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秋晴れの空の下、広がる森を少女は走っていた。
「はぁっ・・・はぁ」
一度立ち止まり、乱れた息を整えなおそうとする。
「・・・どこに行ったんだろう・・・」
彼女は呟き、頬を伝う汗を手の甲で拭いながら辺りを見回す。
「それにしても、ずいぶん深い森だなあ。さっきから走りにくいっての」
ぶつぶつと言いながらうっそうと茂った草をかきわけてみる。
「こんなところにはでっかい水たまりできてるし・・・っってうわっ!?」
いきなり茂みから飛び出してきた人が下と肩がぶつかりあい、思わず必要以上にでかい声を出した。ぶつかってきた少女は、小さな悲鳴をあげて地面にすとんと尻餅をついた。
「あ、大丈夫?」
「す、すみません・・・」
慌てながらも、会釈して立ち上がろうとする少女。
「ん・・・?」
その途端、二人の目があった。
「・・・ぁ」
一瞬、どこかでちゅんちゅんとさえずる小鳥の声が聞こえる。
「あーーーーーーーーーーーっ!いたああああ」
彼女は思わず叫び、少女の顔を指さした。その少女は紛れもなく、彼女の家に養子に来て追い出された少女だった。
「す・・・すみません」
肩を縮こまらせて言う少女に、はっとする。
「いや、こっちこそでかい声出してごめんね。それと、母さんと父さんが・・・ごめん」
「いえ!あんなの、よくあることなんですよ。しょうがないんです、血筋ですから。私がどうこうできる話じゃないんです」
無理矢理笑っていることは、誰にでもわかりそうだった。
「しょうがないって・・・。でも、家まで追い出されて」
「大丈夫です。正直せいせいしてますよ。もう何をしても何も言われませんから」
―なのに、なんでそんな辛そうな顔してるの・・・
一生懸命、消えそうな笑顔を見つめているのは正直、彼女の性格では耐えられそうになかった。
「・・・ねえ」
「・・・はい、なんでしょう」
少女が首を軽く傾げる。
「旅、しない?」
「・・・旅、ですか」
彼女はずっと、家を出たときから考えていた。もちろん彼女が家を出て行ったのは、少女を見つけるためでもある。だけど、少女を見つけてどうするんだろう。家には連れて帰れないし、親戚の家へは行きたくない。だからと言って、見つけて親の事を謝ったら帰る気も無い。走りながら、彼女は無意識に着替えやお金の入ったかばんの紐を握っていた。
―こんなものまで持ってきて・・・私、家出る気しかなかった
もう一度、肩紐を握る。家を出て、どこへ行く。あてがないから、旅に出るんじゃないか。それに、探したいものもあるから。
でも、一人ではいけない。
だから、困っている少女も一緒に連れて行く。彼女の中では、それしか考えが無かった。
あとは、少女の答を待つだけだ。それは正直、すごくこわかった。
「―行きましょう」
はっきりとした声で、少女が答える。
「旅、しましょう。私なんか足手まといになるだけだし、魔法に関する知識しかないから迷惑かもしれないですけど・・・よろしくお願いします!」
今度こそは本当に、心から嬉しそうに笑う少女。それを見て、彼女はとても安心していた。
「こちらこそ、よろしくね。私地理感覚とか全ッ然ないから、私の方が足手まといになるかも」
「いいです、二人で考えればなんとかなります。・・・なんか、楽しみですね」
ふふ、と顔を見合わせて笑う。
家を飛び出した罪悪感はいつしか消えて、旅への不安と、そして楽しみにすり替わって行った。