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-氷羅-

「パパ…。」

「?」

完全に夜尉葉の声ではない。

夜尉葉も周りを見回している。

振り向くと、開け放たれた練習場の門の先に華奢な少女|(幼女?)の姿があった。

服は真っ白なキャミソールで髪の毛は銀色。

目は蒼眼。肌は白く透き通っている。

「…ここって、幽霊でも出るのか?」

夜尉葉は完全に怖がっていた。

冷は失神する一歩手前だ。

…前年度みたいに泣き出すなよ?

雨が降り出した。

雷雨…だ。

警戒しながらも、少女に近づいていく。

「…誰だ?」

「…ひょうら。…パパ…。」

それだけをいうと、【ひょうら】と名乗った少女は俺に手を伸ばして…気を失った。


「年齢は…3歳くらいだな。」

夜尉葉はとっくのとうに寝付いている。

【ひょうら】…か。

いったい…何者なんだろう…。

そのとき、電話が鳴った。

手に取った瞬間、誰からかかったのか分かって噎せてしまう。

「もしもし…ウゲッ!」

『やっほー。…なにがウゲだ。』

親父でした。名前はライトゲート・アルカディア。属性は光・火・風。

アルカディア王国国王にして、全世界で強さランキング1位に入るだろうと思われている、異名【光聖の英雄シャイニング・ヒーロー】。

異名は決して冗談でつけられているわけでもないため、子供の中では親父を目標にする人も多い。

強さは…前年度の訓練からして俺の比じゃない。

国民の信用も得ているが…、俺たちの前ではかなり…子供らしい。

「で…何のようだよ。」

『ひょうら…という少女がそっちに行かなかったか?【氷】に羅刹の【羅】だ。』

「…来たよ今さっき。」

もうちょっとマシな喩え方はないのか?

『親戚の家の子だから大切にしてやってくれ。では。』

「では、で終わらせるな。名字は何なんだよ。」

『…。それは冷ちゃんと決めてくれ。(ブチッ)』

いきなり切りやがった…。自分勝手な父親だな…。

「…どうしたの…?」

冷が心配そうな顔で俺を見つめている。

「…氷羅を頼むって言われたけど…名字が分からないんだよな。」

「…涼野でいいよ。」

腕の中で眠っている氷羅の頭をなでながら冷が言った。

「…そっちの方が都合がいいでしょうし。」

氷羅の髪の毛は冷みたいに透き通っている。

「…そうだな。お休み。」

「おやすみなさい。NEXT。」



次の日、目が覚めると氷羅が俺の手に抱きついて寝ていた。

「…。」

紫玄のようで、少し可愛く思えてしまう。

「…パパ…。」

かすかに動く口。

…これからどうしようか。

「(パチッ)」

不意に、氷羅が目を覚ました。

「パパおはよう。」

「…俺?」

こくん、と頷く氷羅。

「パパ、おはよう。」

「あ、ああ…。…何で俺が氷羅の父親なんだ?」

可愛らしく首を傾げ、氷羅は俺の腕に頬を預ける。

「パパは氷羅のパパだよ?…ママは氷羅のママなの。」

氷羅は隣にいる冷にも抱きついた。

「ふぇ…。」

冷は起きていたらしい。

涙を目にためながら、氷羅を見つめている。

「ママ…何で泣いてるの?」

「…氷羅ちゃん…。」

感激してしまったらしい。

ぎゅー、と氷羅は冷に抱きつき。

「おなかすいた。」

と一言。

冷はコクコクと頷いて、キッチンに走って行ってしまった。



俺と氷羅が観戦しながら、今日の朝は冷の武器術の訓練。

冷は誰が見ようともいっさい手加減せず、夜尉葉を斬っていく。

氷羅は俺の膝の上。

サラサラとした長い髪をなでると、氷羅は子猫のように目を閉じた。

「パパ…きもちいい…。」

まるで冷だ。

冷の小さい頃はこんな感じだったんだろうなと、容易に考えられてしまう。

「もっと、なでなでして?」

「氷羅は冷を見てもどうも思わないのか?」

うん、と氷羅は可愛らしく頷く。

「ママも、おじいちゃんも、パパも強い…から、皆大好き。」

俺の母親は!?

