表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

どこかの街、クリスマスイブの夜に。

作者: HAL10
掲載日:2016/12/25

大きな幸せではなく、小さな幸せのお話です。

昔から、クリスマスというものはいい出来事を僕の身に起こしてくれない。小さい頃はプレゼント欲しさに12月が早く過ぎないものかと感じていた僕だったが、それも歳が増えていくにつれ、家庭的事情からもここ数年はプレゼントなんてものは無かった。

去年は好きな子に告白して見事玉砕。

クリスマスに結ばれるなどというロマンチックな空想は、結局空想の域を出ないまま冬空に飛んでいってしまった。


そして今年。ついさっき母が出ていった。

きっかけはほんの些細なことだった。その喧嘩の最中僕は思いがけず、完全な不注意で友人とケンカをするみたいに母のことを「テメー」呼ばわりしてしまった。これがまずかったのだ。

無論、口論は激しさを増し、母は僕の態度を見て、母を母とも思っていない態度と感じ、呆れてとうとう家を飛び出してしまったのだ。


さっきまでの怒号が嘘のように部屋は急に静かになった。ついさっきとの差が部屋の静けさをより一層際立たせていた。


しかし、母も母でわるいのだ。

僕の家は片親だ。元々は両親がいたが、離婚した後母方に引き取られた。

父は子供と遊んでくれる良い「お父さん」だった。しかし、人ひとりの命、子供の将来を背負う「父親」としては褒められたものでは無かった。離婚の原因は父親のDVだったし、僕や母のためにお金を送ってくるようなこともしていない。最近新しい車を買ったらしいが、率直な感想としてはそんな高そうな車に使うお金があるならば母と僕へお金を送ってくれよ。というところだ。


そんなこんなで僕は父が嫌いだ。しばらくは会いたくない。


ところが、うちの母というのは、口論が加熱(とりわけ、母の気持ちを無下にする物言いを僕がした時)そんな事まで言うならば必死こいて金を稼ぐ必要は無い、出ていけといい、そんなに私のことが嫌なら父の所へ住まわしてもらえとコンボがはじまる。

元はと言えば僕が悪いことが大半であるし、いちいち父のことに突っかかりたくもないので大抵はスルーしている。

だが、そう何度も言われると父が嫌いな僕としてはそういう話はして欲しくなく、堪忍袋の緒が切れるというもので、今日とうとう僕はこれでもかと怒鳴ってしまったのだった。



やることが無かった。さっきまで散々声を荒らげたおかげで喉はヒリヒリと痛んでいた。つけっぱなしのテレビからはクリスマスソングとともに芸人がなにか笑いをとっている。


ふと、イルミネーションが見たくなる。僕の街に大きなイルミネーションはないけれど、駅を一つか二つ越せばそこそこのものは見れるだろう。カップルが沢山いて惨めな気持ちになりそうな気はしたが、それは考えない方向でいく。

今日は冷え込むらしいからなるべく厚着をして、お気に入りの青のコートを着て財布とスマホを持って街へ繰り出した。

飼い犬がさっきの喧嘩を心配したのか擦り寄って来たのでこれでもかと撫で回してから家を出た。


外は思っていたよりも寒かった。駅に行く途中で横切ったコンビニはクリスマスの飾り付けなどほとんどしないこの街で、唯一赤と緑の装飾で場違いなクリスマスセールをやっていた。


電車に揺られながら考える。スマホのカメラでイルミネーションは上手く撮れるだろうか?


目的地にたどり着いた。駅から出ると目の前にはまるで別の国なんじゃないかと思うくらい豪華で美しいイルミネーションが街を彩っていた。思わず出たため息は白かった。道いく人はほとんど2人1組で、まるで今から二人三脚の大会でも始まりそうだった。

パシャリ。1枚撮ってみる。案外悪くない。ちゃんとしたカメラならもっと鮮明に写るのかなぁ。次はピカピカのかめらをもってこれればいいな。



しばらく写真を撮っていた。時間が経つにつれて手先はかじかみ真っ赤になって自由が効かなくなってきた。仕方なく手をポケットに突っ込む。

同時に気づく。さっきまでいたカップルは数えれるくらいにまばらになっていた。今頃暖かい場所で美味しいものでも囲っているかもしれない。


………………だんだん寂しくなってきた。誰でもいいから声が聞きたくなった。スマホを再び取りだしたが、すっかり充電は切れてしまったみたいだった。こんな事ならしっかり充電をしておくんだった。



