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用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
無謀な奪還の章
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望まない人ほど会ってしまうもの(5)

 階段を上がり切ると、私は足元を見ながらのろのろと歩いた。面会が終われば、後はアメリスタ公に会うまでの時間を引き伸ばすだけだ。その間にディクシャールさんかトニーが何とかしてくれる。さっきの地下に、見張りの兵はいなかった。だから場所さえ分かれば、速やかに救出して逃げることは可能なのだ。

 この世界にいる意味、なくなっちゃった。出発前にうだうだ考えていた時、リリーに"理由は後付けするもの"と言われた。"分からなければ考えるタイミングじゃない"と。今が考えるタイミングなのだろうか。

 役立たずの私がこの世界にいる理由。それはフォンスさんに必要とされたかったから。本物の奥さんになりたかったから。でも今では全て過去形だ。理由がなくなってしまったら、とどまる意味がない。

 無意識で求めた人だった。素敵だとか、頼りになるとか、優良物件だとか、途中からどうでも良くなっていた。きっとディクシャールさんの言った通り、私が昔から欲しくても手に入らなかったものを、フォンスさんが持っていたのだろう。彼がいなければ、年齢をいつわったままトニーの真摯しんしな想いにホイホイ応えていたかもしれない。でも求めていた人に出会ってしまった。

 フォンスさんにとっては出会わない方が良かったかな。私という存在は、結局同情の対象で、それ故にアメリスタで捕われる弱みとなってしまった。これは召喚したバリオスさんのせいじゃない。私が引き起こしたこと。無理矢理帰ろうとせず、表に出れない人間として、王宮で生活の保障をしてもらえば良かったのだ。あの国王様なら、食いっぱぐれないくらいにははからってくれただろう。そうすればルイージのいた書庫に行くこともなかったから、フォンスさんはアメリスタに行かなければならない義理もなかった。そんな私がひょっこり顔を出せば、いくら優しいフォンスさんでも怒るわな。

 本当に厄介者となってしまったんだ。でも私はここで投げ出さない。

 女、沙弥。自分の尻は自分でぬぐいます。

 立つ鳥跡を濁さず。アメリスタ公の話を聞いて、何か妥協点を考えてもらおう。それをネスルズに持ち帰って、戦争を終わらせる。防御壁を張る必要さえなくなれば、バリオスさんはまた世界と世界を繋げられる。そして帰るのだ。無事元の場所に戻れるか分からないが、いる意味のない世界に留まるよりは良い。アメリスタ公を説得できる自信はない。でも玉砕した今の私には、不思議と無理だと思っていたことに立ち向かう勇気が湧いてくる。人はそれを捨て身と言うだろう。分かっているさ、そんなこと。上等だ。

 「百面相してるところ悪いんだけど、旦那様の部屋は逆だよ」

横からかかった声にふと我に返った。考え事をしながら選んだ通路は、どうやら間違いだったらしい。ルイージは私が逃げないのが分かっているのか、キョトンとしている私を待たずに、スタスタと正しい道を歩き出した。







 アメリスタ公は、40代くらいの、普通のおじさんに見えた。エンダストリアの国王様ほど威厳ムンムンではない。野心に満ちているような顔つきでもない。はっきり言って、中間管理職から出世しないまま定年を迎えそうなサラリーマンという感じだ。顔はラテン系だが、その雰囲気はぼやきが趣味の会社の上司そっくりなのである。"独立してどうすんの?"と思わず言いたくなる。

 一方ルイージは、私をアメリスタ公の部屋に入れるとすぐに引き返して行った。今頃上手く救出できているだろうか。

 「挨拶が遅れてしまったが、当屋敷へようこそ。エリフォード・モリタ・アメリスタだ」

アメリスタ公は中にいた護衛を外に出し、自己紹介をした。

「はあ、どうもご丁寧に、恐縮です。私は神川沙弥です」

もうダントール姓は名乗らない。こういうところから、きっちりけじめをつけていきたい。

「使用人の宿舎にある大浴場には入っただろう?どうだった?」

「…色々びっくりしましたけど、気持ち良かったです」

「そうだろう、そうだろう。かなり評判が良くてな、今度兵士の宿舎にも造ろうかと思っているのだ」

私の感想が期待通りだったからか、アメリスタ公はご機嫌だった。

「屋敷の方々のことを、とても気遣ってらっしゃるんですね。それなのに、何故独立戦争なんてするんですか?皆お風呂より平和を望むと思いますが」

「独立とは口実に過ぎん。エンダストリアにこちらの要求を飲ませることができれば良いのだ。そうするために一番強制力を持てるのが、戦に勝つことだ」

独立は口実で、戦争は手段だと言うのか。そこまでして要求したい目的とは一体……

「浴場のフジサンを見ただろう?」

私が次の質問をする前に、アメリスタ公は話題を変えた。

「はい。あれを私に見せたかったんですよね。私が富士山を知っているって、どうして分かったんですか?」

「あれを見なさい。初代アメリスタ公爵の肖像画だ」

そう言われて、彼が指差す壁を見た。

「あれって……」

豪華な額に縁取られた肖像画に描かれた人物は、今のアメリスタ公とは似ても似つかない、完全なモンゴロイドだった。

「薄々感づいたかい?初代アメリスタ公爵とは、エンダストリアの歴史から存在を隠された、異界の救世主なのだよ」

「ええ!?」

200年以上前に召喚された異界人は、元の世界に帰ったわけでも、消されたわけでもなく、公爵となっていたのか。しかも、あの顔つきで富士山を風呂に描かせるということは、確実に日本人だ。

「私の名前に初代の名残がある。モリタという名は、エンダストリアにもアメリスタにもないが、ニホンにはあるだろう?」

モリタ…森田か!森田さんなんて、日本にたくさんいる。

「ええ、よくある姓の一つですね」

「やはりな。初代の名は、セイジ・モリタ。救世主でありながら、その功績も出身も隠され、帰ることも叶わずこの地で一生を終えた。子、孫、曾孫と世代を追うごとにここの人間の血が入り、私には初代の面影すらないがな。モリタという名だけはしっかり受け継いだ」

 どうやらただ"戦争なんてやめて!"と言って終わる問題ではなかったようである。だがアメリスタ公がここまで話すということは、戦争をする真の目的が聞けそうだ。とりあえずディクシャールさんに任せたフォンスさん奪還の件を気にするより、私はこっちの話に集中すべきだ。

 私は一言も聞き漏らすまいと、アメリスタ公の次の言葉を待った。


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