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‐護る理由‐

モニターには[全国成績ランキング]。

そう映し出されており、モニターの近くに学園長は立っていた。

『1000点を満点として、点数化されてある。』

「結構、すごいんだね。」

紫玄しげん雨海みうがそばに来ていた。

「…お粗末な点数でも、バカにするなよ?」

「1位ですもの。そんなわけありませんよ。」

雨海…優しいなお前。

『1位はご存じの通りNEXT・B・アルカディア。点数、996点。』

996点!?

隣を見つめると、冷は口をパクパクさせていた。

『異名、【神羅しんらの伝説】だ。』

たいそうな名前…。吃驚するなこれは。

『ちなみになぜそう名付けられたかはSAS(特殊能力協会)の役所で聞ける。あと、外国語読みもSASで聞ける。』

微妙な豆知識どうも…。

次々と名前が読み上げられる。

ほとんどは【ソキウス】のメンバーだったが、知らない人も何人かいた。

皇羅おうらは3位だったが、天王子学園の生徒ではないためにスルーされた。

「【細氷さいひょう剣姫けんき】だって。細氷って何?」

ダイヤモンドダスト、と答えておく。

やっぱり…冷にはそんな名前の方がふさわしい…かな?

「【追い来る爆炎ばくえん】…どういう意味?」

英語にしたらLASTのは…『チェイサー・オブ・ブレイズ』といったところか?

紫玄たちも推薦入学した人たちは簡単な異名をもらっていた。自分のステータスをわかってもらえるように、かなり長いのもあったが…。

紫玄は【焔氷えんひょう雷鎖らいさ】。雨海は【あお歌姫うたひめ】、夜尉葉やいばは【聖魔せいま巫女みこ】…。

…豪華でいいな…。

去年の俺は【銀色の氷】だったからな…。

「…【月夜の剣姫ムーンライト・ブレイドプリンセス】だったよ。」

「なんでわかるんだよ。」

冬月るなが俺を小馬鹿にしたような顔で答える。

「ケータイでSASに問い合わせた。通知でも届くんだって。」

「へいへい…。」

「ちなみに、由来は私の名前と掛けたのと、最後の戦闘訓練で私が夜に一番迅速に動いていたことらしいよ?」

そんなこと聞かれても知るか。

「あの…舎弟の件はどこに行った?」

「…【ソキウス】に入れよ。」

夜尉葉が顔を真っ赤にした。

「ほ、本当?」

「…巫女専用技以外にももっと強くしてやるから、入れ。強くなりたいんだろ?」

「うん。」

彼女は、年相応の女子のような声で返事をする。

「…なら、毎日朝晩は俺と冷の特訓な。…もちろん、俺の家に泊まり込みで。」

「こ、殺される…。」

夜尉葉に呟かれた。



「は…ふぁ。」

もうそろそろ歓迎会も終わるという頃、紫玄が俺に寄りかかったまま眠ってしまった。

さすがにもう夜尉葉や紫玄に言い寄る人はいない。

紫玄の背中と膝裏に腕を回し、彼女を引き寄せながら抱き上げ…つまりお姫様だっこをする。

「全く…寝るなら寮で寝ろよ。」

(呼んだか?)

呼んでない。

「ごめん、雨海。紫玄の鍵、代わりに開けてくれるかな?冷は先に駐輪場で待ってて。」

「それなら私が車を用意しますよ。」

タイガが言ってくれた。

「…ん、頼む。」

「本当に、紫玄ちゃんのことを大切に思っているんですね…。」

雨海が質問をしてきたから、答える。

「そうだな。…たとえ血が繋がっていなくとも、兄妹という関係になって半年だとしても、紫玄は俺の大切な家族だからな。」

俺を挟んだ隣で夜尉葉が顔を俯かせた。



「…おい。誰がリムジンを用意しろと言った?」

タイガが用意してきたのは、10メートル級のリムジンだった。

「しかし…、冷様、NEXT様、雨海様、紫玄様、夜尉葉様の5人ではいつもの車では…。」

夜尉葉は5聖家の出身だから動じないのは当たり前なんだろうけど、…雨海!なぜ動じない!?

「…もう何でもいいや。」

「ちょっと…大丈夫?」

紫玄を取り落としそうになった俺を冷が支える。

ちなみに、紫玄は気持ちよさそうに俺の首に手を回していた。

「雨海…なぜ動じない?」

「え?…財力はあると言ったはずですよ?」

…お金持ちの家の出か!

しかも美少女で推薦入試成績1位通過か!

なのにそんなに素直なのか!

知力も財力も権力も魅力もあるのか!

