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3. 契約書の解読 2 ~出版契約期間~

 契約書の解読の、続きです。


 第12条 契約の有効期間(著作権法第83条関係)

 これは、出版権の存続期間に関する条項です。

 昔は、出版というのは著作者が出版社にお願いして、「出させてもらう」ものである以上、その契約の有効期間は、長ければ長いほど、著作者にとて有利(再刷・再版要求が出来るから)でした。ちなみに、出版権存続期間は3年(著作権法第83条第二項)が通常とされていますが、それ以上でもそれ以下でも、違法ではありません(同条第一項)。


 ちなみに、法律の方は。

 著作権法第83条第一項 『出版権の存続期間は、契約で定める』

 著作権法第83条第二項 『契約上の定めがないときは、出版権の存続期間は3年とする』

と、なっております。


 しかし、これが現在ではとんでもない束縛条項となっております。

 某α社(仮名)の例を取ってみると、第3条で自社Web以外の場所でのWeb公開を禁じ、出版に漕ぎ着けた結果売り上げが振るわず、打ち切りとなったにもかかわらずこの第12条の出版契約期間内であるとの理由で他サイトでの続編の掲載も出来ないのです。


 これについては、第19条の部分でもう少し述べさせていただきます。


 第13条 契約終了後の頒布等

 ……契約文言は法律用語を使う為、難しい単語ですが、「頒布」は簡単な言葉では「配布」です。そして、これには有償無償を問いません。

 要するに、出版契約が終わったにもかかわらず、出版権者側に在庫が残っていた場合、そしてこれを第三者に譲渡した場合、著作権者は著作権料を受け取る権利がありますよ、という事です。


 第14条 締結についての保証

 これは、何故このようなものがあるのかが不明。契約書それ自体が、契約内容を保証するモノなのに、その契約の条文のひとつとして、『契約締結を保証』と言われても。

 まぁ契約文化のなかった出版業界で作られた契約書だから、「契約書ではそうなっているけれど、業界慣行としてはこうなんだ!」という強弁を回避する為には必要なのかもしれません。


 第15条 内容についての保証(著作権法第86条・87条関係)

 著作権法第86条は、他者の著作権を侵害しないこと(著作権侵害に該当しない特例条項の列挙)であり、つまり「他者の著作権は侵害していません」というのがこの条項です。万一他者の著作権侵害があったら、それは著作者の責任だという事も、ここで定めています。

 そして「本著作物につき第三者に対して出版権、質権を設定していないことを保証する」。この一文。実は、著作権法第87条には「出版権は、複製権等保有者の承諾を得た場合に限り、その全部又は一部を譲渡し、又は質権の目的とすることができる」と定められているのです。「質権」は所謂「借金のカタ」です。つまり、「この契約を借金のカタにすることもないし、余所の出版社と二重契約をしている訳でもないよ」という事を条文として明らかにする、という事になります。


 第16条 二次的利用

 「二次的利用」というと、コミケなどで販売している同人誌を連想しがちですが、これは外国語に翻訳して出版する、コミカライズ、アニメ化、劇場版などのメディアミックスなどを想定しています。他メディア展開は、出版権者側が旗を振りますよ、と。


 第17条 権利義務の譲渡禁止(著作権法第87条関係)

 第15条のところで述べた、質権その他を理由とした権利の譲渡です。法で認められているからこそ、契約で禁止する必要はあるのです。但し。

 「著作者」と「著作権者」を分けることは可能です。「著作者」とは、その作品の作者の事。「著作権者」は、著作者が定めた「著作権を管理する第三者」。この場合、大抵は法人(会社)とすることになります。

 では、そういった「著作権管理法人」(プロダクション会社)を設立することは、契約違反になるのか? 結論は、あくまで「相手方の事前の書面による承諾なくして」それをすることは禁止。なら、承諾を得れば良いのです。


 第18条 不可抗力等の場合の処置

 これは、問うまでもないでしょう。けど、記載しておかなければ、例えば地震で印刷所が倒壊し、規定の期日に出版出来なかったなどという時に、誰の責任だ! という事になってしまいますから。


 第19条 契約の解除(著作権法第84条関係)

 ここに記載されているのは、あくまでも契約違反に対する制裁条項です。が、契約解除に関しては、それ以外にも著作権法で定められています。

 これは、第12条とセットで考えるべきことなのですが。


 まずは法律の条文。ちなみに「催告」とは、「契約に関し期限を定めて履行を迫る文書」と解されます。


 著作権法第84条第一項 『出版契約が履行されないときは、催告を通知し、その後に契約を解除する事が出来る』

 著作権法第84条第二項 『続編を刊行するという契約でありながらそれを怠った場合、催告を通知し、その後に契約を解除する事が出来る』

 著作権法第84条第三項 「複製権等保有者である著作者は、その著作物の内容が自己の確信に適合しなくなつたときは、その著作物の出版行為等を廃絶するために、出版権者に通知してその出版権を消滅させることができる。ただし、当該廃絶により出版権者に通常生ずべき損害をあらかじめ賠償しない場合は、この限りでない。」


 第84条第三項だけ、条文通りに引用しています。これは、法律が作られた時と現在の運用主旨が異なっているからです。

 条文の内容は、「その著作物の内容が自己の確信に適合しなくなつたとき」つまり、執筆当時と現在とでは、主義主張が異なっている場合、それを放置しておくと、『R4』(仮名)氏に国会で、自身の黒歴史を朗読させられる恐れがあるなどの理由で、「その著作物の出版行為等を廃絶するため」つまり、過去の遺物は全て焼却処分しろ、と出版権者に申し出る事が出来る、というものです。当然、それにかかる費用もあるでしょうが、「当該廃絶により出版権者に通常生ずべき損害をあらかじめ賠償しない場合は、この限りでない」その費用を負担できないというのなら、出版権者はそれに応じる理由はありませんよ、と。

 ところが。「打ち切り」の場合。出版権者側が「商品として使えない」と判断している訳ですから、出版権廃絶に関し、出版権者側に損害は発生しないのです。つまり、賠償すべき金銭はない、という事になります。

 すると、著作権法第84条第三項は、その前段部分のみが生きてきます。つまり、『著作権者は、その著作物の出版行為等を廃絶するために、出版権者に通知してその出版権を消滅させることが出来る』。まぁ勿論、その際は出版権者側も何らかの言い訳を口にするでしょうから、訴訟覚悟となりますが、それでも契約に定めた有効期間は必ずしも絶対ではない、という事は憶えておいてください。


 出版契約期間についての話で、過半を占めましたね。次回は補足事項です。

(2,774文字:2017/08/06初稿)

「一般社団法人 日本書籍出版協会」〔出版権設定契約書ヒナ形1(紙媒体・電子出版一括設定用)2017年版『出版契約書』〕(http://www.jbpa.or.jp/publication/contract.html)

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