シェフトフを読み継いでいる
続 原発震災日誌④
科学に対して、私が今こうして生きているのは、科学、医学のおかげではある、70億人を突破した人間の繁殖も、この科学、医学の為せる技ではある、火打石の火から、原発の火、呪術から遺伝子操作、どれも人の科学する心が為してきたもの、その科学する心が、いつの日か、核汚染も、癌も征圧できると幻想を持たせている、
原発を許す社会と、戦争をする社会と、そこでの私とは、死の行進をする世界から逃れることはできない、カミュの反抗とは、結局は絶望の上に私を据えた、私対世界であるのだった、ムルソーの喜びが、世界からの無関心であるのは、絶望からの飛躍、存在への同化、カミュの別れの挨拶であるのだった、
続 原発震災日誌④
科学に対して、私が今こうして生きているのは、科学、医学のおかげではある、70億人を突破した人間の繁殖も、この科学、医学の為せる技ではある、火打石の火から、原発の火、呪術から遺伝子操作、どれも人の科学する心が為してきたもの、その科学する心が、いつの日か、核汚染も、癌も征圧できると幻想を持たせている、
原発を許す社会と、戦争をする社会と、そこでの私とは、死の行進をする世界から逃れることはできない、カミュの反抗とは、結局は絶望の上に私を据えた、私対世界であるのだった、ムルソーの喜びが、世界からの無関心であるのは、絶望からの飛躍、存在への同化、カミュの別れの挨拶であるのだった、絶望に私を据えるとは、たとえ日常を生きているとしても、希望と同じように、私が意識しようが、しまいが、在る絶望と言うものへの肯定、覚悟された日常であるのだった、絶望しても、笑って死んでいけるとは、この覚悟された日常であるのだった、一度、絶望に目覚めたなら、世界に対し甘やかしなどしない、はっきりと何が意味なのかを問うこととなるのだった、この問いこそが、ツァラトゥストラ、シシュフォスであるのだから、問い続け、しゃべり続けるだけ、人は喉元過ぎれば忘れる、未だ来ぬ危機には無関心、それが人の日常性、カフカの「城」のように、徒労こそがこの日常への答えであるように、問い続ける、かつて、電気料金の原発分の不払いを一人でやっていた女性がいた、ふと今どうしているのかと、
絶望に対して、生身の時の感覚こそが意味であることは、病んだ者、絶望を生きている者には解る、ここに帰ること、絶望しても笑って死んでいく人のように、
少年の日、親を愛した、青年の日、人を世界を愛した、大人になって、もう充分に愛したからと思ってみる、
人類の絶滅を望むことを希望とするなら、絶望の元凶を断つことが自然裡とは、奇形を生きる、世界の核汚染地帯での生きものたち、奇形でしか生きられない世界の動物たちからの、賢治の「いちばんばかで、めちゃくちゃで、まるでなっていないようなのが、いちばんえらい」世界が、カミユの、カフカの不条理の文学が現実のこととなり、希望を描くことこそが不条理のような世界が広がり、核汚染地帯に住む中の希望ほど不条理なものはなく、絶望とは、不条理を超えるもの、猿から人への、森を追われた集団が、他の動物のようには走れず、角も、蹄も無く、外敵に、弱いがゆえに、木の枝を振り回し、石を投げ、弱いがゆえに集団で立ち向かい、夜は洞穴に身を寄せ、そんな中、火の明るさを知り、持ち帰り、そして火は外敵を遠ざけることも知りと、絶えず外敵との戦いの中で、知識を蓄え、立って歩くことと、手を使うことと、助け合うことで、言葉を見つけ、作り、更に記憶が増えと、長い時の中で、人という私は誕生したのだった、人進化論とは、弱者が、生き残りをかけて発達させてきた形態のバリエーション、怯え、助け合い、怯え、助け合いと、集団の記憶を発達させた結果の、人の誕生、250万年前、沈む夕日に、あれは何だろうと、見つめた私が今ここに、
この私が、プロメテウス、アダムとイブの子である私が、絶望の世界を作り出し、ノアの箱舟が現実のこととなり、核シェルター、遺伝子バンクと、ips細胞と、しかし、核の絶望は200万年に渉る、善人も、悪人も、この地上に住むものすべてに及ぶもの、洪水の水が退くようには、核は無くならないのだった、
絶望が虚無へ、ペシミズムへ、嫌悪、憎悪へと、オウムのように、ポアも良いなと、実際、人間は、人間だけは、どの生物からも必要とされてはいない存在、むしろ罪深い、絶滅して欲しい存在なだけ、人類絶滅を指向する意識へ、しかし、世界、自然との共存を願うなら、人口削減計画、文化、科学の発達停止へ、
いや、増えすぎた生物は、いずれ自然淘汰へ、
本当に世界は少しも絶望などしていない、自殺していく者、殺されていく者、テロに走る者だけが絶望し、平和、正義、希望、愛、という美名のもとに人は世界に帰属し、誰一人絶望を説く者はなく、世界の作家たち、絶望を描いても、それらは理想や、希望を標榜してのもの、
シェフトフを読み継いでいる、
