ミドリ編 第11話
その日は一日中雨が降っていた。ぽつりぽつりと地面を濡らしていく滴は、やがて水溜まりとなり、少年の表情を映し出した。
あの日も、こんな雨の日だったっけ。
ぼんやりとしていた記憶が鮮明に変わっていく。
「そこで何をしているのです?」
気が付くと、ミドリの隣には二人の男がいた。
背負っている荷物と、手に持っている杖、履き物を見たところ、どうやら旅人のように見える。今ミドリに話しかけたのは、どこか威厳のある初老の男だった。
「君はここの村の子供かな?この辺りにはここ以外に村はないのかい?」
今度は隣の男が話しかけてきた。先程の男よりかなり若く見える。
「えっと…」
ミドリは返答に困った。元々この地は自分たちの村ではない。いや、違う。昔ここにはゾウたちが住んでいたんだ。ゾウの話では、隣村があって、そして…。
ミケのいる村がある。
「多分、二つほど近くに村があると思うのですが…」
ミドリは正直に答えた。はっきり言って急に村を聞くこの男たちは怪しいと思った。しかし、ミドリは何故かこの二人を信用できた。あの以前会った女と男とは違うものを、この二人からは感じ取ったのだ。そして、再び若い男がミドリに話しかけた。
「じゃあ、昨日の地響きのことを何か知っているかい?」
この質問にはミドリは迷った。だが、もし昨日のあれが本当に水神様のものだったら、この男たちが何か手を下すのではと考えた。そして、さも知らぬふりで答えた。しかし、ミドリは初老の男の視線に、嘘を見透かされているような奇妙な感覚を覚えた。
「先生、どうなさいますか?」
若い男がもう一人の男に囁くように言った。
"先生"という言葉を聞いてもミドリはピンとくることは無かった。
「早急に向かうとしましょう」
ミドリは待って、と言いかけた。しかしそれを予想していたかのように、先生と呼ばれた男が口を開いた。
「大丈夫です。君たちとは関係のないことですよ」
ミドリは少しの間男の目をじっと見つめた。だがやはり、男の目は真っ直ぐで、信じられるとミドリは感じた。そんなミドリに男は一言告げた。
「あ、明日の昼にはこの雨は止みますよ。それでは」
そして、二人の足音は、雨音の中に消えていった。
雨が止む?どうしてそんなことを…
少し考えた後、ミドリはハッと気づいた。
雨が止み
虹がかかったその時
雨の岩戸は姿を現す。