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‐ヤイバとイクサ‐

「ゴラァー!そこ騒ぐな!」

日暮先生が喧嘩を始めた新入生を叱っている。

…なんか、デジャビュ。

去年の俺たちと同レベルか、それ以上のうるささに吃驚した。

「…やっぱり、小規模のアライアンスも勧誘にきてるね。」

いつのまにか俺と冷の隣にいた冬月が、呟いた。

「…こんばんは。」

昨日あんなことがあったというのに、冬月はいつもと変わりない。

「お、おう。」

「ふふ、…どうしたの?」

さすがに、冷の前で昨日起こったことをいうのは…ちょっとな。

「そういえば、マークしている人って、いる?」

「一応、紫玄と流華ちゃんを含めて7名。」

誰か教えて、と冬月が言ってきた。

「詳しい情報を探してくる。きっとNEXT君の目に留まった人たちだから、アライアンスの勧誘に惑わされないとは思うけど。」

冬月と歓迎会を少しだけ周り、7名を指さしで教えた。

…どの人も人気は高いようだ。

幾鎖いくさろん水輪みわ小波こなみ天鵞絨てんがい雨海みう八龍やりゅう夜尉葉やいば楓鳥かえで紅葉もみじ関帝かんてい紫玄しげん秋風あきかぜ流華るか…。名前は把握した。」

…お前は鷹梯先生か。

そしてノートパソコン…いやネットブック?を取り出してなにやら打ち込んでいく彼女。

次々にデータ化されている。

…冬月って、こういうことも出来るんだな。

嵐草らんそう君の手伝いをしてるから。」

嵐草らんそう夏羅げら。【ソキウス】の指令塔…のはず。

「そうか。」

ちょっと覗いてみる。文面が目に入った瞬間、飲んでいた炭酸飲料を吹き出してしまう。

『天鵞絨雨海:性感帯…耳』

思い切り頭をはたいてしまった。

「おまっ…見損なったぞ!?」

「…でもこれはたぶん事実。」

事実とかどうでも…いや良くないか。

「ちなみに…私のは首。」

「…オマエ、シニタイノ?」

「いえいえ、そういう意味では。」

冬月がさらっとスルーした。

「じゃあ、私はこれで。」

手を振ってどこかに向かおうとする冬月。

「おい…。」

振り向いた先に、冬月はもういなかった。


「だから、しつこく寄るなと言っているんだ!。」

冷を捜していると、大勢の男子に囲まれて吠えているボーイッシュな女子が見えた。

赤髪碧眼ウルフヘアーのその娘はたしか…八龍夜尉葉。

八龍!?

「…男勝りな夜尉葉の口調にはいつも悩まされるな。」

後ろから声がして振り向くと、八龍やりゅう威駆佐いくさという、【ソキウス】の攻撃隊長がいた。

顔や身体には傷が無数にあり、端から見ると『ヤクザ』にしか見えない。

「…あれ、八龍の妹か?」

「左様。」

どこの時代劇だよ、と突っ込むのは心の内だけにとどめ八龍に話しかける。

「それならオーラがほかの人よりも濃いのは当たり前か。」

「フッ…どうだか。」

八龍が鼻で笑った。

「…あれは俺の完全劣化版だ。」

アレハオレノカンゼンレッカバンダ。

八龍がそんな小馬鹿にしたような声を出したのは初めて聞いたような気がする。

「まあ、…八龍家で唯一生まれた一人の娘だから皆甘やかしてるんだろうけど、…個人的には関帝紫玄くらいには強くなってほしいものだ。」

思った言葉を口にしてみる。

「…お前の家の人の名前って、皆物騒なのか?」

「…八龍家のしきたりの一つだ。三文字の漢字。関帝家と同じように、婿養子やそういう類の場合は完全に改名させる。…俺は威駆佐、妹は夜尉葉、父は…護烏磨ごうま。」

物騒だった。

何でも、八龍護烏磨さんは不動明王が持っている、悪魔を打ち負かす剣、『降魔剣ごうまのけん』を由来にしているというからなおさら物騒だ。

「だから、言い寄るなっていってんだろ!」

…これは助けた方がいいのか?