俺の母親…もとい、王妃ガーネット・アルカディアは世界でも特に珍しい『回復能力者ヒーラー』の中でも精神の傷を回復させることも出来る。

属性は氷・闇・土で能力面も優秀で、俺の属性はほとんどが母親の遺伝だ。

剣術も強かったりする(冷には及ばないけど…)。

「がっこうに、氷羅は行っちゃダメ?」

「それは学園長に相談してみるよ。」

学園長の意味が分からないのか、首を傾げる氷羅。

「俺たちの通う学校で、一番偉い人のことだよ。」

「けんりょくしゃって、言うんだよね?」

親父…変なこと吹き込んだりしてないよな?

「…。」

何も言えなくなって冷達の方に目を向けると、夜尉葉がちょうど膝をつくところだった。

「…痛い…。」

「でも、結構強くなったね。」

「そう…かな?」

冷が優しく夜尉葉の頭をなでる。

「きっと、私たちがいなくても貴女達で【ソキウス】を継いでね。」

「そんな…。まだ先輩方はどこにも行かない…。」

万が一のことがあったらね、と冷は微笑む。

冷も薄々感じているようだ。

ゼノンの元に属性宝が手渡されていることから、何かが変わっていることを。

「私は将来、NEXTの妻になるからね。…NEXTに何が起こるのか私には分からないけれど、私はNEXTについていくって決めたの。」

…。

夜尉葉は、心配そうに冷の顔を見つめるばかりだった。



午後。

「夜尉葉…今から買い物出かけるけど、夜尉葉もいくか?」

「…私はいい。…今日だけ、α組の寮に帰って考えてもいいかな?」

明日には帰るから、と夜尉葉は俺に言う。

…冷のことを、尊敬してるんだな、と思った。

「巫女である私に、兄貴でさえ家の中では厳しく接していたけど、冷先輩とNEXT先輩だけが、私に今優しくしてくれているんだ。…私は冷先輩が私を信用してくれるまで、強くなっていきたい。」

