‐虹色の…‐
入学式…の日だ今日は。
全国…いや全世界の入学生とその父兄が集まってくる。
…結構強そうな奴もいるんだな。
去年、俺たちはこのように写っていたのだろうか。
前年度は、国も認めるほどヤバい学年だったらしい。
3王子、剣聖銃聖、5聖家…
うん、確かにヤバかった。
「それにしても…オーラが違う人が何人か居るんだけど。」
能力者は能力者でも、ほかの能力者とは違う雰囲気を持っている人が何人かいた。
紫色の雷(オーラ)を発している紫玄…と流動する水の如き青色のオーラを発している秋風の妹、秋風流華は仕方がないとして、あと5人…。
深い青色の深淵的なオーラを発している、銀髪灼眼長ツインテールの少女。
緑色の優しげなオーラを発している、金髪紫眼三つ編みの少女。
黄色いオーラが不安定で、雀蜂の如く他の人に警戒させるように見える黒髪黒髪短ツインテールの少女。
飛び散る血のようなような赤色のオーラを発している、赤髪碧眼ウルフヘアーの少女。
小さく、しかし強い意志を持って灯っている火種のような橙色のオーラを纏っている橙髪朱眼の少女。
…全員女じゃないか…。
今年の男は期待しちゃダメかな。
そんなこんなで、俺の出番がきた。
…紙とか用意してないしな…。
適当に思ったことでも言っとけばいいか。
何とかなった。
5分くらいしゃべらされたけれど、笑いも含めていい雰囲気になったとは思う。
趣旨を伝えると、「同じレベルにたどり着けることを心待ちにしている。」という一行で終わってしまうのだが…。
まあ、いいか。
「お疲れさま…。…NEXT、さっきのアドリブだったでしょ?」
冷にはすぐバレた。
「冷には分かるか…。」
「そりゃあ…私に手を振る余裕もなかったじゃない。見つけたらピースしてって言ったのに。」
…そんなこと約束してた…ああ…。してたな。
「…。」
「ど、どうしたの?」
暫し、冷の顔を見つめながら考える。
「…改めて思うと、やっぱり冷って可愛いよな?」
「あ…え?」
冷がポカンとした顔で俺を見つめた。
「聞こえなかった?」
「…き、聞こえてたけど、そんなにNEXTがストレートに言ってくるとは思わなくて…。」
体育館の雛壇の裏側。
一年生には絶対に見えないが、司会をしている先生たちからは簡単に見つかってしまうようなぎりぎりの場所。
「まあ…そういう気分の時もあるだろう?」
…冷の顔が、薄暗い中でも真っ赤になったのが見て取れた。
「…(コクリ)。」
「よし、素直だな。」
冷と目線をあわせ、軽くキスをしてやると冷はぎゅっと眼を閉じた。
「…行こうか。」
「…うん。」
今年の歓迎会は入学式の約4時間後…午後6時くらいから始まる。
在校生は自由参加だが、新入生は強制参加だ。
…この学園を…この学園の雰囲気を早く知って欲しいという願いもあるのだろう。
先生、在校生、新入生がコミュニケーションをとれるように用意されたらしい。
「【ソキウス】の皆は全員参加な。」
というメールを打ったところ、全員一斉に
「了解しました」
という内容のメールが2分後に届いた。
…冷なんてそばにいるのに送りつけてきたから半眼でにらんでやると。
「…ぽ。」
なんか顔を赤くされた。
「どうした?」
「…なんでもない。」
いったん別荘に戻るのも面倒なため、紫玄の部屋に行くことにする。
『お兄ちゃん。入学してからは私、寮で住むことにするから。』
って言われたからだ。
正直俺も冷もちょっと複雑な気持ちで、確かに紫玄がいなくなると二人っきりの時間は増えるが、そのかわり元々広くて物寂しい別荘がさらに物寂しくなってしまう。
「あ、お兄ちゃん。冷さんも!」
紫玄の部屋のドアをノックしてまもなく、紫玄がテンションを高くしてドアを開けた。
「よ。」
「どうぞどうぞ!」
紫玄の部屋には、もう一人の少女がぺたりと座っていた。
