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こぼれた魔法  作者: 亜架 耀太
第二章 森の中から
8/32

♢8♢

長い長い自己紹介。

「ふう・・・落ち着く、いい家だな」


 雷の雨が降り出す前になんとか家についた四人と一匹は、その小屋備え付けらしい食卓に座っていた。少女が同じく備え付けらしいやかんでお茶を作り、備え付けらしいカップに注いで運んでくる。

 というか、この家に備え付けられていない日用品はなかった。


「あ、ありがとう・・・。ねえ、このお茶っ葉って・・・」

「備え付けみたいです」

 恐ろしい。腐ったりしてないんだろうか。

「よし・・・暇だから自己紹介でもするか?」


 犬の言葉に、全員が賛成する。


「じゃあ、端っこから。あ、俺か・・・」


 そう言い、男が少し考えてから言う。


「俺は、星喇(せいら)。まあちょっといろいろあって家を出た。今は目的もあって旅を続けている」


 星喇はがっしりとした体形で、背丈もかなり大きい。服装は民族衣装である、薄く、透けるTシャツの下に黒い袖なしという地味なかっこうだ。


「あ、そうだ。使用魔法は“火術”だ。よろしく」


 そうつぶやき、茶を啜る。お、うまい、と呟いた。


「えーじゃあ次・・・そこの犬」

「犬じゃねえ!」


 どう見ても犬の使い魔は目を吊り上げて怒鳴ると、机の上に飛び乗った。


「俺はロンレイだ。元々は人間だったんだけどな、わけあって犬として暮らしてる。使用魔法は“変化魔法”だ、よろしく」

「変化術・・・?」

「そうだ、知らないのか。実在する、空想上の生物じゃなければ、あらゆる生物に変化することが出来る」

 

 ぱらぱらと小さな拍手。ロンレイの左目には炎を想像させるような赤い模様がついていて、それを見ると確かに犬らしくはなかった。


「ロンレイに質問。なんでそんな・・・日本刀?担いでるの?」


 ロンレイは黒い頑丈な皮のようなものを胸のところに当て―どうやら剣を入れるものを改造したらしい―背中に日本刀を差していた。


「だから言っただろう、俺はもともと人間なんだ。人間の時はいつも日本刀で戦ってたんだけどな。詳しいことは言えないが、俺が大切に育ててた犬がいたんだけど・・・、いろいろあって死んじまって、じゃあどうせ旅に出るならあまり目立たない格好の方がいいからその犬に化けて行こうってことになったのさ」


「え、犬の方が目立ちそう」

「いいやでもこいつ、あんな滑降してるの国の中でもこいつといてせいぜい三人くらいだろうからな」


 横から言った星喇はきっど、旅の最初からロンレイとずっと一緒にいたんだろう。


「あ、じゃあ次俺だね」


 兄がゆっくり立ち上がり、自己紹介を始める。


「俺は吟地紋太。最近まで街でぼろくさいカフェやってたんだけどなんかもう面倒くさくなってきたから辞めてどっか云っちゃおうかなーとか思ってたとこ、使用魔法は“内霊使い”、よろしく」


 そうは言うが、正直紋太が魔法を使うところを見たことがない。


―まあ、そういう私もなんだけどね。使ったことないの。


「じゃあ次、私いくね。えっと、吟地暖香です。紋太の妹です、使用魔法は“敵索”。よろしく」


 暖香の自己紹介は、何事もなく終わった。・・・少しむなしい。


「あ、私ですね。私は萊兎です。使用魔法は・・・えっと・・・」


 萊兎はそこまで言うと、困ったようにちらりと暖香のほうを見る。


「ど、どうしよう」


―あ、そういえば


 養子に来たばかりの萊兎の自己紹介ではたしか、


―「萊兎です、血筋で魔人の末裔ですが、魔力は使わないと約束します」

 ―魔人?


 暖香にはわからないが、普段は優しかった両親があそこまで血相を変えて追い出そうとするのだから、相当なものなのだろう。萊兎はきっと、今までさんざんなことを言われてきて、自分の正体を言えばまた何か言われるのではと怯えているんだ。


「えっと、この子の丸井は、まだ言えないです。もしも、このままずっとここにいる人たちで旅を続けるのだったら・・・いつか話すよ・・・ね?」


 萊兎は暖香をちらりと見ると、安心したように微笑んだ。

「はい、もしもその時は、絶対に話します」


 星喇とロンレイが、ちらりと目を合わせる。


「じゃあ・・・吟地兄妹はわかんないが、みんなわけありなんだな」


 その一言に、その場の空気がしんと静まる、

 外からは、ただひたすらに雨音が聞こえてきていた。

 紋太の顔が、一瞬陰る。


「なあなあ、さっきからあ、暖香と萊兎がもしもこのままずっと一緒にいるなら、とか言ってるけどさ?」

 沈黙を破ったのは、ロンレイのよく通る声だった。


「それって・・・すごくいいことなんじゃないか?」

「・・・?」


 全員がロンレイを見る。彼は、一言一言慎重に言葉選びながら言っているようだった。


「だって、まずこんな森の中でさ、一人や二人ならまだしも、五人もいっぺんに会ったんだぞ?―なんか意味があるんじゃないか・・・―と、俺は思っただけだけどさ」


 小屋の中には、また静寂が訪れた。


「じゃあ・・・みんなでここで暮らそうってこと?」

 暖香が聞いた。ロンレイが、こくりと頷く。

「いいんじゃないか?旅も続けられるなら、な。一人よりある程度人数はいた方が便利だし」


 ロンレイの意見に、星喇も賛成する。


「俺もいいと思う」


 タテューの印された手があげられる。


「私もいいと思います」

「私も」


 萊兎と暖香も、賛成する。一瞬、ロンレイの犬顔が笑ったような気がした。


「よし・・・、じゃあ改めて。これからよろしく!!」


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