面倒を見てやってくれないか?」
タイトはカトウの右手を握り「もちろん!」と笑った。
「よろしく!またあのスキル使ってもらおう、今日はなんだかすごく強くなった気がしたもの···!」
カトウはブンブン右手を振り、よろしくよろしくと言っている。
「名前···カ、カトウって言うんだ?おもしろいね?」
じゃ、とタイトはログアウトしていった。そりゃそうだ、タイトも現実に戻れば加藤。キャラ名にされていたら、引く。
ふう、と息をつくと、後ろから弱々しい声がした。
「お礼を言わねばならんようだな。儂一人ではできんことだった」
振り向くとカトウはその場に座り込んでいた。大きな体が心なし小さく見える。
「あの子は生まれつき体が弱かった。儂は···儂は、そんなあの子を理解できなかった。直視したくなかったのだろう。あの子の医療費を稼ぐため、と理由をつけ仕事に没頭していた。それがこの間、医者に言われたのだ。「移植をしなければもう長くない。が、移植は順番待ちでとても間に合わないだろう」と。金なら、必死で貯めたんだ。いくら使っても構わない。なのに金の問題じゃないという。あの子は生まれて今まで自分の足で走ったことすらない、なのにもう3ヵ月と持たないというんだ。おかしいだろう、儂はまだ、あの子と遊んだことすらないのに···」
カトウは泣いていた。
「あんなにもいい子に育っていたとは···。儂は、知りもしなかった···」
ふ···と笑い、サーシャはタイトのいなくなった場所を見つめた。
「一緒に過ごした時間の価値は、長さでは決まらないだろう。タイトはいい奴だな。貴方に、よく似ている」
カトウはその後長い間、オンオンと泣いていた。
ーあとがき
レベル差制限:パーティ内に35以上のレベルの差があると、モンスター討伐時の経験値が激減する。養殖防止の処置。
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