08
第一部、完
一晩――いや、一昼ぐっすり寝て、夜。
僕とアネットは、ホテルの屋上にいた。
夜風がほほをなでる。人間の時は凍えそうなぐらい寒かったが、今では肌寒い程度で済んでいる。
お互いに会話は無かった。会話など、する必要性が感じられなかった。
「…………で、これからどうする?」
アネットが、静かにそう問いかける。その質問に、僕は昨晩から考えていた答えを返した。
「アネットについていく」
アネットが、びっくりしたようにこちらを見る。僕は、そのライトブルーの瞳を真っ正面から受け止める。
「………本気?」
「ああ。もう決めた。僕は夜に生きる」
「本当の本当に、本気?」
「なんだ、嫌なのか?」
アネットの瞳がゆれる。
「嫌、じゃない。……むしろ、嬉しいけど……でも、」
僕は、アネットの肩を掴むと、一気に抱きしめた。
「一緒にいたいんだ。………駄目か?」
びくりと、彼女の肩が一度震え、それから大きく上下した。
「ううん。………嬉しい」
僕はアネット・グランマニエに出会い、魅せられ、血を吸われ、彼女の眷属と――吸血鬼となった。
そう。
僕は吸血鬼だ――今も、これからも、ずっと。
永遠に――生き続ける。
彼女の隣で。