「…妹は俺は好かないから、煮るなり焼くなり犯すなり好きにしろ。」

思わず頭を殴ってしまう。

「…それは言い過ぎじゃないか?」

八龍は俺が本気で怒っていることを察知したらしい。

「…すまなかったな。…でも、本当に俺にとってはどうでもいいんだ。」

それだけいうと、八龍は人混みに紛れていった。

…秋風兄妹や俺と紫玄と真逆の関係か…。

とりあえず、夜尉葉ちゃんを救いにいくか。

「お前等…離れろって言ってるんだよ!」

「強がっちゃって…俺たちのアライアンスに入るんだったら許してやるよ。」

夜尉葉ちゃんが首を振る。

「私はもっと強いアライアンスに入りたいんだよ!」

「…何だと…?嘗めてんのかアマァ!」

男が夜尉葉ちゃんに殴りかかろうとした瞬間に、二人の中に滑り込む。

「はいはい。ストップ。」

「邪魔すんじゃねえ!」

「五月蝿い。」

激昂する男をまっすぐ見据え、いう。

「話があるなら表で聞こうか。…俺は今最高に機嫌が悪いんでね。」


表で聞くことになった。

喧嘩はあまり好まないが、それ以上に俺はこの人たちが気に食わない。

「…名前は?…在校生代表の人だろう?」

夜尉葉ちゃんに聞かれる。

「…そのうち分かる。」

「そうか…。私の名前は八龍夜尉葉だ。」

「うん、知ってる。」

そういうと、変な顔で見つめられた。

「…お前もストーカーか?」

「…夜尉葉ちゃんの兄本人から聞いたんだよ!」

ちゃん付けはやめろ、と彼女は言った。

「あの人たち、しつこかった。」

「知ってる。」

夜尉葉を一応後ろに下がらせ、男たちと向き合う。

「NEXT・B・アルカディア…。いつまでも俺たちの邪魔をしやがって…。」

「女子にしつこい人はモテないぞ?」

「うるせえ!」

挑発したら見事に乗ってくれた。

「おー怖い怖い。」

「…全国一位の成績で一年生を終わらせ、全国一位のアライアンスを率いてるからって調子に乗るなよ…?1対1なら不利かもしれないけどな、こっちにもダチはいるんだよ!」

完全にほめてくれてるよね。

…多人数戦のほうが正直言って得意なんだけど…。

そして夜尉葉がこっちにキラキラした眼で見つめてきたのが分かった。

「手加減、無しでいいな?」

翼を展開させ、構える。

こんな奴、皆に比べたら屁以下なんだ。

…見くびるなよ…。

何の合図もなく、1対8くらいの喧嘩が始まった。


某プロの某巨人ヒーローは最後に必殺技とかを出すけれど、そんなことはいっさい気にしなくてもいいよね。

(…雑魚退治か?)

お前もひどいな…νερο。俺もそんなこと言えないけどな。

(まあ、オツェアーノ覚醒の訓練台にはちょうどいいんじゃないか?)

生身で戦えるよ…こんな物。

(そうか…?まあ、俺はお前が強い敵と戦うところしか、見てないからな…。俺はここでゆっくり観戦しておくよ。)

そうしておけ。

構えて目を閉じるだけで前後左右、360度周りがどういう状況かは把握できる。

前2、後2、左2、右2か。

オーソドックスなリンチの仕方だな。

…きたな。

周りを取り巻く‘気’のわずかな変化。

たぶん、誰かが合図を出したな?

足音でだんだん近づいてくるのが分かる。

…今だ!