帰ろう。そう思った。このままいても虚しいだけだ。

僕は再び切符を買って電車の座席に腰を下ろした。改札を通る時、駅員さんに「寒い中、ご苦労様です。」と伝えた。

こんな夜に、ひとりでいる気持ちは今の僕にはよくわかる気がした。


最寄り駅に戻った僕はつい数十分前とは打って変わった殺風景な光景にため息を漏らした。さっきと同じく白かった。


帰り際、やはり目に付いたのは場違いなコンビニだった。

暖かいものが飲みたい。僕は入口に向かいドアを開けようとした。不意に、ドアを掴めなかった。ドアはぼくより先に誰かが開けたのだ。僕はそのドアを開けた本人に目を向けた。

「「あっ。」」

2人は声を上げた。バッタリ母と会ってしまった。


母の車の中でしばらくの沈黙が流れた。運転席に座った母のすぐ隣の助手席に僕は座っていた。

雰囲気は説教の時のものだった。だが、何を言おうにも切り出し口が無い。どうしようかと考えあぐねていると母が沈黙を破った。

「一つ聞いていい?」

「……何。」

「私についてきて後悔してるの?」

離婚の事だろう。「別に。」とだけ答えた。

「嫌なら嫌って言っていいんだよ」

「別に嫌じゃない。」

それは本心だった。僕は母についてきてよかったと思っていた。

けれどそれをそのまま伝えるのは気恥ずかしさもあってはばかられた。

「でも、私のこと親として思ってないんでしょ?テメーなんて呼び方するんだから。」

「だからそんなこと誰が言ったんだよ!」

車の中は嫌な空気感に包まれた。ここで僕は自分がおもっている以上に母を傷つけたのではないかと感じた。

それもそうだ。収入の少ない状態で休みはほぼ無い。そんな中家事と家計も同時にやりくりしながら育てている子供に

「テメー」と言われたのだ。親だったら誰だろうと傷ついて当然だ。


「お父さんの所に行きたいならそうしてもいいんだよ。あっちなら私よりも稼ぎはいいだろうから学校のことを心配しなくてもいいし、好きなことできるし。」

「だからクソジジイの話すんなっていったじゃんか」

母も母で僕の怒りの元をつついてくる。その名前を挙げないでほしいのに。

「なんでお父さんの話されたくないの?…だってあんたの父親だよ?」

「……そんなこと言わなくたってわかるでしょ」

「分からないよ。」母はさっきより声を大きくした。


「何でなのか分からない。たとえ親子だったとしても頭の中の出来事は全て分からない。違う人間だから、それを全部読みとれなんて無理な話だよ。」

「本当にわかんねーのかよ、少し考えればわかることだと思うけど。」

「分からない。」

僕はそこで一呼吸した。母はわかってくれると思っていた。

同じ人物のことを嫌だと思った人同士として、親子として、何故その名を挙げて欲しくないのかを。


「さっきだってそうでしょ。肝心ななぜそう思ってるのかは何一つ言わない。なんにも言わないのに、わかることなんてできるわけない。わかって欲しいなら自分の言葉で全てきちんと伝えなさいよ。」

「あぁ、もういい!!」

僕はだせるだけの大声を出した。

「さっきから全部言えとか、自分の口で言えとか、なんで言わなきゃならないんだ。そんなこと言いたくないのに。今だって何でもいえって言うくせに「テメー」って、思ったことを口に出しちゃったら散々怒鳴ったくせに。どこまで言ってどこまでがだめなんだよ。もう境界線がわかんねぇよぉ!」


気がついた時には僕は涙目になっていた。

母は「どう思ってるの」とだけ聞いた。

正直色々な感情でごちゃ混ぜになってしまって、言葉に詰まった。どう言葉にすべきかわからないというか、なんと言えばいいのか。だがもう僕は腹の底からすべて出すつもりで叫び始めていた。

「……俺と母さんは苦労してるのに、必死こいてるのに、自分だけ呑気に車買ったりして暮らしてるあのクソじじいのことを考えると、はらがたつんだよぉ!それに名前が出るだけでいつも会話が嫌な空気になる。どんな話してもそっちに頭がいって集中もできねぇ!……第一、ぶん殴られたところ見てたのに、その名前聞いて気分言い訳ないだろ。俺は母さんが何とか金を稼いでるのを知ってるから、尚更腹が立つんだ。一番嫌なのはそれなんだ」


