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こぼれた魔法  作者: 亜架 耀太
第二章 森の中から
7/32

♢7♢

「お前たち、誰だ。どうしてこんなところにいる」


 伊達じゃない迫力をもつ男の口から出た言葉に、彼女は肩を跳ねさせる。名乗るべきか、否か。

 しかし、がっしりとした風格から出た言葉からは少しだけ、男の不器用さも感じられた。


「私とこの子は・・・、家を出てどこかへ行く。あえて言うなら・・・旅、に、出る」

「旅?」

「そうよ、なんか文句ある?」


 その場のノリでなんとなく強がってみる。


「これからどこか行くあてはあるのか?」


 予想もしていなかった男の言葉に、彼女は一瞬いい気を詰まらせる。


「いや・・・あれだ、今日は“雷の雨”が降るから、そろそろ屋内に行った方がいい。それだけだ」

「“雷の雨”・・・」


 男の口から出た言葉に、三人は思わず息を飲んだ。

 “雷の雨”。

 それはまれに、電撃系の妖精たちの気まぐれで起こる現象で、雨の中に小さな“雷の種”が混ざりこむと発生する。それを地上で受ければ感電、もしくはそこまで至らないものの、少しぴりっとしたものを感じる。


「ど、どうしよっか・・・」

「あ、じゃあちょっと一つ」


 急に手を挙げて言ったのは、後ろに立っていた兄だ。


「お前は?どっか行くあてでもあんの、それにしちゃ布団とかかついで随分旅慣れてそうだけど」


 言われてみれば、たしかにそうだ。がっちりとした長身の男の背中には、大きなリュックと薄い生地の布団が丸めて背負われていた。


「俺はたしかにずっと三年近く旅をし続けていたが、そろそろ定着した住処を作っておこうと思ってな」

「それで、なんでこんな森の中に?それにしても、住処を作っておこうとか若いのになんかおじさんくさいね」

それはどうでもいい気が。

「なんか知らないが、よく言われる。まあ、この森にその家があるからな」

「え、こんなところにあるんですか?」


 思わず聞き返した少女に、男はこくりと頷いた。


「あ、じゃあさ、俺たちもそこ連れてってくんない?」

「なっ・・・お兄ちゃん」

「だって事情はよく知らないけど、お前もその子も、家には帰りたくないんでしょ。だったら一緒に行った方がよくない?」

「そうだけど・・・」


 そう言い、ちらりと男の顔を見る。こんな頼み、図々しいにもほどがあった。

 しかし、男はふっと口の端に笑みを浮かべる。


「全然いいぞ、むしろ歓迎だ。賑やかなのは、まあ、楽しい」

「!あ、ありがとう!」


 頭を下げて、言う。


「ちょ、待て!」


 突然聞こえた別の声に、男以外の三人は思わず目を丸くした。


「え、誰?」


 少女は怯えたように言う。


「あ、ちょっと俺のこと見えてる!?ここ、ここ」


 その声は、下から聞こえてくるようだった。

 ゆっくりと男の足元を見て、彼女はまた声を上げる。

 そこには、草に埋もれそうな犬がいた。


「へえ・・・もしかしてこれ、お前の使い魔?」


 兄が言う。


「うーん・・・使い魔ではない、か・・・。まあそこらへんは後で。で、何が待てだって?」


 男の言葉に、犬(?)は尻尾をさっと振った。


「こいつら、本当にいいのか?どこのどいつだかもわかんねーようなやつらだぞ?」

「ああ、だからお前らんちにつれて行きたくないと。大丈夫だよ、俺たちの信ぴょう性は四百人いれば三百九十人一致の筋金入りだ」


 兄が、肩をすくめながら言った。

 それを聞いた男も苦笑いする。


「まあ、残りの住人が気になるところだが、そういうことだ。安心しろ、俺だって変なことさせないし、そんなことするやつらにも見えないからな」

「はっ、お前弱いくせに。まあ、いい。いざとなったら一緒に戦ってやるよ」

「弱いと言われちゃお終いだな。そうしてくれ」


―え、戦うの?この犬が?


 疑問に思いよく見てみると、犬は背中に何か長いものを背負っていた。


―日本刀・・・?


 まあいい。とりあえず、この人たちに感謝しなければ。


「・・・そろそろ危ないか。早く行くぞ」


 そういった男の後を、三人で追いかけたのだった。


 



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