「…夜尉葉。無理はしちゃダメだぞ?」

そんなことを言ってくれるのも先輩だけだ、と夜尉葉は苦笑する。

「…行ってきます。」

「…行ってらっしゃい。」

夜尉葉の後ろ姿はかなり寂しそうだった。

「…ごめん、送ってもらってもいいかな?」

頷くと、夜尉葉は心底うれしそうな顔をする。

「行こっか。」


「振り落とされんなよ?」

「了解です。」

夜尉葉が俺の肩にしっかりと手を回す。

「なあ…夜尉葉。」

「ん?」

「学園生活は楽しいか?」

「…【ソキウス】以外は、あんまり楽しくない。」

それが本心なんだな、と思う。

俺がいるクラスは100%【ソキウス】の人だから楽しいけど、ほかのクラスを見るとあまり楽しくないように感じる。

「先輩のマークしている人に話しかけてみた。」

「ん?結構勧誘されるんだろう?容姿もいいから、人気も高いんじゃないか?」

「うん。でも、皆断ってるんだって。みんな大きなアライアンスに入りたいって言ってた。…私たちが羨ましいって。」

別に加入させてもいいんだけど、まだ有能な能力かどうか判断が付かないからな…。

「今度、一回そっちのクラスに行っても良い?」

「…いつでも来て。…紫玄ちゃんがどんどん暗くなって行ってる。」

紫玄…大切な妹なんだしな…。

そのとき、俺のバイクに向かって一台の車が突っ込んできた。

「!?」

夜尉葉が目を見開く。

間一髪でよけると、その車は鋭角ターンをしてこちらに向かってくる。

「くそっ…!」

アクセルを蒸かし、出来るだけ急いでその車から逃げる。

「…完全に先輩を狙ってる…。」

「急いで【ソキウス】全員に連絡を!」

こう言うときのために嵐草は緊急用ボタンを俺たち一人一人の携帯端末に仕掛けている。

前年度の教訓なのだろう。

カーチェイスを日本でするのか…。

とたん、後ろから金属のへこむ音がした。

「邪魔。」

ダウンファールがフロントに着地したのだ。

暴走する車にいっさい振り回されず、重心移動を行って彼は大きな鎌をエンジン部分に突き降ろした。



パトカーが到着する。

車に乗っていた男三人組は「能力機関生」なら誰でもよかった、と供述。

【ソキウス】の証拠動画により、検挙された。

「…去年はこんなことなかったのに。」

氷羅を連れた冷が、すぐやってきた。

「…パパ、だいじょうぶ?」

「ありがとう、氷羅。」

「心配したんだからね。NEXT…。」

冷が俺を抱きしめる。

やさしく抱きしめ返し、冷の方を向いた。

「これが何を意味するのかは分からないけど。」

「…きっと偶然だよ…。」

「さあな…結果には、必ず原因が存在するから。」

冷は半泣き状態で俺を見つめる。

「…気にしても仕方がないよ。…夜尉葉を送ってからすぐに買い物にいこう?」

「またこんなことがあったらどうするの?」

氷羅も俺を心配そうに見つめる。

「パパ…一緒にいようよ…。」

「じゃあ、俺が夜尉葉を寮まで連れていくことにしようか。」

そう申し出たのはダウンファール。

「それで夜尉葉も良いな?」

「ダウンファール君はなんで動じないの?」

「俺とゼノンは今まで狙われたことが何回もあるから。」

冷の質問に、ダウンファールはさらっと答え、氷羅の姿を認識して口を開けた。

「…何時の間に生まれた!?」

「親戚の子供だよ。」

冷が氷羅をかかえる。

「で、でもNEXTのことパパって…。」

「そう認識してるみたい。」

氷羅が輝くような笑顔でダウンファールを見つめる。

「お兄さん、よろしくね。」



「全く…バイクの上じゃなかったら止められたのに。」

「NEXT…。もう、私の前から消えないで…。」

夜。冷が小さい娘のようにソファに座っている俺に抱きついてくる。

「…まだ冷と結婚していないのに、死ねるかバカ。」

「バカでも良いもん…。NEXTさえ私のそばにいてくれれば…。」

氷羅を寝かせ、俺がリビングにいてくつろいでいると冷が抱きついてきた。

「アルカディアで結構そういうのあったから大丈夫だって…。一応、シルバ、ブライア、タイガを明日からここに呼ぶけどさ。」

それを呼んだのは冷だ。

そんなに心配しなくてもいいのに。

何のために戦闘訓練を行っているのか、わからなくなるだろう?

「もっとNEXTを感じていたい…。」

よく見ると、冷は俺のジャケットを羽織っていた。

「何着てるんだよ…。」

「ちょーだい。」

…。

「ええ…。ヤダ。」

「むぅ…。いいでしょ?」

「いい匂いがする…。」と言いながら可愛くねだってくる冷。

「全く…。今日だけだぞ?」

「うん!」

羽織ったままの冷をぎゅっと抱きすくめる。

「…NEXTぉ?」

「狙われていたのが俺じゃなくて、冷だったらって思った。」

もう一回、冷を失うことになんてしたくないから。

「私は…死ぬまでNEXTのそばにいるの。死ぬならNEXTに殺されたいって思うくらい…一緒にいたい。」

「…冷を殺せる訳ないだろ。」

冷が首を振る。

「本当に、私が死にそうになったら、NEXTが私を…お願い。これだけは譲れないの。…最後まで自分の大好きな人の手の中で天国に行きたいから。」

「…。」

無理に答えなくて良いよ、と冷は笑う。

「私たち、長生きできるかな?」

「出来ると思うよ。…争いごとさえ起こらなきゃね。」


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