…どこかでみたことのあるような…ないような。
しかし、すぐに記憶は戻ってくる。
第二人格『だった』ボルテックスの『レイカー』という、オーラを『見る』為の能力を使い、彼女のオーラを見ると、後ろの景色がなくなるくらいの深い青色…藍色のオーラが垣間見えた。
さっき、他の人とは違うと感じたあの少女だ。
「え…と、紫玄ちゃんこの方は…?」
突然の来客に驚いたらしい彼女は、紫玄と俺、冷の顔を見比べる。
そのたびに艶のある長い銀髪のツインテールが不安げに揺れており、同時にルビーのような赤い眼も不安げに揺らめいている。
「…えっと、とりあえず私の所属しているアライアンス、【ソキウス】のリーダーで義理の兄のNEXT…お兄ちゃん…(?)と、その彼女で剣聖の涼野冷さん…。」
紫玄は「学園内では『先輩』で呼ぶ。」という約束を完全に忘れていた。
…まあ、知られたからなんだという話なんだけど。
「…そうだったんですか…。初めて…でもないですね。1週間ぶりくらいですか?天鵞絨雨海と申します。」
…完全に忘れていた。
この娘はたしか…俺が死にかける前…冷の意識が戻る直前に起こった、花鳥風月との最終決戦の時に助けた少女…か?
「よろしくお願いしますね。NEXT先輩っ。」
「ああ。よろしく。」
彼女の白く細い手を握る。
…今にも折れそうだな、と正直思った。
「…あの…【ソキウス】はアライアンス員の募集をしていないのでしょうか…?」
「ん、【ソキウス】は完全に俺の招待制だぞ?」
紫玄によると、入りたいらしい。
…しかし、俺は能力重視でメンバーを選ぶ。
仲良しごっこではなく、本物の『絆』が欲しいのだ。
「…そうですか…。…ざ、財力ならあるんですけど…。」
おいおいおいおいおい。
仮にも俺、一国の王子なんですけど!!??
「…それ、お兄ちゃんには通じないと思うよ。」
「しかも親のだろう?」
紫玄と俺の鋭い指摘を受けてがっくりと肩を落とす天鵞絨雨海。
「…そうですけど…。でも、入りたいです。」
「実力は?」
弱く本音を発した天鵞絨雨海に、問いかける。
彼女は、俺の顔をきょとんと見つめていた。
「天鵞絨雨海、君にはなにができる?」
「雨海で良いですよ…。…できること…ですか…。」
オーラからただ者ではないのはわかっている。
でも、それが強力でも俺たちの迷惑になるようなものなら、【ソキウス】に入れることはできない。
「…まだ分からないです。」
首を振る…雨海。
「お兄ちゃん。雨海ちゃんね、推薦入試1位通過で入ってきたんだよ?」
紫玄が雨海のフォローに入った。
「…まあ、何が出来るかはっきりしてからもう一回話をしよう?NEXT。」
冷も俺を落ち着かせようとしていた。
「分かったよ。…紫玄、歓迎会で待ってる。」
それだけいうと、冷の手を引っ張って紫玄の部屋にでていった俺であった。
「…NEXTって、そういうときに驚くくらい真面目になるよね?」
冷が俺を見つめる。
「まあ…大切なことだと思うから。」
「確かにそうかもしれないけどね…。」
納得しているのかしていないのか微妙な表情で冷が苦笑する。
「冷は、彼女のことをどう思った?」
「そうだね…。私がそばにいながらもあそこまで喋れるのは凄いと思うよ。」
たいてい、冷と初対面の人は緊張で何も喋られなくなるという。
俺は冷の優しさに隠れたそんな顔を知らなかった。
俺と初めて出会った時から、彼女は優しい「涼野冷」だったし、俺には決して怖い顔は見せていなかったような気がする。
「そうか…。そういうものなんだな。」
「そう。強すぎる人は逆に人に嫌われるの。…私が【ソキウス】とは、ほかの女子と喋ったことは殆どないでしょ?」
「俺もないけどな。」
と、言い返し空を見上げる。
「…そろそろ、時間か。」
「そうだね…。」
冷の差し出した手を強く握り返す。
「行こう。」
「うん。」
虹色の…姫か。