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「パパ、おきて。」

氷羅の声で目覚めてしまう。

学園長に問い合わせたところ、勉学に支障がない程度ならかまわないらしい。

「…氷羅どうした?っていうか結構早起きだな。」

6時半。いつもなら寝ている時間である。

「ふふー。パパの行ってるがっこうに行くのが楽しみなの。」

…この人、3歳だよな?

「氷羅って何歳?」

「3…かな?覚えてない。」

そのとき、電話が鳴った。

「…親父ですか…。」

『今、彼女が何歳かと疑問に思っただろう?』

超能力者か!

「超能力者か!」

『心の声が漏れてる!…まあ、超能力者ですけど。とにかくその娘の精神年齢は6歳~7歳ある。天才だよ。(ブチッ)』

またいきなり…。

「氷羅?」

「ん?」

氷羅の幼い身体を抱き上げる。

「氷羅は俺がもし父親で、冷が母親だったら氷羅は幸せか?」

「パパはずっと氷羅のパパじゃないの?」

ヤバいくらい悲しそうな目で見つめられた。

目にはわずかな涙も…。

「…パパは氷羅のパパじゃないの?」

いったい…どうなってるんだ?

氷羅が俺の胸に顔を埋める。

「パパは氷羅のパパだよね…?」

そう思えば、最初っから氷羅は俺をパパって呼んでいたし…。

「…わかった。氷羅がここにいる間は、俺たちが親になるよ。」

「…パパ…大好き。」

弱々しい手で俺を包んでくれた氷羅の手には、冷の温もりがわずかにあった。



…親戚の子供だと言っているのに、周りからは変な目で見られた。

氷羅が俺と冷のことを親呼ばわりするのも大きな原因の一つだろう。

そして、さらに困ることが一つ…。

氷羅は、…俺の目から見ても人形のように可愛らしいためか、ロリコンが多発していた。

「…パパ…こわい。」

「気にしたら負けだ。」

1メートルに満たない彼女の身体をイヤラシイ目で見つめる男子生徒。

「…鬱陶しい。」

冷が久しぶりに怒っている。

そしていっさいの躊躇なしに俺に氷羅を預け、舞うように男子生徒三人を斬り伏せる。

「まだ誰か相手になる?」

さすがに剣聖に楯突く人なんていないだろう。

俺から氷羅を受け取ると、冷は氷羅の頭を撫でる。

「ママつよいー。」

氷羅の笑顔をみて、冷は目を細めた。

冷は氷羅のことをどう思っているだろうか。

本当の娘の様に接しているが、それが間違いであることを冷はわかっているのだろうか。

…俺だって、この生活を崩したい訳じゃない。

俺だって、氷羅が本当の子だったら嬉しいに違いないだろうし、氷羅は今日の朝、俺が本当の父ではないというと涙ぐんだ。

…俺は氷羅のことを何一つ詳しく分かっていない。

どこからきたのか、酷い言い方ではあるが正体は何なのか…。

「冷…大切にしような。」

「…?…うんっ…。」

冷の手の中に包まれている笑顔の氷羅を撫でて、冷と頷きあう。

氷羅…俺たちは氷羅の親になるから。



「パパ…どっかあそびに行こ?」

放課後、自宅の【ソキウス】本部にいくと氷羅がパソコンを操作しながら俺に話しかけてきた。

…天才だったな…この子。

「良いけど…氷羅は何をしているんだ?」

「ん…げーむ?」

氷羅を抱き上げ、パソコンをのぞき込むと確かにゲームをしている。

…ただし、プログラムを氷羅自身が作っていた。

「…さすが氷羅…。」

「パパ、今日ママはしごとなんだよね?」

…月曜日、冷はモデルの撮影で夜まではいない。

「ゆーえんち行きたい!」

氷羅の話によると、一回も遊園地に行ったことがないと言う。

…3歳だしな…。

3歳でここまでしゃべれる人は…凄いな。

「冷の仕事が終わり次第、3人でいくか。」

「ママもいいの?…やった!」

よっぽど嬉しいのか、俺の首に手を回して抱きついてくる氷羅。

そのとき、変な雰囲気が俺の身体を包んだ。

「…冷?」

「ほぇ…?ママがどうしたのパパぁ…?」

「いや…何でもない。」

…一瞬だけ、一瞬だけだけど、冷が俺の身体を抱きしめてくれたかのように感じられたんだ…。

「行こう。氷羅。」

「うん…パパ。」




今日、冷は距離的にはそれほど遠くない公園で撮影を行っていた。

俺はメイクをしている冷をあまり好まない。

作りもののような気がして…本当の冷じゃないような気がする。

「…っ。」

公園で撮影を行っているのは俺の知る「剣聖」の冷ではなく、雑誌上で男子女子問わず人気を集めている「モデル」の冷だ。

…冷の気持ちは分かる。

『剣聖』という立場上、誰からも敬遠される冷は孤独が怖かったのだろう。

端麗な容姿が、まだ幸いしたのかもしれない。

…八龍威駆佐は、顔や身体にある傷のせいで誰も近づかなかった。

それは俺やゼノンも同じ。

そんな俺を受け入れてくれた冷に、本当に感謝している。

…今は彼女がいなければ、俺はどうにかなってしまいそうで怖いから。


「…NEXT…来てくれたの?」

冷は俺の姿を認識すると、心底嬉しそうな声で俺を呼んだ。