…自分が惨めで泣きたくなってきた。

「…【ソキウス】に入れるくらい…。先輩の気が引けるくらいになったら、すべてを教えますから。待っていてください。」

そういえば…。

「なあ、雨海って何で【蒼き歌姫】になったんだ?」

「…それも、戦闘訓練の時に観戦していただければわかると思います。大した能力ではないとは思いますが…。」

そんな意味深なことを言われ、少し考えるも何もわからなかった。

戦闘訓練のとき、去年は知らなかったが違う学年の人は自由参加で観戦ができるようになっている…らしい。

…マークしていた7人の観察に良さそうだ。

…3人はすでに【ソキウス】に入ってくれるがな。



「寝る前に、今年の予定を確認しよっか。『三人』で。」

…舎弟ができました。

「…そうそう、夜尉葉。少しはその男勝りな口調、控えろよ。」

「…ゆっくりなおしていく…。」

緊張してガチガチの夜尉葉。

その頭に手を置く。

「緊張しなくてもいいのに。」

「…ちょっと無理っぽい…です。」

そんな彼女をひとまず放置し、予定表に目を走らせる。

…戦闘訓練は1ヶ月に一回か。

夏には臨海学校…という名目の自由参加制旅行があって、1年と2年の交流的なイベントも多いな。

…そして秋にはアビリティー・グランプリ。略称AG。

決して銀のことじゃない。

冬は…冷の剣聖防衛戦。と、去年と同様ICONでの強化合宿。

「こうやってみると、今年は楽しそうだな。」

「そうだね。…去年はあんまり目立ったイベントはなかったからね…。」

あったとしたらあの合宿くらいか。

冷と二人で今年も散歩に行けるかな?

「…よし。」

冷が椅子から立ち上がって、怖いほどの笑顔で夜尉葉を見つめた。

「夜の訓練、しよっか。」



「き、鬼畜だ…。」

1時間後、へとへとになって観察していた俺のそばに来る夜尉葉。

その名前の通り、夜尉葉は重量軽めの日本刀を使うようだ。

…戦い方も無難でいい。

「まあ、あれでも本気に比べたら10パーセントの力も出していないだろうさ。」

「…先輩、よくつき合ってやれるな…。」

尊敬の眼差しで見られた。

一方、冷はというと汗一つかいていない。

余裕そのものの顔で水を飲んでいた。

ここは別荘の一角にある練習場。

「どっちの意味でだ?」

「…剣聖と付き合っていたら皆に遠ざかれないか…?あと、この訓練だよ。」

まあ、夜尉葉がそういう思いを抱くのも当たり前だろう…。

でも、俺はほかの人がなんと言おうと関係ない。

何でかって聞かれたら、答えることはできないけど、冷は見た目に反して精神的にすごく弱かった。

…俺とLASTの性格かもしれないな。

俺は氷の剣聖を婚約者に、LASTは炎の銃聖を婚約者に…か。

「俺は、冷と一緒に居たいから一緒にいるだけだ。周りの人なんて関係ないよ。」

そう答えると、夜尉葉は考え込むように頭を傾げる。

「そうか…。私ももっと精神的にも強くならなきゃダメだな。訓練は?」

「冷は俺と訓練するとき、いつも本気だぞ?俺とは武器の種類が違うからな。」

俺はふつう、軽量化に軽量化を極限まで重ねながらも威力に問題を出来るだけ無くす…そんな改造したハルバードを使っている。

ハルバードとは、槍にオマケとして斧がついた武器だ。

俺はスピード特化だから、貫通性の高い武器を使っている。

「そっか…。やっぱり先輩たちは強いな。」

そういうと、立ち上がって夜尉葉は再度、冷に向き合った。

結果は変わらず、ボッコボコにされたけど…。



夜尉葉にはゲストルームを一室貸すことにした。

冷はなぜなのか(多分寂しいからだろう)一緒に寝たがったが、さすがに却下した。

「…冷、やりすぎだ。夜尉葉が痣をさすってたぞ?」

「痛みを知らないでどうやって成長していくの?」

質問に質問で返される。

「…でも、あれは…。」

「NEXTの推測通り、私は10パーセントの力も出してないんだよ?」

俺が何も言い返せないのがわかると、冷はため息をついて部屋の明かりをおとす。

「やっぱり、私って強すぎるのかな…?」

「うん。…でも、お互い様だろう?」

歓迎会の闘争からもわかるとおり、俺は冷とは逆に能力面…で秀でていると思う。

「NEXTはどうして強くなりたいって思ったの?」

「…守るべき対象が居るから。」

別にカッコつけているわけじゃないけど、単純にそう思った。

冷も、華琉はるも冬月も愛もシャロンも…ほかの【ソキウス】メンバーも、全員守り合って行きたいと思ったにすぎない。

父親はそうやったと思うから。

「そっか…。私ね、ただ中学生の時に剣道をしてたらLASTらすと君にスカウトされただけなんだ…。」

…そう、冷の剣の師匠は俺の双子の弟、LASTだ。

正直言ってかなり強い。

本当はLASTが剣聖になるべきなのに、彼は自分の名誉よりも見ず知らずの少女を育てることに身をゆだねた。

…俺よりよっぽど偉い弟だ。

「…今はNEXTの隣で戦えるような人間になりたいから、こうやって強くなろうとしてるんだよ?」

冷が俺を強く抱きしめる。

…いつもしていることのはずなのに、今日は変に鼓動が早くなる。

背中に柔らかい感触がした。

「…胸、育った?」

俺の言葉に冷が脱力した。

「もう!真面目な話をしてるのに!…ちょっと大きくなった。」

それでも律儀に答えてくれるんだな。

俺が抱きつき返すと、冷は安心したように静かに息をする。

「…でも、こうやってふつうの話を出来るのも、きっとNEXTのおかげだね。」

「…せめて仲間のおかげだって言ってやれよ…。俺はそこまで万能じゃない。」

みんなの思っている万能な人間なんていうものはどこにも存在していなくて。

俺はただ、自分の彼女一人を守るためにほかの人間を切り捨てちゃうような弱い人間だから。

「…もっと強くなるから。」

「わかってるよNEXT。…おやすみなさい。」


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