残り1メートル、というところで開眼し、膝を折って翼をはためかせ、一気に飛び上がる。

翼の効果で一気に突風が発生。

しかもそれは内側に引き込むものだから8人は激突、悪態をつきながら俺を見上げることだろう。

「そのときを、待っていた。落災氷牙らくさいひょうが。」

無数の氷柱が、8人のいる一帯に降り注ぐ。

戦闘…終了。

(さすが…どこまで行ってもスピード重視。去年のはじめよりも数倍強くなってるな…。当たり前か。)

戦闘も早く終わらせたいからね。仲間との時間以外の無駄な時間は少ない方がいいかな。

(そうか…おやすみ。)

νεροがいなくなり、おかしくなって笑いながら後ろを向くと、

「(キラキラキラ…)」

夜尉葉に、凄くキラキラした目で見られていた。

「…あんなに早く8人と渡り合えるの、始めてみた!」

…変なことに巻き込まれるフラグ、発生。

「し、舎弟にしてくれ!いやしてください!」

シャテイって何?銃の最大有効範囲のことかな。

(…νεροの一般常識こーなー。シャテイとは、校舎の『舎』に『弟』と書いて弟分のことを指すよ☆)

気持ち悪い紹介の仕方はやめてくれ…。

「…?」

「パシリでも何でもするから!私をもっと強くしてください!」

…面倒なことになった。

「いや…俺は…。」

(努力で強くなってないからな殆ど。)

痛いところを突くなνερο!

…そう、気持ちで強くなってきたようなものだ。

「それとも…やっぱりこの話し方がダメなのか?」

全然違うところで勘違いされてる…!!

…ちょっと彼女を変えてやるか。

「何でも言うことを聞いてくれるんだな?」

「もちろんだ!…いかがわしいことは、極力やめてほしいけど…。」

…やばい。無性に抱きしめたくなった。

「…冷と【ソキウス】の4本柱に相談する。」

俺だけでこれは決めてもダメだろう。


程なくして、冷がこっちに向かって走ってきた。

「おっとっと…。とーちゃく!」

「…そんなに急がなくても。」

冷が苦笑しながら夜尉葉の方に目を向ける。

「この娘が舎弟になりたいって言ったの?言わせたんじゃなくて?」

お前…俺を信用しろよ…。確かに信用できないかもしれないけどさあ…。

「私は八龍夜尉葉という。…先輩の強さに惚れた!」

次は冷が八龍!?と驚く番だった。

「八龍…ね…。」

きっといま、冷の頭にはヤクザみたいな男の顔が浮かび上がっていることだろう。

「…私の名前は涼野冷。NEXTの彼女で剣聖。よろしくね?」

剣聖、という言葉を聞いた瞬間、夜尉葉の顔が一気に緊張を帯びたものに変わる。

「…ほらね。これがふつうの反応。」

冷が小さく俺に言った。

「…舎弟…かあ。でも、実際強くするためには【ソキウス】の中で訓練を積まないと意味ないし…。NEXTにはそんな暇もないでしょ?」

確かに…なくなるな。

そのとき、俺たちのそばで次元の歪みが起こり、その中からゼノン、神鳴、LAST、冬月の4人が姿を現した。

…やばい。『レイカー』で見ると後ろの景色は完璧になくなるくらいのものだ。

ちなみに、自分のオーラは見えない。

「で、そんな技いつ開発したんだよ?」

「これか?『万物の門ユニバース・ゲート』。…ほら、前年度の最後の戦いで俺たちが駆けつけられなかったから、せめて俺たちだけでも転送する技が必要だな、と思ってさ。」

ゼノンが答える。きっと花鳥風月戦のことだろう。

…本当にお前等、仲間思いだな…。

「まあ、その話は置いておいて。兄さん、その八龍夜尉葉ちゃんが兄さんの舎弟になりたいって?」

「…ちゃん付けやめろ。」

その言葉にLASTの目が見開かれる。

…顔は少なくとも可愛い分類にはいるんだ、その口から男勝りな言葉が出てきたら誰しもが驚くだろう。

「…小さい頃のエレクトラにそっくりだな…。」

ゼノンとLASTが苦笑していた。

「あの~。全然何の話が行われているのか分からないんだけど?」

「…忌々しき雷虎の末裔…。」

見ると、夜尉葉が神鳴を憎悪の目で見つめている。

「それはただの伝説であって、八龍家と神鳴家に直接的な因果関係はない。八龍威駆佐もその点は分かっているようだが?」

何話してんのあそこ?

(伝説によると、八龍家は風龍ふうりゅうの末裔で神鳴家は雷虎らいこの末裔らしい。昔っから意味の分からない理由で不仲だったな。)

νερο…。お前、何でも知ってるんだな。

(何年生きてるってこの前言った?)

