先輩、よろしくお願いします。
卓球部は、はっきりいって地味な存在だ。
サッカーやバスケが、部活の花形だとしたら、卓球は日陰に咲く地味な雑草…
いや…コケみたいなものかも…
ぼくが、ここまで卑屈になるのには、理由がある。
なにしろ、ぼくたちの学校の卓球部には、部員が、ぼく一人しかいないのだ。
たった一人の卓球部…
それがどういうものか、おわかりだろうか?
部活の時間がはじまると、体育館はバスケ部やバレー部のかけ声が響いて、活気があふれる。
彼らの部活は、一年生から三年生まで、大勢の部員が揃って、準備体操やらランニングやらをはじめるのだ。
その片隅で、ぼくは一人、倉庫から卓球台を引き出して、文字どおり体育館の隅にその台を設置する。
壁際に卓球台を置いて、ピンポン球を壁当てするためなのだ。
信じてもらえるだろうか?
青春の活気に満ちた放課後の体育館で、一人でピンポン球を壁当てしている部活…
まさに、コケのような日陰の存在なのだ。
ぼくがなぜ、そんなにも孤独な「ぼっち卓球部」を続けていたのか。そのわけは、おいおい語ります。
ともかく、ぼくはもう毎日のように、「辞めよう」と思っていた。
ぼくの代で部がつぶれたって、かまうもんか。
そして、ついにその日、ぼくは本当に辞表を書いて、顧問の中村先生の部屋に行ったのだ。
ちなみに中村先生は、顧問とは名ばかりで、ほとんど理科準備室にこもりっきりの、実験大好きなリケジョだ。
だから、そのときも理科準備室の扉をあけた。
そしたら、彼女がいたんだ。
人体標本のガイコツのまえで、
ペンホルダー型のラケットを持って、
黒い髪の毛を後ろで束ねた女の子。
アイドルになれるんじゃないかってくらい…かわいい。
それが、美島陽毬との出会いだった。