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‐冬月と‐

喫茶店…に着いたのは良いものの、冬月は明らかに顔色が悪かった。

どのくらい悪いのかって言われたら大したことはないんだろうけれど、一緒にいた俺なら分かる。

「冬月…無理してないか?」

「してない。…大丈夫。」

冬月は表情をいっさい変えない。

「冬月…?」

「私は大丈夫。だから…。」

違和感とともにメニューを選び、品物を待つ。

「…私は、冷ちゃんが、羨ましい。」

絞り出すように、冬月が俺に言った。

「え?」

「あんなに、NEXT君に愛してもらって、あんなに、ずっと一緒に笑えて…。羨ましい。」

…何が言いたいのかは分かっていた。

でも、何も言い返せなかった。

「私は、NEXT君にいつまでたっても追いつけない。冷ちゃんにも…。でも、私は、NEXT君を追い続けるから。」

彼女が、だんだん涙声になってきた。

俺たちに飲み物を持ってきたウェイトレスはビクッとした表情で冬月を見つめているが、冬月は気づかない。

「て、…貞操を捧げれば、私も冷ちゃんに追いつける…?」

その言葉に隣にいたカップルの男性の方が飲んでいたものを吹き出した。

その男性を無視して、冬月の顔をのぞき込む。

「…お前…大丈夫か?」

そのとき、冬月が机に突っ伏した。

「気持ち…悪い。」

ぜんぜん大丈夫じゃなかった。


とりあえず、冬月を喫茶店の外につれていく。

「…ねえ、NEXT君。」

「大丈夫か?…本気で聞いてるんだぞ?」

冬月が頭を振る。

おぶって冬月を寮に運ぶことにした。

「私は…平気だから。…NEXT君は、私に彼氏が出来たらどうする?」

「…冬月はどうして欲しいんだ?」

「…怒って欲しい。…怒ってくれないと、私はダメかもしれない…。」

…何を言っているのかさっぱりだ。

「あ、あと、さっき言ったて…いそうのこと、本気だから。」

後ろを振り向かなくても分かる。

冬月が真っ赤になっていることくらい。

俺の首に回した手も、熱くなっていた。

「…そんなに軽々しく言っちゃダメだぞ?」

今すぐ冬月に飛びつきたい衝動をこらえて、静かに告げる。

「…でも、…それくらい。NEXT君に対する気持ちも、本気。」

彼女の声からはいっさいの凛とした雰囲気は消えていて、そのかわりに可愛い女の子の声が耳の近くで響いた。

「ちょっとだけでいいから、新しい部屋に入ってくれないかな…?」

全員Ζ組はΖ組の寮に移っていた。

俺と冷は別荘だけれども、シルバやブライアも寮住まいだ。

シルバとブライアは俺の侍女。

両方とも、何でもやってくれることだろう。

「…良いよ。…ただし変なことは禁止な。」


冬月の新しい部屋は、前とは違って柔らかい雰囲気が漂っている。

ベッドの上には大量のぬいぐるみ。

「…冬月にもこう言うところがあったんだな。」

「ん、座るものがないからベッドに座って。」

ちょっと意外だった。

「Ζ組の寮が【ソキウス】の寮みたいだから、リラックスできる。…前は皆を引っ張って行かなきゃいけなかったから…。」

彼女は、天王子学園で現在唯一の女の四天王だ。

四天王はそのまま継続するらしいから、今Ζ組に全員の天王が集まっていることになる。

しかも、彼女は【ソキウス】の『四本柱』でもある。

いまこそ、一番リラックスできるのだろう。

「ねえ…NEXT君。」

冬月が官能的な眼差しをこっちに向けてきた。

「…変なことは禁止だって言ったはずだ。」

…こんな娘だっけ!?

「が、ガマンできない…。」

冬月が俺の首に舌を這わせた。

「ぬちゅ…。」

扇情的な音が、部屋に響く。

人間にも、発情期ってあるのかな。

そんなことを思っている暇はなかった。

ベッドに腰掛けている俺だが、冬月が正面から膝に乗ってくる。

何の不自然さも感じられなかった。

「…どうしても…ダメ?」

…このままここにいたら、理性が消し飛ぶ!

「ねくすと…くんと、もっと一緒にいたいな…?」

冬月の吐息がかかる。

…いろんなところが、当たっていた。

冷と一緒にいるときとは違う、甘い痺れのようなものが身体に伝わる。

「…冬月?」

「NEXT君…何回も言うけど、好きです。」

時が止まったように感じられた。

「…分かったから、冷の前では決してするなよ。」

…落ち着け俺。俺は冷だけを愛すべきなんだ。たった一週間もたってないじゃないか…っ!

