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用無し女の奮闘生活  作者: シロツメ
其の日暮らしの章
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世の中所詮そんなもの(4)

 優しい陽だまり、紺碧の空

 吹き込むそよ風、小鳥のさえずり

 本日は快晴なり。







 などという清々すがすがしい朝にはならなかった。

 暑い、いや熱い。

 とにかく寝ていられなくて目が覚めた。窓からサンサンとお日様が差し込んでいる。慌てて影になっている部屋の隅に避難した。石の壁がひやっこくて気持ちいい。

 壁に肌をくっつけて小さく丸まっていると、ドアがノックされた。

「サヤ、ちょっといいか?」

ダントールさんの声だ。一瞬、寝起きで化粧もしてないのに、と思ったが、そういえば昨日だって自棄酒やけざけ後の寝起きですっぴんだったから今更か、と開き直ることにした。

「はい、どうぞ」

「……いったい何をしているんだ?」

見りゃわかるだろうに、殺人的な直射日光で熱いんだよ、なんて八つ当たりの本性は包み隠し、私は顔に照れたような笑いを浮かべた。

「おはようございます、ダントールさん。朝起きたら日差しがきつくて」

「寝る前にカーテンを閉めなかったのか。昨日言っておくべきだったな。ここは南部ほどではないが、エンダストリアの中でも日差しが強い地域なんだ」

ええ、ええ、おかげ様でバッチリ焼けてしまいましたとも。そろそろシミが気になってきていたのに。

 私の心の中の毒になんて全く気付いてないダントールさんは、さっとカーテンを閉めた。

「朝食の用意ができたそうだ。もう少ししたらここへ運ばせる。全く知らない者よりは少しでも見知った方がいいと思ってな、トニオン・ヴァーレイに頼んでおいた。昨日会っただろう?」

トニーか。別に人見知りをする歳でもなし、知らない人が運んできても私は一向に構わないのだが。むしろこういう機会に新たな知り合いを作っておいて、最悪追い出されるなり消されそうになって逃げるなり、路頭に迷った時用の伝手つてにした方がいいのに。

 そこまで考えていると分かれば、さすがにダントールさんも引くかな。全然無力な女の子じゃない。彼の純粋な好意なのか、私の存在を隠すべく他との接点を断つ命令でも出ているのか、どちらにせよ素直にお礼を言っておいた方が無難だ。

「トニーなら知ってるので安心です。ありがとうございます、ダントールさん」

セリフの中に何かと相手の名前を入れる。これも親しくなるのに効果的である。私の嬉しそうな、もちろん演技だが、顔を見て、ダントールさんは穏やかに微笑んだ。

 「それから、謁見の手配が整った。昼過ぎには私が迎えに来よう。服装は昨日着ていた異界の物が良いだろう」

「アレは私の世界でも部屋着で…とても王族の方の前に出られるような物じゃないと思いますけど。失礼にならないんでしょうか?」

「部屋着なのか。まあ、ここの者なら部屋着は不敬になるだろうが、君は着の身着のまま来てしまったのだから、逆にそうと分かるようにした方がいい。召喚の失敗で他の軍幹部や大臣達が苛立っている。下手に身奇麗にして行くと反感を買う可能性が高い」

そこまで考えていたのか。正直驚いた。昨日言われた「悪いようにはしないから信じてほしい」という言葉も、泣く子をなだめるその場しのぎ程度にしか思ってなかった。

 本気なのか?正気なのか?この男は。ちょっとお人よし過ぎやしないか?それとも私が思ってる以上に、召喚に立ち会った者として責任を感じている?だとしたらこれは生真面目通り越して、クソ真面目の馬鹿正直だぞ…。

 「……わかりました。でも、何でそこまでしてくれるんですか?」

彼の本性を確かめたくて聞いた。

「昨日君は、誰にだって心配する家族や友人がいるに決まっている、と言っただろう?ずっと考えていたんだ、それが意味することを。国家にとってたった一人の人生は小さなものだが、国家を形成しているのはその小さな人生が集まったものだ。貴族も軍人も一般国民も全て含めてな。家族や友人の中に一つでも人生がなくなってしまえば周りに大きく影響するように、欠けていい人生なんてないんだ。我々は君の人生を、君の世界から欠けさせてしまった。バリオス殿が文献を持ち出した時、それに気づくべきだった。208年前に召喚された救世主は、己の人生を壊したエンダストリア人が戦勝に喜ぶ姿を見て、何を感じたのだろう、と」

ヤバイ、ぐっときた。惚れそう。ダントールさんはただのお人よしではない。人格者だ。仙人並の。しかも恐ろしく頭が回る。もしかして私は、あそこまで色々考えなくても良かった?

「サヤ、本当に申し訳なかった。召喚した側の私の謝罪など、君にとっては胡散臭うさんくさいだけかもしれないが、君がここで新しい人生を見つけられるよう、最大限計らうつもりだ。全ての権限は陛下にあるから、今私にできるのは君の事をいかに良い印象にさせるかくらいだが…」

いや、信用はしてもまだ色々考えた方が良さそうだ。今の話は感動したし、演技じゃないうるうる涙が込み上げそうになったけど、結局彼は一幹部に過ぎない。最高権力者である国王が彼並みの人格者とは限らない。それにさっき他の軍幹部や大臣の機嫌は良くないみたいなことを聞いた。そっちの対策も練らなければ。

 とりあえず先に、頭を下げたままのダントールさんをなんとかしよう。

「ダントールさん、あなたの気持ちはちゃんと受け取りました。頭を上げてください。こっちを見て」

目を合わせて、馬鹿正直な彼に自分の正直な気持ちを伝える。

「私が思っていたことを全て分かっていてくれて、嬉しいです。あなたを信じます。私も新しい人生を見つけられるよう、前向きに考えていきたいと思ってます。協力してくれますか?」

ダントールさんは、太陽のような笑顔で「ああ、もちろんだ」と頷いた。

 

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