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‐新しい学年で‐

全く新鮮味のないクラスに、俺は頭を抱えていた。

今日は始業式。

天王子学園で、俺は今日から2年生になる。

…花鳥と最後に戦ったのが何ヶ月も前のような感じがするけど、まあいいか。

それより問題は…。

「…どうなってるんだよこれ。」

「NEXT…。だってΖゼータ組はAGの最有力候補が集まるクラスなんだよ?」

冷が俺に諭す。

涼野冷。…俺の彼女にして婚約者。

俺が一生をかけて幸せにすべき人物の一人だ。

ちなみに、AGとは「アビリティー・グランプリ」の略。

この日本に5つ存在する、能力育成機関でのオリンピックのようなものだ。

「ゼノンに、華琉に…冬月るなに…。全員【ソキウス】のメンバーなんだぞ!?」

「そりゃあ…NEXT君が私達を強くしてくれたんでしょー?」

赤い髪の毛を伸ばして俺に近づいてきたのは南雲なぐも華琉はる

「そりゃあ、そうだけど。…冬月?」

黒く、膝まである長さの髪をした小山冬月が振り向いて首を傾げた。

「なに?…ご主人様。」

「ご主人様って何だよ。冬月は通知、届いたかとおもって。」

首を振る冬月。

通知とは、育成機関が指定する異名の決定通知だ。

育成機関の生徒の成績は毎年ランキングにされ、全国の生徒で上位50位は校長たちから「異名」を頂けることになっている。

そっれはとっても名誉なことだと思うし、俺は1位だったらしいから期待が高まってしまう。

「私は、まだきてない。…明日、みんなの前で発表されるって言う噂は聞いたよ。」

異名…二つ名は自分で名乗っても効力がない。

人に初めて呼ばれてからこそ、価値を有するものだと思う。

「じゃあ、皆明日のお楽しみか…。」

「…俺はもう来たけど。」

横からゼノンが割り込んできた。

彼は親友であるし、俺の最大の好敵手ライバルでもある。

「へえ…。」

俺と冬月、冷が冷ややかな目で見つめてやるとゼノンは僅かにたじろいだ。

「え、関心ないのか!?」

「ゼノンのことだから、『業火』か『不死鳥』は付いているだろうさ。」

チッチッチ、とゼノンは指を振る。

その指をへし折ってやりたい衝動に駆られた。

「そう思うだろう?『光輝の火焔鳥シャイニング・フェニックス』だった。」

この人のどこに『光輝』なんていう言葉が当てはまるのか。

2ヶ月前までは女子を心底からバカにしている人だった。

…冷と彼の婚約者、トパーズ・S・アエーデを除いては。

「フッ。」

「鼻で笑うな!」

「絶対それはLASTの方が似合ってる。」

LASTは、俺の双子の弟だ。

俺とLASTは対になっていると言っても良いほど逆だ。

何が逆なのかは髪の毛の色から性格、攻撃のパターンにまで及ぶ。

「…。」

ゼノンが膨れてどこかに行ってしまう。

…正直言って、気持ち悪かった。



(やっぱり、新鮮味がないって言うのはなんかイヤだな?)

休み時間、νεροが俺に話しかける。

νεροは俺の第二人格。

結構、特殊な人格で俺に色々なことを教えてくれる。

今日は始業式、担任との対面とで終わる。

(担任も誰かは察しが付いているけれども。)

誰だよ。

(高橋教授か日暮教授だろう。あの二人が一番高い志を持っている。)

よく観察してるんだな?

(当然だ。…明日の入学式には在校生代表として参加するんだろう?)

いや、冷達も出るぞ。俺は入学生たちの前で話をしなければいけないけれど。

(…そうか…。大変そうだな。)

その次の日は歓迎パーティだ。去年は先輩達が居なかったけれど、今年は在学生が歓迎してやれる。

(…強くなったな、お前。)

νεροが誉めてくれる。

しかし、これも冷が居てくれるからで。

「…NEXTっ。チャイムが鳴っちゃうよ?」

冷の声がして返事をし、νεροとの会話は中断された。



「…Ζ組の担任に任命された鷹梯たかはし慧暁としあきだ。」

あまり芳しくない人選だった。

…一回先生に対しては本気でキレたからな…。

「ちなみに、日暮先生は副担任としてこのクラスに所属する。」

「ちょっと質問。」

銃聖エレクトラが手を挙げる。

「なんでそう決まったの?」

あまりにもストレートな質問に、場の空気が一気に凍った。

「先生は…不純だと聞いているけれど。」

…あながち間違っていなかったりもする。

なにせ、可愛い女子生徒のフルネームは全て覚えているらしいしな…。

「…だからどうした。」

先生から聞き捨てならない言葉が発せられる。

「この能力教育機関は超実力重視の場所。心が多少不純であっても規定には引っかからないと言うのが現実であり、それによって【ソキウス】の皆ならわかっているだろうが涼野冷の悲惨な事件も起こってしまった。とくにNEXT・B・アルカディア、お前はその一番の被害者だと思うが?」

