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用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
無謀な奪還の章
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言葉にしなければ分からないもの(2)

 エンダストリア語で書かれた遺言状の内容は6つ。

 1つ目は、アメリスタ家当主は代々直系の中で最も軍事に長けた者が継ぐこと。

 2つ目は、エンダストリアに決して懐柔されてはいけないこと。

 3つ目。エンダストリアを超える軍事力を蓄え、アメリスタ家の権限を高めてその地位を確固かっこたるものにすること。

 4つ目。エンダストリア王を動かせるほどの権限を持った時、異界へ渡る術の研究を要求すること。

 5つ目。4つ目の方法が解った時、自分の遺骨を異界へ届けること。

 6つ目。屋敷の風呂の富士山は、故郷を忘れないためにもなくてはならないものだから、消してはいけない。また、今後新たな浴場を作る際は、必ず同じ絵を描かせること。

 どうやらアメリスタの真の目的とは、エンダストリアに帰還方法を研究させ、遺言通り初代の遺骨を元の世界へ届けることだったようだ。

 そして、その下には追伸として、日本語のメッセージが書かれていた。

 "この部分が読めるあなたは、きっとエンダストリアが僕の時と同じあやまちを繰り返して召喚された日本人なのだろう。僕はこの世界に召喚され、帰還叶わずこの地で果てる。もし、僕の子孫がエンダストリアに帰還方法を解明させるか、あなたが帰還方法を見つけたのであれば、僕の遺骨を下記の住所へ届けて欲しい。年老いた両親が銭湯を営んでいるはずた。既に両親がそこに住んでいなければ、土の中に埋めて欲しい。お願いだ。どうしても帰りたい。この身が朽ちようとも、帰りたい"

 遺言状の一番下には、日本のある住所が掛かれていた。

「これ、私のマンションの住所だ」

そういえばあの部屋は、1年前に新築で借りたものだ。契約時に、変ないわく付きだと嫌だから、不動産屋にマンションが建つ前には何があった所なのか聞いたら、確か2年前までは銭湯だったと言っていたと思う。200年前に召喚された人は、きっと銭湯の経営者の息子なのだろう。 だからお風呂があんなに銭湯っぽくなるようこだわったのか。あの富士山を見ながら、もう会うことの叶わない両親への想いをせたのだろう。

 「日本語の部分には、もし帰還方法が解ったら、遺骨を初代の実家があった所に埋めて欲しい、と書いてあります。住所からして、私が召喚される前に住んでいた所と一緒ですね」

「なんと…、それでは初代のご実家はもう……」

「ないですね。森田さんのご両親は、銭湯という、使用人用のお風呂をもっと大きくしたものを経営していたようです。だからお風呂に富士山を描くことにこだわったんでしょう。あれは昔ながらの銭湯によく描かれていますから。でも2年前に何らかの理由で閉め、その跡地に私が住む家が建ったんです。実家がない場合は、跡地に遺骨を埋めて欲しいそうですよ」

「2年前?初代が召喚されてから200年以上経っておるというのに…。何代か変わられたのだろうか」

「いえ、太陽電池の技術やスタンガンは、200年前の日本にあったとは考えられません。現代に近いもの。恐らくこの世界とは時間の流れる速さが違うのでしょう。単純に計算したら、異界の方が100倍遅く時が流れるということになりますね」

宮廷書庫で感じた違和感は当たっていたのだ。時間の流れにこれだけ差があるのなら、私は向こうに帰った後も普通に元の生活を再開できるだろう。

 「では君は、今ならまだ失踪者として扱われる前に、元の世界へ帰れるということか」

アメリスタ公も同じことを考えていたようだ。

「サヤ、もし帰還方法が分かれば、初代の遺骨を家の庭に埋めてくれないか?」

一瞬、墓地じゃないんだから…と縁起悪く感じたが、断れる雰囲気じゃない。

「私だけの敷地じゃないんで、大きいものは無理ですよ?一部だけとか、小さければこっそり埋めれるでしょうけど。それでも良いなら……」

「そうか!ありがとう!では一刻も早くエンダストリアに勝たねば!」

おいおい待てえい!それは困る!万年中間管理職みたいな顔してるくせに、何でそんなに血気けっき盛んなんだ。やっぱり当主を継いだからには、遺言通り実は軍事に長けているとでもいうのだろうか…。 そうだ、書庫で調べたことを交渉に使ってみよう。

「あ、あの!戦争する目的は、独立じゃなくて帰還方法を探させることですよね?私、勝たなくても、帰還方法かもしれないっていうことを見つけたんです!」

「何!?本当か!」

「はい。200年前の召喚については、揉み消されたからでしょう、今のエンダストリア王もよく知らないようでした。だから、私が何も出来ないと分かると、簡単に帰還方法を探すことを許可してくれました。宮廷書庫には、200年前の戦争と異界の救世主召喚について載っている文献が1冊だけあったんです。そこに帰還のヒントになりそうなことが書かれていました」

アメリスタ公は私の話に身を乗り出した。よしよし乗ってきたぞ。

「記述をよく読むと、召喚は"世界と世界を繋ぐ"そして"そこから異界人を引っ張り込んだ"となっていました。これって、繋いで引き込めたのなら、繋いで通ることも可能なんじゃないかって考えられませんか?」

「…そうかもしれんが、少々強引ではないか?」

「ええ、最初はただの思い付きでした。こじつけたに過ぎないから、誰にもこのことは話してません。でもさっき遺言状を読んだことで、少し可能性が見えてきたんです。私と初代公爵の森田さんの共通点は住所です。200年以上をて行った召喚で、同じ場所が繋がったんですよ。繋がりさえすれば自由に行き来できるのか、それはまだ分かりませんが、少なくともエンダストリアで召喚術を使えば、私の家がある場所に繋がる可能性が高いと思うんです。これに賭けようと思ってる。私は召喚術を組み上げた術師を知っています。でも彼にもう一度召喚術を使ってもらおうにも、アメリスタの攻撃を防ぐために防御壁を張らなければなりません。もし戦争でエンダストリアが負け、その術師に何かあれば、また振り出しに戻ってしまいます」

私の必死な話に、アメリスタ公は背もたれに体重を預けて俯き、考え込んだ。


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