ミドリ編 第11話
「お、こんなとこにいたのかよ。探したぜ」
その言葉はミドリの耳には届いていても、頭には入ってこなかったようだ。次にミドリは顔を上げると、すぐに駆け出していった。
「おいおい、せっかく探しに来たっていうのに何を急いでるんだ?あいつ」
「さあ…でも何だか真剣そうな目付きだったよ」
今は二人の友の言葉も、姿のない声も、聞いている余裕はない。ミドリはゾウの住む家まで止まることなく走った。まだ幼い一陣の風が、雨降る森を突き抜けていく。
「どうしたんじゃ、そんなに急いで」
ミドリは息を切らしながらゾウに言った。
「あした、明日の、昼に、雨が上がるって」
ゾウは髭を撫でながらミドリを見つめる。
「それは誰が言っておったのじゃ?」
ミドリは急な出来事とここまで走り抜いたせいか熱く混乱した頭の中から出会った人、話したことを順序立てて話した。
「なるほどのう、それはもしや"渡り鳥"の者かもしれんな」
話しているうちに時間の経過と共に冷静を取り戻したミドリは、それを聞いて"渡り鳥"という言葉が前にも話に出てきたことを思い出した。
(あの人たちが?そうなのかな…)
「まあ、もし彼らの言ったことなのであれば疑う必要はないじゃろう」
ゾウのその言葉を聞いて何故だか少し安心する自分がいることにミドリは気づいた。多分自分が信頼できると思ったあの二人がゾウも信じてくれるとわかったからだろう。
話が一段落すると、一呼吸置いてゾウは話を切り出した。
「さて、ミドリよ。お前はもう覚悟ができているのか?」
はっきり言って、不安はあった。ミドリはまだ自分の役割に自信を持ちきれていなかった。それでも答えは一つと決めていた。
「やるよ。僕。それが僕にしかできないことなら、僕がやるしかないから」
それを聞いたゾウはにっこりと微笑み、そしてミドリの肩を叩いて言った。
「それでは、今日はもうゆっくり休んで力をつかけるのじゃ」
ミドリは黙って頷くと、家族がいる家へと帰っていった。その後ろ姿を見送ったゾウは、一人ぽつりと呟いた。
「頼んだぞ、我が孫よ。人と神の紡ぐ新しい時代を」
その日の雨は、いつもより少し温かい気がした。