急に話を振られたが、俯くことしかできなかった。

皇羅の表情も、冷の姿も、俺が一番わかっていることだ。

蕾も…。

冷が俺の後ろの席から背中をさすってくれる。

「…NEXT、責任を感じなくても良いからね?」

「…。」

後ろを向いてうなずくと、冷は目を細めて俺を見つめた。

「明日、NEXTは新入生の前で歓迎の言葉を言うんだよね?」

「そうだけど?どうした冷?」

「ほらそこのバカップル見つめあうな。気持ち悪…なんでもない。」

俺と冷にとどまらず【ソキウス】全員から発せられた嫌悪の鋭い眼差しを受けて鷹梯先生は黙り込む。

ちなみに、席は成績順に並んでいるため俺が左の一番前だ。

…窓側なのは良いけれど、夏になると暑いし冬になると寒い。

早く席替えしてくれないかな。

右の前2席が開いているのはきっと鈴と皇羅の分だろう。

…多分。


そして放課後。

教室を出ようとする俺に近づいたのは、冬月。

今日は月曜日だから、冷はモデル撮影で居ない。

さすがに冷も俺に負い目を感じているのか、送迎はいらないと言ってきていた。

「…NEXT君。」

「…冬月、どうした?」

「今日あいてる?」

ストレートな質問に、どうすればいいのか少し戸惑う。

ちょっと日暮先生と話がしたかったのだが、どうしようか。

「…今はあいてない。ちょっと学園で用事があって。」

「そっか。…じゃあ正門で待ってる。」

そういうなり、冬月は振り向きもせずに窓から飛び降りた。

「…普通に校舎を出ようよ…な?」

きっと聞こえては居ないだろうが、一応つぶやいた。

俺たち『能力者』と呼ばれる人たちは、普通の人よりも身体が数十倍も強靱だ。

だから…去年のような戦いが出来るんだろうけど…。

授業でも戦闘訓練っていうのがあるくらいだから、仕方がないことかもしれないんだろうけど。

まあ、いいか。

今日は【ソキウス】の皆も集まらないみたいだし、先生と雑談でもして冬月に会いに行こう…。

ちなみに、【ソキウス】の本部になっていた戦略室は破棄し、俺の…俺と冷の住んでいる別荘に移すことにした。

そっちの方が皆が気軽に集まれるからな。

…学園は土日祝開いてないし。


「…ああ、アルカディアか。」

「…ここが日暮先生の部屋ですか。」

天王子学園、天王子町の中の施設の一つに、『教師棟』というものがある。

この学園の職員は全員そこで生活をしているのだ。

日暮先生の部屋は、いかにも和風です、といった感じの部屋だった。

「で、話というのは?」

「【ソキウス】の顧問に、先生を招きたいのですが。」

先生が目を見開くのがわかった。

同盟アライアンス制度…。

ゲームで言うクランやギルドの類に値するそれは、生徒同士の絆を深めるためにある。

本来は顧問なんて雇わない。というよりも、居ない方がマシという意見が多い。

でも…。

「先生は、自分の夢が破れてもそんな顔をするんですか。」

たしか、日暮先生は誰よりもΖ組の担任になりたかったはずだ。

「人の夢と書いてはかないと読む。人生なんて、そういうものだ。同情はいらない。」

無駄に格好いいことを言って日暮先生は笑おうとしたが、その顔は歪んでいた。

「…言い方を変えます。僕たちを今まで以上に強くしてください。」

「そのくらい、自分でしたらどうだ?俺はお前等の保護者じゃない。」

先生らしくない冷たい言葉が返ってきた。

「熱かった志はどこに行ったんですか?」

「お前等はもう二度とこないだろうと言うくらいの逸材だとは分かっている。しかし、俺の夢はなくなった。Ζ組担任はもう…鷹梯先生のものだ。」

…いい加減、怒っても良いのかなこれは。

「…先生は僕たちを率いたいんですか違うんですかどうなんですか!」

「率いたいに決まってんだろっ!」

やっと本音を言ってくれた。

「じゃあ、この話は承諾と言うことで。これからは『顧問』として【ソキウス】を率いてくださいね。」

「…まあ…良いけれど具体的に何をすれば?」

そうくると思った。

「詳しくは僕の別荘に今度来てくださいねー。えっと日曜日の正午ぴったりに。」

それだけ言うと、待っている冬月がいる天王子学園正門に走って向かう俺だった。



…おかしいな。

正門のどこにも見あたらない。

ケータイを取り出して冬月に電話をかけようとしたそのとき、後ろから気配がした。

「…にゃんっ…。」

ぴょこ、と現れた冬月は意味の分からない言語を言った後、ぽっと赤く顔を染めた。

「??なんか幻聴が聞こえた気がした。」

「…。やっぱり、キャラにはあわないのかな…。」

冬月が悲しそうに言ったが意味が分からず、とりあえず彼女に聞く。

「一応、今から8時くらいまでは空いているけれど。」

今は4時だから、あと4時間くらいあるな。

「…そんなに長い時間上げてもらわなくても…。まあ…いいかな。」

冬月が一人で何かをつぶやいた後、俺に向き直る。

「…今から喫茶店に行きたい。ちょっとだけ…でいいから。」

ちなみに冬月は私服だった。

ホットパンツに押さえ目のキャミソール…なのだが、剣術を滅茶苦茶やっているのに傷がいっさい目立たないきれいな足が大胆さを醸し出していた。

「…いこうか?」

おそるおそる話しかけると、冬月は最高の笑顔を俺に向け、自然な流れで腕に抱きついた。

まあいいか。

冬月なんだし。


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