「…終わったら待ってる。」

「うん…。すぐに終わるから。」

氷羅がくいっと俺の袖を引っ張る。

「パパ、みないの?」

「氷羅がみればいいよ。…俺は…。」

ちょっと気分が悪くなった。

今日もデート時のファッション特集らしく、相手役の男がこちらをみて怪訝な顔をしている。

そして氷羅の姿を確認して口をアングリと開けていた。

「…冷、早く終わらせてこいよ。」

「分かってる…。」

俺の方を名残惜しそうに見つめる冷だったが、手を振ると気を取り直したように彼女は仕事に戻っていった。



「氷羅ちゃん…遊園地に行きたいの?」

「ママとパパと3人でかんらんしゃに乗るの!」

そう言った氷羅を冷が優しく抱き上げる。

「…ずっと一緒だといいね。」

そのつぶやきは俺にしか聞こえなかったのだろう、氷羅がきょとんと冷を見つめる。

「…ママ?」

「ううん。なんでもないよ?」

ぎゅっと冷に抱きつく氷羅。

「ママ…大好き。」

その言葉が聞こえた瞬間だった。

突然の、爆音。

「伏せろ!」

俺が叫ぶのと爆炎がこっちに向かってくるのがほぼ同時だった。

急いで氷の防御壁を作りだし、間一髪のところで爆炎を防ぐ。

「な…なに?」

冷が心配そうな目で俺を見つめる。

氷羅は手放さなかったらしい。

逃げまどう一般人。

と、俺の目の前に3人、姿を現した。

「…NEXT・B・アルカディア。」

誰だこいつは…。

文字通り炎が揺らめくような髪。

中性的な顔をしたその人は、俺を憎悪の目で見つめる。

「死ね。」

そのように口が動いた、と思った瞬間。

爆音を鳴らしながら謎の男達は俺に襲いかかってきた。


誰なのかって言う問題はひとまず置いておき、男の拳を受け止める。

(まあ、強さはあまり強くなさそうだがな。)

第二人格のνεροネロが俺に話しかけた。

(俺に任せてくれないか?)

その案を承諾した瞬間、俺はスポットの外に出ていた。

「我が名はνερο。水の流れを司る。【極限の財産アクレオ・ベリクスティア】、空の曲刀!我が手に宿れ!」

何もない場所から透明に近い透き通った曲刀が現れる。

すいふうくう、仏語で世界を作っているとされる5つの属性を司るいにしえの召喚武器、【極限の財産アクレオ・ベリクスティア】。

その一角が空の曲刀【ウラノス】、だ。

それを構えて、νεροは精神を集中させる。

と、渦がνεροの周りに出来ていった。

「…空は災害を司る。」

そこから混濁した灰色の渦が多く発生し、それぞれの男に襲いかかる。

「我は王に宿る神聖なる人格。」

目にも止まらぬ早さでリーダー格に切りかかるνερο。

「神羅の伝説…ね。」

盾を構えて斬撃を防御する男の盾を斬り裂き、殺さない程度に斬り伏せる。

あっと言う間に、男達は取り押さえられていた。

「…誰だよお前…。」

男は黙り込む。

年は俺よりも少し小さいくらいの顔つきだ。

「…花鳥かとり火論かろん。…お前が永久退場させた花鳥風月の弟だ。」


花鳥火論は俺がどういう人だったのか知らないで俺の前に現れていた。

「…何で兄貴を永久退場させたんだ?」

一年年下で現在北の白虎学院に通っているという彼は、花鳥風月が家に帰ってきて引きこもっていることに困っていた。

「…お前、ネットとかで情報を集めていないのか?」

「…あんなの、信用できるか…。いったい兄貴が何をしたって言うんだよ…。」

冷が恐る恐る俺のそばに近寄ってきた。

「…花鳥風月はNEXTの前で抵抗できない私に無理矢理キスをして襲おうとした。それに【シカトリス】のリーダーの恋人だったルーチェ・スワンさんに集団で乱暴を働いた。NEXTは、私たちの為を思ってしてくれただけなんだよ…?」

それを聞いた花鳥火論は、驚愕の目で冷を見つめる。

「…嘘だろ…?」

冷の目には嘘はヒトカケラもなく、じっと花鳥火論を見つめていた。



結局、花鳥火論はうなだれたようにその場を去って行ってしまっていた。

氷羅は俺の腕に抱かれながらも眠りについている。

「…NEXT、さらに強くなったね。」

冷が俺を見つめている。

「…そうか?」

「うん。もっと…私との差が広がった。」

泣きそうな顔で冷は呟いた。

「きっと、私はもうこれ以上強くなれないよ…。きっと冬月ルナちゃんに、剣聖も交代するんだろうなぁ…。」

そんなことない、とぎゅっと抱きしめてやる。

「たとえ冷が剣聖になれなくとも、俺は冷を愛しているから。」

「それは信用しているけど…NEXTは剣聖の私を好きになったんじゃないの?」

そんな訳ない、と即答する。

でも…冷を一度失う前のνεροの言葉を冷に言うわけには行かなかった。

…俺が冷を好きでなくなると、冷の補助人格のリースは俺が次に愛した人に乗り移る。

冷はそれを知らない。

だからこそ、純粋な気持ちで俺と接していられるのだろう。

もう一回、冷をそっと抱きしめる。

誓いを再度、胸に誓って。


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