「なんで?」

冬月がきょとん、とした顔で首を傾げた。

ヤバいヤバいヤバい。

冷の親友でもあり、5聖家の一角、小山家の次期当主最有力候補に手を出して良いわけがない!

「冬月が俺のことを好きだと言うことはよく分かった!」

「なら問題ないよね?」

はしからはしまで問題だらけ!

冬月がキャミソールを脱ぎだした。

俺の前で。

「…いい加減にしろ…。」

「これが私の適切な行動。いい加減になんて出来ないよ?」

上半身下着姿。妖艶な目つきで俺を見つめる冬月。

冬月の肌色の多い姿を見たのは実質初めてだ。

出会ったのは半年前だから水着は見れていないし。

しかし…良い体つきしてる…。って違う!

「…俺には冷が居るし、冷を裏切らないって決めた。…だから、ごめん。」

「冷ちゃんとの約束なんてどうでも良いよ。」

冬月が友情をぶち壊すようなことをさらりと言ってのけた。

「あなたが他の人とつきあっているからって、私は貴方のことを好きになっちゃいけないの…?」

「そういう意味じゃなくて…。ええい!正気に戻れ冬月!」

ハッとしたように目を見開く冬月。

「…私、どうかしてた。」

それだけいうと、真っ赤になった冬月は俺から急いで離れてキャミソールを装着。

「は、恥ずかしい…。」

真っ赤になった冬月に、理性のタガが外れた。

「うむぅ!?」

冬月の咥内に舌を滑り込ませ、中を綺麗に舐めとっていく。

「…ぷはっ。…ハァ…ハァ…。ねくすとくん…?」

…完璧にやらかした。

「…今日はこのくらいにしようか。」

冬月は身体に力が入らないようで、ぐったりとした顔で頷く。

その顔に僅かな歓喜が浮かんでいるのを認識しながら、そそくさと俺は退散した。

「また明日…。」

…俺って、やっぱり弱いなと思いながら。



「お帰りなさいー。」

「おかえり、お兄ちゃん。」

何事もなかったかのように帰宅。

冷はキッチンにいるようで、玄関には薄紫色の髪の毛をして冷によく似た女の子がいた。

関帝紫玄。5聖家の一角、関帝家の末っ子だが諸事情により俺の妹になった。

…えっと、2月くらいのことだっけな。

とにかく、可愛すぎる。

冷と紫玄は本当の姉妹みたいに仲がいいし(俺の妹なんだけど)二人ともやっぱり大好きだ。

「お兄ちゃんが珍しく憑かれてる。」

「え!?本当か!?」

「間違えた。疲れた顔をしてるけど、大丈夫?」

…素直にびっくりした。

「…紫玄の顔を見てたら元気出た。」

「そうかな?…えへへ、うれしいな。」

言動は完璧に小学生くらいだけれども、一応明日から天王子学園の生徒になる。

こう華奢な体つきをしてか弱そうに見えても、滅茶苦茶強かったり…。

一回死にかけたしな。

紫玄の頬に軽くキスをして、ダイニングに向かうと丁度冷が食事の準備を終わらせたところだった。

「おかえり。遅かったね…。」

冷のその顔は、何かを疑っているというわけではなくただ純粋に帰りが遅いことに不満を抱いているような言い方だった。

「…ごめん。野暮用で。…日暮先生を顧問にすることに決定したよ。」

冷がパアッと顔を上げる。

「本当?…だったら、私達もっと強くなれるんだね。」

「そうだな。…ただ、そんなに無茶はしちゃダメだ。」

「そんな、NEXTの方が無茶してるよ?」

それにはさすがに言い返せない。

もっと、強くなりたいのはある。

能力者の一部には『覚醒』という能力を使うことが出来る人たちがおり、『覚醒者』と呼ばれている。

覚醒にはなに一つとして同じものはないと言われ(人工的なものならある)、それぞれ重視するものが少しずつ違ってくる。

俺も覚醒者なのだが、前年度最後の戦いで俺はνεροの覚醒を使いこなせなかった。

あれは本来技能重視の覚醒のはず。

しかし、未完成体の『水禍の籠手』の殴打だけで勝ってしまったのはちょっと…微妙だった。

実際使いこなせなかったから俺は死ぬ一歩手前まで行ってしまったのだろうし、冷を悲しませてしまった。

それだけ…。

「う…。」

「…ま、いいや。ご飯食べようご飯。」

冷がにこっと笑う。

「ちゃんと食べてね。」


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