表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
無謀な奪還の章
80/174

女は丁寧に扱うもの(1)

 いつの間にかまた眠ってしまっていて、目が覚めたら夜明けだった。右のディクシャールさんは眠っていて、代わりに左のトニーが起きていた。

「おはよう、トニー。早起きなのね」

「…あ、起きたんだ。僕は司令官と見張りを代わったんだ。火をいてないから、夜は獣が襲って来たら大変だろ?」

「だからディクシャールさんは、夜中一人で起きてたんだ」

伸びをしようとした時、急にトニーの目が鋭くなり、口元に人差し指を当てて辺りを警戒し出した。

「何、本当に獣が来たの?」

ただならぬ雰囲気に、私はヒソヒソ声で聞いた。トニーはその問いには首を横に振り、リリーとディクシャールさんを指差して、「静かに起こせ」とささやいた。

 言われた通りに二人を起こすと、ディクシャールさんは荷物をまとめるよう私とリリーに指示を出した。

「追っ手か?」

「いえ、兵士にしては気配にばらつきがあります。それにこの粗雑な接近の仕方から、訓練を受けていないようですね。野盗でしょうか」

 眠気眼ねむけまなこのリリーを急かし、荷物をまとめ終わると、敵の確認をしていた軍人2人が立ち上がった。

「幸い追っ手ではないようだが、戦える人数が少ないこちらが迎え撃つのは不利だ。合図をしたら、一斉に走るぞ」

低くうなるように指示を出したディクシャールさんに皆頷くと、緊張しながらその瞬間を待った。

 「3、2、1、走れっ!!」

私達が走り出した直後に、後ろで複数の男の怒鳴り声が聞こえた。怖くて振り返ることはできない。獣道さえもない森の中は、上も下も障害物が多すぎる。皆とはぐれないようにすることに気が取られて、私は盛り上がった木の根につまずいた。

「きゃあっ!」

転んだ弾みで胸をしたたか打ち、苦しさで起き上がれない。すぐ後ろから男の下卑げびた笑い事が聞こえ、後ろの襟元えりもとを引っ張られて息が詰まった。

 もう駄目だっ!

「ぅおらっ!」

地鳴りのような声がしたと思ったら、引っ張られて浮き上がった体が再度地面に落ちた。顔の横にディクシャールさんの大きな足があって、起き上がると、髭もじゃのいかにも山賊です!といった風貌の男がのびているのが見えた。

「行くぞ!」

そう言ってディクシャールさんは私を脇に抱えて持ち上げた。

「どわっ!今そこ打ったばっかで痛いんですって!」

「贅沢言うな!お前を走らせるよりこうした方が速い!」

そうこうしている内に、横から次の敵が現れた。今度は大振りのナイフを持っている。私を抱えているディクシャールさんは自分の剣が抜けない。

「私降りますってば!」

「小娘がいらぬ気を回すな!鬼熊をナメんじゃ…、ねえっ!!」

相手のナイフを全く無視して、彼は空いている方の腕を振りかぶり、盛大なラリアットを放った。

 ゴキッという嫌な音と共に敵は浮き上がり、綺麗なを描いて2、3mほど後ろにいた仲間を巻き込んで吹っ飛んだ。

「嘘でしょっ!?あんなでかいナイフが効かないなんて、熊のDNAでも入ってんじゃないの!?」

「意味の分からんことを喋るな!舌噛むぞ!」

そのままディクシャールさんは、大きな体に似合わないスピードで走り出した。

 先を行くトニーとリリーが見えホッとすると、今度はリリーの前に剣を大きく振り上げた敵が襲い掛かってきた。斜め前を走るトニーはそれに気付くも間に合わない。リリーは足がすくんで立ち止まる、と思いきや、そのまま前のめりで頭から相手に突っ込んだ。

「ぐほっ…!」

「うきゃあ!」

衝突した二人は同時に声を上げ、吹っ飛んだのは敵の方だった。リリーはその場に転がって目を回している。そこに追い付いたディクシャールさんは、私を抱えているのとは逆の腕で彼女を肩に担ぎ上げて回収した。

「リリー、剣持ってる敵に体当たりするなんて凄いじゃない!」

「ううっ…、そうなの?怖くて目をつむってたから、木にぶつかったのかと思ってたわ…。あークラクラする」

前見てなかったのか…。さすがは猪女。

 トニーが先頭を走りながら人工的な道を探し出し、前方がひらけてきた。ディクシャールさんは女2人を抱えていても、スピードを上げたトニーに遅れることはなかった。以前トニーがこの人のことを、私を3人乗せても走れる、と言ったのはお世辞でも何でもなかったようだ。

 「待ちやがれ!」

地の利を生かして先回りしたのか、前方に敵が3人出て来た。

「全員仕留めろ!」

ディクシャールさんの指示に、トニーはスピードを落とすことなくふところを探り、振りかぶって何かを投げ付けた。

「ぐあっ!」

「ごふっ…」

「がっ!」

3人はほぼ同時に膝をついた。すれ違い様に見ると、細いアイスピックのような物がそれぞれの肩や胸に刺さっていた。

「一発で全員!?トニー凄い!」

「ダントール司令官から直々じきじきに教わった技だよ。まだ合格は貰ってない」

褒めたら謙遜けんそんされた。いやいや、十分凄いと思う。忍者みたいだ。

「後ろっ!来た!」

肩に担がれて後方を見ていたリリーが叫んだ。

「サヤ!歯を食いしばれ!」

ディクシャールさんが言った。

「はっ?何で私!?」

意味を理解する前に、彼は斜め上に勢いよく振り返った。遠心力で振り回された私の膝が伸び、下半身が浮き上がる。そして後ろから来た敵のこめかみに、私のかかとがクリーンヒット!衝撃が足全体に広がり、じんじん痺れ、敵は白目を向いてひっくり返った。

 そこからは新たな敵が現れることはなく、のどかな田園風景が見えた頃、ようやくトニーとディクシャールさんは走るのをやめ、私とリリーは地面に下ろしてもらえた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