…すみませんでした。

「それより、舎弟のことはどうなったの?」

冷が全員の気を元に戻してくれた。

「…だって俺たち、この人が何の能力を宿しているか分からないし。」

真っ先に尤もらしいことを言ったのはゼノンだった。

全員の目線が一気に夜尉葉に集められる。

「…八龍式・龍拳術とか…。」

それは兄が持ってるしな。

「あと…風龍の召喚?」

それも…兄が出来てたからな。

「…うう…。」

泣きだした!?

まあ…悪かったなと思いつつその赤い髪の毛を軽くなでる。

夜尉葉が、捨てられた子猫のような顔でこちらを見つめていた。

「…Wow。」

神鳴が変な言葉(?)を発してその場に転げ回っている。

「やっぱり…私には才能はないのか…?」

「ないな。」

無慈悲な言葉が、俺の後ろから発せられた。


八龍だ。

「自分に対した才能もないのに、神鳴を伝説の雷虎呼ばわり…。最悪だな。」

「…兄貴に言われたくない…。」

そういいながらも、夜尉葉の声は震えている。

「過去に目を向けてばっかりで、少しも前を見据えようとしない。夜尉葉、俺は昔からお前に失望していた。」

八龍が腕を夜尉葉に向ける。

「…八龍式・龍拳術。焔の段。炎龍噴火ドラゴン・ヴォルケーノ!」

その手から、炎龍の息吹を連想させる炎が噴き出す。

地面を抉り、衝撃波を生み出しながらそれは一気に夜尉葉に向かっていた。

「アイギス!」

いつのまにかそばに来ていた俺の完璧な執事、タイガ・ドラコが大振りの楯を持って八龍の強烈な一撃を防いでいた。

「少なくとも家族なんですよ?それに手を出すなんて…。」

「…血は繋がっていないから大丈夫だ。」

八龍がさらっと流した。

「八龍家には毎代、巫女が必要なんだ。それにふさわしいものとして、有名な神社から養子になったのが夜尉葉、お前だ。」

「そんなことは知ってる!」

八龍がため息をつく。

「知っているなら、話は早い。…八龍家の血を引き継いでいないのに偉そうに俺に話しかけるな!」

嫌悪の気持ちを最大にして八龍が両手を握りしめた。

「八龍式・龍拳術。闇の段。闇龍沈斬ドラゴン・シュメルツッ!!」

ドス黒いエネルギー球が地面を再度削りながら夜尉葉に迫った。

義理とは言え、妹に本気を出す八龍。

夜尉葉は、驚くほど落ち着いていた。

「私だって、私だって兄貴に追いつくために強くなりたいんだっ!八龍式・龍拳術。聖の段。聖龍守護ドラゴン・ディフェーザ!」

夜尉葉の作り出した光の壁が闇の球を受けて形を変え、闇の球を取り込…めはしなかったものの、ほとんど無効化した。

「…!?」

反動で吹き飛ばされた夜尉葉を抱き止める。

八龍が目を見開くのがわかった。

「…巫女専用技か。」

忌々しげにつぶやく八龍。

「…夜尉葉。NEXTに舎弟を頼むのはいい。ただ、俺の邪魔はすr」

『歓迎会を楽しんでいるかな?諸君。天王子学園学園長の斑鳩いかるが飛鳥あすかだ。』

学園長の声がスピーカーと通じて聞こえてきた。

「…なに…?」

冷がつぶやく。

『ここで突然だが、天王子学園に所属している2年生で名誉ある【異名】を手に入れた人をその異名とともに発表しようか。』

会場の方で歓声が上がった。

俺も実は「1位になったぞ喜べ」としか日暮先生にはいわれていない。

冷たちに至っては、順位しか教えられていないのだ。

「…俺は知っているんだけど?」

ゼノンがつぶやくと、学園長はそれを聞いていたかのように喋る。

『もちろん、すでに自分の異名がわかっている人も数少ないが、いる。それはランキング入りしていてもいなくても特別枠だ。将来、この能力育成機関での著しい成長を果たすことが可能な人に与えることにした。さあ、全員グラウンドの液晶モニターに集まれ。』


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