ひとしきり言い切ったあとほんの少しの間車内は黙り込んだ。

直後堰を切ったように母は笑い出した。

「あははは、そりゃいい気しないわなぁ」

「なんで笑ってんだよ」

「……そっかぁ。やっぱりあんたは優しいねぇ。」

すると、母は僕を抱き寄せた。久しぶりの懐かしい気持ちになった。

「ははは、あんただいたいアタシと同じことで腹たってんだねぇ」

「……だからわかってもらえるかと思ったんだ。ごめんなさい」

「そっかそっか。ごめんね。私も八つ当たりになってたかもなぁ。ほんとにほんとにごめんね。

……あんたがそうおもってるならアタシ頑張れるよ。」

こういう時、親はずるい。そんなことを言われたら発端がどうであれ許してしまう。ウザかったりするとはいえ陥れるつもりは無いのだから。

母と僕はどちらも泣き笑いのようだった。

恥ずかしくもわだかまりが取れたようなそんな気分だった。



落ち着いてきた頃、母が言った。

「今日はホントはケーキも何もクリスマスらしいものは無かったんだけど、ケーキ買ってこうか」

「結構値段するよ」

「いいのいいの。今日は特別。コンビニのでいいよね?」

「…うん」


そう言って僕らはクリスマスケーキを買った。生クリームは2人とも好きじゃないからチョコのホールケーキを買うことにした。

レジのお兄さんはケーキを袋に詰めながら、「これ、明日になると半額とかになったりするんですよねぇ。あんまり言っていいことなのかわからないけど。」と笑いながら話していた。

それを聞くと少し損した気もしなくもなかったが、そのまま買うことにした。

きっと、このケーキは今日食べなければ意味が無い。そんな気がする。


もうしばらく食べてないクリスマスケーキに、僕は心を弾ませた。ケーキが食べれるなら喧嘩してもいいかもな。なんて冗談を頭の中で浮かべた。


外に出ると、空からハラハラと白い花びらのようなものが落ちてきていることに気づいた。

「雪だ……」

ホワイトクリスマス。

それは僕らの街ではほとんど起きない。人生の中でも極めて希な出来事だ。

どうせなら可愛い彼女がいたならば良かったのだけれど、本来のクリスマスは家族とすごす日だと聞く。なら、たまにはこんな夜があってもいい。

それは誰もが夢見る家族の姿とは違うかもしれない。けれども、

いつもよりほんの、ほんの少しだけ、僕は幸せだった。


車の中から遠ざかる場違いなコンビニを眺める。あのお兄さんも今日は幸せな日になるといいな。



その日、世界はいつもより少しハッピーだったかもしれない

どこか遠くの街で1人で流星を見た男がささやかに祈った

遠い空ではミサイルが飛んでいた

きっと来ないと思いながら大切な人を待つ人がいた

明日の朝のプレゼントのことを考えながら少女が眠りについた時

別の場所では誰かが愛の言葉を囁き

どこかでは銃声が鳴り

サンタクロースは空をかけていた


僕の知らない間に起こったクリスマスの出来事。

それを僕は絶対に知ることは出来ないけど、でもせめて、

この日、いつもよりほんの少しだけみんなが幸せになれますようにという願いを込めて、

僕は微かにメリークリスマスと呟いた。


僕はBUMP OF CHICKENが好きなのですが、

魔法の料理~君から君へ~

という曲にこんな歌詞があります。


"叱られた後にある 晩御飯の不思議

あれは魔法だろうか 目の前が滲む”


僕はこの歌詞がとても好きです。

多くの人が経験したことのある家庭の暖かさが詰まっている詩だと思います。

叱られたあと反省はしたし、許してもらえた。

でもどうしても申しわけなくてもどかしくて

いつもと変わらず出てきた晩御飯は暖かくて涙が出てしまう。

それは元々自分が幸せだったことを気づかせてくれると同時に小さな幸せを大事にしたいと思わせてくれます。


そもそも人々が真っ先に思い浮かぶ幸せ、

例えば『可愛い彼女とクリスマスを過ごしたい』

なんてのはそもそも『彼女がいる』という幸せを手に入れてなければ成しえませんし、逆に言えば彼女がいたならば自ずとその幸せは手に入るとも言えると思います。(都合が合わずに会えない人は多そうですが)

つまり幸せ一つ一つには「必要最低幸福量」みたいな、この幸せはないとその幸せは手に入りませんみたいなのがあってそれをクリア出来ないと次の幸せには到達できないのかもしれないですね。

幸せな人はどんどん幸せになるのに

対して幸せじゃない人は負の連鎖がとまらない。

なんてことが起こるのかも。


だからこそ僕等はほんの少しの幸せを大事に積み重ねることが必要になるんじゃないでしょうか。

いきなり大穴を狙いますと簡単に弾かれてしまうからチマチマ稼ぐってわけです。

今日は女の子に声をかけられたとか、ご飯が美味しかったとか。

そうして養われた少しのことを大切にする心は

人を大きく成長させてくれそうな気がします。

(自分はどうかは置いといて)


何だかんだ結婚だとか大金持ちだとか、大きな幸せに目がくらみがちですが、そんな人たちこそ大切にすべきなのはほんの少しの幸福だと思っています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