個人の絶望と、世界の絶望を考える、癌の場合、転移があり余命を数える者に、希望も愛もないのだった、ただ絶望があるだけ、しかし原発は、核は、一度の事故、戦争までの同じ限定的な日常であるにもかかわらず、絶望しないで居られる、直ちにではない、抑止効果としての核がと、やはり、絶望とは個人のものにしか過ぎないのか、死んでも死に切れないと考える者、いや私が死んだ後のことなど知らないと言う者、反核の流れはあるものの、世界は無知、皆世界に帰属し、忙しく生きている、私という魂を生きるものなど今やいないのだった、この核だけは、平等に、支配者も、被支配者も冒していく、やはり、世界を、今を、覚悟をもって、明晰に視るでいいのか、
Oの最期
末期にあって、不安からの逃避、死の忘却へと、女との逢瀬を続け、しかし、付きまとい、貼り付く、死というもの、何によって超えられるか、女でも、友でも、家族でさえもなく、一人対世界、私対世界なだけなのだが、この世界とは何なのか、何だったのかと、残された時間との、これは現実の死刑囚となんら変わらない、宣告を受けた者に課せられた課題、忘れていた者の宿題、死刑囚であることを忘れていて突然執行日を告げられたような、この突然の動揺を、誰かに、伝え、知って何とかと、いや、何の慰めにもならない、人に惜しまれ、看取られての死と、桜の下にての、一人での死と、自明、自然裡と考えても、残るああという感情、覚悟はしてきた、いつ死んでもいいようにと、いずれ訪れるその時をと、
が、心残りがある、残す女への、青春の日の、恋に焦れた追憶が、家族への罪意識、肉体の衰弱、苦痛とともに、不安、孤独は押し寄せ、解決してきたはずの問題が再び、この今、まだ在るこの世界、今以外、死刑囚であろうが、王であろうが、今しかない、という、余命三ケ月という今、人生八十年という今、この今が獲得されればどちらもよいだが、
Oの絶望、高校時代より語りあかしてきた、一緒に暮らしたこともあった、そのOと癌の末期を私は共有する事はなかった、Oは私を拒んだ「これは僕の死だから、入らないで」と、何の力にも成れなかった、風のように去って行ってしまった、離婚、自殺未遂、再婚、C型肝炎、肝癌発症と、享年五十七歳、Oには諦観があった、再婚後「僕は人生を切り替えたよ」と愛娘、妻のために、猛然と働き始めた、そこに蟠りは感じられなかった、インターフェロンの効果もあり、肝炎は治癒したと思われた、が十年を経ての癌発覚だった、末期のOは、私と出会った頃の、狷介孤高のOに帰っていた、「君に僕の絶望はわからない」と心を許すことはなかった青年の時、二十年の時を経て、自殺未遂を経て、解りあった、そのOが、私ではなく、家族でもなく、一人の女に末期を委ね、「絶望とは絶望なんだよ」と、
Oがもし生きていたなら、この世界の絶望に、何と答えるだろうか、若き日の絶望感で、「絶望には黙って耐えるだけだよ」と、言い放つだろうか、
Oと語ってみたい
絶望とは、個に於ける絶望がすべて、絶対無が絶望、私対世界の構図の、私を絶望の上に据えるとは、
あの世で、Hはどうしているのだろう、出せなかった手紙のあれこれ、
君はやつれてはいたが、君の心根を示す、いつもの口元をすぼめた、はにかんだ笑みで私を迎えてくれた、末期において、孤独や、絶望ではなく、出会ったものとの別れの挨拶を意味とするように、去る事の無念よりも、在ったことの充足と感謝を云い、健康な者がする死そのものや、死後などの空論を交わす事もなく、振り返れば、君と哲学の話をしたことはない、君の観念的なものへの嫌悪から、その日も、余命何ヶ月という状態を勘定に入れないで、それぞれの近況や、取りとめもない思い出話をし、多くは眼下の景色を眺めて過ごした、話が尽きた頃、では又、と普段の別れをした、そのさりげなさに私は、君が居なくなる事の自然さを受け入れた、何しろ湘南のその十何階かの病室からの眺めは素晴らしかった、君と一緒に空を飛んでいるような、大きな窓ガラスのその下には、車、人、家々、田畑、遠くには湘南の海と、房総も見渡せ、君は残された幾月かを、その景色を、人々の暮らしを、俯瞰するように見納め、一人静かに旅立っていくのだろうなと思わせた、
二十数年前、私が入院したK市の癌病棟、夜毎、その七階のラウンジには患者達がやって来た、見舞い客との団欒、患者同士の会話、そこには病院の変わらぬ一日の風景があった、ただ何組かの車椅子の老人と付添婦が並ぶ、新宿の夜景の見える窓側だけは、ラウンジの喧騒をよそに不思議な静寂が漂っていた、人が生きていることの証しのように煌くその夜景を、身じろぎもしないで、眺め続ける一群の老人たち、かつて人類の祖先が沈みゆく夕日に、不思議の眼を凝らしたように、間もなく物に帰って行く人々、その夜景を眺める姿は、人の生の残照のように、鮮やかなシルエットとなって、今も私の眼には焼きついている、




