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1. 何故契約書を取り交わすの?

 ☆ はじめに


 最近、「なろう」をはじめとしたWebで公開していた作品の、書籍化に絡む契約でのトラブルの話をよく聞きます。けれど、そのトラブルの大半は「契約書に書いてなかった」「契約書に書かれていたその条項がそういった意味とは思わなかった」などという、作家側の無理解(或いはそれにかこつけた出版社側の非道)が原因、なのです。

 では、出版契約というもののことを、一から勉強してみたいと思います。


 なお、このエッセイで参考にする出版契約書は、「一般社団法人 日本書籍出版協会」で作っている「出版権設定契約書ヒナ形1(紙媒体・電子出版一括設定用)2017年版『出版契約書』」に、その他出版社単位で独自に追加・改変されるであろう条項を加味したものです。但し、「この雛形に沿って契約がなされなければその時点で怪しい」という意見もありますが、必ずしもそうではないという事を、事前に申し述べておきます。


☆ 何故契約書を取り交わすの?


 民法には、『契約自由の原則』というものがあります。これは、「契約締結の自由」「相手方選択の自由」「契約内容決定の自由」「方式の自由」とあり、すなわち「どんな契約でも当事者間で合意したらそれは有効だよ」という意味になります。


 この、「契約自由の原則」。多くの場合問題になるのは、後半二つ、「契約内容決定の自由」と「方式の自由」です。

 「契約内容決定の自由」は、「どんな契約内容にしても構わないよ」という自由ですが、当事者の合意が前提になります。つまり、一方が求める内容を他方が受け入れられないというのであれば、契約は成立しないのです。勿論、例外もあります。

 最大の例外事項が、民法第90条。一般に『公序良俗規定』と言い、条文は「公の秩序又は善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」となっています。

 要するに、「客観的に見て異常な契約内容は、はじめから無効だよ」というものです。

 例えば、「借金を返せなければ、お前の女房を俺の妾にする」なんていう内容を盛り込んだ契約は、所謂「人身売買」に相当する内容ですから、公序良俗に反し無効、と判断されます。

 但し。「判断」するのは、司法(裁判所)です。つまり、訴訟に持ち込む覚悟が無ければ、そういった異常な契約も当事者間では成立し得るのです(裁判所に訴えない(イコール)その内容を承諾している、という事ですから)。もっとも、前述の「女房を妾に」などは刑法違反ですので、別件で司法の手が伸びるでしょうが。ただその際は、旦那の側もその契約に調印したという事で、共犯者と看做されるでしょうが。


 ちなみに、余談ですが、NHKとの契約。

 放送法第64条で、『TV等を所有している者は、NHKと契約しなければならない』と定めています。が、民法の『契約自由の原則』から考えると、「その内容では契約に合意出来ない」と反論することは、異常なことではないのです。とはいえ既に契約書に署名してしまった内容に関して異議を唱えることは、無意味ですが。


 そして、「契約方式の自由」。これが「契約書」そのものの意味なのです。

 契約方式の自由。契約は、どのような形で取り交わしても構わない。ただ、両者の合意があればいい。それが、契約の本質です。


 先日、イギリスでちょっとした社会実験が行われました。とあるWi-Fiの無料接続の「契約条件」に、「1,000時間の社会奉仕活動に従事する」と付したところ、22,000人がその契約を受託してしまった、というのです。

 この「契約」は、よくある「約款を読了することで、契約を承認したと看做す」という形態の契約で、最近のIT関係では普通に行われている形式です。その契約書《約款》を読んだか読まなかったか、それは契約当事者の勝手。けど「I agree」のボタンをクリック(タップ)してしまったことで、その契約内容を承認してしまったのです。


 同じようなことの、卑近な例。

 私たちは、「小説家になろう」でアカウントを取り、そこで執筆し、或いは掲載された作品を閲読しています。けれど、「なろう」のユーザーとして登録をするとき、「規約」に記された内容に合意した、と看做されるのです。あとになって「そんな規約の存在は知らなかった」と言っても、後の祭り。貴方は合意しているのですから、従う「義務」があります。


 そして、話は戻しますが。出版業界では、長らく契約書を交わすという「文化」がありませんでした。だから作家側から見たら、「当初の話と違う!」という事もザラにあったのです。そこで、最近になって(Web出身の、業界外の人間の流入がきっかけ?)ようやく契約書を交わすという方法を取り始めていました。


 あれ? なら、契約書の意味って?

 あくまで、「契約方式の自由」。つまり、契約を交わすにあたって「契約書を取り交わす」ことは、本来必要ではないのです。

 契約書を取り交わす。これは結局、あとになって「言った」「言わない」という問題を回避する為に、契約内容を文字に起こしておきましょう、という程度の意味しかないのです。

 そしてだからこそ、契約書の内容を吟味し、理解することは大事なのです。契約書が無ければ、或いは契約書に記載されていない内容なら、「これはこういうつもりだった」という強弁が(まか)り通ります。そしてその場合、「言ったもの勝ち」或いは「弁護士を付けて法的詭弁(きべん)(ろう)したもの勝ち」となってしまいます。


 最近書籍が発売された某なろう作家。「第二巻までは刊行してくれるっていう話だったのに、第一巻の売り上げが振るわなかったから打ち切りだって。詐欺だ!」と嘆いているそうですが、それ、契約書に盛り込まれていましたか? 営業或いは担当編集者の口約束なら、それは単なる泣き言です。契約書って、それだけ強い意味があるのですから。


 ……しまった。出版契約の話まで辿り着けなかった。

 契約書(雛形)の読み解きは、次回に廻します。

(2,423文字:2017/08/06初稿 2017/08/07誤字修正)

U.K. WiFi provider dupes customers with 'terms' binding them to volunteer July15.2017(https://www.upi.com/Odd_News/2017/07/15/UK-WiFi-provider-dupes-customers-with-terms-binding-them-to-volunteer/7541500141634/)

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