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用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
無謀な奪還の章
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女は丁寧に扱うもの(6)

 次の仕事は洗濯物の受け取りだった。この屋敷にはアメリスタ公の一族が住んでいて、彼らが風呂に入った後の洗濯物を侍女がカゴに入れ、浴室の外の廊下まで持って来る。それを受け取って洗濯場まで運んで、朝一で洗濯に取り掛かれるよう仕分けする、ということらしい。洗濯物の量がかなり多いため、これは体の大きいミシェーラさんがよく使われているそうだ。

「毎日毎日、何回着替えるのかしらってくらい大量なのよ。私でも持ち切れない時があるから、鈍臭かろうが新人だろうが、一緒に来てくれて助かるわ。皆力仕事は私に任せっ切りなんだもの。ほら、そこ階段、気をつけて」

「うわっと!危なかった…」

足元が見えないほどの大きさのカゴを抱えてフラフラだ。ミシェーラさんは私の持つ物の倍ほどあるカゴを抱えている。その足取りは慣れたものだった。

「お風呂ってことは、一族の方はお湯にかれるんですね。いいなあ…」

スカルを出てから体も拭いていない。アメリスタは小川が流れて水が豊富そうだから、貴族ともなると湯船に浸かれるのか。

「あら、知らないの?使用人の宿舎にもあるわよ、お風呂」

「え?本当ですか!」

「屋敷の外では無縁かもね。下働きは侍女達が入った後になるけど、ちゃんとお湯に浸かれるわ。ここの使用人は、執事と厨房の料理長以外、ほぼ女ばかりなの。以前は男もたくさんいたけど、戦争が長引くにつれて皆兵士にされちゃってね。で、男の力仕事までやらなくちゃいけなくなった女使用人達の不満を軽減するために、使用人用のお風呂を作ったらしいわ。あれ気持ち良いもの。こんな重たい物運ばされても、お湯に浸かったらどうでも良くなっちゃう」

それは是非入ってみたい。良いことを聞いた。リリーも誘おう。ずっと気を張り詰めていたら、体も心ももたない。この辺で少し休憩がしたいのだ。

 洗濯場に着くと、早速服の仕分けだ。

「男用の下着はそっちのカゴね。女用と混ぜないで」

「ミシェーラさん、これは?なんかペラッペラですけど」

「それは奥様のネグリジェよ。ペラペラに見えても高級素材だから気をつけて」

ネグリジェか。ペラペラな上にスケスケなんだけど。寝る時にこんなもの着るなんて、奥様っていくつだよ…。新婚か?

「お嬢様の服と旦那様の服はくっつけちゃ駄目よ。お嬢様は今反抗期なの」

貴族でも、年頃の娘を持つ父親の扱いは似ているのかな。私には羨ましい限りだが。ああ、でも会社の上司みたいな父親なら、「一緒に洗うな!」って言ってたかもしれない。

確認しながら丁寧に仕分けていると、あっという間に夜がけていった。







 夜勤と言っても、完全に夜を明かすまでの仕事ではないようで助かった。夕方から日付が変わる頃までが夜勤だそうだ。使用人達は基本的に3交代で働く。早朝から昼過ぎまでと、昼前から夕方まで、そして夜勤。だいたい感覚では6、7時間休憩なしで働き、仕事の前後に食事をるというシステムのようだ。

 翌日の朝食用の仕込みを終えたリリーが厨房から出て来たところを捕まえて、一緒に宿舎の食堂で作り置きされていた食事をもらった。夜勤のメンバーは少ないらしく、食堂内は閑散かんさんとしてした。冷えた食事を終え、ミシェーラさんに急遽用意してもらった部屋に案内すると、そこで初めてリリーは寝るところが無かったことに気付いたようだった。

「厨房は忙し過ぎて、何も考えられなかったわ…。とりあえず、公爵の娘は食べ物の好き嫌いが、かなり激しいってことくらいしか分からなかった」

「こっちもあまり大した情報は聞けなかったわ。ミシェーラさんになついてはみたけど、娘が反抗期で父親の服と一緒に洗ったら嫌がるってことと、奥さんのネグリジェがかなりスケスケだってことくらい」

「そう簡単にダントールさんの情報は聞けないわね」

使用人はあまり戦争に関わってないようだから、下働きという立場上、普通に仕事をしているだけでは進展しなさそうだ。もっと積極的に噂話を聞き出さないと。アイアン・クローを覚悟でディクシャールさんに接触するか……

「あ、そうだ。リリー、夕方ディクシャールさんを見かけたわ。もう潜り込んでるみたいね」

「本当?やっぱり思った通りだったわ。トニーは?」

「そっちは見てない。私はミシェーラさんの後ろにいて、ディクシャールさんからは見えなかったみたいだから、二人はまだ私達がここにいることを知らないと思う」

その時、ドアの外から「侍女がお風呂上がったわよ」というミシェーラさんの声が聞こえた。ドアを開けたらもう彼女はいなくて、ただ声をかけただけのようだった。

「リリー、お風呂って知ってる?」

私はワクワクしながら聞いた。リリーは不思議そうに首を傾げる。

「お湯に浸かるのよ。体も拭くだけじゃなくて、洗った後お湯で流せるから、すっごくさっぱりして気持ち良いの」

「へえ、水浴びじゃなくて?お湯だったら気持ち良さそうね。サヤはお風呂を知ってるの?」

「日本では毎日入ってたわ。水が多いところとか、環境はアメリスタと似てるかも」

お風呂まで日本のものと似ているとは思えないけど、お湯に浸かれるだけで十分だ。私はリリーを急かして、足早にお風呂へ向かった。

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